ギブズの自由エネルギー

ギブズ自由エネルギー英語: Gibbs free energy)は、熱力学電気化学などで用いられる、等温等圧条件下で非膨張の仕事として取り出し可能なエネルギーを表す示量性状態量である。

解説

編集

非膨張の仕事の例としては電池反応による電気的な仕事があり、ギブズ自由エネルギーの減少量は等温等圧条件下で系から取り出し可能な電気エネルギーを表す。なお、IUPACではギブズエネルギーGibbs energy)という名称の使用を勧告している[1]。 通常は記号 G で表される。

等温等圧条件下ではギブズ自由エネルギーは自発的に減少しようとする。即ち、Gの変化が負であれば化学反応は自発的に起こる。さらに、ギブズエネルギーが極小の一定値を取ることは系が平衡状態にあることに等しい。

これは、ヘルムホルツの自由エネルギーに関する

等温等積条件下ではヘルムホルツの自由エネルギーは自発的に減少しようとする。即ち、Fの変化が負であれば化学反応は自発的に起こる。さらに、ヘルムホルツの自由エネルギーが極小の一定値を取ることは系が平衡状態にあることに等しい。

と対応している。ウィラード・ギブズに由来する。

定義

編集

エンタルピー H熱力学温度 Tエントロピー S として、ギブズエネルギーは

 

で定義される[2]。あるいは、ヘルムホルツエネルギー F圧力 p体積 V を用いて

 

で定義されることもある。内部エネルギーU とすると、エンタルピーの定義 H=U+pV、或いはヘルムホルツエネルギーの定義 F=UTS より

 

が得られる。

完全な熱力学関数

編集

熱力学温度 T、圧力 p物質量 N を変数にもつ関数として表されたギブズエネルギー G(T,p,N)完全な熱力学関数である。このように見たとき、定義式は完全な熱力学関数としてのエンタルピー H(S,p,N)S に関するルジャンドル変換

 

と見ることができる。 ヘルムホルツエネルギーを用いた定義では、V に関するルジャンドル変換

 

と見ることができる。

ギブズエネルギー G(T,p,N) の各変数による偏微分

 

で与えられる。 ここで μi は成分 i化学ポテンシャルを表す。 従ってギブズエネルギー G(T,p,N)全微分

 

となる。この式は化学熱力学の基本方程式と呼ばれることがある[3]。 系のスケール変換を考えると、

 

の関係が得られる。

等温等圧過程

編集

温度 Tex、圧力 pex の環境にある系の状態変化を考える。 等温条件下では定義から

 

が導かれる。 また、熱力学第二法則から

 

であるが、非膨張仕事がない等圧条件下では系が得た熱がエンタルピーの変化と等しいので

 

となる。これらを合わせると、非膨張仕事がないときには、等温等圧条件から

 

が得られる。 等温等圧の条件下では、非膨張仕事がなければ自発変化はギブズエネルギーが減少する方向へ進む。また熱力学的平衡条件はギブズエネルギーが極小値をとることである。

平衡定数との関係

編集

定圧定温条件での化学反応における標準反応ギブズエネルギーは標準反応エンタルピーおよび標準反応エントロピーと以下の関係がある。

 

標準反応ギブズエネルギーと平衡定数Kとの間には以下のような関係がある。ここで R気体定数である。

 

標準環境温度(25 ℃ = 298.15 K)においては以下のようになる。

 

また標準電極電位との関係は以下の通りである。ここで n は電池反応の半反応式における電子の化学量論係数、 Fファラデー定数である。

 

電池ではギブズエネルギー変化が負の値を取る向きに起電力が発生する。

脚注

編集
  1. ^ IUPAC Gold Book
  2. ^ Chang『生命科学系のための物理化学』 pp.63-65
  3. ^ Daveid W. Ball『物理化学(上)』田中一義, 阿竹徹 et al.、化学同人、2004年、126頁。ISBN 4-7598-0977-5 

参考文献

編集
  • Raymond Chang『生命科学系のための物理化学』岩澤康裕、北川 禎三、濱口 宏夫 訳、東京化学同人、2006年。ISBN 4807906453 

関連項目

編集

外部リンク

編集