ホンダ・VTR
概要
編集型式名MC33[1]。排気量250ccクラスの水冷4ストロークDOHC4バルブ90°V型2気筒エンジンを搭載。1982年から製造販売されたMC08型VT250F[2]を起源とするロードスポーツタイプの普通自動二輪車であり、本モデルはその5代目に該当する。
1998年の発売以降、数度の自動車排出ガス規制に適応させながらモデルチェンジを繰り返し、最終的には2017年まで製造販売されたロングセラーモデルとなった。車名はVTR1000F FIRE STORMのイメージを踏襲することに由来したもので[3]、V-Twin Roadsports(Vツインロードスポーツ)の略である[注 1]。
日本国内向け仕様のほか海外向け仕様も存在し、主たる輸出先はオーストラリアであった。燃料供給がPGM-FI電子式燃料噴射装置へ変更後はヨーロッパ向け仕様も製造されたが、北米向け輸出の実績はない[注 2]。
車両解説
編集- ※本項では最初期の1998年モデルについて解説を行い、その後の設計・仕様変更については型式にわけて解説を行う。
1991年から製造販売されたMC25型XELVIS(ゼルビス)からのフルモデルチェンジ車となるが、開発コンセプトを常用域における良好な使い勝手と気負わず走る楽しさとし[4]、キャリーオーバーとなるコンポーネンツも大きな設計変更を施されたのが特徴である。
車体面では、フレームが初代から継承されていたダブルクレードル型[注 3]から新設計となるスチールパイプによるトラス構造のダイヤモンド型へ変更。またカウル類を廃止したネイキッドとなった[6]。全長x全幅x全高:2,040x720×1,050(mm)・ホイールベース1,410mm・最低地上高170mm・シート高780mmに設定し、容量13Lの燃料タンクを装着する[7]。
搭載される内径x行程:60.0x44.1(mm)・排気量249㏄・圧縮比11.0のMC15E型エンジンは、1986年から製造されたVT250シリーズ2代目となるMC15型[8]からキャリーオーバーされつづけているが[注 4]、低中速トルク向上を目的にシリンダーヘッド・インテークポート形状・カムシャフトのバルブタイミングおよびバルブリフト量を変更し、不等長エアファンネルを採用した[9]。この結果、最高出力32ps/10,500rpm・最大トルク2.4kg-m/8,500rpm[7]のスペックを発揮する[注 5]。またマニュアルトランスミッションも低中速トルク向上によりMC25型XELVISまでの6段から5段へ変更を行った[注 6]。
サスペンションは前輪が41mm径の正立テレスコピック、後輪が40mm径モノショックとしエンジン後端に直接結合させるピボットレス構造のスイングアーム[11]で、キャスター角は25°30´・トレール量は98mm[注 7]に設定[7]。タイヤは前輪110/70・後輪140/70の17インチとし、ブレーキは前輪296mm・後輪220mmのローター径によるシングルディスクを装着する[11]。
車重は取り回しの容易さという観点からVT250シリーズ最軽量となる乾燥139㎏/装備153㎏である[7]。
MC33型
編集1997年10月25日 - 11月5日に千葉県千葉市美浜区の幕張メッセで開催された第32回東京モーターショーに参考出品[12] [13]された後、同年11月28日発表、1998年1月16日発売[1]。
日本国内年間販売目標6,000台 消費税抜希望小売価格429,000円[注 8]とし以下の車体色を設定。
- フォースシルバーメタリック
- イタリアンレッド
- ブラック
1999年8月31日、平成10年自動車排出ガス規制未適合車継続生産期限の同日をもって生産終了[14]。
BA-MC33型
編集エキゾーストエアインジェクションシステム(二次空気導入装置)を搭載して平成10年自動車排出ガス規制に適合させ型式名に排出ガス識別記号BA-を付与したマイナーチェンジ車である[15]。
スペック面では車重が乾燥140㎏/装備154㎏となったほか、以下の仕様変更を実施した[15]。
- ハンドルをメッキ加工
- メーターパネル:濃青ベースに白文字→白ベースに黒文字へ変更
- プラグケーブルならびにリヤサスペンションスプリングカラー:赤→イエロー
- エンジンヘッドカバー・クランクケースカバー・フロントフォーク・ボトムケース→マグネシウムカラー→シルバー
- ホイールカラー:ガンメタ→ブラック(標準車)
遍歴
編集日本国内年間販売目標2,000台 消費税抜希望小売価格439,000円[注 9]とし以下の標準車体色を設定。
- フォースシルバーメタリック
- キャンディグローリーレッド
