ヒプシロフス学名Hypsirhophus、「高い屋根」の意。よく "Hypsirophus" と誤記される)は、剣竜類に属する恐竜。断片的な標本からのみ知られている。ヒプシロフス・ディスクルス(Hypsirhophus discurus)1のみが含まれる。本属の化石は背中の部分的な椎骨、部分的な尾椎3個、および肋骨の一部で構成されている。

ヒプシロフス
Hypsirhophus
生息年代: 後期ジュラ紀,
146 Ma
ホロタイプ椎骨
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
亜綱 : 双弓亜綱 Diapsida
下綱 : 主竜形下綱 Archosauromorpha
上目 : 恐竜上目 Dinosauria
: 鳥盤目 Ornithoscia
亜目 : 装盾亜目 Thyreophora
下目 : 剣竜下目 Stegosauria
: ステゴサウルス科 Stegosauridae
亜科 : ステゴサウルス亜科 Stegosaurinae
: ヒプシロフス属 Hypsirhophus
学名
Hypsirhophus
Cope1878

歴史と分類

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1892年の旧式の復元図

最初に記載されたヒプシロフス・ディスクルス(Hypsirhophus discurus)の化石は、コロラド州キャノン・シティ英語版の北東3.8マイルにある化石発掘地、ガーデン・パーク英語版の「コープの乳首(Cope's Nipple)」近郊のコープ採石場3(Cope's Quarry 3)でエドワード・ドリンカー・コープの下で働いていた学校教師の Oramel William Lucas によって発掘され、後期ジュラ紀チトニアン階の地層から産出した[1][2]。現在ヒプシロフス属として認められている化石は断片的で、1個体のものであり、背椎1個、部分的な2個の神経棘、2個の尾椎の中心部、肋骨の断片が含まれていた[3][2]。これらの化石はその後コープに送られ、コープは1878年にアメリカ西部の化石をめぐりコープとイェール大学の古生物学者オスニエル・チャールズ・マーシュとの間で争われた「化石戦争」の一環として、これらの化石について簡単に記載した[4][3]。コープは、付近で発見されたおそらくアロサウルスと見られる獣脚類大腿骨を誤って標本に分類したため、それがラエラプスまたはメガロサウルスに近い獣脚類であり、彼が記載した前者の種であるラエラプス・トリヘドロドン(Laelaps trihedrodon)のシノニムである可能性があると考えていた[3][5][6]。属名の Hypsirhophus は背骨の高い解剖学的構造に因み「高い屋根」を意味するが、種小名は翻訳されていない[6]。翌年の1879年、コープはコロラド州の未知の産地から発見された数個の椎骨、四肢骨、歯に基づき、別の種であるヒプシロフス・"シーレイアヌス"(Hypsirhophus "seeleyanus")を命名した。これらの化石はその後失われたが、剣竜類ではなく獣脚類の化石であった[4][2][3]。コープはまた、この種の命名が不十分であったため、裸名とした[3][2]。ヒプシロフス・ディスクルスのホロタイプは、1897年にコープが亡くなった後、アメリカ自然史博物館に移され、標本番号 AMNH 5731 として保管されている[5][2]

ヒプシロフスが剣竜類に分類されたのは、何年も経ったステゴサウルスの完全な骨格が記載されてからであり、コープのライバルであるマーシュが1892年にヒプシロフスをステゴサウルス科に分類した[7]。後世の研究者の中にはヒプシロフスをステゴサウルスのシノニム[5]、または疑問名と考える者もいたが[8]ケネス・カーペンターピーター・ガルトン英語版は椎骨の違いに基づきヒプシロフスは別個かつ有効な種であると示唆している[1][2]

説明

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仮説的な復元図

タイプ標本が断片的であること、記載が不足していること、および既知の標本が1個しかないことから、ヒプシロフスについては殆ど何も分かっていない。ケネス・カーペンターは、次の点によって判別できると指摘した。ヒプシロフスのpostzygapophysesの間に円形の窩があるのに対し、ステゴサウルスには垂直の溝がある。postzygapophyses基部から神経管まで伸びる中央の稜の有無(ステゴサウルス・ウングラトゥス(ステゴサウルス・ステノプス)には溝がある)。柄の断面では、前面が凸状であるのに対し、ステゴサウルスは凹状である[2][1]

背部椎は非常に高く、不完全であるにも拘わらず47センチメートルにおよび、知られている背椎の中でも最大級のものである[8][1]

脚注

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  1. ^ a b c d Carpenter, K (1998). “Vertebrate biostratigraphy of the Morrison Formation near Canon City, Colorado”. Modern Geology 23: 407–426. 
  2. ^ a b c d e f g Galton, P.M. (2010). “Species of plated dinosaur Stegosaurus (Morrison Formation, Late Jurassic) of western USA: new type species designation needed”. Swiss Journal of Geosciences 103 (2): 187–198. doi:10.1007/s00015-010-0022-4. 
  3. ^ a b c d e Maidment, Susannah C. R.; Norman, David B.; Barrett, Paul M.; Upchurch, Paul (2008-01-01). “Systematics and phylogeny of Stegosauria (Dinosauria: Ornithischia)”. Journal of Systematic Palaeontology 6 (4): 367–407. doi:10.1017/S1477201908002459. ISSN 1477-2019. https://doi.org/10.1017/S1477201908002459. 
  4. ^ a b Cope, E. D. (1879). New Jurassic Dinosauria. American Naturalist, 13, 402-404.
  5. ^ a b c Gilmore CW (1914). “Osteology of the armored Dinosauria in the United States National Museum, with special reference to the genus Stegosaurus”. Series: Smithsonian Institution. United States National Museum. Bulletin 89 (Government Printing Office, Washington) (89). 
  6. ^ a b Cope, E. D. (1878). A new genus of Dinosauria from Colorado. American Naturalist, 12, 181.
  7. ^ Marsh, O. C. (1896). The dinosaurs of North America. US Government Printing Office.
  8. ^ a b Maidment, S. C. R.; Brassey, Charlotte; Barrett, Paul Michael (2015). “The Postcranial Skeleton of an Exceptionally Complete Individual of the Plated Dinosaur Stegosaurus stenops (Dinosauria: Thyreophora) from the Upper Jurassic Morrison Formation of Wyoming, U.S.A.”. PLOS ONE 10 (10): e0138352. Bibcode2015PLoSO..1038352M. doi:10.1371/journal.pone.0138352. PMC 4605687. PMID 26466098. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4605687/.