Nintendo Creators Program
Nintendo Creators Programは、YouTubeの広告収益を任天堂と動画制作者との間で分配するサービス[1]。
任天堂は2014年5月27日にYouTubeにおけるアフィリエイトプログラムを準備していると予告し[2]、2015年01月28日にこのプログラムがベータ版として開始された[3][4]。もともと任天堂は2013年5月に、任天堂ゲームを使ったYouTube上の全ての実況動画に対してその収益化権を得ようとしていたが[5]、反発があり[6]、妥協案としてこのプログラムを開始した[7]。このサービスは2018年12月末日に終了した[8][9]。
内容
編集YouTubeではコンテンツIDにより、任天堂の著作物が含まれる動画から得られる広告収益は任天堂に付与されている。しかし、動画制作者が本プログラムに登録することで、当該動画の広告収益を任天堂と分配できるようになる[1]。なお、YouTube Liveによるライブ配信は対象外[1]。
利用にはGoogle アカウントとPayPalビジネスアカウントが必要[1]。毎月、月間の視聴回数を集計し、2か月後にPayPal口座を通じてUSドルで支払われる[10]。動画単体で申請すると広告収入の40%が任天堂に分配され、60%が動画制作者の取り分になるが、チャンネル単位で申請した場合は任天堂への分配比率は30%になる[11][7]。
法令遵守の意思と本プログラムに参加している事実を示すため、動画には以下の文言を含める必要がある。
私は、Nintendo Creators Programのライセンスによって、この動画で任天堂コンテンツを使用しています。この動画は、任天堂による援助や支援がなされているものではありませんが、この動画から得られる広告収益は任天堂と分け合われます[1]。
公式サイトのリストに掲載されているタイトルが利用可能。ただし、不正な改造・改竄(チート、TAS行為を含む)を行った動画や不正行為にかかわる無許諾のツールを用いた動画は申請が却下されることがある[1]。また、任天堂以外の著作物が含まれる動画やチャンネルは登録できない[1]。なお、ニコニコ動画で実施している同様の仕組み「クリエイター奨励プログラム」でも本プログラムと同じタイトルが対象となり[1][12][13]、OPENREC.tvでも任天堂タイトルの動画配信が可能となった[14]。
反響
編集このプログラムが発表された後、Pewdiepie、Totalbiscuit、Jim Sterling、Angry Joeなど、多くのYouTuberは反発し、任天堂関連の動画投稿に対するボイコットを表明した[15][16]。これにより、Wii Uの販売台数が低迷していたにもかかわらず、その関連動画が投稿されなくなり、任天堂は自社のゲームが宣伝される機会を逃した[11]
英国のメディアThe Guardianは、任天堂が動画収益の全てを主張するのではなく、最大70%を動画制作者に分配するようになったのは明らかに進歩だと評価したが、一方で任天堂のゲームに対する否定的な批評など、いくつかの要素はどう扱われるかの基準が曖昧だと指摘した[17]。またBBCも、ゲームの批評などは任天堂に承認されない可能性があることから、「結局のところ、これは支配についての問題である」と述べ、潜在的な検閲の可能性を指摘した[18]。GameSpotは、大乱闘スマッシュブラザーズ、ポケモン、ベヨネッタなど、有名シリーズのゲームが許可リストに入っていないことを問題視したほか、ほとんどの開発者やパブリッシャーがYouTubeチャンネルの収益化に干渉しない方法をとっているなかで、任天堂によるこの統制は異例の決定であると報じた[19]。
また、これは任天堂のゲームだけに焦点を当てているYouTubeチャンネルへの侮辱だと思います。任天堂のコミュニティを助け、情熱を示してきた人々こそが、最も酷い扱いを受けているのです。 - Pewdiepie[20]
このプログラムが開始されると任天堂の予想を上回る数の申請が届き、任天堂は登録申請の処理に苦戦した。また任天堂は申請者に対して、プログラムの対象外となるような既存の動画を削除するように要求した[21][22]。
2017年9月、任天堂はプログラムの改訂を行い、Nintendo Creators Programに登録しているチャンネルによるライブ配信を禁止し、ライブ配信をする場合は別のチャンネルを用意するように推奨した[23]。この措置により、多くのライブ配信者がYouTubeを離れ、Twitchに活動拠点を移した[24]。
2017年11月、YouTubeのゲーム部門責任者であるライアン・ワイアットは「任天堂がクリエイターに協力する方法に関しては、もっと改善できますし、もっと最適化を図ることができると思います」と述べ、このプログラムには問題があることを指摘した[25]。また、任天堂とYouTubeはゲームパブリッシャーと動画制作者の両方が利益を得る方法について常に話し合いをしていると述べ、将来的な状況の改善を示唆した[26]。
プログラムの廃止
編集2018年11月29日、Nintendo Creators Programが2018年12月末日で終了することが発表され[27]、新たにYouTubeを含む動画・静止画の適切な共有サイト全般を対象とした「ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドライン」が公開された[28]。このガイドラインではストリーミング配信も対象になるなど投稿の要件が緩和されている[8][29][30]。
The Vergeは、任天堂がこのプログラムを廃止したことは「ゲームコミュニティにいる多くの人にとって、長きにわたる戦いの勝利と受け止められるかもしれない」と述べている[31]。
脚注
編集- ^ a b c d e f g h “Nintendo Creators Programとは”. 任天堂. 2018年12月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年10月7日閲覧。
- ^ Inc, Aetas. “任天堂,YouTubeでの自社タイトルの二次著作物の利用許諾をTweet。アフィリエイトプログラムも準備中”. 4Gamer.net. 2024年9月22日閲覧。
- ^ “任天堂、YouTube動画作者と広告収益をシェアする「Nintendo Creators Program」β版スタート”. ITmedia NEWS. 2024年9月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年9月22日閲覧。
- ^ Inc, Aetas. “任天堂が同社のコンテンツを含むYouTube映像のアフィリエイトプログラム「Nintendo Creators Program」を開始”. 4Gamer.net. 2024年9月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年9月23日閲覧。
- ^ Editor-in-Chief, Matthew Handrahan (2013年5月16日). “Nintendo targets user YouTube videos” (英語). GamesIndustry.biz. 2024年9月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年9月22日閲覧。
- ^ Contributor, Jeffrey Matulef (2013年5月16日). “Nintendo now claiming ad revenue for YouTube Let's Play videos” (英語). Eurogamer.net. 2024年9月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年9月22日閲覧。
- ^ a b Editor, Brendan Sinclair Managing (2018年11月29日). “Nintendo pulls plug on YouTube Creators Program” (英語). GamesIndustry.biz. 2024年9月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年9月22日閲覧。
- ^ a b “End of the Nintendo Creators Program & Information about New Guidelines” (英語). 任天堂 (2018年11月29日). 2019年3月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年9月17日閲覧。
