エルマン環
数学、特に複素力学系に於けるエルマン環(エルマンかん、英: Herman ring)は、ファトゥ成分の一つである[1]。数学者マイケル・エルマンにちなむ。
正式な定義
編集ƒ が周期 p のエルマン環 U を持つとは、ある等角写像
および無理数 が存在して、次が成り立つことを言う:
したがってエルマン環上の力学系は単純である。
関数
編集- 多項式はエルマン環を持たない。
- 有理関数はエルマン環を持つ。
- 超越整関数はエルマン環を持たない[2]。
例
編集エルマン環を持つ有理関数の一例として、次が挙げられる[1]。
ここで であり、単位円上での ƒ の回転数は になる。
下に示される図は ƒ のジュリア集合である。すなわち、白いアニュラスの中の曲線は ƒ の反復に対するいくつかの点の軌道であり、点線の部分が単位円である。
エルマン環とある周期放物型ファトゥ成分を同時に持つ有理関数の一例を、次の図に挙げる。
さらに、周期 2 のエルマン環を持つ有理関数の一例を次に挙げる。
この有理関数の表現は次のようになる。
ただし
この例は、周期 2 のジーゲル円板を持つ二次多項式
からの準共形手術によって構成される[3]。パラメータ a, b, c は試行錯誤によって得られたものである。
現在を
とすると、ga,b,c のエルマン環の一つの周期は 3 である。
宍倉光広はまた別の例を与えている[4]。それもまた周期 2 のエルマン環を持つ有理関数であるが、パラメータは上記のものとは異なる。
したがってより高次の周期のエルマン環を持つ有理関数の式を見つける方法はあるのかと言う、一つの疑問が生じる。
宍倉の結果によると、有理関数 ƒ がエルマン環を持つなら、ƒ の次数は少なくとも 3 となる。エルマン環を持つ有理型関数も存在する。
関連項目
編集参考文献
編集- ^ a b John Milnor, Dynamics in one complex variable: Third Edition, Annals of Mathematics Studies, 160, Princeton Univ. Press, Princeton, NJ, 2006.
- ^ Omitted Values and Herman rings by Tarakanta Nayak
- ^ Mitsuhiro Shishikura (1987). “On the quasiconformal surgery of rational functions”. Annales scientifiques de l'École Normale Supérieure 20 (1): 1-29. doi:10.24033/asens.1522 .
- ^ 宍倉光広 (12 1985). “SURGERY OF COMPLEX ANALYTIC DYNAMICAL SYSTEMS” (英語). 数理解析研究所講究録 (京都大学数理解析研究所) 574: 166-178. CRID 1050282677276212736. hdl:2433/99208. ISSN 1880-2818 .
- Herman, Michael-Robert (1979), “Sur la conjugaison différentiable des difféomorphismes du cercle à des rotations”, Publications Mathématiques de l'IHÉS (49): 5–233, ISSN 1618-1913, MR538680