パラケラテリウム (Paraceratherium, '角のない獣の近く'の意) は、およそ3,600万 - 2,400万年前(新生代古第三紀漸新世)に、ユーラシアの広い範囲に生息していた、哺乳類サイ類の属である。ゾウ類に次ぐ史上最大級の陸生哺乳類とされる。

パラケラテリウム
生息年代: 新生代古第三紀漸新世, 34–24 Ma
インドリコテリウム骨格
P. transouralicumの全身骨格(国立科学博物館の展示品)
地質時代
新生代古第三紀漸新世
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
亜綱 : 獣亜綱 Theria
: 奇蹄目 Perissodactyla
上科 : サイ上科 Rhinocerotidae
: ヒラコドン科 Hyracodontidae
亜科 : インドリコテリウム亜科 Indricotheriinae
: パラケラテリウム属 Paraceratherium
学名
Paraceratherium Cooper1911
シノニム

Baluchitherium Forster Cooper, 1913
Indricotherium Borissiak, 1916
Thaumastotherium Forster Cooper, 1913
Aralotherium Borissiak, 1939
Dzungariotherium Xu and Wang, 1973

  • P. bugtiense (模式種)
  • P. orgosense
  • P. prohorovi
  • P. transouralicum Pavlova, 1922
  • P. zhajremensis

よく知られたジュニアシノニム(遅く記載されたため無効な名)に、インドリコテリウム (Indricotherium) とバルキテリウム (Baluchitherium) がある。これらにパラケラテリウムを加えた3属は、1989年ごろまでは別属とみなされていた。

形態

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サイの仲間であるが、角はなく、体格はウマ的でやや細身であり、首と脚が比較的長かった。

 
復元図
 
人間との大きさ比較

かつては頭胴長約8メートル、肩高約5.3メートル、体重30トンとも推測されていたが、後年では体長7.4メートル、肩高4.8メートル、首長2 - 2.5メートル、体重は約11 - 20トンとされている。これらは、肩高5.2メートル、体重22tに達したとされる最大級の長鼻目(ゾウ類)であるナルバダゾウ (Palaeoloxodon namadicus更新世南アジアに生息していたナウマンゾウと同属の古代ゾウ)に次ぐ。

頭骨長は約1.3メートルで、体躯に比してやや小さい[1]

 
パラケラテリウムの歯

雄の頭骨には骨の肥厚が認められ、縄張りや雌を巡っての儀礼的闘争を行ったとされる[2]

おそらくは柔軟な上唇を持ち、現生のキリンのように、上顎にある牙状の切歯で高木の小枝や葉をむしり取って食べたと想像される[3]。当時の彼らの生息地域には大きな樹木が大量に生い茂っており、彼らは食料となる樹木が豊富な恵まれた生息環境の中で巨大化する方向へと進化していったと考えられる。

 
後足の骨格

胴体は前肢が長いため後方に向かってなだらかに傾斜しており、脊柱は空隙などで軽量化された構造になっていた[1][3]

肢端には3本の趾があり、中央の中指に重心がかかるようになっていた。

生態

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四肢の近位部が長い形態から、巨体に似合わず高速で走れたとも言われる[3][4]。巨体であるが故に沼地などでは足をとられ、そこで死を迎えることも少なくなかったようであり、そうした場所から発見された化石もある[1]

内温性動物であるがゆえに身体に熱がたまりやすく、高温になる昼間は避け、気温が下がる夜間などに活動していたとする説もある[5]

身体の大きさから推定しておそらく妊娠期間は2年におよび、1度に1頭のみ出産したとされる。また子供は親の元で数年間養育されたであろうと考えられる。

肉歯類が幼体を襲う程度はあったかもしれないが、その巨体故に、成体にはほとんど天敵はいなかったと推測される。しかし、当時、南アジアなどのパラケラテリウムの生息域の一部には最大で体長10m近くあったとも推測される非常に巨大なワニが生息していたことが化石から確認されており、成体でも病気等で弱った個体などが捕食された可能性がある。


