オー!ダーリン
「オー!ダーリン[注釈 1]」(Oh! Darling)は、ビートルズの楽曲。1969年に発売された11作目のイギリス盤公式オリジナル・アルバム『アビイ・ロード』に収録された。レノン=マッカートニー名義となっているが、ポール・マッカートニーによって書かれた楽曲で[8]、制作当初のタイトルは「Oh! Darling (I'll Never Do You No Harm)」だった[9]。イギリスおよびアメリカではシングル・カットされなかったが、キャピトル・レコードの地域子会社によって中央アメリカ限定でシングル盤[注釈 2]が発売され、1970年に日本やポルトガルでシングル盤[注釈 3]が発売された。
「オー!ダーリン」 | |||||||||||||||||||
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ビートルズ の シングル | |||||||||||||||||||
初出アルバム『アビイ・ロード』 | |||||||||||||||||||
B面 | ヒア・カムズ・ザ・サン | ||||||||||||||||||
リリース | |||||||||||||||||||
録音 |
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ジャンル | |||||||||||||||||||
時間 | |||||||||||||||||||
レーベル | アップル・レコード | ||||||||||||||||||
作詞・作曲 | レノン=マッカートニー | ||||||||||||||||||
プロデュース | ジョージ・マーティン | ||||||||||||||||||
チャート最高順位 | |||||||||||||||||||
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背景
編集1969年1月、ビートルズはゲット・バック・セッションを開始し、アルバム『Get Back』のためのレコーディング[注釈 4]やバンドとして最後の公演となったルーフトップ・コンサートを行った[10]。セッション最初期にトゥイッケナム映画撮影所で行われたリハーサルでは、自作曲やかつてのレパートリーが再演された。本作は、バンドの活動初期のスタイルで書かれた楽曲で、ジョージ・ハリスンは「コード進行が最高。いかにも1955年の曲っぽい感じがする」と語っている[11]。ジョン・レノンも「ポールの凄いやつ」と賞賛した[10]うえで、「これは、彼(ポール)よりどっちかといえばぼくのスタイルの曲だ。でも彼が書いたものだし、しかたがないじゃないか。彼が歌うことになったのさ。彼にセンスがあったら、きっとぼくに歌わせたさ」と語っている[12][8]。
メンバーがスタジオに到着するまでの間、マッカートニーはスタジオのサウンドステージで、ピアノを弾きながら肩慣らしを行っていた。これが未完成の楽曲をふるいにかける良い機会となり、セッション開始から3日目には映画の監督であるマイケル・リンゼイ=ホッグのために演奏した[10][注釈 5]。1月7日のリハーサル時のキーはBフラットで、セッションの場所をアップル・スタジオを移したときにはAメジャーに変更されていた[10]。
1969年1月27日にアップル・スタジオで本作のリハーサルが行われた。リハーサルにはビリー・プレストンがエレクトリックピアノで参加していた[13]ことから、マッカートニーはベースを演奏した[10]。音源が1996年に発売された『ザ・ビートルズ・アンソロジー3』に収録された。リハーサル音源では、マッカートニーとレノンのツイン・ボーカルとなっている[14]。なお、レノンが「I'm free at last(やっと自由だ)」と歌詞を変えて歌っている箇所があるが、これは同時期にオノ・ヨーコの前夫との離婚が成立したことが関係している[15]。
レコーディング
編集「オー!ダーリン」のレコーディングは、1969年4月20日にEMIレコーディング・スタジオのスタジオ3で開始され、同日はプロデューサーとしてクリス・トーマスが迎えられた[16]。8トラック・レコーダーのトラック1にハリスンのベース、トラック2にリンゴ・スターのドラム、トラック3にプレストンのオルガン、トラック4にマッカートニーのピアノ、トラック5にレノンのギター、トラック6にマッカートニーのリード・ボーカルが録音された[14]。録音されたテイクのうち、テイク7はジョー・サウスの「孤独の影」を大幅にテンポを上げて演奏したもの[14]。
テイク23の録音後、ハリスンはトーマスに対して「音が外れてるように聞こえないか?」と尋ね、マッカートニーのピアノのコードに乗せる形でベースのスケールを試した[14]。
ボーカル用のバッキング・トラックとしてテイク26が採用された[14]。マッカートニーは、スタジオに一番乗りして1日に1テイクのみボーカルを録音し、納得がいくまで前のテイクを消して録音していた。当時について、マッカートニーは「熱唱型の曲だから、少しでも生ぬるさを感じさせると全てが台無しになってしまう。僕はハンドマイクで歌ったり、スタンドマイクで歌ったり、ありとあらゆる方法を試した。たいていは1日で、全ての歌い方を試してしまう僕としては珍しいことだ」と振り返っている[14]。当時のEMIのエンジニア、アラン・パーソンズによると、この曲のレコーディング中にマッカートニーが「5年前ならこんなのあっという間に出来たのに」と不満を漏らしていたとのこと[17]。これについて、マッカートニーは「ステージで1週間ずっと歌ってきたような感じにしたかった」と説明している[14]。
2019年に発売された『アビイ・ロード (スーパー・デラックス・エディション)』のCD2には、最後の2分間にプレストンのオルガンを加えたテイク4が収録された[14]。
