パンジャーブ語
パンジャーブ語(パンジャーブご、Panjabi or Punjabi、グルムキー文字: ਪੰਜਾਬੀ , シャームキー文字پنجابی)は、インドとパキスタンにまたがるパンジャーブ地方の言語である。パンジャービー語とも称される。
パンジャーブ語 | |
---|---|
ਪੰਜਾਬੀ,پنجابی | |
話される国 |
インド パキスタン |
地域 | 南アジア |
話者数 | 1億2200万人(2015年・東部西部合算)[1][2][3] |
言語系統 | |
表記体系 | グルムキー文字、シャームキー文字、デーヴァナーガリー |
公的地位 | |
公用語 | インド パンジャーブ州 |
少数言語として 承認 |
インド(連邦政府)[4] パキスタン パンジャーブ州 |
言語コード | |
ISO 639-1 |
pa |
ISO 639-2 |
pan |
ISO 639-3 |
pan |
分布
編集パンジャーブ語の話者の多くはパキスタン東部のパンジャーブ州に住んでおり、パキスタンで最も多い人口の39%(2017年)の母語であるにもかかわらず、パキスタンでは公用語にはされていない。パンジャーブ州都であるラホールでも、人口の大部分がパンジャーブ語話者であるにもかかわらず、書き言葉としては文芸雑誌か私信にしかパンジャーブ語は使われず、ウルドゥー語や英語に比べて、その地位は高くない[5]。
インドでは、インドのパンジャーブ州の公用語およびデリーの第二公用語になっているほか、インド連邦レベルでも憲法の第8付則に定められた22の指定言語のひとつである。近隣のハリヤーナー州、ヒマーチャル・プラデーシュ州にも話者がいる。
パンジャーブ語は在外インド人の主要な言語のひとつでもある。カナダでは43万人がパンジャーブ語を母語とし(2011年)[6]、イギリスでは27万人がパンジャーブ語話者である(2011年)[7]。ほかにオーストラリア・アメリカ合衆国のカリフォルニア州などにも分布する。
パンジャーブ語はシク教の重要な言語であり、聖典である『グル・グラント・サーヒブ』は主にこの言語で書かれている。
音声
編集母音はヒンディー語と同じく、短母音 a i u /ə ɪ ʊ/ と、長母音 ā ī ū e ai o au /ɑ i u e ɛ o ɔ/ がある。各長母音には対応する鼻母音がある。
子音は以下のとおり。f z x ɣ は外来語にのみ現れ、それぞれ ph j kh g と区別されないことも多い[8]。
両唇音 唇歯音 |
歯音 | そり舌音 | 後部歯茎音 硬口蓋音 |
軟口蓋音 | 声門音 | |
---|---|---|---|---|---|---|
破裂音・破擦音 | p ph b | t th d | ṭ /ʈ/ ṭh ḍ /ɖ/ | c /tʃ/ ch j /dʒ/ | k kh g | |
鼻音 | m | n | ṇ /ɳ/ | |||
摩擦音 | (f) | s (z) | š /ʃ/ | (x) (ɣ) | h /ɦ/ | |
ふるえ音 | r | ṛ /ɽ/ | ||||
側面音 | l | ḷ /ɭ/ | ||||
半母音 | v | y /j/ |
パンジャーブ語の大きな特徴として、いわゆる有声帯気音の系列(gh jh ḍh ṛh dh bh)が消滅して語頭で無声無気音・語頭以外で有声無気音に変化し、その代償として声調が発達していることがあげられる[9]。h も語頭以外では、少数の例外を除いて消滅し、やはり声調に痕跡を残している。一般に、語頭に有声帯気音があった場合は低い声調になり、それ以外の箇所では先行する音節が高い声調になる。
声調 | 意味 | パンジャーブ語 | ヒンディー語 |
---|---|---|---|
無標 | むち | koṛā | koṛā |
高 | ハンセン病患者 | kóṛā | koṛhī |
低 | 馬 | kòṛā | ghoṛā |
ヒンディー語では古い重子音が借用語以外では消滅し、その代償として母音が長母音に変化しているが、パンジャーブ語では重子音がそのまま残っている(例:buḍḍā「老いた」、ヒンディー語 būṛhā、サンスクリット vr̥ddha)[10]。
パンジャーブ語ではそり舌音の ṇ ṛ ḷ が音素として確立している。ヒンディー語では ṇ はサンスクリットからの借用語にのみ現れ、ṛ は英語からの借用語を除いて ḍ と相補分布をなす。ただし、パンジャーブ語でも東部方言では ṇ/n, ḷ/l の区別をしない[8]。
方言
