クリオドラコン学名Cryodrakon、「冷たい竜」の意)は後期白亜紀に現在のカナダに生息していたアズダルコ科翼竜の1属。ダイナソーパーク累層から産出し、Cryodrakon boreas 1種のみを含む[1][2][3]

クリオドラコン
Cryodrakon
生息年代: カンパニアン, 76.5 Ma
復元図
保全状況評価
絶滅(化石
地質時代
約7650万年前
中生代後期白亜紀
カンパニア期
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
亜綱 : 双弓亜綱 Diapsida
下綱 : 主竜形下綱 Archosauromorpha
階級なし : 主竜類 Archosauria
階級なし : 鳥頸類 Ornithodira
: 翼竜目 Pterosauria
亜目 : 翼指竜亜目 Pterodactyloidea
: アズダルコ科 Azhdarchidae
亜科 : ケツァルコアトルス亜科 Quetzalcoatlinae
: クリオドラコン属 Cryodrakon
学名
Cryodrakon
Hone et al.2019[1]
和名
クリオドラコン

C. boreas Hone et al., 2019 (模式種)[1]

発見と歴史

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クリオドラコンの発見地(図上、カナダの黒丸)

1972年にカナダ初の翼竜化石が発見されて以降、大型アズダルコ科翼竜の骨がアルバータ州から複数報告されている[4]。それらの化石は多くの場合ケツァルコアトルス属の1種とされた[5]。Michael Habib によるその後の研究でそれらは新しいタクソンであるとされた[2]

2019年に模式種Cryodrakon boreas が David William Elliott Hone や François Therrien と共に Habib によって命名・記載された。属名はギリシャ語の κρύος(kryos:冷たい)と δράκων(drakon:竜)に由来する。種小名はギリシャ神話における北風の神ボレアスに由来し、単純に「北風の」「北方の」の意味ともなる[1]。Habib は正式な命名以前には、ファンタジーTVドラマであるゲーム・オブ・スローンズに登場する氷竜ヴィセーリオン (Viserion) に因んで Cryodrakon viserion という名を想定していた[2]

模式標本の TMP 1992.83 はカンパニアン後期(76.7Ma から 74.3Ma、Ma:百万年前)のダイナソーパーク累層から産出し、産出層順はその地層の底部境界に近い(最も古い)所であった。標本は部分的な骨格からなるが頭骨を欠いており、第4頸椎肋骨上腕骨、翼支骨 (pteroid)、第4中手骨脛骨中足骨それぞれ1点ずつから構成される[2]。この骨格は1992年に採掘場 Quarry Q207 で発掘され、1995年に部分的な記載と共に報告された[6]。骨はバラバラであったが同じ個体の物で、未成熟個体である徴候が見られた。これはカナダで見つかった初めての(単一の骨ではない)翼竜骨格であった。より詳しい記載が2005年に発表された[7]

ダイナソーパーク累層から産出した既知のアズダルコ科翼竜標本全てがこの種であるとされた。標本は、頸椎(TMP 1996.12.369、TMP 1981.16.107、TMP 1980.16.1367、TMP 1989.36.254、TMP 1993.40.11)、肩甲烏口骨(TMP 1981.16.182)、尺骨(TMP 1965.14.398)、第4中手骨(TMP 1979.14.24、TMP 1987.36.16、TMP 2005.12.156)、翼指骨(TMP 1972.1.1、TMP 1982.19.295、TMP 1992.36.936)、大腿骨(TMP 1988.36.92)から構成される。若年個体から大型の老齢個体まで、骨は様々な個体の成熟段階を表している。ほとんどの骨は中型の大きさの個体のものである。2019年には頸椎のみが詳細を記載されている:他の部分の骨は2005年の記載ですでに取り扱われている[2]

記載

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模式標本:第4頸椎、上腕骨、翼支骨、脛骨
模式標本:翼支骨
模式標本:第4頸椎
模式標本:左上腕骨

