オートケーキ
オートケーキ(oatcake)はクラッカーやビスケットに似たフラットブレッドの一種[1][2][3]とされ、レシピによって形はクレープやパンケーキ状である。主な材料はオートミールで、時に普通の小麦粉や全粒粉を使うこともある[4]。グリドル[5][6]かオーブンで焼く。
オートケーキ Oatcake | |
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種類 | クラッカーもしくはビスケット |
発祥地 | イギリス、北アイルランド |
地域 |
アイルランド、 イングランド、 ウェールズ、 スコットランド |
主な材料 | オートムギ、塩、水 (スコットランド風の場合)[1] |
歴史
編集オートケーキは遅くとも西暦43年にイギリスがローマに征服された時から記録に残り、それ以前にもスコットランドにあったとする文献が伝わっている[8]。また「スコットランドでは数世紀にわたりパンといえばオートケーキだった」とされてきた[8]。
年代記作家ジャン・ルベル(Jean Le Bel)は西暦1357年-1360年頃にベギン会の修道女が「聖体拝領のウェーハのような小ぶりのパンケーキ」を作ったと記述しており、これはスコットランドのオートケーキを述べた最も初期の説明と考えられる[9]。
地域ごとの味
編集さまざまな国や地域ごとに、手に入る素材に合わせたレシピが生まれ、オートケーキの作り方は幅が広い。
イギリス
編集典型的なスコットランド料理と見なされてきたオートケーキは、その他の場所でもまた長く作られてきた[10]。スコットランドの朝食でトーストの代わりにオートケーキを出すことがある[11]。
イングランドのエリザベス2世の朝食にはふだんからスコットランドのオートケーキ[12]が並び、オートケーキ製造販売のウォーカーズ社は英国王室御用達を受けている[13]。デーヴィッド・キャメロンは首相時代、スコットランドのオートケーキがお気に入りだと発言した[14]。
イングランド地方
編集1790年代のイギリスの貿易・販売・製造業者の台帳[15]にはバロー=イン=ファーネスに近い丘陵地の郷土食「ハイファーネスのパン」を薄いオートケーキと記し、隣のランカシャーで「謎なぞパン」と呼ぶのは生地をふくらませて焼いたオートケーキだと書いてある[16]。スコットランド風と比べるとスタフォードシャーのオートケーキは見た目がパンケーキ型で、材料もオートミールにかなりの量の小麦粉を合わせる[3][17]。南隣のヨークシャーでは片面のみ焼き、ふんわりとふくらんでいる[1]。
-
スタフォードシャーのオートケーキ はクレープのように薄い。
スコットランド
編集スコットランドの発音でオートケーキを焼く鉄板をガードル[注釈 1]と呼び、あるいは天板の上で大判の生地 (ラウンド) を焼く。ラウンドが大きい場合は焼く前に四分の一に切り分ける。スコットランド北部で自給できる数少ない穀物がオートムギであり、20世紀に入るまで、主食は小麦ではなくオートムギだった。
14世紀のスコットランドの兵士は行軍に鉄板とオートムギの押し麦の袋を携えていたという。後世の話によると兵士は鉄板を火にかけ、湿らせた押し麦をひとつかみ焼いてケーキを作ったとある。「空腹を慰める方法を備えていたスコットランド軍が他国の兵隊より長い行軍に耐えたのも、当然といえば当然」だったのである[18][19]。
辞書[20]にオートムギ (カラス麦) を定義しようとしたサミュエル・ジョンソン (イングランド出身) は、主食としての用途にもしぶしぶ言及した。
A grain, which in England is generally given to horses, but in Scotland supports the people.
(イングランドでは馬の飼料にするこの穀類をスコットランドでは人が主に食している。)
ウォルター・スコットの伝えるところでは、ジョージ3世の治世に貴族だった第5代エリバンク卿パトリック・マレー (エディンバラ出身・1703年–1778年) が次のように語ったという[注釈 2]。
Yes, and where else will you see such horses and such men?[25]
そうだとも、ほかのどこでああいう男たちとあれほどの馬が見つかるというのだ?