車体色9パターン[注 10]xフレームカラー3パターン[注 11]xホイールカラー4パターン[注 12]から計106パターン[注 13]をユーザーが標準車の15,000円高で選べるカラーオーダーシステムを導入。
日本国内年間販売目標1,500台 消費税抜希望小売価格449,000円[注 14]とし以下の仕様変更を実施。
- 全長x全幅x全高:2,035x725×1,055(mm)・ホイールベース1,405mm・最低地上高155mmへ変更
- ハンドル位置を高く手前に変更
- タコメーターならびにハザードランプスイッチを追加
- シート高を足付き性向上のため20mm低くし760mmへ変更
- 車重が乾燥141kg/装備155kgへ増加
- 標準車体色を以下の2種へ変更
- キャンディタヒチアンブルー
- フォースシルバーメタリック
標準車の15,000円高で選べるカラーオーダーシステムを車体色6パターン[注 15]xフレームカラー3パターン[注 16]xホイールカラー3パターン[注 17]からの計52パターン[注 13]に縮小。
日本国内年間販売目標1,500台 消費税抜希望小売価格460,000円とし以下の仕様変更を実施。
- カラーオーダーシステムを廃止
- フレームをシルバー塗装へ統一
- スイングアーム・ステップホルダー・フロントフォークボトムケースをブラック塗装へ統一
- 車体色を以下の4パターンへ変更
- パールコスミックブラック
- キャンディタヒチアンブルー
- イタリアンレッド
- パールシャイニングイエロー
- 2007年8月31日
平成10年自動車排出ガス規制適合車継続生産期限の同日をもって生産終了[14]。
JBK-MC33
編集平成18年自動車排出ガス規制に適合させ型式名に排出ガス識別記号JBK-[14]を付与したフルモデルチェンジ車[注 18]である[18]。
BA-MC33型から最大の変更点は、MC15E型エンジンに施した以下の対策にある。
- 燃料供給をVD10型キャブレターから、32bitプロセッサによるECU[19]で制御するPGM-FI電子式燃料噴射装置へ変更
- エアクリーナーケース容量を6.2L→6.4Lへ増量[20]
- エキゾーストマニホールド集合部にO2センサーならびにプリ マフラー内部にメインのキャタライザーを内蔵[21]
この結果スペックは最高出力30ps〔22Kw]/10,500rpm・最大トルク2.2kg-m〔22N・m]/8,500rpmとなった[18]。
車体面ではフレームは継承しつつも剛性の見直しを行い、シートならびにテールカウル形状およびバッテリー搭載位置を変更した結果シート下に小物入れを新設[22]。このほか燃料タンクのリデザインによる容量13→12Lへの減少やサイドカバーデザイン変更も実施し、全長も2,080mmとなったほか車重は161kgとなった[18]。
連結子会社のホンダアクセスからカスタマイズパーツとして、ビキニカウル・センターカウル・アンダーカウル・シングルシートカウル・サイドバックセット等が用意された。それぞれ組み合わせて装着することが可能である[注 19]。
また全編オーストラリアメルボルンでのロケーション撮影によるスポットCM[23]が制作されたほか[注 21]、同社8代目代表取締役社長の八郷隆弘が愛車として保有する[25]。
遍歴
編集日本国内年間販売目標3,000台で以下のバリエーションを設定
STYLE I:消費税抜希望小売価格530,000円
- 車体色
- イタリアンレッド
- グラファイトブラック
- ホイール・ブレーキキャリパー
- ブラック
- リヤカウル・サイドカバー
- アキュレイトシルバーメタリック
STYLE II:消費税抜希望小売価格540,000円
- 車体色・リヤカウル
- パールサンビームホワイト
- グリントウェーブブルーメタリック
- パールフラッシュイエロー
- ホイール・ブレーキキャリパー
- ゴールド
- サイドカバー
- マットレイシルバー
日本国内年間販売目標2,500台 消費税抜希望小売価格540,000円に修正ならびに以下の仕様変更を実施
- STYLE I・STYLE IIのバリエーションを廃止し以下の車体色に集約
- パールサンビームホワイト
- グリントウェーブブルーメタリック
以下の仕様を持つB-STYLEを追加
- 車体色
- グラファイトパールコスミックブラック
- フレームカラー
- イタリアンレッド
日本国内年間販売目標1,400台に修正しB-STYLEを除いた車体色を以下に変更
- キャンディブレイシングレッド
- デジタルシルバーメタリック
日本国内年間販売目標3,500台に修正し以下の仕様変更を実施したVTR-Fを追加
- ハーフカウル装着
