お守り
お守り(おまもり、御守り、御守)とは、厄除け(魔除け)、招福(開運、幸運)、加護などの人の願いを象った物品(縁起物)である。護符、御符[1]苻[2]とも呼ばれる。外来語で言うとアミュレット[3]、タリスマン[4]、チャーム[5]、テフィリン、フェティッシュ[6]など。外来語のアミュレット、チャーム、タリスマン等には明確な定義の違いがあるが[7]、小野祖教氏[8]によれば神道において御札、お守り、護符等の言葉の定義に違いはなくどれを使っても問題はないという。[9]
日本の神社や寺院で配布されるお守りやお札は鎌倉時代から存在するが、これらは道教の符録を日本化して利用したのが始まりである[10]。という説もあるが、日本で護符や呪符と呼ばれるものが作られ始めたのは奈良、平安時代以前であり、古代中国で用いられた魔除けを目的とした図像が日本の古墳の石室の壁から見つかる他[11]、奈良文化財団研究所が発掘している平城京跡の木簡から道教の護符と似たものが発見されている[12]また神道では、陰陽道や寺院が護符を作り始めたのに習い、御札をつくるようになったという。[13]
護符の種類・形状
編集さまざまな形態の護符がある。
自然系
編集動植物や自然になんらかの超常的な力を見出してお守りとする。
- その他(山など)
架空生物系
編集宝石・金属系
編集イコン系
編集神や宗教者を像として形作ったり、図画にして用いる。
文字
編集文字を使った護符は世界中に存在するが、多くが聖典を引用した呪文、神や仏の名前もしくはそれを表すイニシャル、特定のシンボルを文字で表したものが多い[18]
- イスラエルのヘブライ大学によれば、ユダヤ教の護符には様々なタイプが存在するが、神の名前、神の名前のイニシャル、聖典から引用された聖なる句。その他に蝋台(メノーラやメノラーと言われる)やイスラム教でも使われるファティマの手と同じような手、神の名前のイニシャル、ダビデの星と呼ばれる六芒星、これらのシンボルを文字で模ったものを護符に使用するという。特に神の名前は発音してはならないと言われており、故に名前を記だけで魔を避ける効果があるとされる。[19]
- イスラム教では魔術を行ったり、魔術的なものを身につけることは重罪とされる。[20]コーランはアラビア語で書かれたものが聖典であり、他の訳はあくまで翻訳本に過ぎないという。アラビア語で記されたコーランは神聖なものであり、それを信じることで、人は魔除けに頼らなくともよくなる。コーランには許される行為と許されざる行為を定義したハラールとハラームがあるが、最も許されざる行為に魔術が当たる。東京にあるモスクの東京ジャミーの頒布物のほぼ全てがトルコ政府宗務庁の出版物であるが、ここの見解によれば聖書たるコーランを読みイスラムの正しい教えを信じていれば魔や邪を退けることが出来るので、護符は必要がないとしている[21]が、実情としてファティマの目やファティマの手というような護符が存在しイスラム圏で用いられている。それについてもトルコ宗務庁が土着の信仰とイスラム教の教えが混ざり間違って信仰をしているものがいるが、そのようなもの[22]を持つことは相応しくないと書いている。
- 特定の宗教に限定されるものではないが、アブラカダブラという呪文がある。イギリスの小説ハリーポッターには死の呪文「アバダ ケダブラ」があるがこれは「息絶えよ」という意味である。一方、アブラカダブラは聖書ヘブライ語やアラム語、ギリシャ語で表記され「雷によって死に絶えよ」という意味があるという。[23]雷避けの呪文とされた他、アブラカダブラという文字を三角形に並べ、一文字づつ消したものや、逆三角形にしたものを持つことで雷を避ける他、災いや病気から身を守る効果があったとされて来た。[24]また落雷よけの魔除けには、雷の力を宿したとされるものがあるがそれは自然物の項に記す。
