スピノサスモモ
スピノサスモモ (Prunus spinosa) またはスピノーサスモモ[2][3]はスモモ属の低木、または小高木である。
スピノサスモモ | ||||||||||||||||||||||||
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保全状況評価[1] | ||||||||||||||||||||||||
LEAST CONCERN (IUCN Red List Ver.3.1 (2001)) | ||||||||||||||||||||||||
分類 | ||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||
Prunus spinosa L.[1] | ||||||||||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||||||||||
Blackthorn[1] Sloe[1] |
ヨーロッパ、西アジア、北アフリカに自生。両性花で、濃紫色のスロー(英: sloe)と呼ばれる果実をつける。果実は英国などでスロー・ジンというリキュールの材料となるほか、木材は杖、特にアイルランド伝統の棍棒杖に利用される。
語源
編集種小名 spinosa は、ラテン語でトゲ状を意味する。英名 blackthorn は黒い樹皮とトゲ (thorn) に由来するといわれる[注 1][4]。果実の英名 sloe は、古英語の slāh[注 2]から来ており、ドイツ語 Schlehe シュレーエを含めゲルマン語派の各言語に同源語がみられる[5]。
和名
編集スピノサスモモという和訳名が、学究論文や政府(農林水産省植物防疫所報告等)などで確認できる[6][7]。
慣習的に blackthorn (仏:prunelle)は、「リンボク(の一種)」などと和訳されるが[8][9]、リンボク(Prunus spinulosa)は日本原産の別種である[注 3]。
利用
編集- 食用
- 果実は小さいスモモに似ていて、保存食に向くが、(ヨーロッパで行われているように凍らせなければ)いくらか酸っぱい。アルプスで見つかったアイスマン(紀元前3300年頃)の遺体現場からも一果が発見されている[13][14]。
イギリスではこの実を使ってスロー・ジンというリキュールが作られるが、現在はジンの代用として安価なグレーンスピリッツが用いられることが多い。スペインのナバラ州ではスローを使ってパチャランという人気の果実酒を作る。スローからはジャムも作られるし、酢漬けにすれば日本の梅干しのようなものになる。
20世紀前半頃まで、ジュースが偽造ポートワインに使用されていたり[15][16]、19世紀末頃までその葉を不正に紅茶に混入することもおこなわれていた[17][15]。
- 木材
アイルランドでは伝統的にまっすぐ伸びたスピノサスモモの幹が杖や棍棒に使われる。王立アイルランド連隊の士官は、スピノサスモモの杖を持つのが伝統である。
- 燃料
煙が少なく、ゆっくり燃えることから薪として重宝された[18]。
- インク、染料
中世のユダヤ教学者ラシが樹液をインクとして使用した[19]。
果汁は赤みがかっているが、染めると長持ちするペールブルーとなる[20]。
- 牧畜
スピノサスモモは生垣や野鳥猟用の茂みの用途でも植えられる。スピノサスモモの藪は家畜類の小さな傷の主な原因となり、この傷はスピノサスモモが取り去られない限り続き、化膿することもある。
生態系
編集葉はチョウ目の幼虫(例:チョウセンメスアカシジミ Thecla betulae)の餌となる[6]。
注釈
編集出典
編集- ^ a b c d Rhodes, L. & Maxted, N. 2016. Prunus spinosa. The IUCN Red List of Threatened Species 2016: e.T172194A19400568. https://doi.org/10.2305/IUCN.UK.2016-3.RLTS.T172194A19400568.en. Downloaded on 01 January 2021.
- ^ 吉田雅夫「作物品種名雑考 (26) -スモモ その1-」『農業技術』第36巻第1号、農業技術協會、1981年1月、32-35頁、ISSN 03888479、NAID 40003104438。
- ^ 佐藤義彦, 土師岳, 叢花, 潘 儼, 上田恵理子, 間瀬誠子, 山本俊哉, 山口正己, 廬春生「中国新彊ウイグル自治区における果樹遺伝資源の共同調査プロジェクト(2006年)」『植物遺伝資源探索導入調査報告書= Annual report on exploration, introduction of plant genetic resources』第23号、農業生物資源研究所、2007年11月、137-151頁、doi:10.24514/00004607、ISSN 2434-7485、NAID 120006936824。
- ^ Johns, Charles Alexander (1882). “The Blackthorn”. The Forest Trees of Britain. Society for Promoting Christian Knowledge. p. 105
- ^ “sloe”. The Century Dictionary and Cyclopedia. 7. (1906)
- ^ a b 渡辺康之 (1998), “ヨーロッパ最近事情'97年秋”, やどりが (日本鱗翅学会) (174): 16-24
- ^ Plum pox virusに関する 病害虫危険度解析報告書, 横浜植物防疫所, (2010-09), p. 3
- ^ “blackthorn”. 新英和中辞典 (6 ed.). 研究社. (1996)
- ^ a b “prunelle”. Le Dico 現代フランス語辞典. 白水社. (1993)
- ^ 野島利彰「蜜蜂と俗信--観察されるミツバチ」『駒沢大学外国語部論集』第33号、駒澤大学外国語部、1991年3月、39-61(p.55)、ISSN 03899837、NAID 110006998672。、注23。
- ^ 新谷俊裕「アンデルセンのGrantræetはモミの木ではない? : デンマーク語動植物名称の日本語訳における誤訳のメカニズム」『IDUN : 北欧研究』第22号、大阪大学言語文化研究科言語社会専攻デンマーク語・スウェーデン語研究室、2016年、29-54,(p.45,48)、doi:10.18910/60742、ISSN 0287-9042、NAID 120006227402。
- ^ 森田貞雄; 福井信子; 家村睦夫; 下宮忠雄 (2011), 現代デンマーク辞典, 大学書林[11]
- ^ Tia Ghose (2012年11月8日). “Mummy Melodrama: Top 9 Secrets About Otzi the Iceman”. LiveScience. 2012年11月10日閲覧。 (Part7/10)
- ^ “Ötzi the Iceman”. Museo Archeologico dell'Alto Adige (2016年). 2019年7月19日閲覧。
- ^ a b Rines, George Edwin, ed. (1920). . Encyclopedia Americana (英語).
- ^ White, Florence (d. 1940) (1952). >Good English Food, Local and Regional. p. 52
- ^ Allen, Alfred Henry (1892). Commercial Organic Analysis: pt.I.. P. Blakiston, son, & Company. p. 525
- ^ “The Burning Properties of Wood”. The Scout Association (1999年). 2012年12月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年12月23日閲覧。
- ^ Talmud Bavli, Tractate Shabbat 23a
- ^ Coats, Alice M (1992) [1964]. Garden Shrubs and Their Histories. New York: Simon & Schuster. Prunus. ISBN 0671747339.