ホームグロウン・テロリズム
ホームグロウン・テロリズム(英: homegrown terrorism)あるいは自国産テロリズム(英: domestic terrorism)は、自国内で、同胞の市民に対してテロ行為を行うこと[1][2]。日本における報道では、略してホームグロウンテロということが多い。
概要
編集FBIによる定義や合衆国法典による定義
編集FBIは自国産テロ(英: domestic terrorism)を、自国内の影響によるイデオロギーの目的を達成するための暴力的な犯罪行為と定義した[3][4]。「影響」という表現ではあまりに抽象的で曖昧すぎ、多くの人には意味不明なので、FBIでは定義文の末尾、「影響」という言葉の次に「such as~(たとえば、~のような)」という表現を補っており、「たとえば政治的な、宗教的な、社会的な、人種的な、環境的な」という言葉を足している[3]。(つまり日本語の語順で文章を組み立てれば、例として「(たとえば)自国内の政治的影響によるもの」「自国内の宗教的な影響によるもの」「自国内の社会的な影響によるもの」「自国内の人種差別的な影響によるもの」「自国内で環境問題の影響を受けたもの」と列挙していることになる)
なおFBIはDomestic terrorismの対比概念(対義語)として、国際テロリズム(international terrorism)を挙げた[3]。
合衆国法典第18編第2331条や米国愛国者法セクション802では、主に米国国内で行われるものとされている[5][6][7]。なお、あくまで不成立になった法案だが Violent Radicalization and Homegrown Terrorism Prevention Act of 2007 ではホームグロウン・テロリズム(英: homegrown terrorism)の定義を次のようにする文章を含んでいた。
- Homegrown terrorism - The term `homegrown terrorism' means the use, planned use, or threatened use, of force or violence by a group or individual born, raised, or based and operating primarily within the United States or any possession of the United States to intimidate or coerce the United States government, the civilian population of the United States, orany segment thereof, in furtherance of political or social objectives.[8]。
つまり、「ホームグロウン・テロリズムとは、米国内で生まれたり育ったりまたは拠点を置いている個人やグループが、米国内で、あるいはアメリカ合衆国の所有物を威嚇または強要するために、政治的あるいは社会的目的を達することを目的として、米国政府や米国の民間人などに対して力または暴力を使用、あるいはその計画を立てたり脅迫的に使用することを意味する。」としていた。
具体的事件、事例
編集- 1995年のオクラホマシティ連邦政府ビル爆破事件[9]。- 元アメリカ陸軍兵士のティモシー・マクベイ(アイルランド系白人。湾岸戦争にも従軍。白人至上主義の過激思想、武器の所有の自由に固執する過激思想の影響を受けた。)を主犯とする一味が、車爆弾でオクラホマシティ連邦地方庁舎を爆破し、子供19人を含む168人が死亡、800人以上が負傷した。
- 2021年にワシントンD.C.で起きた合衆国議会議事堂襲撃事件は、ドナルド・トランプの支持者などが選挙で敗北したことに不満を持ちアメリカ合衆国議会議事堂を襲撃・乱入し、そこにいた議員なども襲い、アメリカ合衆国議会の機能を停止させ、さらに警察官1人に傷を負わせ死亡させたテロであり、アメリカ国内からワシントンD.C.へと集結した自国産テロリズム襲撃(英語: domestic terrorism attack)とされており、それを行った500名以上が逮捕された[10][11][12][13][14][15][16][17][18]。
- 2015年1月にフランスのパリで起きたシャルリー・エブド襲撃事件は、欧州において欧州人が移民に対して「異教徒」扱いをして差別や排斥をしていると、当然のことだが差別や排斥を受けた人は社会に不満を抱くようになり、やがて彼らを差別せず受け入れてくれるモスクに通うようになったりインターネット経由でイスラーム過激派などとも連絡をとるようになり、結果として、移民として住んでいる国でテロ行為を行う、という事情が背景にある[19][20][21][22][23]。
- 欧米では(難民受け入れが非常に遅れている日本とは異なっていて)中東地域・北アフリカ地域を中心としたイスラーム圏からの難民や移民も積極的に多数受け入れており、彼らは永住権を得たり、自国民となっているが(そうした人々にも福祉がしっかりと行き届いていればテロリストなどにはならないが、あいにくとそうなっておらず)、そうした(もともとは外国出身であっても)すでに「自国の人」になっている人々が国内で苦境に陥った結果テロを起こした場合も、「ホームグロウンテロ」に含めている場合は多い[24][25][26][27][28][29]。
- なおイスラム教は、ジハードという考え方によって人を過激化してホームグロウン・テロに向かわせる要因ともなりうる、と分析している人もいる[30][31][32][33]。
日本国内におけるホームグロウン・テロ
編集1995年3月にオウム真理教が起こした地下鉄サリン事件は、テロ事件であったとみなされており[34][35][36][37][38]、本来の定義どおりの自国産テロであったと考えられている[39][40][41]。
関連項目
編集脚注
編集- ^ Lexico, homegrown terrorism. The committing of terrorist acts in the perpetrator's own country against their fellow citizens.