- ^ 株式会社インプレス (2018年11月29日). “任天堂、「ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドライン」を公開 「Nintendo Creators Program」は年内サービス終了へ”. GAME Watch. 2024年9月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年9月22日閲覧。
- ^ 「Nintendo Creators Program lets YouTube users share ad revenue」『Eurogamer.net』2015年1月29日。オリジナルの2024年9月22日時点におけるアーカイブ。2024年9月29日閲覧。
- ^ a b Bedingfield, Will (2023年5月29日). “任天堂の著作権に対する厳しい姿勢は、ゲームが持つインタラクティブな可能性を狭めている”. WIRED.jp. 2024年9月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年9月22日閲覧。
- ^ “任天堂著作物を含む作品をクリエイター奨励プログラムに登録するには”. ニコニコ. 2017年6月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年9月17日閲覧。
- ^ “任天堂株式会社指定タイトルリスト”. ニコニコ. 2017年9月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年9月17日閲覧。
- ^ “任天堂タイトルの動画配信について”. OPENREC.tv. 2018年5月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年3月28日閲覧。
- ^ “PewDiePie Unhappy With Nintendo's YouTube Ad Sharing Policy” (英語). GameSpot. 2015年7月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年9月22日閲覧。
- ^ Jecks, Chris (2015年4月7日). “Why Youtubers Like Angry Joe Are Boycotting Nintendo Games” (英語). Twinfinite. 2024-09-222時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年9月22日閲覧。
- ^ Dredge, Stuart「YouTube star PewDiePie criticises Nintendo's new revenue-sharing plans」『The Guardian』2015年2月2日。ISSN 0261-3077。オリジナルの2015年6月16日時点におけるアーカイブ。2024年9月22日閲覧。
- ^ 「YouTuber PewDiePie takes aim at Nintendo... but why?」『BBC News』2015年2月2日。オリジナルの2021年6月8日時点におけるアーカイブ。2024年9月22日閲覧。
- ^ “Nintendo Excludes Smash Bros From YouTube Partner Program” (英語). GameSpot. 2015年2月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年9月22日閲覧。
- ^ Tassi, Paul. “PewDiePie Calls Nintendo's New YouTube Program 'A Slap In The Face'” (英語). Forbes. 2015年2月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年9月22日閲覧。
- ^ Blake, Vikki (2015年2月5日). “Number of Applications to Nintendo's Creator Program Are "Higher Than Anticipated"” (英語). IGN. 2015年2月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年9月22日閲覧。
- ^ 「Nintendo scraps controversial Creators Program, making life easier for YouTubers」『Eurogamer.net』2018年11月29日。オリジナルの2022年4月13日時点におけるアーカイブ。2024年9月22日閲覧。
- ^ Posted 2017年9月30日14:25, Sam Stewart Updated 2017年9月30日14:47 (2017年9月30日). “「Nintendo Creators Program」に登録しているYouTubeチャンネルからライブ配信が不可能に”. IGN Japan. 2017年11月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年9月22日閲覧。
- ^ Alexander, Julia (2017年11月6日). “YouTubers are calling out Nintendo for its policy on streaming, uploads” (英語). Polygon. 2017年11月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年9月22日閲覧。
- ^ Posted 2017年11月16日11:35, Hope Corrigan (2017年11月16日). “任天堂は動画制作者のためにもっとできることがあるとYouTubeが指摘”. IGN Japan. 2020年2月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年9月22日閲覧。
- ^ Alexander, Julia (2017年11月14日). “YouTube's head of gaming thinks Nintendo can work better with creators on monetization” (英語). Polygon. 2017年11月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年9月22日閲覧。
- ^ Bankhurst, Adam (2018年11月29日). “Nintendo to End Its Creators Program in December” (英語). IGN. 2024年3月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年9月22日閲覧。
- ^ “任天堂、プレイ動画の投稿認めるガイドライン公表 非営利ならOK、指定のサイトで収益化も”. ITmedia NEWS. 2024年9月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年9月22日閲覧。
- ^ “ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドライン”. 任天堂. 2018年11月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年11月29日閲覧。
- ^ Kawase, Ayuo (2018年11月29日). “任天堂、YouTubeなどの投稿主と利益を分け合うプログラムを廃止、ガイドラインを遵守すれば投稿と収益化がさらに自由に。二次創作への言及も”. AUTOMATON. 2018年11月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年9月22日閲覧。
- ^ Alexander, Julia (2018年11月29日). “Nintendo’s new content guidelines make it easier for YouTube creators to get paid” (英語). The Verge. 2018年11月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年9月22日閲覧。
外部リンク
編集- ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドライン - 本サービス終了に伴い公開された新規ガイドライン