お札系
編集ご利益のある文言や図画を書き記したもの。50音順に示す。
- 大津絵
- 神札 - 神社の名前や祭神を書いた札。神社の神札・御守りは陰陽道の護符に起源があるという[25]。[26]
- 蘇民将来 - 「蘇民将来子孫家門」と書いた札を家の門に貼り、牛頭天王の加護を求める。[27]
- 符録 - 中国における道教のお札、#符録、召神徠鬼、趨吉避凶[28]、降妖鎮魔、治病除災のお札がある。
- 護身符 - 中国民間信仰で厄を退ける符。
- 梵字[29]
- 魔法陣[30]
- 魔方陣[31]
コイン系
編集コイン、もしくはコインの形状のものをお守りとみなす。
アクセサリー系
編集50音順。
- 千人針 - 太平洋戦争中、出征する兵士に贈られた。白い布に女性が1針ずつ玉結び(玉止め。弾と掛けた願掛け)を縫い付けたもので、腹巻とした。また、縁起をかつぐために銭貨や虎の模様を縫い付けることもあった。外来的な分類でいえば防具的効果を無しに矢が体に当たるのを防ぐ等の魔術的効果を期待しているものと同じ為、アミュレットに分類できる。[33]
- ピアス -耳から悪霊が入るのを防ぐ護符とされた
- ネックレス -呪術や豊作祈願等でも身につけられた
- ピアス - 耳から悪霊が入るのを防ぐ護符とされた
- ブレスレット - 身につけるタイプのお守りとして、現代でも使われている 神むすび等
- ポクポン - タイに伝わる、毛糸で出来たお守りを現代風にアレンジしたもの。
- 指輪 -魔除けの指輪など
その他
編集- 自作 - 部活/スポーツの仲間とお揃いで作る場合など[36]。フェルトやレジン、ミサンガをビーズ、プラ板などで作られる。その際によく使用されている言葉は、漢字1文字~4文字が一般的[注釈 1][要出典]。
- 千羽鶴 - 折り紙を用いて神聖な鶴の形を作り、それを千個作ることでなんらかの願掛けとする。折鶴自体は古くからあり、当初は必ずしも千個ではなかった(千は日本において「とても多い」の漠然とした意味)。
- 武器 - 戦闘や護身、狩猟のために使われた刀剣や弓矢などの武器は、慶事の縁起物や弔事の魔除けとして登場する[37]。
- ヘラクレスクラブ - 英雄ヘラクレスのこん棒を模したお守り。ローマ人の間で流行したものだが、ゲルマン人側ではドナー(トール)のこん棒というお守りがある[38]。
近年の傾向
編集近年の傾向として、厄除けと開運の御利益が同時に得られるとして、日本三大厄除け開運大師の、埼玉厄除け開運大師の通称で知られる龍泉寺、兵庫県の門戸厄神東光寺、広島県の大聖院などの寺院が人気を集め、このうち龍泉寺の「大開運守」は2020年にはヤフーの全国最強開運お守り10選で1位に選ばれるなどした。龍泉寺の2024年の初詣大祈願祭の人出は前年50万人から70万人に増えた[39]。
参考文献
編集脚注に使用したもの。主な執筆者、編者の順。
- 下出積与『道教と日本人』講談社〈講談社現代新書〉、1975年、187-191頁。
- 世界のお守り研究会 編『集めてみました開運世界のお守り』講談社、2009年1月、39頁。ISBN 9784062151832。
- 中山伸一『世界大百科事典』 31巻(改訂新版)、平凡社、2014年12月1日。
- 平凡社 編『神道大辞典』 1巻、平凡社、1941年、286頁。doi:10.11501/1913333。NDLJP:1913333。
- 北信郷土叢書刊行会 編「一、六文錢紋付品」『北信郷土叢書』(巻十一)北信郷土叢書刊行会、昭和10年、860頁。doi:10.11501/3434646 。
