ダロン・アセモグル

トルコとアメリカに国籍を持つ経済学者 (1967-)
ダロン・アシモグルから転送)

カメール・ダロン・アセモグル(Kamer Daron Acemoğlu、1967年9月3日 - )は、トルコアメリカに国籍を持つ新制度派経済学経済学者[1]マサチューセッツ工科大学研究所教授を務めている[2]。名字のトルコ語読みはアジェムオールアジェモール[3][4]

Daron Acemoglu
ダロン・アセモグル
ダロン・アセモグル(2024)
生誕 (1967-09-03) 1967年9月3日(57歳)
トルコの旗 トルコイスタンブール
国籍 トルコの旗 トルコ
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
研究機関 マサチューセッツ工科大学
全米経済研究所
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス
研究分野 政治経済学
労働経済学
新制度派経済学
母校 ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス
ヨーク大学
影響を
受けた人物
ダグラス・ノース
シーモア・M・リプセット
バリントン・ムーア
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ノーベル賞受賞者ノーベル賞
受賞年:2024年
受賞部門:ノーベル経済学賞
受賞理由:制度の形成過程と経済的繁栄への影響の研究に関する功績

2022年12月現在、研究論文において過去10年の間に世界で最も論文が引用された経済学者である[5]Google Scholarによると、2023年1月時点で、彼の作品(共著を含む)は20万回以上引用されている。[6]

彼はフォーリン・ポリシーの2010年の「トップ100グローバルシンカー」リストで88位に選ばれ、「自由は市場以上のものであることを示した」と評価された。[7][8] アセモグルはProspect Magazineの読者によって2024年の世界最高の思想家に選ばれた。[9] 2024年にサイモン・ジョンソンジェームズ・A・ロビンソンとともにノーベル経済学賞を受賞した。[10]

経歴

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アルメニア人の両親からイスタンブールで生を受ける[11]。1986年にイスタンブールのガラタサライ高校を卒業[12][13]、1989年にヨーク大学学士、1992年にロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)から数理経済学計量経済学博士号を得る[2]。1992年から1993年まではロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)講師、1993年からはマサチューセッツ工科大学に在籍している[2]

アセモグルは、ジョエル・モキル(Joel Mokyr)、ケネス・ソコロフ(Kenneth Sokoloff)[14]ダグラス・ノース[15]シーモア・M・リプセットバリントン・ムーアの影響を受けた[16]新制度派経済学の研究者である[17][18][19]

研究業績と著書

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2022年12月現在、過去10年の間に世界で最も論文が引用された経済学者である[5]。経済学の従来の対象にとどまらず、政治、歴史、文化、テクノロジーといった、挑戦的かつ画期的な分野に取り組んでいる[20]。具体的な研究分野は、政治経済学開発経済学人的資本論、経済成長論、経済格差イノベーションの経済学、サーチ理論、ネットワーク理論など多岐にわたり、近年では特に、社会の発展の政治・経済・社会的な要因、各国の政治制度の発達メカニズム、テクノロジーが経済成長や分配に与える影響を重点的に研究している[21]

2023年に出版された『技術革新と不平等の1000年史』(原著題『Power and Progress: Our Thousand- Year Struggle Over Technology and Prosperity』)は、技術の歴史的発展と技術の社会的および政治的影響に関するサイモン・ジョンソンとの共著である。この本は、新しい機械と技術と賃金の関係、技術を社会善に応用する方法、人工知能をめぐる熱狂の理由、という3つの疑問を扱っている[22]

『技術革新と不平等の1000年史』は、技術は必ずしも社会善をもたらすわけではなく、その恩恵はごく限られたエリートのみが享受できると主張する。人工知能(AI)に対してはかなり批判的な見解を示しており、人工知能が雇用や賃金、民主主義に多大な悪影響を及ぼすと強調している[22]

アセモグルとジョンソンは、社会的利益のために新技術をどう活用できるかについての将来像も示している。つまり、革新主義時代がモデルになると考えられている。また、(1)市場のインセンティブ、(2)ビッグテックの解体、(3)税制改革、(4)労働者への投資、(5)プライバシー保護とデータ所有権、(6)デジタル広告税など、技術の方向転換のための政策立案についても議論している[23]

