G1TOWER
G1TOWER(ジーワンタワー、国際的表記: G1 Tower [2])は、日本の茨城県ひたちなか市市毛に所在する、日立製作所のエレベーター試験塔である。2010年(平成22年)竣工。地上高 213.5 m、地下深度 15 m。
G1TOWER (G1 Tower) | |
---|---|
情報 | |
用途 | エレベーターの研究・開発 |
設計者 | 日立建設設計・清水建設 |
事業主体 | 日立製作所 |
管理運営 | 日立製作所 |
構造形式 | 鉄筋コンクリート造、一部鉄骨鉄筋コンクリート構造、鉄骨構造 |
敷地面積 | 388 m² |
延床面積 | 2,248.20 m² |
階数 | 地上9階、地下1階 |
高さ |
地上高 213.5 m 地下深度 15 m |
着工 | 2008年 |
竣工 | 2010年 |
所在地 |
〒312-8506 茨城県ひたちなか市市毛1070番地 水戸統括本部敷地内 |
座標 | 北緯36度24分08.08秒 東経140度30分49.99秒 / 北緯36.4022444度 東経140.5138861度座標: 北緯36度24分08.08秒 東経140度30分49.99秒 / 北緯36.4022444度 東経140.5138861度 |
備考 | [1] |
日立製作所は「G1(グローバルナンバーワン)のエレベーター技術および製品を生み出していく」ことを目的に建設した。2011年(平成23年)第24回茨城建築文化賞県知事賞受賞[3]。
完成時から2015年までは史上最も背の高いエレベーター試験塔であった[4]。現在(2021年時点)は、世界第7位、日本企業が建てたものとしては第2位、日立グループ内では第2位、日本国内では第1位という位置付けである(cf. エレベーター試験塔#世界のエレベーター試験塔)。
歴史
編集1960年代、日立は霞が関ビルディング向け高速エレベーターを開発するべく、水戸工場(現・水戸事業所)に地上高 90 mのエレベーター研究塔を建設し、毎分 300 mという従来の2倍の定格速度のエレベーターを完成させた[5]。その後も研究・開発を続け、1993年(平成5年)には定格速度にして毎分 810 mのエレベーターの開発に成功している[5]。2000年代になるとアジア・中国の急成長に伴い、世界中のエレベーターメーカーが厳しい競争を繰り広げるようになり、超高層化・大容量化する建築物に対応する超高速・大容量エレベーターの必要性が高まっていた[5]。日本有数のエレベーターメーカーとして、その地位を守り続けていた日立もまた、世界市場で厳しい競争にさらされており、既存技術を基に安全性・効率性・快適性の向上を図って競争力を高めるべく、日立のエレベーター研究・開発・製造の拠点となっている水戸事業所に新たなるエレベーター研究塔を建設することとした[5]。その地上高は 213.5 mで、エレベーター研究塔としては(当時)世界一の高さである[5]。設計は日立グループの建設コンサルタント・日立建設設計と、日本のゼネコン・清水建設[6]。工事は2008年(平成20年)3月に着工し、2010年(平成22年)4月に竣工した[7]。投資額は関連設備を含めた総額で約60億円[8]。なお、旧塔についてはG1TOWER完成後も引き続き活用され、新旧合わせて地域のシンボルタワーとして社会に貢献する方針が示されている[9]。
構造
編集鉄筋コンクリート造(一部鉄骨鉄筋コンクリート (SRC) 構造・鉄骨 (S) 構造)で[3]、最高高さは地上 213.5 m、うち躯体の高さは 203 m、地上9階建てである[10]。平面が矩形をしたメインコアウォールが地上 203 mある躯体の中心となっており、地上 110 mまでの低層部には塔両側にエレベーター試験用シャフトを配置し、これにアウトリガー(安定脚)としての機能も持たせているため、その平面は高層部では矩形、低層部では十字形となっている[10]。地上 110 mから 140 mの間には風孔を設け、500年に1度の暴風に耐える設計とした[7]。なお、風洞実験においては1,000年に1度の暴風にさらされても、致命的な結果には至らないことが確認されている[11]。
