パークアンドライド
パークアンドライド (英語: park and ride、直訳:「駐車して乗車する」) とは、自宅から自家用車・軽車両で最寄りの駅または停留場まで行き、駐車・駐輪させた後、バスや鉄道などの公共交通機関を利用して、都心部などの目的地に向かうシステムである。アメリカでの先行事例を受けて、日本では、1960年代には「郊外駐車制」もしくは「郊外駐車制度」という訳語があてられたこともあった。
概説
編集パークアンドライドは、末端交通機関である自動車(または原付や軽車両)を郊外の公共交通機関乗降所(鉄道駅や停留所など)に設けた駐車場・駐輪場に停車させ、そこから鉄道や路線バスなどの公共交通機関に乗り換えて目的地に行く方法である[1]。都市部や観光地などの交通渋滞の緩和、交通公害の抑制、違法駐車の削減などを図るため交通政策で推進される[2]。P&R と略すこともある。
パークアンドライドを行うには、出勤(外出)時に他の人が使用しない自動車の存在(車の専用可能性)、本人の運転免許の保有、駅など乗り継ぎを行う場所に駐車場が存在すること(駐車条件)が前提条件となる[3]。さらに実際の利用には乗り継ぎの利便性や移動手段の快適性(着席可能性や車内混雑状況など)の影響も受ける[3]。
鉄道駅や高速バス停留所に近接して利用者用駐車場を設置し、利用者には無料または安価に長期間駐車を認めるサービスもパークアンドライドと称されている。都心の外縁部に設ける都心アクセス用駐車場をフリンジパーキングという。
パークアンドライドは、アメリカ合衆国で普及したシステムで、このことで都心部の交通環境の悪化を防いでいるほか交通量自体が減少するため、渋滞の緩和だけではなく、排気ガスによる大気汚染の軽減、二酸化炭素排出量の削減といった効果も期待されている。
最寄り駅までマイカーを利用して電車に乗り換える場合をパークアンドレイルライドという[2]。また、最寄り駅までマイカーを利用してバスに乗り換える場合をパークアンドバスライドという[2]。
末端交通機関に自動車(マイカー)以外を利用する場合にも種類によって次のようなパターンがある。
- サイクルアンドライド(末端交通機関が自転車の場合)
- バスアンドライド(末端交通機関がバスの場合)
- 観光バスアンドライド(観光バスを郊外駐車場に置き、そこから市内バスや鉄道に誘導する場合)
- ライドアンドライド(末端交通機関も軌道系の場合)
なお、営業用自動車(タクシーやハイヤーなど)による乗り継ぎや企業が所有する自動車による会社の運転手による送迎などは通常含まない[3]。
種類
編集実施主体による分類
- 行政主導型
- 第三セクター主導型
- 民間主導型
設置場所による分類
利用促進のための課題
編集パークアンドライドは、渋滞の解消と都市環境の改善に大きく貢献するシステムだといわれている。そのため、システムの社会的意義を利用者に理解してもらい、社会貢献をしているという意識を高めてもらうことが利用促進の前提条件となる[1]。
パークアンドライドを実現するためには、公共交通機関へ乗り換えるための駅やバス停などの周辺に大規模駐車場を確保する必要がある。さらに、駐車場は無料または低価格に設定し、経済的負担を強いることがないように利用者に配慮する必要も出てくる。つまり、マイカー通勤から公共交通機関へ乗り換える通勤スタイルに変更したことで、利用者に不満が出てくるようなことがあっては、パークアンドライドという交通体系への理解と協力者が現れないことになる[1]。また、交通不便地域に在住する人たちにとっては、容易に鉄道やバスに乗り換えることも難しくしている。こうした地域在住者にマイカー通勤自粛を呼びかけるだけではパークアンドライドは進展しないため、官民が協力して本システムを作り上げる努力が不可欠となる[1]。
各国の状況
編集欧米
編集欧米ではパークアンドライドはバスへの乗り継ぎが一般的である[3]。
フランス
編集ストラスブールでは郊外に大規模な割安の駐車場を設定し、トラム(路面電車)の利用者に往復チケットを交付することでトラムの利用と自動車の相乗りを奨励する政策がとられている[5]。
イギリス
編集イギリスではクリスマスシーズンや土曜日など混雑する期間に限定して都市部でパークアンドバスライドを実施する例がある[3]。
アメリカ
編集アメリカでは渋滞対策、省エネルギー対策、排ガス対策のため、相乗りを行うカープール用の自動車も重視され、そのための駐車場も整備されている[3]。
日本
編集この節には独自研究が含まれているおそれがあります。 |