- そのため全高が60mmアップの1,115mmならびに車重が3kg増の164㎏へ変更
- 中央に大型アナログ式タコメーターを配置し下側の液晶ディスプレイにデジタル速度計・時計・ツイントリップメーター・オドメーターを設置
- 車体色は以下の2種
- パールサンビームホワイト
- パールコスミックブラック
- 消費税抜希望小売価格:560,000円
VTRは以下の変更を実施
- PGM-FI電子式燃料噴射装置のセッティング変更で低回転域のスロットルリニアリティーを向上
- サスペンションセッティングを変更
- シリンダー・シリンダーヘッド・ホイール・フロントサスペンションボトムケース・スイングアームをブラック塗装
- 車体色を以下の3種に変更
- マグナレッド
- グラファイトブラック
- パールフェイドレスホワイト
バリエーションモデルVTR Type LDを追加
- サスペンションセッティングを変更し全高ならびに最低地上高を10mmダウン それぞれ1,045mm・145mmに設定
- シート高を740mmに設定
既存モデルのVTR・VTR-Fに以下のマイナーチェンジを実施
- シート高を5mm下げて755mmに変更
- リヤサスペンションのセッティング変更
3バリエーション共通で以下の仕様変更を実施
車体色ならびに消費税抜希望小売価格をバリエーション毎で以下に変更
VTR:554,000円
- 車体色
- デジタルシルバーメタリック
- パールサンビームホワイト
- グラファイトブラック
- フレームカ
- レッド
- ホイール
- ゴールド
VTR-F:574,000円
- 車体色
- パールサンビームホワイト
- パールコスミックブラック
- フレーム
- シルバー
- ホイール
- ゴールド
VTR Type LD:564,000円
- 車体色
- マグナレッド
- パールサンビームホワイト
- フレーム
- レッド
- ホイール
- ゴールド
以下の特別塗装を施したVTR Special Editionを消費税抜希望小売価格574,000円で追加
- 車体色
- マットビュレットシルバー
- フレーム
- ブラック
- ホイール
- マッドグレー
日本国内年間販売目標をシリーズ合計で1,400台に修正し既存3バリエーションは価格据置で以下の車体色へ変更
- VTR・VTR Type LD
- 車体色
- パールサンビームホワイト
- キャンディープロミネンスレッド
- フレーム
- シルバー
- VTR-F
- 車体色
- マットガンパウダーブラックメタリック
- フレーム
- レッド
- 2017年8月31日
2016年7月1日に施行された欧州Euro4とWMTCを参考とした規制値および区分[31]の平成28年自動車排出ガス規制[32]に対応させず、平成18年規制に基く継続生産車である本モデルは同日をもって生産終了[33]。
脚注
編集注釈
編集- ^ 海外向け輸出仕様はVTR250が正式車名となるほか、日本国内向け仕様も従来のVTシリーズや車名に他のVTRを使用するモデルと明確に区別することから記載ならびに呼称されるケースもある。
- ^ VT250時代には1988年 - 1990年に北米向け輸出は行われた。海外向け輸出仕様の詳細については英語版HONDA VTR250を参照
- ^ ただし3代目となるMC20型VT250 SPADA(スパーダ)のみアルミ鋳造中空一体構造のCASTECによるダイヤモンド型[5]。
- ^ 初代のMC08型に搭載されたMC08E型は内径x行程:60.0x44.0(mm)・排気量248㏄である[2]。
- ^ MC15型用は最高出力43ps/12,500rpm・最大トルク2.5kg-m/10,500rpm[8]。MC25型XELVIS用は最高出力36ps/11,500rpm・最大トルク2.6kg-m/8,500rpm[10]。
- ^ 1速:2.733 - 2速:1.800 - 3速:1.375 - 4速:1.111 - 5速:0.965 1次減速比:2.821/2次減速比:2.928[7]
- ^ JBK-MC33型の海外向け輸出仕様は96mm。
- ^ 北海道は15,000円高。沖縄は9,000円高。一部離島は除く[1]。
- ^ 北海道は15,000円高。沖縄は9,000円高。一部離島は除く[15]。
- ^ フォースシルバーメタリック・ キャンディグローリーレッド・ パールフェィドレスホワイト・ パールプリズムブラック・ キャンディタヒチアンブルー・ サイクロンブルーメタリック・ タスマニアグリーンメタリック・ イタリアンレッド・ パールフレッシュイエロー[15]
- ^ ホワイト・ シルバー・ ブラック[15]
- ^ ホワイト・ ゴールド・ シルバー・ ブラック[15]
