バース侯爵
バース侯爵(Marquess of Bath)は、グレートブリテン貴族の侯爵位。18世紀中期に閣僚職を歴任した第3代ウェイマス子爵トマス・シンが1789年に叙されたのに始まる。
バース侯爵 Marquess of Bath | |
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Arms: Quarterly: 1st and 4th, Barry of ten Or and Sable (Botteville); 2nd and 3rd, Argent, a Lion rampant with tail nowed and erect Gules (Thynne). Crest: A Reindeer statant Or. Supporters: Dexter: A Reindeer Or, gorged with a plain Collar Sable. Sinister: A Lion with tail nowed and erect Gules.[1] | |
創設時期 | 1789年8月18日 |
創設者 | ジョージ3世 |
貴族 | グレートブリテン貴族 |
初代 | トマス・シン(3代ウェイマス子爵) |
現所有者 | スーアリン・シン (8代侯) |
相続人 | ジョン・シン(ウェイマス子爵) |
相続資格 | 初代侯の直系の嫡出の男系男子(The 1st Marquess' heirs male of the body lawfully begotten) |
付随称号 | ウェイマス子爵、シン男爵、"コース城の"準男爵 |
現況 | 存続 |
邸宅 | ロングリート |
モットー | J'AY BONNE CAUSE (われ大義とともにあり) |
歴史
編集バース侯爵家の本邸であるイングランド・ウィルトシャーのロングリートは、テューダー朝期の軍人・廷臣サー・ジョン・シン(1515頃-1580)によって建設された。彼の曾孫にあたるサー・ヘンリー・シン(1615–1680)は、1641年7月15日にイングランドの準男爵位の"コース城の"準男爵(Baronet "of Caus Castle")に叙せられた[2]
その息子で2代準男爵位を継承したサー・トマス・シン(1640–1714)は、庶民院議員を務めた後、1682年12月11日にイングランド貴族爵位ウェイマス子爵(Viscount Weymouth)とウィルトシャー州におけるウォーミンスターのシン男爵(Baron Thynne, of Warminster in the County of Wiltshire)に叙せられて貴族院議員となった。この2つの爵位は自身の男系男子がない場合に2人の弟とその男系男子を特別継承者(special remainder)とする規定が付けられていた。その後、初代ウェイマス子爵は1702年から1707年にかけて通商及び海外プランテーション庁長官(First Lord of Trade and Foreign Plantations)を務めている[3][4]。
初代ウェイマス子爵は女子しか残さなかったため、彼の死後は特別継承者の規定に基づいて弟ヘンリー・フレデリック・シン(生年不詳-1705)の孫にあたるトマス・シン(1710–1751)が2代ウェイマス子爵位を継承した[4]。
2代ウェイマス子爵の死後、彼とその妻ルイーザ・カートレット(1714-1736)(2代グランヴィル伯爵・2代カートレット男爵ジョン・カートレットの娘)の間の長男トマス・シン(1734–1796)が3代ウェイマス子爵を継承した。彼は初代チャタム伯爵ウィリアム・ピット(大ピット)からノース卿フレデリック・ノースに至る3代の内閣において重要閣僚職である北部担当国務大臣や南部担当国務大臣を務め[5]、退任後の1789年8月18日にグレートブリテン貴族爵位バース侯爵(Marquess of Bath)に叙せられた[6][7]。
一方2代ウェイマス子爵とルイーザ・カートレットの次男(つまり初代バース侯の弟)ヘンリー・シン(1735–1826)は、母方カートレット家の財産を継承してカートレット姓に改姓し、1784年に初代バース侯のヤンガーサン(次男以下)を特別継承者に規定したカートレット男爵位を新規に与えられている[8]。1826年にヘンリー・カートレットが死去すると特別継承規定に基づき、初代バース侯の次男ジョージ・シンが2代カートレット男爵[9]、ついで三男ジョン・シンが3代カートレット男爵位を継承している(いずれにも男子が無かったので3代カートレット男爵の死去とともに廃絶した)[10]。
一方バース侯爵位の方は、初代バース侯の死後、その長男であるトマス・シン(1765–1837)が2代バース侯を継承した。彼は襲爵前にトーリー党の庶民院議員を務めていた[6][11]。
彼の死後はその息子でやはりトーリー党の庶民院議員をしていたヘンリー・フレデリック・シン(1797–1837)が3代バース侯爵位を継承したが、襲爵後すぐに死去した[6][12]。
その息子である4代バース侯ジョン・アレグザンダー・シン(1831–1896)は、ポルトガルやオーストリアへの外交使節(Envoy Extraordinary)を務めた。またナショナル・ポートレート・ギャラリーや大英博物館の受託者(Trustee)も務めた[13]。
その息子である5代バース侯トマス・ヘンリー・シン(1862-1946)は襲爵前に保守党の庶民院議員を務め、襲爵後の1905年中にアーサー・バルフォア内閣においてインド担当省政務次官を務めた[6][14]。
その長男であるウェイマス子爵(儀礼称号)ジョン・アレグザンダー・シン(1895-1916)は襲爵前に第一次世界大戦で戦死し、子供もなかったため[15]、5代バース侯の死後は次男ヘンリー・フレデリック・シン(1905–1992)が6代バース侯を継承した。彼も襲爵前に保守党の庶民院議員を務めていた。第二次世界大戦が勃発すると従軍した[16]。
