トラニラスト
トラニラスト(Tranilast)は、内服または点眼でアレルギー性疾患の治療に用いられるほか、内服薬はケロイドや肥厚性瘢痕の治療にも用いられる。肥満細胞や炎症細胞からの様々な化学伝達物質の遊離を抑制してI型アレルギー反応を抑えるほか、TGF-β1の遊離抑制作用等で線維芽細胞のコラーゲン合成を抑制し、ケロイド形成を抑えることができる。ナンテン配糖体(ナンジノシド)の研究を基にキッセイ薬品工業が開発した。
IUPAC命名法による物質名 | |
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臨床データ | |
Drugs.com |
国別販売名(英語) International Drug Names |
法的規制 |
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識別 | |
CAS番号 | 53902-12-8 |
ATCコード | none |
PubChem | CID: 5282230 |
IUPHAR/BPS | 6326 |
UNII | HVF50SMY6E |
ChEBI | CHEBI:77572 |
ChEMBL | CHEMBL415324 |
化学的データ | |
化学式 | C18H17NO5 |
分子量 | 327.33 g/mol |
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適応
編集日本では1982年6月に気管支喘息、1985年8月にアレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、1993年10月にケロイド、肥厚性瘢痕、1995年9月にアレルギー性結膜炎の承認を取得した[1][2]。商品名リザベンで、ジェネリック医薬品もある。
2014年1月15日より、医療用と同濃度の点眼薬「アルガードプレテクト」「アルフィットEX」(ロート製薬)が、一般用医薬品第1類医薬品で発売となり、2017年9月に第2類に変更になった[3]。さらに2019年12月、抗炎症成分プラノプロフェンを加えた「アルガードクリニカルショット」なども第2類で発売となっている[4]。
効能・効果
編集副作用
編集内服薬の治験では副作用は通算で5.3%に見られ[1]、その主なものは消化管障害(嘔気、腹痛、胃部不快感、食欲不振、下痢等)、肝臓・胆管系障害(肝機能異常、ALT(GPT)上昇、AST(GOT)上昇、Al-P上昇等)のほか、発疹、頻尿であった[5]。点眼薬の治験では副作用発現率は1.5%であり、主な内訳は、刺激感、眼瞼炎、眼瘙痒感、眼瞼皮膚炎等であった[6]。
重大な副作用は、下記のものが内服薬にのみ設定されている。
- 膀胱炎様症状、肝機能障害、黄疸、腎機能障害、
- 白血球減少、血小板減少
作用機序
編集トラニラストは末梢血白血球からのヒスタミン遊離を濃度依存的に抑制する[7]他、抗原刺激による肺組織からのロイコトリエンB4、C4、D4の遊離を抑制する[8]。また、腹腔・胸腔液中への血小板活性化因子(PAF)の遊離を濃度依存的に抑制する[9]うえ、ヒトの単球やマクロファージでのプロスタグランジンE2産生[10]やTGF-β1産生・放出[11]を濃度依存的に抑制する。
臨床試験
編集3つの小規模臨床試験で結果が確認された後、トラニラストを経皮的冠動脈形成術後の再狭窄予防に用いる大規模臨床試験(PRESTO試験)が実施されたが、有効性は見られなかった[16]。
薬剤溶出性ステント留置後の増殖抑制薬として研究された事がある。
関節リウマチに対する第II相臨床試験が実施されたが[17]、結果は公表されていない。
トラニラストを翼状片切除術の術前補助療法に応用する第III相臨床試験が実施されたが[18]、結果はトラニラストの有効性を示す事はできなかった[19]。
出典
編集- ^ a b “リザベンカプセル100mg/リザベン細粒10%/リザベンドライシロップ5% インタビューフォーム” (PDF) (2013年4月). 2016年7月22日閲覧。
- ^ “リザベン点眼液0.5% インタビューフォーム” (PDF) (2013年3月). 2016年7月22日閲覧。
- ^ “【安全対策調査会】トラニラストなど第2類へ‐第1類薬3成分の移行了承”. 薬事日報 (2017年9月25日). 2020年2月4日閲覧。
- ^ “【新製品】2成分初配合の点眼薬‐「アルガード」から新製品 ロート製薬”. 薬事日報 (2019-12-18 ). 2020年2月4日閲覧。
