アキュート・ケア・サージェリー
救急外科 (Acute Care Surgery)は、外傷外科、緊急一般外科および外科的集中治療を三位一体として扱う外科学の一分野である[1]。ACSと略すことがある。
具体的には重症外傷、消化管穿孔、重症熱傷、腸閉塞、急性虫垂炎などを対象とする[1]。このうち、外傷に関しては胸部や腹部の体幹損傷を中心とするが、施設によっては整形外科や脳外科の外傷も対象である[2]。
ACSは2005年に米国で誕生した外科学の一分野で、米国では外傷医が外傷手術の減少に伴ってACSへ移行していった[3]。ACSは、体幹部外傷手術と術後ICU管理などを専門とする一般外科の医師である[4]。ACSは従来の外傷外科医の果たす役割を内因性救急外科手術や重症患者管理に拡げて、再定義したもので、欧米では既に定着している。さらに、近年は術後合併症に対する集中管理や手術療法までを担いつつある[2]。日本においてはACS認定外科医が著しく不足しているため、地方では一人の外科医が担う役割は自らの専門にとどまらず、広い範囲の外科診療に及ぶ。どの医師も救急診療や日当直診療を行う必要があり、地方の外科医の主体である消化器・一般外科医は外傷診療を含めてACSも担っている現状がある[2]。
日本においては2009年に日本ACS学会が発足した。外科専門医資格はACS認定外科医申請のための必須条件である[5]。ACS認定外科医は胸腹部体幹外傷や敗血症やショックを伴う救急外科、循環補助・人工呼吸・血液浄化などの集中治療を担う。この資格を有する外科医は救命救急センター所属の外科医や、救命救急センターを有する施設で救急診療も担う消化器外科医もしくは心臓血管外科医である場合が多い[2]。
ACS認定外科医は心臓の縫合や肺部分切除、気管縫合などの外傷手術を行うほか、胸骨骨折や多発肋骨骨折の固定、骨盤骨折の骨盤内ガーゼパッキング、四肢減張切開などの整形外科領域の手術、重症軟部組織感染症のドレナージ手術も行う[4]。急性腹症の手術も行わなければならないことから、ACS認定外科医には消化器外科の修練が必須である。また、心臓血管外科や呼吸器外科での修練も必要となるほか、頭頸部外科、整形外科・形成外科領域の経験も望ましい[4]。