日本では、アメリカが1960年からワシントン・ニューヨーク・ボストン・フィラデルフィア・ビッツバーグ・セントルイス・マイアミなどの8都市で実施されたことを受けて、研究が進められていた。こうした事例を受けて、1960年代には「郊外駐車制」もしくは「郊外駐車制度」という訳語があてられたこともあったが、「パーク・アンド・ライド」というカタカナ表記が一般的となった。実用化に向けての実験としては、1976年に神戸市の新神戸トンネルの箕谷ランプにある箕谷駐車場が全国に先がけて実施され、成功例として取り上げられる。
自治体・鉄道事業者
編集パークアンドライドを促進するため、自治体、鉄道事業者では駐車料金の割引制度を設定しているところもある。
北海道地方
編集東北地方・関東甲信越地方
編集- 東日本旅客鉄道
- 仙台市
- 東武鉄道
- つくば市
- 熊谷市
- 熊谷市街地中心部で行われる熊谷うちわ祭2日目・3日目は、郊外にある埼玉県立熊谷スポーツ文化公園駐車場(無料)を利用したパークアンドライドを実施。熊谷市観光協会からの委託で国際十王交通がシャトルバスを運行(パークアンドライド利用者は無料)。
- 新宿区
- 武蔵野市
- ムーバスとムーパークによる連携が行われている。詳しくはムーバスの項を参照。
- 鎌倉市
- 新潟市
- 市内すべての高速道路バス停留所に無料駐車場を設けている(詳細は新潟市の交通#パークアンドライドを参照)。
東海・北陸地方
編集近畿地方
編集- 神戸市
- 伊勢市
- 三岐鉄道
- 伊勢鉄道
- 鈴鹿駅に無料駐車場を設置している。
- 西日本旅客鉄道
- 福知山、和歌山支社の特急列車停車駅を中心に隣接する地方自治体が運営している駐車場に台数限定又は、JR直営駐車場を48時間に限り無料のサービスをおこなっている。
- 京都市
- 国際的な観光都市である京都では観光客の車流入による渋滞を避けるため、パークアンドライドに積極的に取り組んでおり、パークアンドライド利用者には駐車料金に割引サービスがある[18]。更に隣町大津市でも京都観光客向けのパークアンドライドに取り組んでおり、京阪京津線~京都市営地下鉄東西線利用者には駐車場割引サービスを設けている[19]。
- 和歌山バス那賀
- 加古川市
中国地方・九州地方
編集- 岡山市
- 九州産交バス・産交バス(熊本県熊本市・熊本県八代市)
- 熊本市では九州産交バスの西部車庫(約50台駐車可能)で、八代市では産交バス八代営業所が近隣のショッピングセンターゆめタウン八代と協力し、ゆめタウン八代の駐車場の一部(約100台駐車可能)でパークアンドライドを実施している。
- また、高速バスがよく利用する九州自動車道益城熊本空港インターチェンジの前の「益城インター口」バス停や高速道路本線上の「西合志」・「武蔵ヶ丘」バス停においてパーク&バスライドを実施している。ひのくに号利用者には、これらのバス停の駐車場の利用券が配布される[20]。
民間駐車場
編集パークアンドライドを促進するため、駐車場料金の最大料金を設定しているところもある。
- 東京都港区品川駅パークアンドライド パークアンドバスライド
- 金沢駅で、パークアンドレールを実施。金沢駅西口時計駐車場とJR金沢駅との共同企画で駐車料金の大幅割引がある。1,500台収容 24時間営業 8階建自走式立体駐車場。
- 金沢駅西口時計駐車場
- 東京都江東区で、パークアンドバスライドを実施。ホテルイースト21東京バス乗場より羽田空港、成田空港へのパークアンドバスライド。
- ピ!パーク東陽6丁目駐車場
- 東京都大田区で、羽田空港の渋滞緩和の為パークアンドバスライドを実施。羽田空港駐車場O.Kパーキングバス乗場より羽田空港第1、第2、第3ターミナルへのパークアンドバスライド。
- 岐阜県羽島市にある東海道新幹線岐阜羽島駅周辺では、ほぼ全ての民間駐車場が格安の最大料金を設定して提供しており、これによりパークアンドライドを実現している。また、名神高速道路の岐阜羽島インターチェンジが近いため、高速道路を利用する観光バスが発着地として岐阜羽島駅を利用する事も多い。
- 髙島屋京都店および大丸京都店では、周辺混雑緩和のため税込5,000円以上買上の利用客に対し、京都市周辺の指定駐車場のサービス券を渡している。
- 九州自動車道若宮バスストップに隣接する土地には福岡 - 北九州線のバス利用者を当て込んだ、私設駐車場が設置されている。
- 九州自動車道基山バスストップには西日本鉄道が設置した高速バス利用者専用の「高速基山バス停パーク&ライド駐車場」[21]が設置されている。24時間出入り可能だが、利用者が高速バス乗車時にサービス券を受け取る形で利用する有料駐車場である。
脚注
編集- ^ a b c d 浅井建爾 2015, p. 210.
