こんにゃくゼリー
こんにゃくゼリー(蒟蒻ゼリー)は、ゲル化剤としてゼラチンの代わりにコンニャクの粉末、または精製された食物繊維を果汁等に混ぜて固めた弾力に富むゲル状の生菓子である。
概要
編集コンニャクを用いることにより、通常ゼリーと呼称される壊れやすいゲル状の食品やキャンディではなく、弾力の強い食感が特徴の生菓子。ゼラチンや寒天を追加することもある。食物繊維が多いコンニャクの特徴に着目したものであり、健康やダイエットによいと宣伝されている[1]。
マンナンライフ(群馬県富岡市)とオリヒロ(群馬県高崎市)が大手で、ともに売上高100億円超の規模を持つが、下仁田物産(オーイズミグループ、群馬県下仁田町)、ヨコオデイリーフーズ(こんにゃくパークを運営、群馬県甘楽郡甘楽町)、雪国アグリ(群馬県沼田市)なども一定のシェアを持つ。こんにゃくいもの産地が群馬県であるため、ほとんどが群馬県のメーカーで、群馬県内で製造されているが、たらみ(長崎県長崎市)など他県のメーカーもある。
製法
編集窒息事故
編集窒息事故の可能性と各国の対応
編集ゼラチンのものに比べて弾力性が高く、口腔内の温度でも溶解しないため誤嚥しやすく、咀嚼力の弱い幼児や老人が噛まずに飲み込んだ場合、最悪喉に詰まらせ窒息死する恐れも指摘される。容器から直接に食べるため、吸気と一緒に咽頭や喉頭に嵌頓することも、窒息事故の原因と推定されている。
実際に死亡事故も発生しているため、欧州連合では2003年からゼリー菓子の材料にこんにゃくを使用することを禁止しており、韓国やアメリカ合衆国でもこれに追随する形で、販売の禁止または事実上の流通停止を行っている[2]。
日本では、一口ずつ噛み切って食べるようにパッケージへの記載や、グルコマンナン濃度の低下など物性や形状等の工夫がはかられているが、国民生活センターによると、1995年から2008年までの間に22件の死亡事故が発生しているとされ[3]、このことが2007年から2008年にかけて報道された際には大きな社会的関心を集めた。国会やマスメディアがこの問題を取り上げ菓子メーカーの企業責任を厳しく追及し、日本でも海外のようにこんにゃくゼリーを全面的に禁止すべきであるという意見も出され、社民党の福島みずほ党首と近藤正道参院議員からはこんにゃくゼリーの製造・輸入・販売の即時禁止と企業への責任追及と自主回収要求する「申し入れ」が野田聖子消費者行政担当大臣に要求された[2][4]。こんにゃくゼリー最大手であるマンナンライフは対策を取るために一時生産を停止し、後に生産を再開する際にも警告文を大きく表示するなどの対応を迫られたほか、同業他社も同様の対策を取ることになった[5]。
こんにゃくゼリーの全面禁止がスムーズに進んだ世界各国とは違い、日本の世論は賛否に分かれた。日本はこんにゃくが食品として流通する国としてこんにゃくゼリーに親しんでいる背景もあり、前述のように日本において菓子メーカーの責任が関心を集めた際には、こんにゃくゼリーの販売中止に反発するインターネット上の署名運動もまた1か月間で2万7000筆を集めるなど、菓子メーカーへのバッシングに対する反発や同情の声も寄せられた[6]。
事故の発生件数・発生確率
編集13年間で22件という死亡件数は、「餅」「ご飯」「パン」などを喉に詰まらせ窒息死する事故の件数と比較すると極めて少なく[7]、毎年4,000件以上にもなる食品による窒息死亡事故のうち平均1.7人程度(0.04%)を占めているに過ぎないため[8]、こんにゃくゼリーだけを問題視することには異論もある。
後に、内閣府の食品安全委員会が特定の食品類を1億回口に入れた場合に窒息死する頻度を推計したところ、こんにゃくゼリーによる死亡リスクは0.16〜0.33人とされ、飴類(1.0〜2.7人)と同程度としつつも、ワースト1位の餅(6.8〜7.6人)と4位のパン(0.25人)の間に位置する危険度があるという結果を発表している[9]。
死亡事故のみならず軽症や中等症で済んだ事故を含めた統計では、こんにゃくゼリーによる事故が窒息事故全体に占める件数は更に少ないものとなるが[10]、それは逆に言えば、いざ喉に詰まらせた場合に軽傷で済んでいる者が少なく死亡率が高いという解釈もできる。
消費者庁は、こんにゃくゼリーを喉に詰まらせた場合の重症率を85.7%(7件中6人)と算出し、2位のしらたき・糸こんにゃく(71.4%、7件中5人)を上回り、カステラやヨーグルトと同程度の重症率でしかない餅(54.7%、406件中222人)よりも、はるかに危険な食べ物であるという見解を発表している[11]が、この統計の手法を疑問視する意見もある[10]。
