ストレンジャー・ザン・パラダイス

アメリカ合衆国の映画、1984年公開

ストレンジャー・ザン・パラダイス』(Stranger Than Paradise)は、1984年製作のアメリカ映画。監督・脚本はジム・ジャームッシュ

ストレンジャー・ザン・パラダイス
Stranger Than Paradise
監督 ジム・ジャームッシュ
脚本 ジム・ジャームッシュ
製作 サラ・ドライヴァー
製作総指揮 オットー・グロッケンバーガー
出演者 ジョン・ルーリー
エスター・バリント
リチャード・エドソン
セシリア・スターク
音楽 ジョン・ルーリー
撮影 トム・ディチロ
編集 ジム・ジャームッシュ
メロディ・ロンドン
配給 米・サミュエル・ゴールドウィン・カンパニー/日・フランス映画社
公開 アメリカ合衆国の旗 1984年9月29日
日本の旗 1986年4月19日
上映時間 89分
製作国 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
西ドイツの旗 西ドイツ
言語 英語
ハンガリー語
製作費 $100,000
興行収入 $2,436,000[1]アメリカ合衆国の旗
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概要

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ジム・ジャームッシュが監督した長編映画第2作であり、商業映画としては初の監督作品となった。全編を通してモノクロで撮られたデッドパン(無表情)喜劇である。ワンシーン、ワンカット、固定カメラで撮影された。構成は全部で3つに分かれ、ニューヨークを舞台にする『The New World,』、クリーブランドを舞台とする『One Year Later,』、フロリダを舞台とする『Paradise,』より成る。

ヴィム・ヴェンダースから『ことの次第』の撮影で余った40分ほどのフィルムをプレゼントされ、第一部『The New World,』を作る。フィルムを無駄にしないために入念なリハーサルを行いながら撮影された。1983年ロッテルダム国際映画祭で第一部の上映後、ポール・バーテルから資金提供を受けて第二部、第三部が作られた。

主演のジョン・ルーリー、助演のリチャード・エドソンは共にミュージシャンでもあり、ジョン・ルーリーはジャズバンド「ラウンジ・リザーズ」のサックス担当、リチャード・エドソンはロックバンド「ソニック・ユース」のドラマーでもあった。一方、エスター・バリントは父親のステファン・バリントが創設したアバンギャルド劇団スクワットシアターのメンバーであり、出演陣の中では最も演技経験が長かった。

主題曲及び劇中曲はスクリーミン・ジェイ・ホーキンズの「I Put a Spell on You」。劇伴はパラダイス・カルテットによる弦楽器四重奏で、ジョン・ルーリーが作曲した。

日本語版の字幕は戸田奈津子が担当した。
吹き替え版は2022年時点で存在していない。

ストーリー

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The New World

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ハンガリー出身で、今はニューヨークでギャンブラーとして生計を立てているウィリー(ジョン・ルーリー)の元に、クリーブランドに住むロッテおばさん(セシリア・スターク)から電話があり、おばさんが入院する10日間、ブダペストから来た従妹のエヴァ(エスター・バリント)を渋々預かることになる。

両手に荷物を下げながらウィリーの部屋にやって来るエヴァ。狭いワンルームに従妹とはいえ男女、しかも自我が強い者同士が住むのはうまく行くはずがなかった。風変わりなエヴァと無愛想なウィリーのあいだではなかなか会話がかみ合わない。「ある地区へは危険だから行くな」とウィリーが忠告しても、エヴァは聞く耳を持たずに行ってしまう始末。

そんな中、ウィリーの相棒エディ(リチャード・エドソン)が部屋に遊びに来る。つっけんどんなウィリーと違い、親しみやすい性格のエディ。二人は競馬に出かけるが、エヴァは連れて行ってもらえない。

ある日エヴァが掃除機をかけたいと言うと、ウィリーは「ここでは掃除機をかけるとは言わずワニを窒息させると言う」とジョークを言う。エヴァは「じゃあ窒息させる」とノリで返す。また別の日にはウィリーの好きなTVディナー(冷凍ワンプレート)やタバコを、お金を使わずに調達してくるエヴァ。そんな日々を過ごすうちにウィリーとエヴァはお互いが似たような感覚を持っていることがわかり、打ち解けていく。

ある日、ウィリーはエヴァにドレスをプレゼントするが、どうやら彼女の趣味には合わなかった様子。そしてエヴァが部屋を去るクリーブランド行きの日、彼女はそれを着てアパートを出て行くが、路地裏ですぐに脱ぎ捨てる。そこをエディに目撃されるが、構わず別れを告げて立ち去る。そのままウィリーの部屋を訪問するエディ。エヴァにドレスをプレゼントしたことを嬉しそうに語るウィリーを前に、エディは微笑むしかなかった。