- ^ a b c 環境用語の解説 大阪府、2017年8月11日閲覧。
- ^ a b c d e f 太田勝敏「パーク&ライドの動向と政策課題」 国際交通安全学会誌 Vol.13 No.3:2021年2月6日閲覧。
- ^ 浅井建爾 2015, p. 211.
- ^ 諸外国の交通分野における環境施策の取組事例について 交通政策審議会、2017年8月11日閲覧。
- ^ パーク&トレイン駐車場 - 北海道旅客鉄道(2018年12月8日現在)2019年3月28日閲覧
- ^ 札幌近郊駅のパーク&トレイン駐車場サービス終了について - 北海道旅客鉄道(平成26年9月30日発表)2019年3月28日閲覧
- ^ 列車とマイカーをつなぐ快適パーキング パーク&ライド - 東日本旅客鉄道 水戸支社
- ^ 佐藤信之『新幹線の歴史:政治と経営のダイナミズム』中公新書、2015年、214頁。ISBN 9784121023087。
- ^ Sendai, 仙台市役所 City of. “パークアンドライド・パークアンドバスライドについて”. 仙台市役所 City of Sendai. 2024年10月31日閲覧。
- ^ “49年経て「ひより台大橋」ようやく開通 12月開業の市地下鉄東西線八木山動物公園駅のアクセス道路として整備”. 河北新報社. 2015年8月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年11月1日閲覧。
- ^ a b “駅駐車場(パーク&ライド)東武鉄道公式HP”. 2024年1月1日閲覧。
- ^ “東武レール&カーシェア タイムズカー”. 2024年1月1日閲覧。
- ^ つくばエクスプレス3駅のP&R(パークアンドライド)駐車場の概要 - つくば市
- ^ “パーク&ライド”. 鎌倉市公式サイト. 2022年10月1日閲覧。
- ^ 遠鉄バス パーク&ライド
- ^ 富山駅周辺へお越しの際は、公共交通機関をご利用ください - 広報とやま平成27年(2015年)3月5日号
- ^ 京都観光パークアンドライド駐車場検索 - 京都市都市計画局歩くまち京都推進室 2022年4月2日閲覧
- ^ びわ湖浜大津駅のパーク&ライド - 京阪電気鉄道 2022年4月2日閲覧
- ^ “パーク&バスライド バス停近くの専用駐車場に留めてバスに乗り換え | 産交バスポータルサイト”. www.kyusanko.co.jp. 2020年9月27日閲覧。
- ^ 「高速基山バス停パーク&ライド駐車場」営業開始いたします! (PDF) (西日本鉄道)平成21年2月9日
参考文献
編集- 浅井建爾『日本の道路がわかる辞典』(初版)日本実業出版社、2015年10月10日。ISBN 978-4-534-05318-3。
関連項目
編集外部リンク
編集- パーク・アンド・ライド - 日本民営鉄道協会「鉄道用語辞典」
- パーク・アンド・ライドシステム - 金沢市
- パークアンドライドのご案内 - 川越市
- パークアンドライド - 仙台市交通局
- 京阪線パーク&ライド - 京阪電気鉄道
- パークアンドライド - 九州バスネットワークポータルサイト
- パーク・アンド・バスライド - 両備バス