こんにゃくゼリーの危険性が報道によって周知され対策が行われていた2008年7月にも、兵庫県で1歳9か月の幼児に祖母が警告文を読まず、報道でも危険と指摘されていたこんにゃくゼリーを凍らせた状態で与え、ゼラチン原料のゼリーと同感覚にこんにゃくゼリーを噛まずに(吸い込むように)呑み込み、喉に詰まらせて気道閉塞によって窒息死させてしまうという事故が発生している[12]。
ゼラチン原料の通常のゼリーでも窒息事故は発生しており、吸い込むように飲み込むのは危険である。また、製造者が意図していない「凍らせる」「冷やす」といった危険性を高める要素が加わると、粘性が高まったり、粘膜に付着し易くなったりして、窒息のおりに取り出すのが更に困難となる。ゼラチンと違い体温で柔らかくなったり溶けたりしないグルコマンナンの性質も窒息の可能性を増加させている。国民生活センターでは「子どもや高齢者に絶対に与えない!」という警告を発している[12]。
消費者庁の対応
編集消費者庁の見解は揺れており、2010年6月には規制の根拠が明確ではない以上、現段階での法規制は困難であるという考えを示し、法規制は行わないという意向を示している[13]が、7月にはそれを撤回し、「法規制が必要」という見解を示しているが[14]、2022年3月時点でも法規制されず販売は続けている。
メーカー・業界団体の対応
編集マンナンライフは、窒息事故の危険性が指摘された従来の「ポーションタイプ」に対して、砕かずに呑み込むことが可能な「クラッシュタイプ」のこんにゃくゼリーを2008年に開発し販売した。こちらでの事故は報告されておらず、また消費者庁より特保の認可を得て、徐々に市場規模を拡大している。
現在、全国こんにゃく協同組合連合会、全国菓子工業組合連合会、全国菓子協会の3者では、加盟社の販売する一口タイプこんにゃく入りゼリー(ミニカップタイプ、袋物等)について「こんにゃく入りゼリー警告マーク」を記載するとともに「お子様や高齢者の方は食べないでください」という文を製品に併記している[15]。
損害賠償請求訴訟
編集前述の1歳男児の死亡事故に関して、男児の両親が、マンナンライフを相手方として、神戸地方裁判所姫路支部に、製造物責任法に基づき約6200万円の損害賠償を請求する訴訟を提起した。しかし、2010年11月17日の第1審判決は、原告の主張した設計上の欠陥、包装袋の警告表示の欠陥、不適切な販売方法の3点いずれについても製造物責任法上の欠陥を認めず、請求を棄却した[8][16][17]。
脚注
編集注釈
編集出典
編集- ^ “株式会社マンナンライフ”. 2010年2月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年10月10日閲覧。
- ^ a b “こんにゃくゼリーで11人死亡 外国で禁止なのになぜ放置”. J-CASTニュース (ジェイ・キャスト). (2007年5月24日) 2010年4月1日閲覧。
- ^ “こんにゃく入りゼリーによる死亡事故一覧(ご注意ください)_国民生活センター”. 2008年12月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年10月10日閲覧。
- ^ “こんにゃくゼリーで11人死亡 外国で禁止なのになぜ放置: J-CAST ニュース”. 2008年10月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年10月10日閲覧。
- ^ “ミニカップタイプのこんにゃく入りゼリーによる事故防止のために(報道発表資料)_国民生活センター”. 2007年7月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年10月10日閲覧。
- ^ “製造中止「蒟蒻畑」に同情1万人…ネットに反対の声”. ZAKZAK (産業経済新聞社). (2008年10月16日). オリジナルの2008年10月19日時点におけるアーカイブ。 2010年1月31日閲覧。
“こんにゃくゼリーメーカーに激励の声殺到 ネットでは販売中止反対の署名活動”. J-CASTニュース (ジェイ・キャスト). (2008年10月17日) 2010年1月31日閲覧。
藤代裕之「こんにゃくゼリー規制論にネットはなぜ反発するか」『IT+PLUS』日本経済新聞社、2008年10月17日。オリジナルの2008年12月12日時点におけるアーカイブ。2023年10月10日閲覧。
筑波君枝 (2008年10月24日). “蒟蒻畑で威力を発揮!ネット時代の署名活動”. All About. オールアバウト. 2009年3月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年10月10日閲覧。