標本には様々な大きさの個体が含まれる。標本 TMP 1996.12.369 は第5頸椎で、椎心長はわずか 10.6 mm しかない若年個体のものである。この第5頸椎は、翼開長が約 2 m と推定されるチェージャンゴプテルスのものとほぼ同じ大きさであり全体も同サイズであると推測される[1]。ほとんどの骨は(模式標本も含めて)Quetzalcoatlus lawsoni と似たような大きさであり、翼開長は約 5 m と思われる[2]。標本 TMP 1980.16.1367 は原報告時(1982年)大腿骨であると誤同定されていた物で、完全であったときの長さは 50 cm と推測されている第5頸椎であり、これは Quetzalcoatlus northropi の模式標本とほぼ同じ大きさとなる[1]Q. northropi の翼開長は当初 13 m と推測されたが[5]、その後 10 m という値に抑えられた[1][2][8]

クリオドラコンはケツァルコアトルスやその他の派生的長頚形アズダルコ科翼竜とプロポーションは似ているが、やや頑丈な骨を持っていたため彼らより少し重かったかもしれない[1]

クリオドラコンは頸椎における2つの特徴で他の全てのアズダルコ科翼竜から区別される。1つは神経腔の両側に開口する気嚢が入り込む一対の小孔である側方の含気孔 (lateral pneumatic fossae, pneumatophores) が神経腔の下縁近くに位置するが、他のアズダルコ科翼竜では(Eurazhdarcho は例外であると主張されているものの)もっと高い位置に開口する点。第2の識別点は、脊椎の椎心後方に突き出ている関節面に隣接する突出部である後方外側骨隆起 (postexapophyses) と椎心に関係する点である。クリオドラコンの後方外側骨隆起は横幅が大きい一方で前後長が短く、明確に椎心から離れており、関節面は下方に向いている[1]

分類

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クリオドラコンは2019年にアズダルコ科に分類された。他のアズダルコ科翼竜との正確な関係を明らかにする厳密な分岐分析は行われていない。本属は北アメリカ大陸で知られている中で最古のアズダルコ科翼竜の1つであったことがある[1]。その後の2021年に Brian Andres がケツァルコアトルスの系統分析を行い、その研究の中にはクリオドラコンが含まれていた。その結果においては、ケツァルコアトルス・アランボウルギアニアハツェゴプテリクスから成るグループと、クリオドラコン、Wellnhopterus が三分岐を形成していた。以下にその結果を示す[9]

Azhdarchoidea

Tapejaridae

Neoazhdarchia

Dsungaripteromorpha

Neopterodactyloidea

Chaoyangopteridae

Azhdarchiformes

Radiodactylus

Montanazhdarcho

Azhdarchidae

Azhdarchinae

Quetzalcoatlinae

Phosphatodraco

Aralazhdarcho

Eurazhdarcho

Zhejiangopterus

Wellnhopterus

Cryodrakon

Hatzegopteryx

Arambourgiania

Quetzalcoatlus  

古生物学

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クリオドラコンは飛行できたと考えられており[2]、仮にそれが正しければ実在したことが知られている最大の飛行動物の1つである[3]。現在、クリオドラコンのようなアズダルコ科翼竜は現生のアフリカハゲコウのように地上で小動物を捕食していたと考えられている[10]

古環境学

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小型〜大型のアズダルコ科翼竜を含む動物相の世界的分布を示す地図。左上にいるのがクリオドラコン。

クリオドラコン化石が発掘されたダイナソーパーク累層は、沖積平野・海岸平野環境の多くの化石を含む。これらの環境は両方とも多降水・高温・高湿度であったと考えられており、時がたつにつれより沼沢地のように状態になっていった[11]ハドロサウルス類ではランベオサウルス亜科サウロロフス亜科の両方、ケラトプス類でもセントロサウルス亜科カスモサウルス亜科の両方、曲竜類でもアンキロサウルス科ノドサウルス科の両方が存在するなど植物食恐竜の多様性は大きく、お互いに異なる植生レベルを採餌していたのであろうと推測される[7][12]。捕食者としての生態的地位は、小型マニラプトル類、中型のティラノサウルス類若年個体と大型の成体ティラノサウルス類によって占められていた[13]

アズダルコ科翼竜部分骨格でドロマエオサウルス類(おそらくSaurornitholestes langstoni)に腐肉食された痕跡が報告された。折れた歯が骨の間に見つかり、このことを著者らは、この薄い骨壁の骨が「よほど頑丈だったのに違いあるまい」と評した[6]