タイアップ
編集クレジット
編集音楽評論家のイアン・マクドナルドは、著書『Revolution in the Head: The Beatles' Records and the Sixties』で、以下のクレジットを掲載した[19]。
- ポール・マッカートニー - リード・ボーカル、バッキング・ボーカル、ベース
- ジョン・レノン - バッキング・ボーカル、ピアノ
- ジョージ・ハリスン - バッキング・ボーカル、エレクトリック・ギター
- リンゴ・スター - ドラム
一方で、2019年に発売された『アビイ・ロード (50周年記念エディション)』に付属のブックレットには、以下のクレジットで掲載されている[10]。
- ポール・マッカートニー - リード・ボーカル、バッキング・ボーカル、ピアノ
- ジョン・レノン - バッキング・ボーカル、ギター
- ジョージ・ハリスン - バッキング・ボーカル、ベース
- リンゴ・スター - ドラム
カバー・バージョン
編集ロビン・ギブによるカバー
編集「オー・ダーリング」 | |
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ロビン・ギブ の シングル | |
初出アルバム『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』 | |
B面 | シーズ・リーヴィング・ホーム(ビージーズ、ジェイ・マッキントッシュ、ジョン・ホイーラー) |
リリース | |
規格 | 7インチシングル |
録音 |
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ジャンル | |
時間 | |
レーベル | RSOレコード |
作詞・作曲 | レノン=マッカートニー |
プロデュース | ジョージ・マーティン |
1978年にロビン・ギブによるカバー・バージョンが、4作目のソロ・シングルとして発売され、B面にはビージーズ、ジェイ・マッキントッシュ、ジョン・ホイーラーによるカバー曲「シーズ・リーヴィング・ホーム」が収録された。いずれの楽曲も、映画『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』のサウンドトラックとしてカバーされた[20]。
ギブによるカバー・バージョンは、『ビルボード』誌のHot Adult Contemporary Tracks(1978年10月7日付)で最高位22位を記録した[21]。なお、シングル盤はアメリカで最も売れたギブのシングル作品となった。
チャート (1978年) | 最高位 |
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ニュージーランド (Recorded Music NZ)[22] | 40
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ノルウェー (VG-lista)[23] | 40 |
US Billboard Hot 100[24] | 15 |
US Hot Adult Contemporary Tracks (Billboard)[21] | 22 |
その他のアーティストによるカバー
編集- ジョージ・ベンソン - 1970年に発売されたアルバム『アビイ・ロード』に収録[25]。
- ジミー・マクグリフ&ジュニア・パーカー - 1970年のアルバム『The Dudes Doin' Business』に収録[26]。
- ヒューイ・ルイス - 1995年に発売されたトリビュート・アルバム『Come Together: America Salutes the Beatles』に収録[27]。
- 村上“ポンタ”秀一 - 1998年に発売された『Welcome To My Life』に収録。井上陽水がボーカル、岡沢章がベースで参加。
- B'z - 2008年に『B'z LIVE-GYM Pleasure 2008 -GLORY DAYS-』でカバーし、同名の映像作品にも収録された。なお、本作はB'zの2人が初めてセッションした楽曲の1つである[28][注釈 6]。
脚注
編集注釈
編集- ^ 発売当初の邦題は、感嘆符のない「オー・ダーリン」で、後に「オゥ・ダーリン!」と改題。そして現題の「オー!ダーリン」と3回も変更されている。
- ^ B面には「マックスウェルズ・シルヴァー・ハンマー」が収録された。
- ^ B面には「ヒア・カムズ・ザ・サン」が収録された。
- ^ アルバム『Get Back』は未発表となり、後にフィル・スペクターによってリプロデュースされ、1970年に『レット・イット・ビー』として発売された。
- ^ 映画『レット・イット・ビー』には、1月6日にピアノでの弾き語り(ワンフレーズ)をしたときの映像が含まれている。
- ^ もう1曲は「レット・イット・ビー」[28]。
出典
編集- ^ Egan, Sean (2009). The Mammoth Book of the Beatles. Running Press. p. 200. ISBN 978-0-762-43627-9
- ^ Unterberger, Richie. “Oh! Darling by The Beatles - Track Info”. AllMusic. RhythmOne. 2023年7月26日閲覧。
- ^ Perone, James E. The Album: A Guide to Pop Music's Most Provocative, nfluential, and Important Creations. p. 213