- 鎌原桐山「朝陽館漫筆」巻之36(文化9年)
- 片岡志道「越奥戦争見聞録」承前
- 岡川美矩「家童示訓」
- 本荘市 編「千葉元胤作扇面図脇差拵揃金具一括(10個)」『本荘市史』《文化・民俗編》本荘市、2000年3月。doi:10.11501/9541165。NDLJP:9541165 。全国書誌番号:20062179
- 外国語の書籍
- (中国語) 陰陽學 : 趨吉避凶的實用絶學 : 闡發易學精義宏揚中華文化 (增修本 3版 ed.). 劉訓昇. (1979-07)
- 李亮 「灿烂星河-中国古代星图」中国科学院/邦題:李亮「中国古星図」望月暢子 訳/科学出版社東京
- Sheila Paine「AMULETS :A World of Secret Powers, Charms and Magic 」Thames & Hudson/邦題: シーラ・ペイン 訳: 福井正子「世界お守り・魔よけ文化図鑑」柊風舎
脚注
編集注釈
編集- ^ 勝、絆、夢、進、笑、必勝、上昇、信頼、仲間、入魂、全力、勝利、挑戦、一致団結、七転八起、獅子奮迅、前程万里、獅子搏兎、百折不撓など。
出典
編集- ^ 護符・御符(『大辞林』第三版 - コトバンク)
- ^ 日蓮宗では符ではなく草冠の苻の字を使う 日蓮宗大事典より
- ^ シーラ・ペインによれば、アミュレットの定義は魔除けを第一の効果とするもので、物理的な手段を取らず魔法的な力で身体を保護するものを指す。世界お守り・魔よけ文化図鑑-シーラ・ペイン
- ^ シーラ・ペインによれば、タリスマンの定義は魔法の力が強力に込められているものであり、魔法の力を強める、魔法によって原因を取り除く攻撃的防御性など持ち儀式に使われることが多い。世界お守り・魔よけ文化図鑑-シーラ・ペイン
- ^ シーラ・ペインによれば、チャームの定義は幸運を呼ぶものであり、アミュレットのような効果が期待されるが、魔除けの効果は副次的なものであり、運を良くする目的が第一のものを指す。世界お守り・魔よけ文化図鑑-シーラ・ペイン
- ^ シーラ・ペインによれば、フェティッシュの定義は霊魂が込められている呪物を指す。呪物には供物を捧げる必要があり、呪詛を撒く攻撃性と魔除けの防御性を重ね持つ。元は西アフリカのお守りを指す言葉であった。世界お守り・魔よけ文化図鑑-シーラ・ペイン
- ^ もちろん混在されて使われることもあるという。 世界お守り・魔よけ文化図鑑-シーラ・ペイン
- ^ 神道神職を養成する学科をもつ國學院大学の教授や神社神道の包括宗教法人たる神社本庁の教化部で働いていた
- ^ 神道の基礎知識と基礎問題 小野祖教 著・澁川謙一 改訂 神社新報社
- ^ 下出 1975, pp. 187–191
- ^ 中国古星図 李亮 著/望月暢子 訳/科学出版社東京
- ^ 奈良文化財団研究所(https://www.nabunken.go.jp/ )
- ^ 神道事典p195
- ^ 中山 2014, 『世界大百科事典』
- ^ 富士山など縁起の良い、祝祭的モチーフを描くことで、あらかじめ病から回復を祝ってしまおうという発想からくるものとされる。矢島新『日本美術の核心』ちくま新書、2022年、p.234
- ^ Ralph (2017年7月6日). “HAG STONE – SACRED, POWERFUL, MAGICKAL”. Green Geeks. 2024年1月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年1月12日閲覧。
- ^ ereshkigar (2022年9月13日). “魔女の石、魔除けの石、ドルイドの石、蛇の石であるハグ・ストーンに穴を開けたのは誰ですか?”. Hatena Blog. 2024年1月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年1月12日閲覧。
