ペルシア文字(ペルシアもじ)あるいはペルシャ文字(ペルシャもじ)(ペルシア語: الفبای فارسیアレフバーイェ・ファールスィー)とは、アラビア文字を元にして、ペルシア語を表すために改良がほどこされた文字体系を言う。32文字からなるアブジャドである。

ペルシア文字
類型: アブジャド
言語: ペルシア語
時期: 9世紀頃 (7世紀) - 現在[1]
親の文字体系:
アラビア文字
  • ペルシア文字
Unicode範囲: アラビア文字ブロックに含まれる。
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メロエ 前3世紀
カナダ先住民 1840年
注音 1913年

概要

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ペルシア語イランアフガニスタンタジキスタンなどで話される。ペルシア語はインド・ヨーロッパ語族に属するが、7世紀にアラブに征服されてから、次第にアラビア語の文字であるアラビア文字を元にした文字体系でペルシア語を表記するようになった。特に、9世紀サーマーン朝下において、それは発達した。

ペルシア語の音韻体系に合わせ、いくつか字母が追加され、またアラビア語と発音や字形、用法が異なる文字もある。また、ペルシア文字の書体としては、ナスタアリーク体が発達した(「イスラームの書法」を参照)。

ペルシア語はアナトリア半島ではセルジューク朝以来、南アジアではティムール朝ムガル帝国の公用語として使われた。このため、ウルドゥー文字オスマン語の文字はペルシア文字から発達した。

歴史上のペルシア語表記

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現在のペルシア文字が採用される以前のペルシア語の文字体系としては、アケメネス朝期に使用された古代ペルシア楔形文字、サーサーン朝期に使用されたパフラヴィー文字がある[2]。アラビア文字での表記は9世紀頃からであると一般には考えられている[1]

字母

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ペルシア文字は32文字からなる(ハムゼは除く)。右から左につづけて書かれ、前後とつなげるための結合形が発達している。7つの文字は後ろに続けることができず、これらの文字の頭字形と中字形は独立形と同形である[3]

番号 文字名 ナスフ体 ナスタアリーク体
独立形 末字形 中字形 頭字形 独立形 末字形 中字形 頭字形
1 (母音) alef ا ـا ا ـا
2 b ب ـب ـبـ بـ ب ـب ـبـ بـ
3 p پ ـپ ـپـ پـ پ ـپ ـپـ پـ
4 t ت ـت ـتـ تـ ت ـت ـتـ تـ
5 s ث ـث ـثـ ثـ ث ـث ـثـ ثـ
6 jīm ج ـج ـجـ جـ ج ـج ـجـ جـ
7 čē چ ـچ ـچـ چـ چ ـچ ـچـ چـ
8 h ح ـح ـحـ حـ ح ـح ـحـ حـ
9 x خ ـخ ـخـ خـ خ ـخ ـخـ خـ
10 d dāl د ـد د ـد
11 z zāl ذ ـذ ذ ـذ
12 r ر ـر ر ـر
13 z ز ـز ز ـز
14 ʒ žē ژ ـژ ژ ـژ
15 s sīn س ـس ـسـ سـ س ـس ـسـ سـ
16 ʃ šīn ش ـش ـشـ شـ ش ـش ـشـ شـ
17 s sād ص ـص ـصـ صـ ص ـص ـصـ صـ
18 z zād ض ـض ـضـ ضـ ض ـض ـضـ ضـ
19 t ط ـط ـطـ طـ ط ـط ـطـ طـ
20 z ظ ـظ ـظـ ظـ ظ ـظ ـظـ ظـ
21 ʔ ein ع ـع ـعـ عـ ع ـع ـعـ عـ
22 ɣ γein غ ـغ ـغـ غـ غ ـغ ـغـ غـ
23 f ف ـف ـفـ فـ ف ـف ـفـ فـ
24 ɣ γāf ق ـق ـقـ قـ ق ـق ـقـ قـ
25 k kāf ک ـک ـکـ کـ ک ـک ـکـ کـ
26 ɡ gāf گ ـگ ـگـ گـ گ ـگ ـگـ گـ
27 l lām ل ـل ـلـ لـ ل ـل ـلـ لـ
28 m mīm م ـم ـمـ مـ م ـم ـمـ مـ
29 n nūn ن ـن ـنـ نـ ن ـن ـنـ نـ
30 v vāv و ـو و ـو
31 h ه ـه ـهـ هـ ه ـه ـهـ هـ
32 j ی ـی ـیـ یـ ی ـی ـیـ یـ

アラビア文字との違い

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文字の順序はアラビア文字とほとんど同じだが、و (v)と ه (h) の順序が逆になっている。