地下は 15 m(地下1階)で、直径 43 mの円筒形をしたコンクリート製の基礎が堅固な岩盤に直接載せられている[7]。さらに地震・強風による転倒を防止するため、基礎外周の地中連続壁(壁の厚さ 1 m)を岩盤に挿入している[7]。こうした地上・地下部分の構造により、耐用年数中に遭遇する可能性の低い、極まれに発生する地震動にあっても、主要構造部材は弾性限耐力以下に収まることが確認されている[12]。
こうした対策を講じても、暴風にさらされた際は塔が2秒ないし3秒の長周期で揺れ、塔内の居住性が悪化してしまう[13]。これを抑える装置として、塔上部にアクティブマスダンパが設置された[13]。塔の上部・中間・地上の3か所に加速度センサーを配置し、揺れを感知した際には重しをモーターで動かし、揺れを収めるというものである[13]。これとは逆に、揺れを人為的に生じさせることも可能であり、地震や強風による建物の揺れを再現し、エレベーターの耐震実験を行うこともできる[13]。
研究
編集かつてのエレベーター研究塔
編集この節の加筆が望まれています。 |
日立による、G1TOWER以前のエレベーター研究塔について触れる。
- 国分工場エレベーター研究塔
- 日立製作所国分工場(茨城県日立市)にあった塔。1957年(昭和32年)10月着工、1959年(昭和34年)の春に完成した[15]。鉄骨鉄筋コンクリート構造で、高さ 60 m、16階建て[15]。研究用として、交流二段速度エレベーター(30人乗り)と、直流ギヤレスエレベーター(15人乗り)の2台が設置された[15]。海外から高速エレベーターに対する問い合わせが多くあり、エレベーターの電子制御など多くの課題を抱えていたため、自社のエレベーター技術の向上を果たす役割を担って建設された[15]。研究内容は、直流エレベーターの帰還制御、交流エレベーターの着床性能向上、振動・騒音の研究、全自動制御、電子制御による扉の開閉や安全装置の開発であった[15]。1961年(昭和36年)の水戸工場完成を機に、エレベーター開発の拠点が国分工場から水戸工場へと移動[16]。のちに水戸工場に新たなエレベーター研究塔(第二研究塔)が完成すると、国分工場の研究塔は第一研究塔と呼ばれた[17]。
- 水戸工場エレベーター研究塔
- G1TOWER(ひたちなか市市毛に所在)の隣にある塔。勝田市市毛(現・ひたちなか市市毛)にて、1967年(昭和42年)初頭に完成[20]。国分工場にあった既存の研究塔に対して第二研究塔と呼ばれた[17]。1963年(昭和38年)の建築基準法改正により超高層ビルの建設が可能になる中、より大規模な研究塔はエレベーターの高速化を目指す日立の技術者たちにとっての悲願であり、霞が関ビル向けエレベーターの受注が決定したことも、新たな研究塔建設を後押しするかたちとなった[21]。鉄骨カーテンウォール方式・柔構造で、高さ 90 m、エレベーター研究塔としては当時世界一であった[17]。設計は東日建設コンサルタント(現・日立建設設計)、施工は清水建設である[17]。地震や風といった問題に対し、地質のボーリング調査や地盤微動測定、コンピュータによる振動解析など、慎重を期して設計されている[17]。特殊H形構造を強度部材に採り入れ、外壁は当時最新の防錆鉄筋コンクリートブロック構造とし、さらに昼間障害標識として紅白に塗り分けられている[17]。高速エレベーターや油圧式エレベーターなど4台を設置[17]。霞が関ビル向けに開発された、毎分 300 mという当時日本初の高速エレベーターのテストも行われた[17]。コンピュータによるシミュレーションも行えるようになっており、さらに高速な毎分 500 m級のエレベーター開発も、研究塔の完成当時から視野に入れられていた[17]。研究塔での作業は昼夜交代勤務で行われ、その様子は「さながら不夜城であった」という[22]。
脚注
編集- ^ 設計者・延床面積は「日立製作所新エレベーター研究塔 (G1TOWER)」、構造形式は「プロジェクト紹介 G1TOWER」、その他は「エレベーターの研究施設として世界一高い地上高213mの研究塔『G1TOWER』が4月に完成」による。座標はGoogle マップの航空写真を用いて得た [1](2013年10月14日閲覧)。
- ^ SkyscraperCenter.