6代侯の死後はその息子であるアレグザンダー・ジョージ・シンが7代バース侯を継承した[6]。
7代侯アレグザンダー(1932-2020)は作家として多数の著作を有していたほか、1976年にはThynneの家名のeを取り除いたThynnに改姓している。彼は2020年に新型コロナウイルスに感染して死去したため、爵位は息子スーアリンに継承された[17][18]。
8代侯スーアリン(1974-)が2020年現在のバース侯爵家現当主である。
現当主の保有爵位
編集現当主である第8代バース侯爵スーアリン・ヘンリー・ラズロ・シンは以下の爵位を保有している[6][19]。
- 第8代バース侯爵 (8th Marquess of Bath)
- (1789年8月18日の勅許状によるグレートブリテン貴族爵位)
- 第10代ウェイマス子爵 (10th Viscount Weymouth)
- ウォルトシャー州におけるウォーミンスターの第10代シン男爵 (10th Baron Thynne, of Warminster in the County of Wiltshire)
- (1682年12月11日の勅許状によるイングランド貴族爵位)
- "コース城の"第11代準男爵 (11th Baronet "of Caus Castle")
歴代当主
編集"コース城の"準男爵 (1641年)
編集- 初代準男爵サー・ヘンリー・フレデリック・シン(Henry Frederick Thynne, 1615–1680)
- 2代準男爵サー・トマス・シン (Thomas Thynne, 1640–1714) - 先代の息子。1682年にウェイマス子爵
ウェイマス子爵 (1682年)
編集- 初代ウェイマス子爵トマス・シン (Thomas Thynne, 1640–1714)
- 2代ウェイマス子爵トマス・シン (Thomas Thynne, 1710–1751) - 先代の弟の孫
- 3代ウェイマス子爵トマス・シン (Thomas Thynne, 1734–1796) - 先代の息子。1789年にバース侯爵
バース侯 (1789年)
編集- 初代バース侯トマス・シン (Thomas Thynne, 1734–1796)
- 2代バース侯トマス・シン (Thomas Thynne, 1765–1837) - 先代の息子
- 3代バース侯ヘンリー・フレデリック・シン (Henry Frederick Thynne, 1797–1837) - 先代の息子
- 4代バース侯ジョン・アレグザンダー・シン (John Alexander Thynne, 1831–1896) - 先代の息子
- 5代バース侯トマス・ヘンリー・シン (Thomas Henry Thynne, 1862–1946) - 先代の息子
- 6代バース侯ヘンリー・フレデリック・シン (Henry Frederick Thynne, 1905–1992) - 先代の息子
- 7代バース侯アレグザンダー・ジョージ・シン (Alexander George Thynn, 1932-2020) - 先代の息子
- 8代バース侯スーアリン・ヘンリー・ラズロ・シン(Ceawlin Henry Laszlo Thynn, 1974-)-先代の息子
家系図
編集Ralph Botevile | |||||||||||||||||||||||||||||
トマス・シン | ウィリアム・シン (生年不詳-1546) | ||||||||||||||||||||||||||||
ジョン・シン (1515頃-1580) | フランシス・シン (1544頃-1608) | ||||||||||||||||||||||||||||
ジョン・シン (1550-1604) | チャールズ・シン (1568頃-1652) | ||||||||||||||||||||||||||||
トマス・シン (生年不詳-1639) | |||||||||||||||||||||||||||||
1641年(コース城の)準男爵 | |||||||||||||||||||||||||||||
ジェイムズ・シン (1605-1670) | トマス・シン (生年不詳-1669) | 初代準男爵 ヘンリー・シン (1615-1680) | |||||||||||||||||||||||||||
1682年ウェイマス子爵 | |||||||||||||||||||||||||||||
トマス・シン (1648-1682) | 初代ウェイマス子爵 2代準男爵 トマス・シン (1640-1714) | ヘンリー・シン (生年不詳-1705) | |||||||||||||||||||||||||||
ヘンリー・シン (1675-1708) | トマス・シン (生年不詳-1710) | ||||||||||||||||||||||||||||
2代ウェイマス子爵 3代準男爵 トマス・シン (1710-1751) | |||||||||||||||||||||||||||||
1789年バース侯 | 1784年カートレット男爵(2期) | ||||||||||||||||||||||||||||
初代バース侯 3代ウェイマス子爵 4代準男爵 トマス・シン (1734-1796) | 初代カートレット男爵 ヘンリー・カートレット (1735-1826) | ||||||||||||||||||||||||||||
2代バース侯 4代ウェイマス子爵 5代準男爵 トマス・シン (1765-1837) | 2代カートレット男爵 ジョージ・シン (1770-1838) | 3代カートレット男爵 ジョン・シン (1772-1849) | |||||||||||||||||||||||||||
カートレット男爵(2期)廃絶 | |||||||||||||||||||||||||||||
3代バース侯 5代ウェイマス子爵 6代準男爵 ヘンリー・シン (1797-1837) | エドワード・シン (1807-1884) | シャーロット・シン (1811-1895) m.5代バクルー公 | |||||||||||||||||||||||||||