アラビア文字の「ك」(k)と「ي」(y)の独立形(および末字形)は、それぞれ「ک」と「ی」になっている。

ペルシア語にあってアラビア語にない音を表すため、以下の4つの文字が追加されている。それぞれ b dʒ z k を表す字を変形させたもので、本来の字の次に配置される。

文字 پ چ ژ گ
音価 p ʒ ɡ

ペルシア文字で追加された4文字がそれぞれいつ頃から使用されているかについては、はっきりしたことはわかっていない。初期のペルシア語では、پbabچjimژزگكでそれぞれ書き表されていた。サファビー朝の文献においてگは書き表されていないことから、追加された4文字の中ではگが最も遅く考案されたと考えられている[4]

アラビア語にある文字の読みはだいたいアラビア文字と同じ音で発音するが、و は w ではなく v の音を表す。また、アラビア語にあってペルシア語にない音を表す以下の字は、別な音に変えられている。このため、s の音を表す字が3種類、z が4種類ある。

文字 ث ح ذ ص ض ط ظ ع ق
アラビア語の読み θ ħ ð ʕ q
ペルシア語の読み s h z s z t z ʔ ɣ

文字の名称はアラビア語名とほぼ同じだが、ā で終わる文字名は、それを ē に変える(ط ظ 以外)。二重母音の ai は ei になる。問題は هح の文字名称がどちらも になってしまい、区別がつかないことだが、前者を hē havvaz、後者を hē hottī と呼んで区別する(havvaz / hottī の名はいずれもアブジャド順に文字を唱えるときの唱え方に由来する)。

語中に出現する末字形

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ペルシア文字による正書法の特徴として、いくつかの接頭辞の終わり・接尾辞の前・複合語の区切りにおいて、語中であるにもかかわらず末字形を使うことがある。この末字形のあとにスペースを置いてはならない。

例:  (mī-xāhammī- は現在形の接頭辞) 「私はほしい」

Unicodeでは、このためにゼロ幅非接合子(ZWNJ)を使用する。

補助記号

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記号(ナスフ体 記号(ナスタアリーク体 名称
اٙ اٙ alef bā kolāh / alef madde
ء ء ʔ hamze
ّ ّ (重子音) tašdīd
َ َ a zabar / fathe
ِ ِ e zīr / kasre
ُ ُ o peš / zamme
ْ ْ - jazm / sokūn
ً ً an tanvīn nasb
ٍ ٍ en tanvīn en
ٌ ٌ on tanvīn on

2つ名前のあるものは、前者がペルシア語名、後者がアラビア語からの借用である。「alef bā kolāh, zabar, zīr, peš, jazm」はそれぞれ「帽子つきアレフ、上、下、前、切断」を意味する。

ハムゼは主にアラビア語からの借用語で声門閉鎖を表すことがある。ほかに、母音で終わる語末の ه または ى の上について、エザーフェを表すこともあるが、省略されるのが普通である。

母音記号がつけられることはほとんどないが、アラビア語から借用した副詞にある、発音される -an は書かれる(例:داٸماً dāeman 「永久に」)。

アラビア文字のター・マルブータは存在しない。借用語では、 t と発音する場合は ت を、発音しない場合は ه を書く。例:ساعت sā'at 「時間」、دقیقه daγīγe 「分」

母音の表記

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語頭の短い母音(a e o)は、ا で表す。語頭の長母音は آ(ā) ای(ī, まれに ei) او(ū) と表す。

語頭以外では短い母音は表記されず(例外もある)、長い母音は ا(ā) ی(ī, ei) و(ū, ou) と表記する。

黙字

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語末の ه は発音されないことが多い。

و は発音されないことがある(通常 خو の形のとき)。これは歴史的な綴りが残存しているものである。

数字

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数字は左から右に書かれる。以下のように数字の4, 5, 6はアラビア語とは異なる字体を用いるのが一般的である。

西洋数字 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9
アラビア語 ٠ ١ ٢ ٣ ٤ ٥ ٦ ٧ ٨ ٩
ペルシア語(ナスフ体) ۰ ۱ ۲ ۳ ۴ ۵ ۶ ۷ ۸ ۹
ペルシア語(ナスタアリーク体) ۰ ۱ ۲ ۳ ۴ ۵ ۶ ۷ ۸ ۹

コンピュータ

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キーボード

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Windowsのペルシャ語キーボード。

 


脚注

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  1. ^ a b 縄田 2001, p. 901.
  2. ^ 縄田 2001, p. 900.
  3. ^ 縄田 2001, pp. 901–902.
  4. ^ 縄田 2001, p. 902.

参考文献

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  • 縄田, 鉄男 (2001), “ペルシア文字”, in 河野六郎, 千野栄一, 西田龍雄, 世界文字辞典, 言語学大辞典, 東京: 三省堂, pp. 898-907, ISBN 9784385151779 

関連項目

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