- ^ Lexcio, domestic_terrorism
- ^ a b c “Terrorism”. FBI. 2021年3月1日閲覧。
- ^ “Confronting White Supremacy”. FBI (2019年6月4日). 2021年3月1日閲覧。
- ^ “18 U.S. Code § 2331 - Definitions”. Cornell Law School. 2021年3月2日閲覧。
- ^ Pub.L. 107–56 (text)
- ^ “HOW THE USA PATRIOT ACT REDEFINES "DOMESTIC TERRORISM"”. ACLU. 2021年8月11日閲覧。
- ^ “H.R. 1955 (110th): Violent Radicalization and Homegrown Terrorism Prevention Act of 2007”. GovTrack. 2021年8月11日閲覧。
- ^ “Oklahoma City Bombing”. FBI. 2021年8月10日閲覧。
- ^ Lisa N. Sacco (13 January 2021). Domestic Terrorism and the Attack on the U.S. Capitol (Report). Congressional Research Service. 2021年8月12日閲覧。
- ^ “Dear Colleague: Security, Security, Security” (英語). Speaker Nancy Pelosi (2021年2月15日). 2021年2月22日閲覧。
- ^ “DHS Announces Funding Opportunity for $1.87 Billion in Preparedness Grants”. Department of Homeland Security (2021年2月25日). 2021–02-27閲覧。
- ^ “DHS to combat domestic violent extremism with $77 million from FEMA”. abc NEWS. (2021年2月25日) 2021–02-26閲覧。
- ^ “Opinion: Alejandro Mayorkas: How my DHS will combat domestic extremism”. The Washington Post. (2021年2月25日) 2021年2月26日閲覧。
- ^ “Conservative media members erupt with anger over protesters storming Capitol: 'This is domestic terrorism'”. FOX NEWS. (2021年1月6日) 2021年3月1日閲覧。
- ^ “Why Domestic Terrorism Is Not Specifically Designated a Crime in US”. voa news. (2021年2月10日) 2021年3月1日閲覧。
- ^ “Capitol riot 'inspiration for extremism', FBI boss warns”. bbc. (2021年3月2日) 2021年3月3日閲覧。
- ^ “FBI director suggests ‘serious charges’ coming in probe of Capitol attack”. REUTERS. (2021年6月11日) 2021年8月11日閲覧。
- ^ “フランスで相次ぐテロ 国内移民の不満が背景”. 日本経済新聞. (2016年7月27日) 2021年8月10日閲覧。
- ^ 森 千香子 (2017年). “「ホームグロウン・テロリズム」の社会学的背景 フランスにおけるマイノリティ差別とセグリゲーション”. 一橋大学 ウェブマガジン. 2021年8月10日閲覧。
- ^ “ホームグロウン・テロ -今ここにある危機”. President Online. (2015年3月2日) 2021年8月10日閲覧。
- ^ “Refusing to look at immigration”. NEWYORK POST. (2015年1月12日) 2021年8月10日閲覧。
- ^ “Terrorists Strike Charlie Hebdo Newspaper in Paris, Leaving 12 Dead”. THE NEWYORK TIMES. (2015年1月7日) 2021年8月10日閲覧。
- ^ 公安調査庁 「ホームグロウン・テロリスト」の脅威・アーカイブ
- ^ 宮坂 直史 (2016-10-03). “生まれも育ちも自分の国「ホームグロウン・テロ」の脅威”. President Woman 2021年8月10日閲覧。.
- ^ 国末憲人 (2016年6月16日). “欧州ホームグロウンテロの背景(2) 現代イスラム政治研究者ジル・ケペルに聞く”. Newsweek 2021年8月11日閲覧。
- ^ Olivier Roy (2017年4月13日). “Who are the new jihadis?”. The Guardian 2021年8月10日閲覧。
- ^ “A warmer embrace of Muslims could stop homegrown terrorism”. THE CONVERSATION (2015年11月9日). 2021年8月10日閲覧。
- ^ Brooks, Risa (2011). “Muslim 'Homegrown' Terrorism in the United States: How Serious Is the Threat?”. Quarterly Journal: International Security 36 (2) 2021年8月10日閲覧。.
- ^ “A Behavioral Study of American “Homegrown” Terrorist Offenders”. National Institution of Justice / USA (2018年10月8日). 2021年8月10日閲覧。
- ^ Jerome P. Bjelopera (23 January 2013). American Jihadist Terrorism: Combating a Complex Threat (PDF) (Report). Congressional Research Service. 2021年8月11日閲覧。
- ^ “Factsheet: The Violent Radicalization and Homegrown Terrorism Prevention Act of 2007”. Center for Constitutional Rights (2007年11月19日). 2021年8月11日閲覧。
- ^ Mitchell D. Silber; Arvin Bhatt (2007). Radicalization in the West: The Homegrown Threat (Report). New York City Police Department. 2021年8月11日閲覧。
- ^ “未曾有のテロ ~オウム真理教事件の爪痕~”. 警察庁. 2021年8月11日閲覧。
- ^ “地下鉄サリン事件から26年”. 公安調査庁 (2021年3月24日). 2021年8月11日閲覧。
- ^ “私たちが伝えたかった言葉 地下鉄サリン事件(改訂版)”. NHK. (2021年3月19日) 2021年8月11日閲覧。
- ^ “テロ事件の捜査・弁護活動のあり方に関する声明”. 日本弁護士連合会 (1995年5月19日). 2021年8月11日閲覧。
- ^ “テロへの備え、なお途上 地下鉄サリン事件から25年”. 日本経済新聞. (2020年3月19日) 2021年8月11日閲覧。
- ^ “Aum Shinrikyo: The Japanese cult behind the Tokyo Sarin attack”. bbc. (6 July 2018) 2021年8月11日閲覧。
- ^ “Flashback: Tokyo Subway Sarin Attack”. nbc. (2015年3月19日) 2021年8月11日閲覧。
- ^ “Terror in Japan: Lessons of the Sarin Gas Attacks”. HOMELAND SECURITY DIGITAL LIBRARY (2016年3月16日). 2021年8月11日閲覧。
外部リンク
編集- 『ホームグロウンテロ』 - コトバンク
- 『ホームグロウン・テロリズム』 - コトバンク