出典

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  1. ^ a b c d e f g h i j Hone, D.; Habib, M.; Therrien, F. (September 2019). Cryodrakon boreas, gen. et sp. nov., a Late Cretaceous Canadian azhdarchid pterosaur”. Journal of Vertebrate Paleontology 39 (3): e1649681. doi:10.1080/02724634.2019.1649681. https://qmro.qmul.ac.uk/xmlui/handle/123456789/60704. 
  2. ^ a b c d e f g h Greshk, Michael (10 September 2019). “New 'frozen dragon' pterosaur found hiding in plain sight - The flying reptile was mostly head and neck—and had at least a 16-foot wingspan, if not bigger.”. National Geographic Society. オリジナルの11 September 2019時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20190911012013/https://www.nationalgeographic.com/science/2019/09/cryodrakon-new-frozen-dragon-pterosaur-found-hiding-in-plain-sight/ 10 September 2019閲覧。 
  3. ^ a b Malewar, Amit (10 September 2019). “New reptile species was one of largest ever flying animals - It is different from other azhdarchids and so it gets a name.”. TechExplorist.com. https://www.techexplorist.com/new-reptile-species-one-largest-ever-flying-animals/26370/ 10 September 2019閲覧。 
  4. ^ Russell, Dale A. (1972). “A Pterosaur from the Oldman Formation (Cretaceous) of Alberta”. Canadian Journal of Earth Sciences 9 (10): 1338–1340. doi:10.1139/e72-119. 
  5. ^ a b Currie, Philip J.; Russell, Dale A. (1982). “A giant pterosaur (Reptilia: Archosauria) from the Judith River (Oldman) Formation of Alberta”. Canadian Journal of Earth Sciences 19 (4): 894–897. doi:10.1139/e82-074. 
  6. ^ a b Currie, Philip J.; Jacobsen, Aase Roland (1995). “An azhdarchid pterosaur eaten by a velociraptorine theropod”. Canadian Journal of Earth Sciences 32 (7): 922–925. doi:10.1139/e95-077. 
  7. ^ a b Currie, P.J., and E.B. Koppelhus (eds.). 2005. Dinosaur Provincial Park: A Spectacular Ancient Ecosystem Revealed. Indiana University Press, Bloomington, Indiana, 672 pp
  8. ^ Paul, Gregory S. (2022). The Princeton Field Guide to Pterosaurs. Princeton University Press. pp. 159. doi:10.1515/9780691232218. ISBN 9780691232218 
  9. ^ Andres, Brian (2021-12-14). “Phylogenetic systematics of Quetzalcoatlus Lawson 1975 (Pterodactyloidea: Azhdarchoidea)”. Journal of Vertebrate Paleontology 41 (sup1): 203–217. doi:10.1080/02724634.2020.1801703. ISSN 0272-4634. https://doi.org/10.1080/02724634.2020.1801703. 
  10. ^ Witton, Mark P.; Naish, Darren (2008-05-28). “A Reappraisal of Azhdarchid Pterosaur Functional Morphology and Paleoecology”. PLOS ONE 3 (5): e2271. doi:10.1371/journal.pone.0002271. PMC 2386974. PMID 18509539. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2386974/. 
  11. ^ Matson, Christopher Cody (2010). Paleoenvironments of the Upper Cretaceous Dinosaur Park Formation in southern Alberta, Canada (Unpublished master's thesis). University of Calgary. p. 125. doi:10.11575/PRISM/18677
  12. ^ Mallon, Jordan C.; Evans, David C.; Ryan, Michael J.; Anderson, Jason S. (2013-04-04). “Feeding height stratification among the herbivorous dinosaurs from the Dinosaur Park Formation (upper Campanian) of Alberta, Canada”. BMC Ecology 13 (1): 14. doi:10.1186/1472-6785-13-14. PMC 3637170. PMID 23557203. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3637170/. 
  13. ^ Holtz, Thomas R. (2021-09-01). “Theropod guild structure and the tyrannosaurid niche assimilation hypothesis: implications for predatory dinosaur macroecology and ontogeny in later Late Cretaceous Asiamerica”. Canadian Journal of Earth Sciences 58 (9): 778–795. doi:10.1139/cjes-2020-0174. hdl:1903/28566. https://cdnsciencepub.com/doi/abs/10.1139/cjes-2020-0174.