シュンギク

キク科シュンギク属の植物

シュンギク(春菊[8]学名: Glebionis coronaria)は、キク科シュンギク属に分類される植物。原産地は地中海沿岸[8]。欧米では観賞用に栽培されるが、日本・韓国・中国など東アジア諸国では若い茎葉が食用にされる[9][10]

シュンギク
シュンギクの花
分類
: 植物界 Plantae
: 被子植物門 Magnoliophyta
: 双子葉植物綱 Magnoliopsida
: キク目 Asterales
: キク科 Asteraceae
: シュンギク属 Glebionis
: シュンギク G. coronaria
学名
Glebionis coronaria (L.) Cass. ex Spach[1]
シノニム
和名
シュンギク(春菊)
英名
crown daisy[7]
Garland chrysanthemum[8]

日本では、葉に切れ込みの少ない大葉(おおば)が四国九州・山口県で、切れ込みのある中葉(ちゅうば)がそれ以東でそれぞれ栽培される。中葉はさらに、株立ち型と株張り型とに分かれる。香りと葉や花の形から、関西では菊菜(きくな)ともよばれ、品種により葉の形や茎の太さに違いがある[11]

和名は他のキクが秋に花を咲かせるのとは異なり、春に黄色い花が咲き、キクに似た香りがすることに由来する[10][12][13]。日本には室町時代に渡来したとされ、地方により切れ込みが深い葉をした中葉、切れ込みが浅い大葉がみられる[8]

品種

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葉の大きさや切れ込み形によって、主に大葉種、中葉種、小葉種と品種が大別されるが、野菜としての栽培は葉が厚く味が良い中葉種が主流である[10][12][7]。中葉種は、伸びた葉先を摘み取りながら繰り返し収穫する「摘み取り種」と、葉が柔らかく、株ごと収穫する「株張り種」がある[7][13]。日本において、関東地方では葉の切れ込みが深い中葉種が、茎から摘み取られて出荷されるが、関西地方では根をつけたまま出荷されるものが多い[10]

大葉種

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葉の切れ込みが浅く、大ぶりで丸く肉厚。香りは弱い。日本では九州や四国、中国地方に多い[8][7]。味にクセがなく柔らかい。関西地方では「菊菜」とも呼ばれ、株ごと収穫することが多い[13]

  • おたふく春菊 - 西日本に多く見られる大葉種のひとつ。シュンギク独特の苦味がなく、香りも穏やか[8]
  • 菊之助(きくのすけ) - 葉が肉厚で柔らかい。アクが少なく、サラダにも向く[14]

中大葉種

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葉の切れ込みが深い中葉系と、独特の香気が柔らかく葉の切れ込みが少ない大葉系、両方の特徴をもつ。

中葉種

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切れ込みの多い細い葉は「中葉」と呼ばれる形で、日本では関東地方で多く見られる[8]。葉の切れ込は大葉種と小葉種の間で、香りは強く、鍋料理には欠かせない[7]。摘み取り収穫することが多い[13]。根付きで株ごと抜き取った「株張り」は関西地方に多く、「菊菜」とよばれている[7]

  • きわめ中葉春菊 - 耐寒性に優れ、葉は濃緑色で柔らかく、香りが高い[14]
  • 菊次郎(きくじろう) - 分枝性が強く株張りに優れる中葉種。葉肉が厚く葉揃いも良い[14]

小葉種

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葉の切れ込みは深く、香りが強いものの収量が少ない為、あまり栽培されていない[7]

栽培

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1年のうち、3 - 5月に種まきをして初夏に収穫する「春まき」で育てる方法と、9月下旬 - 10月に種まきして晩秋から早春にかけて収穫する「秋まき」で育てる方法がある[15][12]。種まきから収穫するまでに約1か月を要する[13]。栽培に適した土壌酸度は pH 6.0 - 6.5で、発芽適温は15 - 20℃、栽培適温は15 - 20℃とされる[12][13]連作が可能とする文献もあるが[15]連作障害回避のため、同じ畑での栽培は1 - 2年あけるとする文献もある[12][13]。栽培難度は比較的易しいほうであるが、春まきはすぐに薹(とう)立ちするので、秋まきのほうが栽培しやすい[15]。秋まきの場合は、防寒のためにトンネル掛けをするとよいとされる[11]肥料を好むため、元肥となる堆肥は多めにすき込んでおく[11]

畑にをつくり、畝の中央に浅く30センチメートル (cm) ほどの間隔で2条の溝を作って、1 cmほどの間隔で種まきをする[12]。種子は光が当たらないと発芽しない好光性のため、種まきは日光に当たるように覆土はごく薄く被せる程度で良い[15][12]。種まき後6 - 7日で発芽するが、発芽まで水やりを管理をして土壌を乾燥させないようにする[15][12]

