低マグネシウム血症(ていマグネシウムけっしょう)とは、血液中、ひいては体内のマグネシウム量の低下による電解質異常である。マグネシウムは、酵素活性維持、神経筋刺激伝導・収縮、形成など、生命の維持に重要な機能をもっている。低マグネシウム血症は、摂取不足、薬剤など、さまざまな原因でおこり、特に入院患者では頻繁に見られる病態である。低カルシウム血症低カリウム血症低リン血症と合併することが多い。筋力低下、筋痙攣振戦テタニー不整脈血管収縮、などの症状が知られているが、低マグネシウム血症に特異的な症状はない。血清マグネシウム濃度はルーチンには測定されない場合も多く、見逃されやすいので注意を要する。

低マグネシウム血症
別称 マグネシウム欠乏症
マグネシウム
概要
診療科 腎臓内科
症状 振戦意識障害痙攣筋力低下筋痙攣振戦テタニー
原因 アルコール依存症, 摂取不足、腸管からの吸収不良・喪失, 尿への喪失、薬剤
診断法 血中濃度 < 1.8 mg/dL
合併症 不整脈心停止 , 低カルシウム血症 , 低カリウム血症
治療 マグネシウム製剤[1]
頻度 人口の2 %、入院患者の 10 - 20 %、ICU患者の 50 - 60%[2]
分類および外部参照情報

マグネシウムの生体内機能

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マグネシウムは、体内では、ナトリウムカリウムカルシウムについで多い陽イオンであり[3]、細胞内のエネルギー産生、多数の酵素活性の維持(アデノシン三リン酸の関与する酵素反応すべて、各種のキナーゼに関わる反応)、神経筋興奮性、細胞膜の透過性、イオンチャンネルの制御、ミトコンドリア機能、細胞増殖、アポトーシス免疫、などに関わる[4]

なお、血中カルシウム濃度は、主に副甲状腺ホルモンで調節されているが、それに対応する、血中マグネシウム濃度を特異的に調節するホルモンは存在しない。

マグネシウムの恒常性維持にかかわるのは、腎臓(尿細管からの再吸収、主に、ヘンレ上行脚近位尿細管)、小腸、である。

マグネシウムの生体内分布と存在様式

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体内のマグネシウムは、成人体内には20 - 28g 程度存在し、その大部分は骨に含まれ、骨が貯蔵臓器となっている[3]

マグネシウムの存在部位 比率[3]
60 %
筋肉 20 %
その他の臓器 20 %
血漿・細胞外液 1 %

四捨五入をしているため合計が100%にはならない

マグネシウムはほとんどが骨と細胞内に存在し、血液を含む細胞外液には1%が存在するのみである。血清マグネシウム濃度は体内マグネシウム量を正確には反映しない。

血中のマグネシウムの存在形態は下記の通りである[3]

  • 約55%がイオン化マグネシウム(臨床的にはイオン化マグネシウムが重要であるが、日常の検査では測定できない)。
  • 約14%が重炭酸リン酸クエン酸などと複合しているマグネシウム塩。
  • 約30%がアルブミンと結合している。

血中のマグネシウムのうち、生理的に重要なのはイオン化マグネシウムであるが、通常は総マグネシウム濃度が測定される。

食事で摂取したマグネシウムの約40%が腸管から吸収される。糸球体でろ過されたマグネシウムの97%は、尿細管で再吸収される。

診断

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低マグネシウム血症は、血中のマグネシウムが正常下限値未満の状態である。広く共用される基準範囲は確立されていないが、健常人血清マグネシウム下限は、1.8 mg/dL[1][5]、ないしは、1.7 mg/dL[6][7]とされる。なお、小児と成人は大差ない。

ただし、下限値を下回ってもただちに症状が出るわけではない。症状がでるのは 1.2 mg/dL以下である[4]

CTCAE(Common Terminology Criteria for Adverse Events、有害事象共通用語規準) [5]
低マグネシウム血症 グレード1 グレード2 グレード3 グレード4
基準範囲下限は
1.8 mg/dLとする
< 1.8-1.2 mg/dL < 1.2-0.9 mg/dL < 0.9-0.7 mg/dL < 0.7 mg/dL
生命を脅かす

