ザックール・テトローデ方程式は、温度 T、体積 V、原子数 N の平衡状態にある単原子理想気体のエントロピー S を表す方程式
である。ここで k はボルツマン定数、h はプランク定数、m は原子の質量である。導出の際にはギブズのパラドックスも考慮される。
この系の状態方程式は
と表され、これを用いると
となる。
この系の内部エネルギーは
と表され、これを用いると
となる。
温度 T に依存する熱的ド・ブロイ波長
を用いると、ザックール・テトローデ方程式は
と簡潔に表すことができる。
この方程式によりエントロピーが定数を含めて定まり、熱測定から求めた第三法則エントロピーと比較することで、ミクロな定数の組み合わせ m3/2k5/2h−3 を決定することが出来る[1]。
温度を絶対零度まで近づけていくと、ザックール・テトローデ方程式のエントロピーは負の無限大に発散してしまい、絶対零度でエントロピーはゼロであると主張する熱力学第三法則に反する。この方程式は古典領域(十分に高温)では良く成立するが、低温では破綻する。
統計力学を使わずに熱力学から導いた理想気体のエントロピーは、温度 T、圧力 p、物質量 n の平衡において
である。ここで R はモル気体定数、γ は比熱比である。
また、σ*, T*, p° はそれぞれエントロピー、温度、圧力の基準を与える適当な定数である。
この式とサッカー・テトローデ方程式と比較すれば、γ/(γ − 1) = 5/2 あるいは γ = 5/3 が満たされていることが分かる。
また、定数の間に
の関係にあることが分かる。
古典系における分配関数を扱うため、十分に温度が高い状態を考える。まず3次元の体積 V の容器の中を運動する1個の粒子を考えると、この1粒子系のハミルトニアン H は
と表される。U(q) は粒子が容器内に囚われていることを示すポテンシャルエネルギーであり、容器の中では 0 になり、外では十分に大きな正の値をとる。このハミルトニアンを使うと、温度 T の平衡状態での分配関数は位相空間上での積分より
となる。ここで は前述の熱的ド・ブロイ波長である。運動量による積分はガウス積分を用いて計算した。
次に粒子数を増やして N 個の粒子を考える。気体粒子同士は相互作用をしないものとする。さらに各粒子は区別できないものとすると、N 粒子系の分配関数は
となる。ここからヘルムホルツエネルギーは
となる。ここで階乗の対数はスターリングの近似 ln N! ≈ NlnN − N を用いて評価している。従って、エントロピーは
となり、ザックール・テトローデ方程式が導かれる。
さらに圧力は
となり、この系が理想気体の状態方程式を満たすことが分かる。また、内部エネルギーは
となる。
ザックール・テトローデ定数とは
で定義される定数である[2]。ここで mu は原子質量定数である。
この定数の値は温度の基準として T1 = 1 K、標準状態圧力として p° = 1 bar = 100 kPa に選んだとき
であり(2022 CODATA推奨値[3])、標準状態圧力として p° = 1 atm = 101.325 kPa に選んだときは
である(2022 CODATA推奨値[4])。
ザックール・テトローデ定数を用いれば、単原子理想気体のモルエントロピーが
と表わされる[2]。ここで Ar は相対原子質量である。