- ^ Shepherd, John; Horn, David (8 March 2012). Continuum Encyclopedia of Popular Music of the World Volume 8: Genres: North America. A&C Black. p. 470. ISBN 978-1-4411-4874-2
- ^ Stratton, Jon (2016) [2010]. Britpop and the English Music Tradition. Oxfordshire: Taylor & Francis. p. 120. ISBN 978-1-317-17122-5
- ^ Lynch, Joe (2014年9月26日). “The Beatles' Abbey Road Turns 45: Classic Track-By-Track Review”. Billboard. 2020年9月5日閲覧。
- ^ “ザ・ビートルズのシングル売上TOP16作品”. ORICON NEWS. オリコン. 2022年11月17日閲覧。
- ^ a b Sheff 2000, p. 203.
- ^ Lewisohn 1988, p. 174.
- ^ a b c d e f Abbey Road 2019, p. 7.
- ^ Bernard 1993, p. 106.
- ^ 『ジョン・レノンPlayboyインタビュー』集英社、1981年、168頁。ASIN B000J80BKM。
- ^ Lewisohn 1996.
- ^ a b c d e f g h Abbey Road 2019, p. 8.
- ^ Lewisohn 1988, p. 168.
- ^ Abbey Road 2019, pp. 7–8.
- ^ Dowlding 1989, p. 282.
- ^ “サニー CM情報”. 日産自動車. 2021年7月3日閲覧。
- ^ MacDonald 2005, p. 350.
- ^ Stigwood, Robert (1978). The Official Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band Scrapbook. Pocket Books. p. 6. ISBN 0-671-79038-2
- ^ a b “Robin Gibb Chart History(Adult Contemporary)”. Billboard. 2021年11月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年6月20日閲覧。
- ^ “charts.nz - Robin Gibb - Oh! Darling”. Top 40 Singles. 2022年3月27日閲覧。
- ^ "Norwegiancharts.com – Robin Gibb – Oh Darling". VG-lista. 2020年9月5日閲覧。
- ^ “The Hot 100 Chart”. Billboard (1978年10月17日). 2020年9月5日閲覧。
- ^ The Other Side of Abbey Road - George Benson | Songs, Reviews, Credits - オールミュージック. 2020年9月5日閲覧。
- ^ Jimmy McGriff - Good Things Don't Happen Every Day Album Reviews, Songs & More - オールミュージック. 2023年7月25日閲覧。
- ^ Come Together: America Salutes the Beatles - Various Artists | Songs, Reviews, Credits - オールミュージック. 2020年9月5日閲覧。
- ^ a b 『music freak magazine & Es Flash Back B'z XXV Memories I』エムアールエム、2013年、75頁。
参考文献
編集- Bernard, Shane K. (1993). Swamp Pop: Cajun and Creole Rhythm and Blues. Jackson: University Press of Mississippi
- Dowlding, William J. (1989). Beatlesongs. New York: Fireside Books. ISBN 0-671-68229-6
- ハウレット, ケヴィン (2019). アビイ・ロード (スーパー・デラックス・エディション) (ブックレット). アップル・レコード.
- Lewisohn, Mark (1988). The Beatles Recording Sessions. New York: Harmony Books. ISBN 0-517-57066-1
- Lewisohn, Mark (1996). Anthology 3 (booklet). The Beatles. London: Apple Records.
- MacDonald, Ian (2005). Revolution in the Head: The Beatles' Records and the Sixties (Second Revised ed.). London: Pimlico (Rand). ISBN 1-84413-828-3
- Sheff, David (2000). All We Are Saying: The Last Major Interview with John Lennon and Yoko Ono. New York: St. Martin's Press. ISBN 0-312-25464-4
外部リンク
編集- Oh! Darling - The Beatles