編集グリアソンは、インド言語調査において、西で話されているパンジャーブ語を「ラフンダー語」というパンジャーブ語とは異なる言語であると主張した。どこまでをひとつの言語とするかについては議論が分かれる。
パティヤーラーにあるパンジャービ大学(英: Punjabi University Patiala)では以下のように分類している[11]。
この中では、ドーグリー語のようにインド政府によって1個の独立した言語として認められているものも含まれる。
- 東パンジャーブ語は、中央語群(ヒンディー語などを含む)のパンジャーブ語群に含める。
- 西パンジャーブ語、ヒンドコ語、サライキ語などは北西語群(シンド語やダルド語群を含む)のラフンダー語に含める。
- ドーグリー語、カーングリー語はインド語派北部語群の西パハール語群に含める。
これは一見グリアソンの分類にしたがっているようだが、エスノローグのいう西パンジャーブ語とはパキスタンのパンジャーブ語のことにすぎず、実際にはインドの東パンジャーブ語とのちがいはきわめて小さい(サライキ語との違いはずっと大きい)。
表記
編集パキスタンではシャームキー文字(シャー・ムキー体)というナスタアリーク体を変えたアラビア文字を用いる。 インドではシャーラダー文字の系統のグルムキー文字を用いる。パンジャーブ州以外の住民はデーヴァナーガリー文字を用いることもある。
脚注
編集- ^ “Punjabi, Eastern”. Ethnologue. Ethnologue. 12 July 2017時点のオリジナルよりアーカイブ。13 August 2017閲覧。
- ^ “Punjabi, Western”. Ethnologue. Ethnologue. 12 July 2017時点のオリジナルよりアーカイブ。13 August 2017閲覧。
- ^ エスノローグ18版の Punjabi, East と Punjabi, West の合計
- ^ インド憲法附則8で指定。インドの公用語の一覧も参照
- ^ Jain (2007) 3.1
- ^ “Census Profile”. Statistics Canada (2015年2月9日). 2015年8月21日閲覧。
- ^ “2011 Census: Quick Statistics for England and Wales, March 2011”. Office for National Statistics (2013年1月30日). 2015年8月21日閲覧。
- ^ a b Shackle (2007) 2.2
- ^ Shackle (2007) 2.4
- ^ Shackle (2007) 2.3
- ^ “Online Punjabi Teaching: Introduction”. 2013年5月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年5月17日閲覧。 (archive.org)
- ^ “Indo-Aryan”. Ethnologue (2015年). 2015年8月20日閲覧。
参考文献
編集- Jain, Dhanesh (2007) [2003]. “Sociolinguistics of the Indo-Aryan Languages”. In George Cardona; Dhanesh Jain. Indo-Aryan Languages. Routledge. ISBN 020394531X
- Shackle, Christopher (2007) [2003]. “Panjabi”. In George Cardona; Dhanesh Jain. Indo-Aryan Languages. Routledge. ISBN 020394531X
関連文献
編集- Bhatia, T. "Punjabi: A Cognitive-Descriptive Grammar", 1993. p 279. ISBN 0-415-00320-2
- The Times of India - "Punjabi, Urdu made official languages in Delhi" 25 June 2003
- Canadian Census Data (2001)
- Advanced Centre for Technical Development of Punjabi Language, Literature and Culture
- Masica, CP, "The Indo-Aryan Languages", ISBN 0-521-29944-6, p 20