One Year Later

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1年後、エディといかさまポーカーで儲けたウィリーは、共に車で雪に覆われたクリーブランドまでエヴァに会いに行く。まずロッテおばさんを訪ねると、エヴァはホットドッグ店でアルバイト中だと言う。こっそりホットドッグ店を訪ねるとエヴァは驚き、二人との再会を大いに喜ぶ。

エヴァにはビリーという恋人もいるが、どこかしっくり行っているようには見えない。映画デートの際、ニューヨークからやってきた男二人がついてきて、おまけに映画代も払わされるビリー。二人の訪問は完全にビリーの不満を買ったようだ。そんなことは気にも止めずウィリーとエディは数日を過ごすが、雪に閉ざされたクリーブランドに退屈し、ニューヨークへ帰ることにする。同時にエヴァも「ここは退屈」と漏らす。

ウィリーとエディがニューヨークに帰る日、エヴァは「競馬で儲けたらわたしをさらいに来て」とジョークを言い、二人を見送る。

Paradise

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出発したあとウィリーは突如としてフロリダへ行くことを思いつき、エヴァも連れて行くと提案する。そしてすぐに引き返し、ロッテおばさんの猛烈な反対を押し切って、エヴァを連れてフロリダへ向かう。

バカンスを求めてフロリダにやってきた3人は安モーテルに泊まる。明日は競馬に挑もうとするウィリーにドッグレースを提案するエディ。彼が言うには「イケそうな気がする」。翌朝エヴァが目覚めるとウィリーとエディがいない。どうやら二人だけでドッグレースに行ったようだ。苛立ちを抑えながら待っていると、二人は大損して戻りバカンスどころではなくなる。怒り心頭のウィリー、言い訳するエディ、取り残されたエヴァの仲は険悪になる。

ウィリーは馬ならうまく行くと、今度は競馬に挑む事に決める。ついて行こうとするエヴァを、またもやモーテルに取り残すウィリー。さすがにここで仲違いになり、二人は行ってしまう。

仕方なくエヴァは海岸をうろつくが、そこで麻薬の売人に見間違われ、大金を手渡される。驚きつつも急いでモーテルに帰り、エヴァは書き置きの用意を始める。

やっと競馬で大儲けに成功したウィリーとエディが意気揚々とモーテルに帰ってくると、そこには「空港へ行く」との書き置きと大量の金が置いてあり、エヴァの姿はなかった。二人は慌てふためく。

急いで空港に向かう二人。空港でウィリーは搭乗券を買い、出発直前の飛行機の中までエヴァを呼び戻しに行こうとする。空港の外で待っていたエディは、ウィリーを乗せたままブダペストへと飛んで行く飛行機を見送り、呆れながらも車でニューヨークへ帰って行く。その頃エヴァは飛行機に乗ることなく、ただ独りモーテルに戻って来るのだった。

出演

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受賞

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その他

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  • ニューヨークの部屋でウィリーとエヴァが見ているのは、映画「禁断の惑星」。ドアをビーム銃で撃つが溶けず、触っても熱くないという中盤のシーン。
  • エヴァが電話の相手を「クーガイ」と呼んでいるのは「CoolGuy」を聞き違えているため。
  • エヴァがウィリーから自然と学ぶスラングに「ド頭に来る」があるが、現在は「ムカつく」という訳に変えられている。
  • エディが読み上げる競走馬の名前は「Late Spring」「Passing Fancy」「Tokyo Story」。
  • 男二人と女一人、チェックのカーディガンなどから「はなればなれに」の影響があると見られる。
  • ホットドッグ店で後ろに座っている客はジム・ジャームッシュである。当初、ジャームッシュ扮する客が、注文したホットドッグじゃないとクレームを入れるシーンがあったが、カットされた。
  • クリーブランドのホットドッグ店は現在は「East Coast Frozen Custard」として営業している。
  • ロッテおばさん役のセシリア・スタークは84歳で映画初出演であった。プロデューサーのジム・スタークの祖母で実際にクリーブランド在住だった。
  • エスター・バリントは札束を持つ男役ラメルジーの「Beat Bop」でバイオリンを演奏している。
  • フロリダのモーテル「Surfcaster Motel」は現在も営業している。
  • 黒澤明が選んだ100本の映画の中の一つ。[2]
  • 『ストレンジャー・ザン・パラダイス』 ジョン・ルーリー - Stranger Than Paradise and The Resurrection of Albert Ayler (1985)

脚注

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外部リンク

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