  • 民主主義
    • 民主主義体制が生まれる様子を考察している。既存の支配層である富裕階級に対して、労働者階級革命可能であるほど力を持っている時であるとし、そのパワーバランスが既存の支配層に対する脅威となって、民主主義体制に移行してきたと説明している[24]
    • 民主主義は経済成長をもたらすことを実証・理論的に明らかにしている[25]
      • “Income and Democracy” with Simon Johnson and James A. Robinson, American Economic Review, 2008.
      • "Democracy Does Cause Growth" with Suresh Naidu, Pascual Restrepo, James A. Robinson, Journal of Political Economy, 2019
  • 経済成長
    • 高い技術を促進するような技術進歩がいかに生じたかを考察している。[独自研究?]
      • “Directed Technical Change,” Review of Economic Studies, 2002.
  • 自動化
    • 自動化が人間が旧来行ってきた仕事(タスク)をどのように変化させるかを研究しており、旧来の労働経済学の理論モデルでは正当化が難しかった、自動化による賃金と雇用の低下を理論化し、実証も行った[26]
      • "The race between man and machine: Implications of technology for growth, factor shares, and employment" with Pascual Restrepo, American Economic Review, 2018
      • "Automation and New Tasks: How Technology Displaces and Reinstates Labor" with Pascual Restrepo, Journal of Economic Perspectives, 2019
      • "Robots and Jobs: Evidence from US Labor Markets" with Pascual Restrepo, Journal of Political Economy, 2020

著書

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単著

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共著

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  • Why Nations Fail: The Origins of Power, Prosperity, and Poverty, ジェームズ・A・ロビンソンと共著, Crown Publishers, 2012年
  • Economic Origins of Dictatorship and Democracy, with James A. Robinson, Cambridge University Press, 2006年
  • 『世界は、考える』ジョセフ・E・スティグリッツ黒田東彦らと共著、野中邦子 訳、土曜社、2013年
  • Principles of Economics, with David Laibson and John List, Pearson New York, 2014年
    • 『アセモグル/レイブソン/リスト マクロ経済学』、岩本千晴 訳、東洋経済新報社、2019年
    • 『アセモグル/レイブソン/リスト ミクロ経済学』、岩本千晴 訳、東洋経済新報社、2020年
    • 『アセモグル/レイブソン/リスト 入門経済学』、岩本千晴 訳、東洋経済新報社、2020年
  • The Narrow Corridor: States, Societies, and the Fate of Liberty, with James A. Robinson. Penguin Press. 2019年
    • 『自由の命運──国家、社会、そして狭い回廊』、櫻井祐子 訳、早川書房、2020年
  • Power and Progress: Our Thousand-Year Struggle Over Technology and Prosperity'', サイモン・ジョンソンと共著. New York: PublicAffairs.. 2023年
    • 『技術革新と不平等の1000年史(上・下)』、鬼澤忍・塩原通緒 訳、早川書房、2023年

編著

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  • Recent Developments in Growth Theory, Vol. 1: Empirical Patterns ,Edward Elgar Publishing, 2004年
  • Recent developments in Growth Theory, Vol. 2: Theory ,Edward Elgar Publishing, 2004年

受賞歴

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2024年ストックホルムのノーベルウィークで講演するアセモグル

