ホメピゾール(Fomepizole、別名:4-メチルピラゾール)は、エチレングリコール[1]またはメタノール[2]中毒ならびにその疑い例の解毒に用いる医薬品である。単独投与またはダイアライザーによる透析と並行して用いる。それとは別に、錯体化学での4-メチルピラゾールの挙動が研究されている[3]WHO必須医薬品モデル・リストに収載されている[4]

ホメピゾール
IUPAC命名法による物質名
データベースID
PubChem CID: 3406
DrugBank DB01213 チェック
ChemSpider 3289 チェック
UNII 83LCM6L2BY チェック
KEGG D00707  チェック
ChEBI CHEBI:5141 チェック
ChEMBL CHEMBL1308 チェック
化学的データ
化学式C4H6N2
分子量82.11 g·mol−1
テンプレートを表示

効能・効果

編集

ホメピゾールは肝臓のアルコールデヒドロゲナーゼ[5]競合阻害する。アルコールデヒドロゲナーゼはエチレングリコールやメタノールを代謝する主要酵素であるので、その阻害によりシュウ酸ホルムアルデヒドといった有害物質の生成を妨げることができる。

エチレングリコールやメタノールの最初の代謝酵素を競争的に阻害する事で、ホメラゾールは有毒物質の生成を遅延させることができる。それにより肝臓での処理(有毒物質の分解)および排泄が相対的に優位となり、腎臓や眼への有毒物質の蓄積を回避することができる[7]

ホメピゾールはエチレングリコール/メタノール暴露後直ちに投与した場合に最も有効である。投与が遅れると毒性物質が生成してしまう[7]

アルコールとの相互作用

編集

ホメピゾールはエタノールの半減期を延長するので、併用禁忌とされている場合がある。半減期の延長によりエタノールの酩酊効果が増強され、より低濃度で酩酊作用をもたらすので危険性が増す。ホメピゾールはアルコールデヒドロゲナーゼを阻害してアセトアルデヒドの生成を遅延させ、アセトアルデヒド脱水素酵素に因ってアセトアルデヒドが酢酸に酸化することをも遅滞させる。その結果、酩酊の度合いが深く長くなり、二日酔い症状が残る。アルコール依存症でアルコール耐性が亢進している場合、より少量のエタノールで二日酔いするために、ホメピゾールはエタノール摂取の意欲を削ぐ(負の強化)効果が期待できる。依存症患者がエタノールを過量摂取すると死に至る可能性もあるが、代謝の低下を見極めて摂取量を慎重に漸減した場合は、より少量のエタノールで心地よく酔い、二日酔いも少なく、満足感を得、慢性中毒症状を低減し、危害の最小化に結び付けることができ得る。これは本質的に、ジスルフィラムを用いてアセトアルデヒドを増加させて中毒患者に英語版を与える治療法(服薬コンプライアンスが重要な問題となる)の発想とは逆のものである。

副作用

編集

重大な副作用として、アナフィラキシー(頻度不明)が記載されている。

投与患者の5%以上に発現する副作用は、頭痛および注射部位反応(灼熱感、疼痛、炎症)である[8]。嘔気が発現するとする資料もある[9]

薬物動態

編集

吸収・分布

編集

ホメピゾールは全身の水分(0.6〜1.02 L/kg)中に速やかに溶解、分布する。治療域は8.2〜24.6 mg/L(100〜300 µM)である。単回経口投与時のCmaxは7〜50 mg/kgで、tmaxは1〜2時間である。t1/2は投与量によって異なる。

代謝・排泄

編集

肝臓での主要代謝産物(投与量の80〜85%)は4-カルボキシピラゾールである。他にはピラゾール、4-ヒドロキシメチルピラゾール、ならびに4-カルボキシピラゾールおよび4-ヒドロキシメチルピラゾールのグルクロン酸抱合体である。

繰り返し投与すると、シトクロムP450が誘導されてホメピゾールの代謝消失が加速される。

健康成人に投与した場合、尿中への排泄は1〜3.5%である。代謝産物も同程度尿中に排泄される。

ホメピゾールは人工透析で除去できる。

出典

編集
  1. ^ Velez LI, Shepherd G, Lee YC, Keyes DC (September 2007). “Ethylene glycol ingestion treated only with fomepizole”. J Med Toxicol 3 (3): 125–8. doi:10.1007/BF03160922. PMID 18072148. http://jmt.pennpress.org/strands/jmt/pdfHandler.pdf?issue=20070303&file=20070303_125_128.pdf. [リンク切れ]
  2. ^ International Programme on Chemical Safety (IPCS): Methanol (PIM 335), [1], retrieved on March 1, 2008
  3. ^ Vos, Johannes G.; Groeneveld, Willem L. (1979). “Pyrazolato and related anions. Part V. Transition metal salts of 4-methylpyrazole”. Transition Metal Chemistry 4 (3): 137. doi:10.1007/BF00619054. 
  4. ^ WHO Model List of EssentialMedicines”. World Health Organization (October 2013). 22 April 2014閲覧。
  5. ^ Casavant MJ (January 2001). “Fomepizole in the treatment of poisoning”. Pediatrics 107 (1): 170. doi:10.1542/peds.107.1.170. PMID 11134450. 
  6. ^ Forensic Pathology”. 2015年1月28日閲覧。
  7. ^ a b Fomepizole for Ethylene Glycol and Methanol Poisoning”. 2015年1月28日閲覧。
  8. ^ ホメピゾール点滴静注1.5g「タケダ」添付文書” (2015年11月). 2016年6月27日閲覧。
  9. ^ Lepik, KJ; Levy, AR; Sobolev, BG; Purssell, RA; DeWitt, CR; Erhardt, GD; Kennedy, JR; Daws, DE et al. (Apr 2009). “Adverse drug events associated with the antidotes for methanol and ethylene glycol poisoning: a comparison of ethanol and fomepizole.”. Annals of Emergency Medicine 53 (4): 439–450.e10. doi:10.1016/j.annemergmed.2008.05.008. PMID 18639955. 

外部リンク

編集