- ^ a b “リザベンカプセル100mg/リザベン細粒10%/リザベンドライシロップ5% 添付文書” (2013年4月). 2016年7月22日閲覧。
- ^ a b “リザベン点眼液0.5% 添付文書” (2013年3月). 2016年7月22日閲覧。
- ^ 尾中章男、味澤篤、加茂隆、河合健、山田幸寛「気管支喘息 II」『日本胸部疾患学会雑誌』第24巻suppl.、日本呼吸器学会、2010年2月23日、263頁、2016年7月23日閲覧。
- ^ 山村秀樹、河野茂勝、大幡勝也、江田昭英、川合満、堀場通明「Tranilastのアナフィラキシー性Chemical Mediator遊離抑制作用」『アレルギー』第36巻第10号、日本アレルギー学会、1987年、937-42頁、doi:10.15036/arerugi.36.937、2016年7月23日閲覧。, NAID 110002415455
- ^ 堤直行、原清人、小松英忠、長田秀夫、小島正三、氏家新生、池田滋「Histamine遊離およびLeukotriene (LT), 血小板活性化因子 (PAF) 産生に対するTranilastの抑制作用」『応用薬理』第33巻第4号、応用薬理研究会、1987年、587-97頁。
- ^ 須沢東夫、菊池伸次、市川潔「アレルギー疾患治療薬TranilastのCytokine産生・遊離に対する抑制作用」『応用薬理』第43巻第5号、応用薬理研究会、1992年5月、409-14頁。
- ^ 菊池伸次、市川潔、須澤東夫、浜野修一郎、宮田廣志「Tranilastおよび他の抗アレルギー薬のコラーゲン合成およびサイトカイン産生・遊離に対する作用」『基礎と臨床』第26巻第11号、ライフサイエンス出版、1992年、4377-83頁。
- ^ 市川潔 他『応用薬理』第43巻第5号、応用薬理研究会、1992年、401頁。
- ^ Spiecker M, Lorenz I, Marx N, Darius H (2002). “Tranilast inhibits cytokine-induced nuclear factor kappaB activation in vascular endothelial cells.”. Mol Pharmacol 62 (4): 856-63. doi:10.1124/mol.62.4.856. PMID 12237332 .
- ^ http://jb.oxfordjournals.org/cgi/content/abstract/116/4/892
- ^ Yamamoto M, Yamauchi T, Okano K, Takahashi M, Watabe S, Yamamoto Y (2009). “Tranilast, an anti-allergic drug, down-regulates the growth of cultured neurofibroma cells derived from neurofibromatosis type 1.”. Tohoku J Exp Med 217 (3): 193-201. PMID 19282654 .
- ^ Holmes DR, Savage M, LaBlanche JM, Grip L, Serruys PW, Fitzgerald P et al. (2002). “Results of Prevention of REStenosis with Tranilast and its Outcomes (PRESTO) trial.”. Circulation 106 (10): 1243-50. doi:10.1161/01.CIR.0000028335.31300.DA. PMID 12208800 .
- ^ Safety and Efficacy Study of Tranilast in Patients With Active Rheumatoid Arthritis (RA)
- ^ Evaluation of Tranilast to Treat Pterygium Before Excision (TPS)
- ^ Almeida Junior GC, Arakawa L, Santi Neto Dd, Cury PM, Lima Filho AA, Sousa SJ et al. (2015). “Preoperative tranilast as adjunctive therapy to primary pterygium surgery with a 1-year follow-up.”. Arq Bras Oftalmol 78 (1): 1-5. doi:10.5935/0004-2749.20150002. PMID 25714528 .