“こんにゃくゼリー販売中止署名 目標の27倍集まる”. アメーバニュース (サイバーエージェント). (2008年11月4日). オリジナルの2008年12月8日時点におけるアーカイブ。 2010年1月31日閲覧。 - ^ “「食品による窒息の現状把握と原因分析」調査について”. 厚生労働省. 2010年1月31日閲覧。
- ^ a b 宮沢賢一、川田惇史「こんにゃくゼリー窒息死訴訟、両親の訴えを棄却」『asahi.com』2010年11月17日。オリジナルの2010年11月20日時点におけるアーカイブ。2023年10月10日閲覧。
- ^ “こんにゃく入りゼリー等食品による窒息事故に係るリスク評価に関連する情報” (PDF). 食品安全委員会 (2010年1月15日). 2010年4月19日閲覧。
「こんにゃくゼリーの窒息リスク「あめ類と同程度」 食品安全委」『日経ネット』日本経済新聞社、2010年1月13日。オリジナルの2010年1月16日時点におけるアーカイブ。2010年1月31日閲覧。
小林未来 (2010年1月14日). “こんにゃくゼリー「事故頻度、アメと同等」 食品安全委”. 朝日新聞 朝刊13版 (朝日新聞社): p. 29面. オリジナルの2013年9月26日時点におけるアーカイブ。 2010年1月31日閲覧。 - ^ a b Garbagenews.com「「こんにゃくゼリーの窒息、重症率85%」は本当か、適切な表現なのか」『サーチナニュース』サーチナ、2010年7月3日。オリジナルの2011年12月8日時点におけるアーカイブ。2023年10月10日閲覧。
- ^ “窒息事故の詳細分析について(食品(1))” (PDF). 消費者庁. 2010年7月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年7月18日閲覧。
“食品SOS対応プロジェクト報告 こんにゃく入りゼリーを含む食品等による窒息事故リスクの低減に向けて” (PDF). 消費者庁 (2010年7月16日). 2011年3月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年7月18日閲覧。
「こんにゃくゼリーの窒息、重症率85% 消費者庁分析」『asahi.com』朝日新聞社、2010年7月1日。オリジナルの2010年7月3日時点におけるアーカイブ。2023年10月10日閲覧。 - ^ a b “またひとり こんにゃく入りゼリーで死亡-子どもや高齢者に絶対に与えない!-”. 国民生活センター (2008年9月30日). 2008年9月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年10月10日閲覧。
- ^ 「こんにゃくゼリー「規制難しい」…消費者庁」『YOMIURI ONLINE』読売新聞社、2010年6月15日。オリジナルの2010年6月18日時点におけるアーカイブ。2023年10月10日閲覧。
- ^ 「こんにゃくゼリーの形・硬さ「法規制が必要」 消費者庁」『asahi.com』朝日新聞社、2010年7月16日。オリジナルの2010年8月16日時点におけるアーカイブ。2023年10月10日閲覧。
- ^ 『2011年版 くらしの豆知識』独立行政法人国民生活センター、2010年、250頁。
- ^ 「こんにゃくゼリー「欠陥なし」…地裁支部が認定」『YOMIURI ONLINE(読売新聞)』2010年11月17日。オリジナルの2010年11月20日時点におけるアーカイブ。2023年10月10日閲覧。
- ^ 「「すべて棄却、予想外」こんにゃくゼリー欠陥認めず」『YOMIURI ONLINE(読売新聞)』2010年11月18日。オリジナルの2010年11月20日時点におけるアーカイブ。2023年10月10日閲覧。
関連項目
編集外部リンク
編集- 食品による窒息事故に関する研究結果等について(pdf) 厚生労働省(窒息事故について検討されている)
- 財団法人日本こんにゃく協会
- 全国菓子工業組合連合会
- 「こんにゃく入りゼリー」よりものどに詰まって死亡した件数が多い危険な食べ物ベスト10
- 食べ物による窒息事故を防ぐために(pdf) 食品安全委員会
- こんにゃく入りゼリーをはじめとする食品等に起因する窒息事故の防止に関する取組みについて(ウェイバックマシン、2010年12月31日) - http://www.caa.go.jp/safety/index2.html[リンク切れ]