なお、マグネシウム濃度は、mg/dL以外の単位が使用されることがあり、換算式は下記である。

マグネシウム(Mg) 1.5 mEq/L = 0.75 mmol/L = 18 mg/L = 1.8 mg/dL

同時に行うべき検査

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血中マグネシウム低値を認めたときは、病態を評価するために、血中カリウム、血中カルシウム、血中リン、クレアチニンを始めとする腎機能検査、血糖心電図、などを検査する必要がある。

疫学

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血中のマグネシウム濃度そのものが測定されないことも多いが、下表ではかなり多い病態であると報告されている。

低マグネシウム血症の頻度[2]
一般人口 2 %
入院患者 10 %から20 %
集中治療室(ICU)患者 50 %から60 %
アルコール症患者 30 %から80 %
糖尿病の外来患者 25 %

症状

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低マグネシウム血症に特異的な症状や徴候はなく、また、カルシウム、カリウムなどの異常も依存することが多いため、見逃されやすい。

系統 低マグネシウム血症の症状[4][2]
神経・筋
心血管系
慢性のマグネシウム欠乏の場合
電解質異常

原因

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低マグネシウム血症の原因
摂取の低下
腸管からのマグネシウム吸収低下
原発性の腎からのマグネシウム喪失[※ 1]
2次性の腎からのマグネシウム喪失
その他のマグネシウム喪失
  • 授乳によるマグネシウム喪失
  • 急性膵炎により、脂肪織にカルシウムやマグネシウム取り込み
細胞内やへのマグネシウム移行


治療

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無症状、ないし、緊急性がない場合は、経口的に酸化マグネシウム等の内服を行う。有意の症状がみられたり、経口摂取不可の場合は、経静脈的に硫酸マグネシウムを投与する[1]

なお、血中マグネシウムは治療によりすぐ改善するが、細胞内のマグネシウム欠乏が補正されるには時間がかかるため、血中レベル正常化後二日間は補充を続けることが推奨されている[4]

合併する他の電解質異常や、低マグネシウム血症の原因となった病態は確認し、必要に応じ治療する。

予後

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低マグネシウム血症の原因となった病態によるが、一般に、低マグネシウム血症そのものの予後は、通常、良好である[4]

脚注

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  1. ^ 低マグネシウム血症にもかかわらず、尿中マグネシウム排泄量が多い(≧24 mg/日)状態であれば腎臓からの喪失と考えられている。
  2. ^ リフィーディング症候群とは、低栄養状態の患者に急激な栄養投与を行うと、細胞内の代謝が亢進し、血中のリン・カリウム・マグネシウムが急速に細胞内に移動して低リン血症低カリウム血症・低マグネシウム血症、等が生じるものである。
  3. ^ 副甲状腺機能亢進症の切除術後などで、骨が貪欲にカルシウムを吸収するため、低カルシウム血症が持続する病態をハングリーボーン症候群と呼ぶ。

出典

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  1. ^ a b c 磯崎泰介, 菱田明「マグネシウム・微量元素の代謝異常」『日本内科学会雑誌』第95巻第5号、日本内科学会、2006年5月、846-852頁、doi:10.2169/naika.95.846ISSN 00215384NAID 10018198864 
  2. ^ a b c Hypomagnesemia. Alin Gragossian; Khalid Bashir; Rotem Friede. 2021, StatPearls Publishing LLC. Bookshelf ID: NBK500003 PMID 29763179
  3. ^ a b c d 羽根田俊, 長谷部直幸, 菊池健次郎「診断の進め方 4.マグネシウム代謝異常」『日本内科学会雑誌』第88巻第7号、日本内科学会、1999年7月、1201-1205頁、doi:10.2169/naika.88.1201ISSN 00215384NAID 10005009066 
  4. ^ a b c d e f Hypomagnesemia: a clinical perspective. International Journal of Nephrology and Renovascular Disease 2014:7 p.219-230, doi:10.2147/IJNRD.S42054, PMID 24966690.
  5. ^ a b 共用基準範囲対応CTCAE Grade定義(2019/3/2更新)
  6. ^ 「臨床検査データブック2021-2022」.医学書院. 高久史麿 監修. 2021年1月15日発行.ISBN 978-4-260-04287-1
  7. ^ 「今日の臨床検査2021-2022」. 櫻林郁之介 監修. 南江堂 2021年5月. ISBN 978-4-524-22803-4.
  8. ^ 橋詰直孝「6.マグネシウム代謝異常」『日本内科学会雑誌』第86巻第10号、日本内科学会、1997年10月、1857-1861頁、doi:10.2169/naika.86.1857ISSN 00215384NAID 10005231181 

関連項目

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