オートケーキの口当たりはオートムギの製粉度合いによって、粗くもきめ細かくもなる。水分量や調理時間にもよるが、ややもちもちとした歯ごたえから、噛みごたえのある硬さまでさまざまである。オートケーキは伝統的に毎食につきものの主な炭水化物の源としてどのような献立にも合わせていた。19世紀以降は一般にスープと肉か魚料理に添えた。現在はときに朝食のパンやトーストの代わりにも供される[26][27]。
スコットランドに本拠を置くオートケーキ製造業者に多くのブランド[注釈 3]があるほか、大規模な製造業者を除くと、地元のパン屋がそれぞれ基本的なレシピに店の特徴を反映させて提供する。
-
屋外に持ち出した鉄板でオートムギの生地を焼く
ウェールズ
編集ウェールズではオートケーキはおかず用パンケーキに近い[1]。冷めて堅くなったオートケーキを千切り、干鱈と煮るシチューをフィッシュ・アンド・ブリューズ (Fish and brewis) と呼ぶ[31]。
アイルランド
編集アイルランドで作るレシピに似たオートケーキを焼くところは、スコットランドの習慣と共通する[32]。北アイルランドでは Ditty's という市販のオートケーキのブランドがよく知られている[33]。
カナダ
編集カナダにスコットランド伝統食をもたらしたのは新世界への入植者で、1775年に戦列艦エリザベス号に乗ってプリンスエドワード島に渡った人々の話が伝わっている。エリザベス号は島を目前にして嵐に遭遇、乗船客であった入植者と乗組員は全員、救命艇に乗り移って無事に島に上陸した。3日後、嵐がおさまると人々は荷物や食糧を回収しに船に戻り、波にさらわれずに残ったオートムギ入りの樽をいくつか見つけたという。海水についた穀物は砂まみれだったが、人々は3日ぶりの食事をとろうと荷物からフライパンを取り出し、オートケーキを焼く準備に取り掛かった。このときのことをある入植者が日記に書きとめている。「これは外側が真っ黒に焦げていて、中はまったく生焼けだったのだが、こんなに甘美な糖蜜は生まれてから初めてだと感じた。」[34]
主食として食卓にのぼらなくなった[いつ?]オートケーキは、しだいにアフタヌーン・ティーのメニューに移っていく。レシピも甘いスイーツや塩味のものが編み出され、ジャムを塗ったりチーズを添えたりして楽しまれている。
参考文献
編集継承: この記事はパブリックドメインの辞典本文を含む: Murray, Dudley Oliphant (1894). "Murray, Patrick". In Lee, Sidney (ed.). Dictionary of National Biography (英語). Vol. 39. London: Smith, Elder & Co.
- 著者名ABC順
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- Barfoot, Peter; Wilkes, John. The Universal British Directory of Trade, Commerce and Manufacture. 4. Milland House, Sussex. p. 648
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- Foyster, Elizabeth; Whatley, Christopher A. (2009). A History of Everyday Life in Scotland, 1600 to 1800. エディンバラ大学出版局
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- 報道発表日付順
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- Cope, Samantha (13 May 2011). “It's not just any oatcake, this is a Tunstall Tortilla (recipe inside, Stoke fans!)”. Daily Mail 25 April 2014閲覧。
- Scott, Chloe (22 Oct 2013). “How to make the ultimate Staffordshire oatcake” (英語). Metro 25 April 2014閲覧。
- サイト運営者名ABC順
- “Bon Appetit Wednesday! Celebrate St. Patrick's Day With Ancient Irish Oatcakes”. antiquitynow.org (2014年3月12日). 2014年3月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。1 May 2014閲覧。
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- “Scottish oatcake”. walkersshortbread.com. Walkers Shortbread Ltd (n.d.). 1 May 2014閲覧。
脚注
編集注釈
編集- ^ イギリス英語の発音でグリドル。
- ^ ウォルター・スコットが伝えた第5代エリバンク卿パトリック・マレーの言葉はスコットランド自慢である。エリバンク卿はアレクサンダー・マレー・オブ・エリバンクの兄[21][22]で、弟ともども活動的なジャコバイトだった。法曹界に進み、エディンバラの領地を遺贈されたころに軍人に転じている[23]。スペイン軍との戦闘に幹部将校として参戦、敗戦後は退役してやがてエディンバラの有識者層を率いる存在になる[24]。
- ^ ウォーカー (Walkers) [13]のほか、スコットランドに本拠を置くオートケーキ製造業者のブランドに、ナイレン (Nairn's 1896年創業)[28]、ストッカン (Stockan's 1900年代創業)[29]、パターソン (Paterson's 1895年創業)[30] などがある。
出典
編集- ^ a b c d biscuit-1 n.d.