*いずれもAcemoğlu, K(amer) Daron - VKVの記事による。

出典

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  1. ^ Daron Acemoglu”. MIT Economics. 2023年3月6日閲覧。
  2. ^ a b c MITのHP”. MIT. 2022年6月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年5月31日閲覧。
  3. ^ 浅沼信爾小浜裕久途上国の旅 開発政策のナラティブ勁草書房、2021年4月https://www.keisoshobo.co.jp/book/b577012.html 
  4. ^ アセモグルの弟子が解説、24年ノーベル経済学賞東洋経済2024年10月17日
  5. ^ a b IDEAS RePEc”. IDEAS. 2021年9月30日閲覧。
  6. ^ Daron Acemoglu”. scholar.google.com. 2024年10月21日閲覧。
  7. ^ ahughey (2024年10月22日). “The FP Top 100 Global Thinkers” (英語). Foreign Policy. 2024年10月21日閲覧。
  8. ^ Pilling, David (2016年9月30日). “spoilerplus” (英語). www.ft.com. 2024年10月21日閲覧。
  9. ^ Clark, Tom. “Daron Acemoglu: the opportunity economist” (英語). www.prospectmagazine.co.uk. 2024年10月21日閲覧。
  10. ^ The Sveriges Riksbank Prize in Economic Sciences in Memory of Alfred Nobel 2024” (英語). NobelPrize.org. 2024年10月21日閲覧。
  11. ^ Istanbul-born MIT professor named world’s most influential economist”. Hürriyet Daily News. 2023年3月6日閲覧。
  12. ^ IGC”. IGC. 2019年6月2日閲覧。
  13. ^ CURRICULUM VITAE DARON ACEMOGLU”. 2015年4月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年3月6日閲覧。
  14. ^ Why Nations Fail, "Acknowledgments", p. 209.
  15. ^ The Great Enrochment and Social Justice”. Niskanen Center (10 May 2016). 2023年6月1日閲覧。 “Douglass North and his followers, such as Daron Acemoglu and James Robinson...”
  16. ^ Dewan, Torun; Shepsle, Kenneth A. (July 2008). “Recent Economic Perspectives on Political Economy, Part II”. British Journal of Political Science 38 (3): 543–564. doi:10.1017/S0007123408000276. PMC 3630075. PMID 23606754. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3630075/. "...Seymour Martin Lipset and Barrington Moore, for example, have clearly influenced Acemoglu and Robinson and other contributors to the literature on redistribution..." 
  17. ^ Dzionek-Kozłowska, Joanna; Matera, Rafał (October 2015). “New Institutional Economics' Perspective on Wealth and Poverty of Nations. Concise Review and General Remarks on Acemoglu and James A. Robinson's Concept”. Annals of the Alexandru Ioan Cuza University – Economics 62 (1): 11–18. doi:10.1515/aicue-2015-0032. 
  18. ^ Keefer, Philip; Knack, Stephen (2005). “Social capital, social norms and the New Institutional Economics”. Handbook of New Institutional Economics. pp. 700–725. https://mpra.ub.uni-muenchen.de/25025/ 
  19. ^ Introductory Reading List: New Institutional Economics”. coase.org. Ronald Coase Institute. 25 December 2019時点のオリジナルよりアーカイブ。11 January 2020閲覧。
  20. ^ Smith, Noah. “Five Economists Whose Work Is Worthy of a Nobel” (英語). BloombergQuint. https://www.bloombergquint.com/gadfly/five-economists-whose-work-is-worthy-of-a-nobel-prize 2021年9月30日閲覧。 
  21. ^ People, Daron Acemoglu”. MIT Initiative on the Digital Economy . 2019年6月2日閲覧。
  22. ^ a b Daron Acemoglu and Simon Johnson, Power and Progress: Our Thousand-Year Struggle Over Technology and Prosperity. New York: PublicAffairs, 2023.
  23. ^ Daron Acemoglu and Simon Johnson, Power and Progress: Our Thousand-Year Struggle Over Technology and Prosperity. New York: PublicAffairs, 2023, Ch. 11.
  24. ^ Blattman, Christopher; Miguel, Edward (2010-03-01). “Civil War” (英語). Journal of Economic Literature 48 (1): 3–57. doi:10.1257/jel.48.1.3. ISSN 0022-0515. https://pubs.aeaweb.org/doi/10.1257/jel.48.1.3. 
  25. ^ Democracy fosters economic growth, study finds: Researchers find vast gains in productivity after countries democratize” (英語). ScienceDaily. 2021年9月30日閲覧。
  26. ^ Smith, Noah. “Five Economists Whose Work Is Worthy of a Nobel” (英語). BloombergQuint. 2021年10月1日閲覧。

外部リンク

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