- ^ a b 2パターンは標準車と同一のため除外。
- ^ 沖縄は8,000円高。一部離島は除く[16]。
- ^ キャンディタヒチアンブルー・ フォースシルバーメタリック・ イタリアンレッド・ パールシャイニングイエロー・ キャンディブレイシングレッド・ マッドガンパウダーブラックメタリック[16]
- ^ チョークホワイト・ テラシルバーメタリック・ ブラック[16]
- ^ スーパーゴールドメタリック・ ブラック・ アイアンネイルシルバーメタリック[16]
- ^ 外部リンクの2輪製品アーカイブ VTR(JBK-MC33型)にはフルモデルチェンジを意味するFMCの記載がある。
- ^ 同社は2018年現在ではオートバイ用純正パーツは製造販売しておらず、自動車用純正パーツのみ製造販売企画を行う。
- ^ アルバム『LUCKY STAR』に収録。
- ^ CM以外にもタイアップとなったGOING UNDER GROUNDの世界の真ん中[注 20]を全編使用し、販売店などでの上映を目的としたプロモーションビデオも同時制作された[24]。
出典
編集- ^ a b c 1997年11月28日プレスリリース
- ^ a b 1982年5月25日プレスリリース
- ^ FACT BOOK VTR 1997年11月 p3. スタイリング
- ^ FACT BOOK VTR 1997年11月 p2. 開発の狙い
- ^ 1988年11月7日プレスリリース
- ^ FACT BOOK VTR 1997年11月 p6. 車体
- ^ a b c d e FACT BOOK VTR 1997年11月 p11. 主要諸元
- ^ a b 1986年4月9日プレスリリース
- ^ FACT BOOK VTR 1997年11月 p5. パワーユニット
- ^ 1991年10月11日プレスリリース
- ^ a b FACT BOOK VTR 1997年11月 p8. 足回り
- ^ FACT BOOK VTR 1997年11月 p1. はじめに
- ^ 第32回東京モーターショー ホンダコーナーのご紹介
- ^ a b c 国土交通省HP 新車排出ガス規制の経緯(8)
- ^ a b c d e f g 2000年2月1日プレスリリース
- ^ a b c d e 2002年12月18日プレスリリース
- ^ 2007年1月22日プレスリリース
- ^ a b c d 2009年2月20日プレスリリース
- ^ FACT BOOK VTR 2009年3月 p4.パワーユニット(1)
- ^ FACT BOOK VTR 2009年3月 p5.パワーユニット(2)
- ^ FACT BOOK VTR 2009年3月 p6.パワーユニット(3)
- ^ WEB Mr.BIKE VT大全 1982 - 2010 p8. 2009 VTR
- ^ 本田技研工業公式HP TVCF INFOMATION 『Feel the Real The V-Twin Quarter VTR こころに響く篇』
- ^ 2009 HONDA VTR PromotionMovie
- ^ 【トップインタビュー】八郷隆弘社長 - Response. 2015年8月7日
- ^ 2010年6月29日プレスリリース
- ^ 2012年2月9日プレスリリース
- ^ 2013年2月12日プレスリリース
- ^ 2014年7月14日プレスリリース
- ^ 2016年10月20日プレスリリース
- ^ 環境省・自動車排出ガス専門委員会(第54回)配付資料 54-2 二輪車の排出ガス規制に関する国際基準調和の動向等について (PDF) - 小排気量車の数値と区分が日本と欧州で異なる。
- ^ “ディーゼル重量車及び二輪車の排出ガス規制を強化します。”. 国土交通省自動車局環境政策課 (2015年7月1日). 2017年3月24日閲覧。
- ^ モータファン ニューストピック 9月突入で生産終了モデルがズラリ! SR400もアドレスV125も……カタログモデル激減(涙) 2017年9月3日
関連項目
編集外部リンク
編集- 本田技研工業公式HP
- VTR
- 2輪製品アーカイブ VTR(MC33・BA-MC33型)
- 2輪製品アーカイブ VTR(JBK-MC33型)
- FACT BOOK VTR 1997年11月
- FACT BOOK VTR 2009年3月
- FACT BOOK VTR/VTR Type LD/VTR-F 2014年7月
- BBB The History
- WEB Mr.BIKE
カラーバリエーションに関して:解説で使用する車体色は、配色の系統を表しているのであって、色を再現しているわけではありません。 |