シュンギクは比較的寒さに弱く、霜に当たると葉が黒くなって枯れてしまうため、秋まきでは寒冷紗や厚手のビニールシートでトンネルがけにして防寒対策する[14][13]。種まき後、1週間ほどで発芽する[15]間引きを行って育てていくが、1回目は本葉が1 - 2枚のとき葉が触れ合わない程度に3 cm間隔で間引き、2回目は3 - 4枚になるころに株間6 cm程度、3回目は草丈が8 - 10 cmごろに株間10 - 20 cm程度に間引きする[14][13][注 1]育苗箱に腐葉土を入れて筋まきし、本葉が出たら育苗ポットに移植して苗をつくり、本葉4、5枚になったら畑におよそ15 cm間隔で定植してもよい[11]

草丈が10 cmを迎えるころには追肥と、株が倒れないようにするため土寄せを行っていく[14]。肥料を好むため、追肥は2週間に1回ぐらいのペースで与えるとよい[11]。草丈が12 - 15 cmになったころが収穫期で、下の葉を4 - 5枚残すように中心から上部の茎葉を摘んで収穫する[11][14]。残った株からわき芽が出てくるので、株元から少し離れたところに追肥すると、わき芽も伸びて次々と収穫することが出来る[15][14]

シュンギクは家庭などで手軽にコンテナ栽培もでき、大きめの鉢に種をばらまいて、間引きや施肥は畑で育てる要領で、水やりを切らさないように注意しながら行う[15]

病虫害に、ヨトウムシアブラムシハモグリバエがついたり、炭そ病ベと病にかかる場合がある[12][13]。それでも、キク科のシュンギクは病害虫が少なく、作りやすい野菜だといわれている[11]アブラナ科の野菜に発生する害虫を防ぐ効果もあり、コンパニオンプランツとして利用できる[11]

生産

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日本のシュンギク年間生産量は29,900トン (t) 、出荷量21,800 t、作付面積は1,830ヘクタール (ha) 、10アール (a) あたりの収量は1,470キログラム (kg) である(令和元年産野菜生産出荷統計)[16]。都道府県別の主な生産地は、茨城県群馬県千葉県大阪府福岡県などで収穫量が多く、2019年統計で大阪府が出荷量(2,080 t)・作付面積(187 ha)とも第1位で、千葉県が第2位、群馬県が第3位と続く[16]。市町村別(2006年度産)では、茨城県行方市、千葉県旭市の2大産地が生産量・出荷量で全国1・2位を占め、大阪府堺市がこれに続く[17]。日本全体のシュンギク収穫量は減少傾向にあり、2006年から2019年までの過去14年間で33%の減少、作付面積も26%減少している[16]

食用

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しゅんぎく 葉 生[18]
100 gあたりの栄養価
エネルギー 92 kJ (22 kcal)
3.9 g
食物繊維 3.2 g
0.3 g
飽和脂肪酸 0.02 g
一価不飽和 0.01 g
多価不飽和 0.10 g
2.3 g
ビタミン
ビタミンA相当量
(48%)
380 µg
(42%)
4500 µg
チアミン (B1)
(9%)
0.10 mg
リボフラビン (B2)
(13%)
0.16 mg
ナイアシン (B3)
(5%)
0.8 mg
パントテン酸 (B5)
(5%)
0.23 mg
ビタミンB6
(10%)
0.13 mg
葉酸 (B9)
(48%)
190 µg
ビタミンC
(23%)
19 mg
ビタミンE
(11%)
1.7 mg
ビタミンK
(238%)
250 µg
ミネラル
ナトリウム
(5%)
73 mg
カリウム
(10%)
460 mg
カルシウム
(12%)
120 mg
マグネシウム
(7%)
26 mg
リン
(6%)
44 mg
鉄分
(13%)
1.7 mg
亜鉛
(2%)
0.2 mg
(5%)
0.10 mg
セレン
(3%)
2 µg
他の成分
水分 91.8 g
水溶性食物繊維 0.8 g
不溶性食物繊維 2.4 g
ビオチン(B7 3.5 µg
硝酸イオン 0.3 g

ビタミンEはα─トコフェロールのみを示した[19]。別名: きくな

廃棄部位:基部

廃棄率:根つきの場合 15 % 
%はアメリカ合衆国における
成人栄養摂取目標 (RDIの割合。

特有の香りを持つを食用とする。春菊が食用とされるのは日本中国韓国などの東アジア諸国においてのみである[8]の時代に中国に流入して蔬菜となった。食材としてのは冬場で11月 - 3月とされる[8]。葉の緑色が濃く瑞々しいもので、茎の下の方からも葉が出ていないものが商品価値の高い良品で、茎が太すぎないほうが柔らかい[10][8]

冬の葉物野菜として、鍋物には欠かせないが、サラダや炒め物など様々な調理法が行われる[8]すき焼きふぐ鍋など鍋料理の具材に使われるほか、えぐみの原因となるシュウ酸が少ないことから、やわらかい葉先は生食も可能[10][9]で、サラダに使われる。和え物にする場合は、さっと茹でてから使う[7]天ぷらや汁の実にも利用され[7]、「春菊天」は関東の立ち食いそば・うどん店では定番メニューの一つである。中国では炒め物にする。

日本では地域によって好まれる品種が違い、東日本では葉の切れ込みが大きめで苦味の強いものが好まれ、西日本では葉の切れ込みが小さく甘みの強いものが好まれる。苦味は茎には無く、葉を加熱した際に出てくる。

