LunaH-Map
LunaH-Map (Lunar Polar Hydrogen Mapper)は2022年にアルテミス1号で打ち上げられる予定のキューブサット10機のうちの1機。LunaH-Mapは月における水氷の存在の有無について調査を行う[1]。アリゾナ州立大学は2015年の初めにNASAからミッションを選定され、LunaH-Mapの開発を始めた。開発チームは研究代表者のクレイグ・ハードグローブが率いる約20名の専門家と学生から構成される[2]。
LunaH-Map | |
---|---|
LunaH-Map探査機のレンダリング | |
所属 | アリゾナ州立大学 |
公式ページ | 公式ウェブサイト |
状態 | 計画 |
目的 | 月の水の探索 |
観測対象 | 月 |
計画の期間 | 96日間(予定) |
打上げ機 | SLS Block 1 |
打上げ日時 | 2022年11月(予定) |
物理的特長 | |
本体寸法 | 10×20×30 cm |
質量 | 14 kg[1] |
主な推進器 | ヨウ素イオンスラスタ BIT-3 |
姿勢制御方式 | 三軸安定制御 |
軌道要素 | |
周回対象 | 月 |
軌道 | 極軌道 |
近点高度 (hp) | 15km以下 |
遠点高度 (ha) | 3,150km |
軌道傾斜角 (i) | 90度 |
軌道周期 (P) | 10時間 |
観測装置 | |
Mini-NS | 中性子検出器 |
目的
編集LunaH-Mapは月の南極の地下1mでの水素の量を調べることを最大の目的としている。探査機は月周回の極軌道に投入される。近月点は月の南極近くにあり、軌道投入直後はシャクルトンクレーター上空を通る[1]。LunaH-Mapは月のこの領域における水などの水素に富む化合物の存在量と分布について過去のミッションよりも高い解像度のマップを作成する。この情報は太陽系で水がどのように生成され分布しているかの科学的理解の向上や、将来の有人ミッションでの生命維持や燃料生産に使われることが想定される。
LunaH-Mapは、マーズ・キューブ・ワンなど他の深宇宙キューブサットミッションと共に、惑星探査機にキューブサットを組み入れるための重要な技術を実証する[3]。
歴史
編集LunaH-Mapは、クレイグ・ハードグローブと後にLunaH-Mapのチーフエンジニアとなるイゴル・ラブジンが火星で使用されている中性子検出器の空間分解能の課題について交わした議論をきっかけに考案された。探査車キュリオシティに搭載されたDynamic Albedo of Neutrons (DAN) のような機器は、探査車後方の車輪の間からおおよそ半径3mの範囲しか測定ができない。一方マーズ・オデッセイに搭載された高エネルギー中性子検出器 (High Energy Neutron Detector, HEND) のような火星周回軌道上の中性子検出器は数百キロの範囲で大きく不正確な観測しかできない[4]。現状の月の水素分布のマップでも同様の問題が存在している。これらのマップの解像度を上げるため、ハードグローブはLunaH-Mapの軌道を既存の周回機よりももっと月の南極の近くを通るよう設計した。
2015年4月までにハードグローブはさまざまな政府、学術、民間機関のメンバーから構成されるチームを結成し、NASAへの提案を起草した。2015年初頭、NASAの科学ミッション本部 (SMD) はSIMPEx (Small Innovative Missions for Planetary Exploration) プログラムを通して2機のキューブサット、LunaH-MapとQ-PACEを選定した[4][5]。
LunaH-Mapは2017年にNASAの詳細設計審査を通過した[6]。ロケットへのインテグレーションはタイヴァック・ナノサテライト・システムズが行った。
機体
編集LunaH-Mapの独特なミッションのため、機体はいくつかの固有の課題に対処する必要がある。一般的な地球低軌道のキューブサットは既成のハードウェア、他の目的のために製造された部品を購入して利用することができる。しかしLunaH-Mapはほとんどの地球低軌道のキューブサットよりも長期間、そしてより遠くへ飛行するため、改造を施していない民生品のパーツがミッション期間中正しく機能することは期待できないと考えられる。また、通常のキューブサットと違いLunaH-Mapはロケットから分離後目的の軌道へ自力で航行する必要があるため、推進系を内蔵していなければならない[7]。
主要な科学観測用の装置はエルパソライト (Cs2YLiCl6:Ce, CYLC) から作られた中性子シンチレーション検出器である。この材料はシンチレータで、熱中性子や熱外中性子と反応すると、測定できるほどに発光する。LunaH-Mapの中性子検出器は16個並んだ2.5x2.5x2 cmのCYLCシンチレータから構成される[8]。
脚注
編集- ^ a b c “LunaH-Map: University-Built CubeSat to Map Water-Ice on the Moon”. NASA (2016年2月3日). 2022年5月29日閲覧。
- ^ “ASU chosen to lead lunar CubeSat mission” (英語). アリゾナ州立大学 (2015年8月25日). 2022年5月7日閲覧。
- ^ “CubeSats are Paving Mankind's Way Back to the Moon and Beyond” (英語). ポピュラーサイエンス (2015年10月8日). 2022年6月7日閲覧。
- ^ a b “CubeSats to the Moon”. 惑星協会 (2015年9月2日). 2022年5月7日閲覧。
- ^ “NASA Space Launch System’s First Flight to Send Small Sci-Tech Satellites Into Space” (英語). NASA (2016年2月3日). 2022年6月7日閲覧。
- ^ “As ASU’s first NASA mission begins Year 3, there are no blueprints for building the first spacecraft of its kind” (英語). アリゾナ州立大学 (2017年9月26日). 2022年9月19日閲覧。
- ^ “How to build a spacecraft: The beginning” (英語). アリゾナ州立大学 (2015年11月23日). 2022年6月7日閲覧。
- ^ “LunaH-Map CubeSat” (英語). アリゾナ州立大学. 2022年6月7日閲覧。