X線発光分光法(Xせんはっこうぶんこうほう、X-ray Emission Spectroscopy: XES)は物質の電子状態を調べるために使われている手法である[1]。測定対象となる物質は、気体固体液体溶液などと幅広い。

軟X線発光を生じさせるための励起源としては電子線X線管などが用いられることもあるが、現在では、エネルギー可変で強度の強いX線が得られるシンクロトロン放射光施設を光源として行われる実験が主流である。発光が軟X線領域のX線である場合には軟X線発光分光法(Soft X-ray Emission Spectroscopy: SXES)と呼ばれることもある。

X線発光分光法では、電子線による励起やX線の吸収などによって生じるX線発光を、回折格子分光器[2]結晶分光器を用いてエネルギー分析することで、測定対象の物質の電子状態を観測する。エネルギー可変な放射光を励起光源として使用する場合には、X線の吸収の特徴である元素選択性を利用して、物質中の元素ごとに部分的に電子状態を観測することができる特徴がある。したがって、同じく電子状態を調べるための手法である光電子分光法と比べて、多成分系においても解析が容易であるという特徴がある。

応用分野

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X線発光分光法は、原子分子、固体物理、物質化学、化学、地学、生物学など幅広い分野で利用されている。X線発光分光法は、元素選択性をもつことなどの特徴があることから、以下のような幅広い物質系において利用されている。

  • 固体試料
  • 不純物が導入された半導体
  • 半導体中の埋もれた界面[3]
  • 水溶液中の金属含有タンパク[4]
  • 溶液、水溶液[5]

脚注

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  1. ^ 村松康司、「シンクロトロン放射光を用いた軟X線発光分光法」 2001/11/20 放射線利用振興協会.
  2. ^ たとえば 軟X線発光分光器
  3. ^ 山下良之, 山本達, 向井孝三, 吉信淳, 原田慈久, 徳島高, 高田恭孝, 辛埴, 赤木和人, 常行真司「軟X線吸収発光分光法によるSiO2/Si界面電子状態のサイト選択的観測」『表面科学』第26巻第9号、日本表面科学会、2005年、514-517頁、doi:10.1380/jsssj.26.514 
  4. ^ Yoshihisa Harada and Munetaka Taguchi and Yoshiharu Miyajima and Takashi Tokushima and Yuka Horikawa and Ashish Chainani and Yoshitsugu Shiro and Yasunori Senba and Haruhiko Ohashi and Hidetoshi Fukuyama and Shik Shin (2009). “Ligand Energy Controls the Heme-Fe Valence in Aqueous Myoglobins” (英語). Journal of the Physical Society of Japan 78 (4): 044802-044802. doi:10.1143/jpsj.78.044802. https://doi.org/10.1143/jpsj.78.044802.  ( 要購読契約)
  5. ^ 徳島高、原田慈久、辛埴「実験技術 液体や溶液の価電子状態を元素選択的に観る : SPring-8軟X線ビームラインBL17SUにおける軟X線発光実験」『日本物理学会誌』第63巻第11号、日本物理学会、2008年、852-857頁、CRID 1520009408609675392ISSN 00290181NAID 110006990273 

外部リンク

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