1000万年間近くの長きにわたって繁栄したパラケラテリウムだが、漸新世が終わると共に彼らは絶滅していったようである。ヒマラヤ山脈の造山活動による生息地の環境・気候の変化(乾燥化や寒冷化)、それによる森林の減少、漸新世終結前後にアフリカからユーラシアに進出したゾウ類等の競争相手の出現などといった様々な絶滅要因が考えられ、それらが絡んだ複合的なものかもしれない。大型哺乳動物全般に言えることだが、巨体ゆえに大量の食料を必要としていた彼らは生息環境の変化による食料不足に対して非常に弱かった。さらに、巨体ゆえの成長の遅さと繁殖率の低さも絶滅のリスクをより高めたことだろう。

研究史

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1920年代にアメリカのアンドルースらによって断片的な化石が発見されて以来、ユーラシア内陸の各地で化石が発見されたが、いずれも部分的なもので全体像がつかめず、バルキテリウム、パラケラテリウム、インドリコテリウムの3属が設定され、あるいはそれらは亜種であろうかとも考えられた。復元像も多少異なり、バルキテリウムは首が短くサイに近いもの、インドリコテリウムは首の長いものとなっていた。

1989年にはスペンサー・ルーカス英語版ジェイ・ソーバスが、インドリコテリウムとパラケラテリウムの差異はせいぜい種レベルにすぎず、しかも、同種の性的二型かもしれない、すなわち大きなインドリコテリウムが雄で小さなパラケラテリウムが雌であるかもしれないと唱えた[6]

現在ではこれら3属は同属とする説が有力になり、復元像も首の長い型に統一されている。先取権の原則によりその属の名は最古の名であるパラケラテリウムとなる。

インドリコテリウムの学名はロシアの民間伝承に登場する巨大な伝説上の動物「インドリク」に由来。日本では「巨犀」(きょさい)とも呼ばれた。

スペンサー・ルーカスとジェイ・ソーバスは、4種を認めている。他に仮説的な数種がある。

Paraceratherium bugtiense (Pilgrim, 1908)
模式種Baluchitherium osborni Forster Cooper, 1913 はシノニム。バルチスタンで発見された。
Paraceratherium transouralicum (Pavlova, 1922)
旧名 Indricotherium transouralicumBaluchitherium grangeri Osborn1923Indricotherium asiaticum Borissiak, 1923Indricotherium minus Borissiak, 1923 はシノニム。最も広く見られ、カザフスタンモンゴル、中国の内モンゴル自治区、中国北部に産する。
Paraceratherium orgosensis (Chiu, 1973)
最大の種。Dzungariotherium turfanensis Xu & Wang, 1978Paraceratherium lipidus Xu & Wang, 1978 はシノニム。新疆に産する。
Paraceratherium prohorovi (Borissiak, 1939)
カザフスタンで発見された。
Paraceratherium zhajremensis (Osborn1923)
インドに産する。
Paraceratherium sp.
南西ヨーロッパトルコに産する。

脚注

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  1. ^ a b c 今泉忠明 1995, p. 77.
  2. ^ ヘインズ & チェンバーズ 2006, p. 175.
  3. ^ a b c リチャードソン 2005, p. 182.
  4. ^ 冨田幸光 2002, p. 155.
  5. ^ ヘインズ & チェンバーズ 2006, pp. 174–175.
  6. ^ Lucas, S.G.; Sobus, J.C. (1989), “The Systematics of Indricotheres”, in Prothero, D.R.; Schoch, R.M., The Evolution of Perissodactyls, Oxford University Press, pp. 358–378 

参考文献

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  • 今泉忠明『絶滅巨大獣の百科』データハウス〈動物百科〉、1995年。ISBN 4-88718-315-1 
  • 冨田幸光『絶滅哺乳類図鑑』伊藤丙雄、岡本泰子、丸善、2002年。ISBN 4-621-04943-7 
  • ティム・ヘインズ、ポール・チェンバーズ『よみがえる恐竜・古生物』椿正晴(訳)、群馬県立自然史博物館(監修)、ソフトバンククリエイティブ、2006年。ISBN 4-7973-3547-5 
  • ヘーゼル・リチャードソン、デイビッド・ノーマン(監修)『恐竜博物図鑑』出田興生(訳)、新樹社〈ネイチャー・ハンドブック〉、2005年。ISBN 4-7875-8534-7 

関連項目

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