- ^ a b 日立建築設計「プロジェクト紹介 G1TOWER」2013年10月14日閲覧。
- ^ 「都市の次世代縦移動インフラを築く世界一の研究塔とエレベーター新技術」 p. 53。鉤括弧内は p. 54より引用。
- ^ a b c d e 「都市の次世代縦移動インフラを築く世界一の研究塔とエレベーター新技術」 p. 53。
- ^ “日立製作所新エレベーター研究塔 (G1TOWER)]”. 2013年10月14日閲覧。
- ^ a b c d 「都市の次世代縦移動インフラを築く世界一の研究塔とエレベーター新技術」 p. 54。
- ^ a b “エレベーターの研究施設として世界一高い地上高213mの研究塔『G1TOWER』が4月に完成”. 2013年10月14日閲覧。
- ^ 「都市の次世代縦移動インフラを築く世界一の研究塔とエレベーター新技術」 p. 57。
- ^ a b 「都市の次世代縦移動インフラを築く世界一の研究塔とエレベーター新技術」 pp. 53-54。
- ^ 「都市の次世代縦移動インフラを築く世界一の研究塔とエレベーター新技術」 p. 55。
- ^ 「都市の次世代縦移動インフラを築く世界一の研究塔とエレベーター新技術」 pp. 54-55。
- ^ a b c d e 「都市の次世代縦移動インフラを築く世界一の研究塔とエレベーター新技術」 p. 56。
- ^ 「都市の次世代縦移動インフラを築く世界一の研究塔とエレベーター新技術」 pp. 56-57。
- ^ a b c d e 『日立評論 第42巻 第1号(1960年1月号)』 p. 192。
- ^ 「安全・安心,快適・便利な移動をめざす昇降機 果敢なる挑戦を続ける日立昇降機の歩み」 p. 10。
- ^ a b c d e f g h i 『日立評論 第49巻 第7号(1967年7月号)』 p. 90。
- ^ 国土交通省 国土地理院 地図・空中写真閲覧サービスの空中写真を基に作成(1974年度撮影)。
- ^ 国土交通省 国土地理院 地図・空中写真閲覧サービスの空中写真を基に作成(1980年度撮影)。
- ^ 『日立評論 第50巻第1号(1968年1月号)』 p. 63。
- ^ 「安全・安心,快適・便利な移動をめざす昇降機 果敢なる挑戦を続ける日立昇降機の歩み」 p. 11。
- ^ 「安全・安心,快適・便利な移動をめざす昇降機 果敢なる挑戦を続ける日立昇降機の歩み」 p. 11。鉤括弧内は引用。
参考文献
編集- 日立製作所都市開発システム社「エレベーター研究塔『G1TOWER』」2013年10月14日閲覧。[リンク切れ]
- 日立製作所「エレベーターの研究施設として世界一高い地上高213mの研究塔『G1TOWER』が4月に完成」2010年1月28日付、2013年10月14日閲覧
- 荒堀昇「開拓者たちの系譜 7 安全・安心,快適・便利な移動をめざす昇降機 果敢なる挑戦を続ける日立昇降機の歩み」『日立評論 第90巻第11号(2008年11月号)』日立評論社、2008年11月1日。
- 大宮昭弘・田島泰彦「都市の次世代縦移動インフラを築く世界一の研究塔とエレベーター新技術」『日立評論 第92巻第11号(2010年11月号)』日立評論社、2010年11月1日。
- 「28.3.3 エレベータ研究塔完成」『日立評論 第42巻 第1号(1960年1月号)』日立評論社、1960年1月25日。
- 「日立ニュース 世界最高のエレベータ研究塔 完成」『日立評論 第49巻 第7号(1967年7月号)』日立評論社、1967年7月25日。
- 「300 m/min ギヤレスエレベータ 完成」『日立評論 第50巻 第1号(1968年1月号)』日立評論社、1968年1月25日。
関連項目
編集- エレベーター
- 日立グループの主なエレベーター試験塔
- H1 TOWER - 中国の広州市にて2020年竣工。地上高 273.8 m。
- G1TOWER - 日本のひたちなか市市毛にて2010年竣工。地上高 213.5 m。
- 日立電梯(上海)有限公司の上海青浦工場エレベーター研究塔 - 中国の上海市青浦区にて2010年竣工。地上高 172.6 m。
- 日立製作所水戸工場エレベーター研究塔 - 日本の勝田市市毛(現・ひたちなか市市毛)にて1967年竣工。地上高 90 m。
- 日立製作所国分工場エレベーター研究塔 - 日本の日立市にて1959年竣工。地上高 60 m。非現存。
- 日立製作所
- 塔の一覧
- 超高層建築物 > 日本の超高層建築物 > 日本の超高層建築物・構築物の一覧
外部リンク
編集- “G1 Tower” (English). The Skyscraper Center. 2021年2月14日閲覧。
- Hitachi Global 会社情報 エレベーター研究塔「G1TOWER」
- Hitachi Theater 新エレベーター研究塔 G1TOWER - 動画
- 日立建設設計 プロジェクト紹介 G1TOWER
- いばらき・もの知り情報 032 茨城県に完成した、世界で1番高いエレベーター研究塔
- 清水建設 実績紹介 日立製作所新エレベーター研究塔 (G1TOWER)
- 高さ213メートル 日立が世界一のエレベーター研究塔 - YouTube