- ^ biscuit-2 2007, p. 68.
- ^ a b Cauvain, Young 2009, p. 190.
- ^ metro-2013 2013.
- ^ Chambers 1987, pp. 599, 624.
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- ^ Douglas, Hugh. “Murray, Alexander, of Elibank, Jacobite earl of Westminster (1712–1778)”. オックスフォード英国人名事典. オックスフォード大学出版局|year= 2004 14 June 2013閲覧。
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- ^ antiquitynow 2014.
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- ^ Roy, Ali 2010, p. 16.
- ^ Companion 2006.
関連項目
編集- イギリス風パンの一覧
- オートミール
- オートミールの月曜日 20世紀にスコットランドで大学生に与えられた休暇。別称「食糧の月曜日」(Meal Monday) と言い、毎年2月の第2月曜日を当てた。
- 堅パン
- スコーン
- スタッフォードシャー風オートケーキ
- 鉄板焼き
- バノック
- ビスケット
関連文献
編集- 出版年順
- Sinclair, Molly (1990) (英語). Scottish Heritage Cookbook (スコットランドの伝統料理). Mission San Jose, California: Heritage Cookbooks Scottish Heritage Cookbook.
- Tudor, Tasha 著、相原真理子 訳『ターシャ・テューダーのクックブック : コーギー・コテージの料理と思い出』文藝春秋、1998年。 NCID BA49618635。 オートミールパン
- 福田里香、日置武晴『クイックブレッドアンドジャム』柴田書店、1999年。 NCID BA47433184。 オートミールパン
- クレヨンハウス、飯島純子『クレヨンハウスのオーガニック・ケーキ : 「ケーキおばさん」の物語』ブロンズ新社、2000年。 NCID BA48056981。 オートミールケーキ
- 田辺由布子『超本格パンが100分で焼ける!』文化出版局、2001年。 NCID BA55843341。 オートミールミックスブレッド
- 藤田千秋『手づくりがおいしい、雑穀と豆のパン』文化出版局、2002年。 NCID BA60160257。 オートミール入りのパン
- 徳永久美子『徳永久美子のパンを楽しむ生活 : おいしいおはなし』主婦と生活社、2002年。 NCID BB11955356。 オートミールビスケット
- 松長絵菜『十二ヶ月のバスケット : Sweet recipes' basket』女子栄養大学出版部、2003年。 NCID BA62405162。 オートミールケーキ
- 『はじめてのお菓子作り : 決定版 : かんたんパンから和菓子まで』cooking、講談社〈今日から使えるシリーズ〉、2008年。 NCID BA85555448。 オートミールブレッド
- 山崎友紀『マクロビオティック天然酵母の焼き菓子』講談社、2010年。 NCID BB04828406。 オートミールのスコーン
- 小関由美、小澤祐子『英国アフタヌーンティー&お菓子』講談社、2011年。 NCID BB08047632。 オートミールビスケット
- 若山曜子『はかりいらずのふんわりパンケーキ : ランチ&デザートに、毎日おいしい44レシピ』主婦の友社、2011年。 NCID BB08703683。 オートミールパンケーキ
- 砂古玉緒『ビスケットとスコーン : イギリスのお菓子教室 : 型なしでつくれるビスケット。混ぜて焼くだけ! = Biscuits and scones』講談社、2014年。 NCID BB1730256X。 オートミールとレーズンのビスケット;オートミールのスコーン
外部リンク
編集- オートケーキのレシピ集 BBC食品特集