4代バース侯 6代ウェイマス子爵 7代準男爵 ジョン・シン (1831-1896) | ヘンリー・シン (1832-1904) | ||||||||||||||||||||||||||||
5代バース侯 7代ウェイマス子爵 8代準男爵 トマス・シン (1862-1946) | アーリック・シン (1871-1957) | ||||||||||||||||||||||||||||
6代バース侯 8代ウェイマス子爵 9代準男爵 ヘンリー・シン (1905-1992) | |||||||||||||||||||||||||||||
7代バース侯 9代ウェイマス子爵 10代準男爵 アレグザンダー・シン (1932-2020) | |||||||||||||||||||||||||||||
8代バース侯 10代ウェイマス子爵 11代準男爵 スーアリン・シン (1974-) | |||||||||||||||||||||||||||||
ウェイマス子爵(儀礼称号) ジョン・シン (2014-) | |||||||||||||||||||||||||||||
脚注
編集注釈
編集出典
編集- ^ Montague-Smith, P.W. (ed.), Debrett's Peerage, Baronetage, Knightage and Companionage, Kelly's Directories Ltd, Kingston-upon-Thames, 1968, p.119
- ^ Lundy, Darryl. “Sir Henry Frederick Thynne, 1st Bt.” (英語). thepeerage.com. 2017年11月25日閲覧。
- ^ Lundy, Darryl. “Thomas Thynne, 1st Viscount Weymouth” (英語). thepeerage.com. 2017年11月25日閲覧。
- ^ a b Heraldic Media Limited. “Weymouth, Viscount (E, 1682)” (英語). Cracroft's Peerage The Complete Guide to the British Peerage & Baronetage. 2017年11月25日閲覧。
- ^ 今井宏(編) 1990, p. 323.
- ^ a b c d e f Heraldic Media Limited. “Bath, Marquess of (GB, 1789)” (英語). Cracroft's Peerage The Complete Guide to the British Peerage & Baronetage. 2017年11月25日閲覧。
- ^ Lundy, Darryl. “Thomas Thynne, 1st Marquess of Bath” (英語). thepeerage.com. 2017年11月25日閲覧。
- ^ Lundy, Darryl. “Henry Frederick Carteret, 1st Baron Carteret of Hawnes” (英語). thepeerage.com. 2017年11月25日閲覧。
- ^ Lundy, Darryl. “George Thynne, 2nd Baron Carteret of Hawnes” (英語). thepeerage.com. 2017年11月25日閲覧。
- ^ Lundy, Darryl. “John Thynne, 3rd Baron Carteret of Hawnes” (英語). thepeerage.com. 2017年11月25日閲覧。
- ^ Lundy, Darryl. “Thomas Thynne, 2nd Marquess of Bath” (英語). thepeerage.com. 2017年11月25日閲覧。
- ^ Lundy, Darryl. “Henry Frederick Thynne, 3rd Marquess of Bath” (英語). thepeerage.com. 2017年11月25日閲覧。
- ^ Lundy, Darryl. “John Alexander Thynne, 4th Marquess of Bath” (英語). thepeerage.com. 2017年11月25日閲覧。
- ^ Lundy, Darryl. “Thomas Henry Thynne, 5th Marquess of Bath” (英語). thepeerage.com. 2017年11月25日閲覧。
- ^ Lundy, Darryl. “2nd Lt. John Alexander Thynne, Viscount Weymouth” (英語). thepeerage.com. 2017年11月25日閲覧。
- ^ Lundy, Darryl. “Henry Frederick Thynne, 6th Marquess of Bath” (英語). thepeerage.com. 2017年11月25日閲覧。
- ^ “Lord Bath dies after contracting coronavirus” (英語). BBC News. (2020年4月5日) 2020年4月5日閲覧。
- ^ “Obituary: The Marquess of Bath” (英語). BBC News. (2020年4月5日) 2020年4月5日閲覧。
- ^ Lundy, Darryl. “Alexander George Thynn, 7th Marquess of Bath” (英語). thepeerage.com. 2017年11月25日閲覧。
参考文献
編集- 今井宏(編)『イギリス史〈2〉近世』山川出版社〈世界歴史大系〉、1990年(平成2年)。ISBN 978-4634460201。