栄養素

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栄養価が高く、「食べる風邪薬」と言われるほどβ-カロテンビタミンCが豊富で[10]ビタミンB2E食物繊維カリウムカルシウムなどが多く含まれている[8]

シュンギクは緑黄色野菜で、カロテンは可食部100グラム (g) あたり4500マイクログラム (μg) とホウレンソウ以上に含まれている[10][7]。カロテンは摂取されると体内でビタミンAに変化し、目の健康や粘膜を丈夫に保つ働きをする[7]。またビタミンAに変換されないカロテンは、抗酸化作用を発揮して、動脈硬化がんの予防効果があるといわれている[7]ビタミンB群は、糖質脂質タンパク質を有効利用するためのビタミンで、ビタミンCは皮膚を健康に保ち、体のストレス耐性を高める働きがある[7]

ミネラル類では、カルシウムが特に豊富な野菜で知られ、コマツナとほぼ同等[7]牛乳以上の含有量がある[10]。茹でた後のカルシウム含有量は、むしろシュンギクの方が多く、カルシウム供給源の野菜としては、コマツナよりもシュンギクの方が優秀と言われている[7]

シュンギクの独特の香り成分はリモネンで、整腸作用、食欲増進、咳止めに効果的とされる[10][8]。えぐみの原因となるシュウ酸は少ないため、柔らかい葉先は生食することも出来る[8]

保存

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湿らせたペーパーで根元を包み、ポリ袋に入れて冷蔵する[8]。シュンギクのビタミンCは収穫後急速に減少し、あまり日持ちしないため、早めに食べきるようにする[8][7]

観賞

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ヨーロッパでは食用ではなく花の観賞用とされている[8]。しかし近年では和食の影響を受け、徐々に料理に使われてきている。 日本では食用のイメージが強いせいか花のことはあまり知られていないが、写真のようにきれいな黄色い花がつく。また、舌状花の外側が白い覆輪になっているものもある。

なお、シュンギクに似た欧米の観賞用種にハナワギク Glebionis carinata があるが、これは有毒であり食用にはならない。

ギャラリー

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脚注

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注釈

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  1. ^ 間引き菜もサラダ菜にして食べられる[15]

出典

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  1. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Glebionis coronaria (L.) Cass. ex Spach”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2021年11月7日閲覧。
  2. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Chrysanthemum coronarium L. var. spatiosum L.H.Bailey”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2021年11月7日閲覧。
  3. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Chrysanthemum coronarium L.”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2021年11月7日閲覧。
  4. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Chrysanthemum coronarium L. f. spatiosum (L.H.Bailey) Kitam.”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2021年11月7日閲覧。
  5. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Xanthophthalmum coronarium (L.) P.D.Sell”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2021年11月7日閲覧。
  6. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Chrysanthemum roxburghii Cass.”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2021年11月7日閲覧。
  7. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 講談社編 2013, p. 129.
  8. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 2012, p. 23.
  9. ^ a b 【旬菜物語】シュンギク(JA福岡市)癖少なく 生もいける『日本農業新聞』2020年1月11日(8-9面)
  10. ^ a b c d e f g h i j 主婦の友社編 2011, p. 122.
  11. ^ a b c d e f g h 金子美登 2012, p. 116.
  12. ^ a b c d e f g h i 丸山亮平編 2017, p. 62.
  13. ^ a b c d e f g h i j 藤田智監修 2019, p. 175.
  14. ^ a b c d e f g h 丸山亮平編 2017, p. 63.
  15. ^ a b c d e f g h i 主婦の友社編 2011, p. 123.
  16. ^ a b c 春菊(しゅんぎく,シュンギク)農業”. ジャパンクロップス. アプレス. 2021年11月7日閲覧。
  17. ^ 春菊(しゅんぎく,シュンギク)市町村産地”. ジャパンクロップス. アプレス. 2021年11月7日閲覧。
  18. ^ 文部科学省日本食品標準成分表2015年版(七訂)
  19. ^ 厚生労働省日本人の食事摂取基準(2015年版)

参考文献

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  • 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編『かしこく選ぶ・おいしく食べる 野菜まるごと事典』成美堂出版、2012年7月10日、23頁。ISBN 978-4-415-30997-2 
  • 金子美登『有機・無農薬でできる野菜づくり大事典』成美堂出版、2012年4月1日、116頁。ISBN 978-4-415-30998-9 
  • 講談社編『からだにやさしい旬の食材 野菜の本』講談社、2013年5月13日、129頁。ISBN 978-4-06-218342-0 
  • 主婦の友社編『野菜まるごと大図鑑』主婦の友社、2011年2月20日、122 - 123頁。ISBN 978-4-07-273608-1 
  • 藤田智監修 NHK出版編『NHK趣味の園芸 やさいの時間 藤田智の新・野菜づくり大全』NHK出版〈生活実用シリーズ〉、2019年3月20日、175頁。ISBN 978-4-14-199277-6 
  • 丸山亮平編『野菜づくり大辞典』ブティック社〈ブティック・ムック〉、2017年5月20日、62 - 63頁。ISBN 978-4-8347-7465-8 

関連項目

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