フィレオフィッシュ

マクドナルドで販売している魚のサンドイッチ

フィレオフィッシュ: Filet-O-Fish)は、ファーストフードチェーンのマクドナルドが販売しているハンバーガーメニューの一つ。

フィレオフィッシュ

商品概要

 
スケトウダラ

フィレ「Filet」は骨のない魚の切り身を意味している。あっさりとしたスケトウダラなどの白身魚フライタルタルソースがかけられ[1]、スライスチーズと共に、レギュラーバンズ(パン)に挟んで提供される。また、バンズは(他の、肉を使ったハンバーガーとは違い、鉄板で焼かずに)スチーマーで蒸したものを使用する[2]。またスライスチーズは半分にカットしたものが使われる[3][注釈 1]

提供時は、潰れてバンズのふわふわ感が損われないよう、ビッグマックと同じような硬い紙製の箱に入れて出される[2]。なお、日本では1978年以降、発泡スチロール製のクラムシェルボックスを使用していたが、ゴミ問題などから1990年にアメリカのマクドナルドがこの容器の使用中止を決定。日本でも段階的に首都圏から紙ラップに切り替えた後、現在の紙箱になった[4][5][6][7]

商品史

商品開発

1959年よりオハイオ州シンシナティでマクドナルドのフランチャイジーとして店の経営にあたっていたルー・グルーンは、開業当初から経営難に直面していた[8]。理由の一つに地域の宗教上の問題があった[8]。グルーンの店の周囲にはカトリックの信者が多く暮らしており、「肉を食べてはいけない」金曜日になると客足が遠のいていた[8][9]。また灰の水曜日から復活祭までの約40日間も売上が大きく落ち込んだ[9]

グルーンは、近所にあったビッグボーイのチェーン店が、魚のサンドイッチを提供していることを知った[10]。これをヒントとして独自の魚フライのホットサンドイッチを作るための試行錯誤を始めた[10]

1961年、グルーンは最初にオヒョウの切り身のフライとタルタルソースを使ったフィレオフィッシュを完成させ[9]、店での販売許可を得るためにマクドナルド本社のレイ・クロックとの交渉に臨んだ。しかしクロックは「店が魚臭くなる」という理由で当初この提案を却下した[10]。グルーンは諦めずに粘り交渉を続けたところ、クロックから「フラ・バーガー(Hulu Burger)」を売ってみたらどうかと逆提案を受けた[10]

クロックが提案した「フラ・バーガー」はパイナップルの上にチーズを載せて焼いたものを挟んだホットサンドイッチだった[10]。グルーンとクロックは、どちらのメニューが売れるか賭けをすることになった[9]。1962年のある金曜日、グルーンの店で「フラ・バーガー」と「フィレオフィッシュ」のどちらが売れるかのテスト販売が行われた[10]。結果、「フラ・バーガー」は売上げ6ドル、「フィレオフィッシュ」は350ドルを売り上げた[10]

クロックは負けを認めた上で魚のレシピをメニューに加えることに同意した[9]。ただしフィレオフィッシュに使う魚をオヒョウではなく別のものにすることを求めた[9]。オヒョウは漁獲高の増減が大きく値段の変動が大きいため、アメリカ全土に展開するには不適格であったからである[8][注釈 2]。代わりとなる海産物をテストしたところ、当初はハマグリパン粉をまぶしたものが適しているという結論がでた[8]。このレシピに「ディープ・シー・ドーリー」と名前をつけてテスト販売したが、調理法が難しかったために断念することになった[8]。最終的にタイセイヨウダラをフライにしたものを「フィレオフィッシュ」と命名し[9]、全米のマクドナルドのメニューに載せることになった[9]

商品の変遷

アメリカでは、アラスカでのタラ類の漁獲高の減少により、1996年9月26日にフィレオフィッシュをメニューより外し[11]、高級指向の「フィッシュ・デラックス(Fish Delux)」を加えると発表した[11]。しかし、顧客からフィレオフィッシュを復活を要望する内容の手紙や嘆願書が多く寄せられ、1998年3月22日にメニューに復帰させた。

原材料を巡る問題

日本マクドナルドは原材料に関する問い合わせに対し、2001年に使用している白身魚の種類をスケトウダラであると回答した[12]。また、日本以外ではマダラ深海魚ホキメルルーサも使用されていると回答[12]。2019年現在、同社はアメリカベーリング海スケトウダラを使用し、タイで加工した後に日本に輸送している[1][13]

インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙は2009年9月10日付けの紙面で、マクドナルドだけで年間約7,000t(1,500万ポンド)のホキを消費していると報じた[14]。またこの漁獲により、ホキは絶滅の危機にあり、ホキの漁獲量の制限が行われているとした[14]

2013年1月、マクドナルドは全米で販売するフィレオフィッシュについてはすべてアラスカ産のスケソウダラを使用すると発表[15]。またこのスケソウダラは海洋管理協議会(略称:MSC)から持続可能性な漁で流通されているとの認定を受けた[15]。この認定は全米で展開するレストランチェーンでは初めてのことだった[15]。しかし、ベーリング海でのスケソウダラ漁は底引き網で行われており、絶滅の危機にあるオヒョウを混獲していると指摘されている[16]

脚注

注釈

  1. ^ フィレオフィッシュに使われているスライスチーズが半分にカットされるのは、ルー・グルーンが開発した最初のレシピが由来[3]
  2. ^ ルー・グルーンは「当時、ホットサンドイッチにオヒョウを使うと1個当たり2ドルのコストがかかった。これを25セントにしたいと言われた」と語っている[9]

出典

  1. ^ a b フィレオフィッシュメニュー情報”. 日本マクドナルド. 2015年10月28日閲覧。
  2. ^ a b 「ビッグマック食べにくい問題」実は裏ワザが マクドナルド広報に聞いてみると”. デイリー新潮. p. 1 (2022年6月18日). 2022年9月20日閲覧。
  3. ^ a b Why is there only half a slice of cheese on the Filet-O-Fish?”. mcdonalds.com. 2015年10月28日閲覧。
  4. ^ マクドナルドの今昔 05 バーガーの包装紙”. 日本マクドナルド 50年の歴史. McDonald's Japan. 2022年9月20日閲覧。
  5. ^ “【マクドナルド】フィレオフィッシュはなんで箱なの? チーズ小さいよね? 気になる疑問をぶつけてきた!”. AppBank. https://www.appbank.net/2019/10/30/iphone-application/1812558.php 
  6. ^ “マクドナルドに取材! 発泡スチロールの容器はいつなくなった?”. ヒトメボコラム. https://hitome.bo/column/article/27942-hitomebo-mcdonald-s.html 
  7. ^ パッケージデザインが6年ぶりにリニューアル 新デザインの紙袋やドリンクカップ、ポテトやバーガーのパッケージを全国の店舗にて順次提供します”. マクドナルド (2023年10月12日). 2022年9月20日閲覧。
  8. ^ a b c d e f 日本マクドナルド20年のあゆみ (1991, pp. 82)
  9. ^ a b c d e f g h i USATODAY.com
  10. ^ a b c d e f g Smithsonian.com
  11. ^ a b Sarasota Herald-Tribune - Google News Archive Search”. news.google.com. 2015年10月28日閲覧。
  12. ^ a b 「マクドナルドのフィレオフィッシュは深海魚が使われているって噂は真実か」その2”. 週刊金曜日. 2015年10月28日閲覧。
  13. ^ マクドナルドが「フィレオフィッシュ」25年ぶりに刷新 エコラベルも取得”. 産経新聞 (2019年10月28日). 2019-10-28日閲覧。
  14. ^ a b From Deep Pacific, Ugly and Tasty, With a Catch”. HeraldTribune.com. 2015年10月28日閲覧。
  15. ^ a b c McDonald's Sustainable Fish: All U.S. Locations To Serve MSC-Certified Seafood”. huffingtonpost.com. 2015年10月28日閲覧。
  16. ^ McDonald's 'Sustainable' Filet-O-Fish Threatens Alaska Fishermen's Livelihood”. huffingtonpost.com. 2015年10月28日閲覧。

参考文献

  • 日本マクドナルド株式会社広報部『日本マクドナルド20年のあゆみ』日本マクドナルド、1991年。OCLC 47486957 
  • No fish story: Sandwich saved his McDonald's”. USATODAY.com. 2015年4月10日閲覧。
  • The Fishy History of the McDonald’s Filet-O-Fish Sandwich”. Smithsonian.com. 2015年4月10日閲覧。

関連項目

外部リンク