tert-ブチルヒドロペルオキシド

tert-ブチルヒドロペルオキシド (tert-butyl hydroperoxide) とは有機ヒドロペルオキシドの一種。有機合成化学において、酸化剤、再酸化剤として用いられ、TBHP と略称される。純度の高い TBHP は爆発性があるとされており、通常の取り扱いは水溶液で行われる。

tert-ブチルヒドロペルオキシド
Skeletal formula of tert-butyl hydroperoxide Ball-and-stick model of the tert-butyl hydroperoxide molecule
識別情報
略称 TBHP
CAS登録番号 75-91-2 チェック
PubChem 6410
ChemSpider 6170 チェック
UNII 955VYL842B ×
EC番号 200-915-7
国連/北米番号 3109
MeSH tert-Butylhydroperoxide
ChEMBL CHEMBL348399 チェック
RTECS番号 EQ4900000
バイルシュタイン 1098280
特性
化学式 C4H10O2
モル質量 90.12 g mol−1
外観 無色の液体
密度 0.935 g/mL
融点

−3℃

沸点

37℃ (at 2.0 kPa)

への溶解度 混和する
log POW 1.23
酸解離定数 pKa 12.69
塩基解離定数 pKb 1.31
屈折率 (nD) 1.3870
熱化学
標準生成熱 ΔfHo −294±5 kJ/mol
標準燃焼熱 ΔcHo 2.710±0.005 MJ/mol
危険性
安全データシート(外部リンク) [1]
GHSピクトグラム 可燃性 支燃性・酸化性物質 腐食性物質 急性毒性(高毒性) 経口・吸飲による有害性 水生環境への有害性
GHSシグナルワード DANGER
Hフレーズ H226, H242, H302, H311, H314, H317, H331, H341, H411
Pフレーズ P220, P261, P273, P280, P305+351+338, P310
主な危険性 酸化剤
NFPA 704
4
4
4
引火点 43 °C (109 °F; 316 K)
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

反応

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TBHP の利用は、塩基を作用させ t-BuOO- の形で求核剤とする利用と、毒性や価格が高い酸化剤の使用を触媒量に抑えるための再酸化剤としての利用に大別される。

アルケンの酸化

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水酸化トリエチルアンモニウムの塩基条件で、TBHP を触媒量の四酸化オスミウムとともにアルケンに作用させると 1,2-ジオールが得られる。

TBHP を触媒量の二酸化セレンやジフェニルジセレニドとともに用いて、アルケンやアルキンアリル位、プロパルギル位をヒドロキシ化できる。触媒としてクロムの塩を用いアリル位をオキソ化する反応も知られる。

モリブデンヘキサカルボニル (Mo(CO)6) やバナジルアセチルアセトナート (VO(acac)2) を触媒、TBHP を再酸化剤としてアルケンをエポキシドとすることができる。さらに、香月・シャープレス不斉エポキシ化は、不斉チタン触媒と TBHP を用いてアリルアルコール誘導体からキラルなエポキシドを得る優れた反応である。

 
香月・シャープレス不斉エポキシ化

カルボニル基と共役したアルケンは、塩基条件下に TBHP を作用させると t-BuOO- によるマイケル付加を経てエポキシドに変えられる。

その他

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TBHP 存在のもと、ジメシチルジセレニド触媒や、クロム、モリブデン、バナジウムといった金属触媒によりアルコールをアルデヒドやケトンに変える手法が知られる。

適切な触媒を選ぶことで、スルフィドスルホキシドスルホンに、ホスフィンをホスフィンオキシドに、アミンをアミン N-オキシドやイミンに変えられる。セレニドに作用させてセレノキシド脱離を起こさせることができる。

ほか、有機ペルオキシド過酸の誘導体を合成する際の試剤とされる。

出典

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  1. ^ IUPAC Complete Draft 2004”. 2024年10月29日閲覧。

参考文献

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  • Jones, A. K.; Wilson, T. E.; Nikam, S. S. in "Encyclopedia of Reagents for Organic Synthesis"; Paquette, L. A. ed.; Vol. 2, pp. 880; John Wiley & Sons: New Jersey, 2003.