- ^ (「Amulette,Magie,Talisman」L. Lenz Kriss-Rettenbeck/Lieselotte Hansmann)
- ^ ヘブライ文字の美
- ^ コーラン
- ^ 「イスラーム-普遍的な宗教とその文明」「イスラームQ&A」「イスラームの基礎知識」「イスラーム正しい理解のために」トルコ宗務庁
- ^ つまりはファティマのうんたらとつくようなイスラム圏に存在する護符
- ^ 冬木 亮子「ハリ-・ポッタ-で読む伝説のヨ-ロッパ魔術」
- ^ 「 世界お守り・魔よけ文化図鑑」シーラ・ペイン、
- ^ 『神道大辞典』 1941, p. 286, 第1巻
- ^ 現代は印刷が主流で何も書かれていない厚紙に薄紙を巻き、そこに神名等を書いたものが主流。以前は薄紙の下に呪文や祝詞、神名が書かれていた。現代、最もオーソドックスなタイプは、神名もしくは神社名(プラスで家内安全、商売繁盛等の利益名)と中央に神様を表す神璽という文字を吉祥雲や波などの模様で囲った印章、下部に神社名もしくは云々神社之印や宮司之印という印章が押されたもの。
- ^ 伝説ではそういう話であるが、現実的に存在する蘇民将来には紙の御札、しめ縄についた木の札、八角形の棒状のもの等、多様な形があり必ずしも札とは言い切れない。
- ^ 劉 1979, 『陰陽學』
- ^ 梵字に相対する仏の力により魔を避けるという説がある
- ^ 魔法陣には魔除けの他、儀式用など多様な用途があるが、古代から力を持つとされるシンボルや神や悪魔の名前、聖なる呪文等を組み合わせたものが魔除けとして使われる。(「魔術の歴史」クリス・ゴステン)また西洋魔術研究者の江口之隆氏によれば中世の魔術師の作、また中世の魔術書などの謳い文句がある魔術書に記された魔法陣の殆どが近現代捏造だという。
- ^ 魔法陣ではなく魔方陣。現在では数学的な用法がメインだが古くは魔除けの効果もあった。方陣とはマスの中に文字や図像を入れたもので、魔方陣とは縦横で出し引きした際に同じ数字になるように数字が入れられた。そのマスの完璧性が魔を避けるとされ、古代インドで魔除けとして用いられた。テントの中記された例もあり、日本でも城の石垣や仏教の御札にも使われている。(かたちの謎を解く-魔除け百科より)
- ^ 『北信郷土叢書』 1940, p. 860, 「一、六文錢紋付品」
- ^ 世界お守り・魔よけ文化図鑑-シーラ・ペイン
- ^ “四天王寺の国宝「懸守」の内部に3センチの如来像”. 産経ニュース. SANKEI DIGITAL INC (2018年2月10日). 2023年11月14日閲覧。
- ^ 国立国会図書館. “懸守の作り方が知りたい。(平安時代のお姫様が胸につけていた。)大阪四天王寺の懸守が『朝日百科日本の国...”. レファレンス協同データベース. 2023年11月14日閲覧。
- ^ “部活の仲間とお揃い!フェルトやレジンで手作りお守り♡”. 初心者女子のためのスポーツメディア♡ | spoitスポイト. 2021年5月21日閲覧。
- ^ 本荘市 2003, 「扇面図脇差拵(あつらえ)揃金具(そろいのかなぐ)」
- ^ 世界のお守り研究会 2009, p. 39
- ^ “全国最強ヤフー1位も!すごい人気「大開運守」、関東で唯一“同時御利益”の埼玉・龍泉寺 全国から参拝客が押し寄せる “初詣大祈願祭”を開催中、人出が例年以上「昨年は50万人、今年は70万人になりそう」”. Yahoo!NEWS (2024年1月6日). 2024年3月13日閲覧。