てんぐ巣病
てんぐ巣病(てんぐすびょう)は、植物(多くは樹木)の茎・枝が異常に密生する奇形症状を示す植物病害の一種。高い木の上に巣のような形ができるためこの名がある。英語ではwitch's broom もしくはwitches' broom(魔女のほうき)という。
原因
編集てんぐ巣病にかかると一般的に「てんぐ巣症状」と呼ばれる枝の著しい叢生や変形が引き起こされる[1]。ただし、その原因となる微生物は多様で、菌類やファイトプラズマ、ウイルスなどがある[2]。直接的な原因はこれらの植物病原菌によって枝分かれに関連する植物ホルモンのオーキシンやサイトカイニンの合成量が変化することで引き起こされると考えられている[2]。しかし、タケ類てんぐ巣病のように直接的な原因がよくわかっていないものもある[2]。
菌類
編集- カカオてんぐ巣病
- カカオてんぐ巣菌によって引き起こされる。ブラジルの熱帯雨林に棲息していたと推定され1980年代末から1990年代初頭の大流行ではブラジルのカカオ生産が半減する大打撃を受けた。
- サクラてんぐ巣病
- サクラてんぐ巣病菌(Taphrina wiesneri)によって引き起こされる[1]。サクラてんぐ巣病菌は子嚢菌門タフリナ科に属する[1]。
- タケ類てんぐ巣病
- タケ類てんぐ巣病菌(Aciculosporium take)によって引き起こされる[2]。
ファイトプラズマ
編集ファイトプラズマを原因として、野菜に発生するものにサツマイモてんぐ巣病、マメ類てんぐ巣病、ジャガイモてんぐ巣病、フキ萎縮症(フキてんぐ巣病)、ミツバてんぐ巣病(シュンギクてんぐ巣病)、イチゴてんぐ巣病、花卉に発生するものに香料ゼラニウムてんぐ巣病、リンドウてんぐ巣病、スターチスてんぐ巣病、アネモネてんぐ巣病、シネラリアてんぐ巣病、ツワブキてんぐ巣病、サボテンてんぐ巣病、樹木に発生するものにキリてんぐ巣病がある[3]。
対処方法
編集一度発病した患部を元へ戻す有効な薬剤はなく、春先に黄粉が発生する前にてんぐ巣病の患部を切除、焼却することを優先する。切除後は、周囲に病巣が拡大しないようにボルドー液やダイセン水和剤などの殺菌剤を散布する。予防方法として、空気の流通不良の林分に発生することから、枝打ちや本数調整を行う[5]。
脚注
編集- ^ a b c 升屋勇人、菊地泰生、佐橋憲生「サクラてんぐ巣病研究の新展開」『日本森林学会誌』、一般社団法人日本森林学会、2015年。
- ^ a b c d 泉津弘佑「タケの花とてんぐ巣病」 滋賀県立大学環境科学部、2023年6月11日閲覧。
- ^ a b 難波成任「MLOからファイトプラズマへ―ファイトプラズマの分類」『植物防疫』第50巻第4号、1996年。
- ^ a b 西村典夫「ミツバてんぐ巣病及びタマネギ萎黄病のヒシモンモドキによる伝搬」『日本植物病理学会報』、日本植物病理学会、2004年。
- ^ 伊藤一雄「アスナロ」『新版 林業百科事典』第2版第5刷 p11 日本林業技術協会 1984年(昭和59年)発行