AMD Phenom
Phenom(フェノム)は、アドバンスト・マイクロ・デバイセズが2007年11月19日に発表した[1]、x86_64互換のマイクロプロセッサである。名前の由来は「驚異的な・目を見張る」といった意味の「Phenomenal」より。稀に「ペノム」とも呼称されるが、正しくは「フェノム」である[2]。2009年1月より Phenom II を発売した。
生産時期 | 2007年11月から |
---|---|
生産者 | AMD |
プロセスルール | 65nm |
アーキテクチャ | x86 |
マイクロアーキテクチャ | K10 |
命令セット | AMD64 |
コア数 |
3から4 (スレッド数:3から4) |
ソケット | Socket AM2+ |
コードネーム |
Toliman Agena |
前世代プロセッサ | Athlon 64 FX |
次世代プロセッサ | Phenom II |
登場までの経緯
編集Intel の Core 2 Quad によるクアッドコア ブームの折、AMD にも早急にクアッドコア CPU の発売が求められていた。Kentsfield がデュアルコアの 2ダイによる「なんちゃってクアッドコア」(インテル日本法人担当談)[3]であるのに対し、Phenom は 4つのコアを 1ダイに収めた「真のクアッドコア」「ネイティブクアッドコア」である点を強調。「Are you "ネイティブ"?」のキャッチコピーで、対抗感を滲ませていた[4]。また、なかなか出荷に漕ぎ着けないまま、威勢の良い事を発言するAMDに対して、見掛け倒しであることを揶揄して「Phenomは張り子のクアッド」(インテル日本法人担当談)などと命名し、煽っていた。
当初はクアッドコア製品が「Phenom X4」、デュアルコア製品が「Phenom X2」と名付けられていた。しかし、出荷直前の2007年9月に急遽トリプルコア製品をラインナップに加えると発表し、クアッドコア製品は「Phenom 9000」、トリプルコア製品は「Phenom 8000」、デュアルコア製品は開発中止となり、代わりに「Athlon X2 7x50」 (Kuma) が発表された。
この世界初の x86 トリプルコア採用 CPU はPhenom 9000 シリーズのコアを 1個無効化したものとされ、歩留まりが向上すると共に価格や消費電力が低下する点をセールスポイントとした。PhenomIIの方が有名だが、一部において、無効化されているコアを復活できると話題になった[5]。
発売後の状態
編集後発だけあって Core 2 Quad の対抗馬として大きく注目され、発売後は各種メディアでベンチマーク比較が数多く行われたが、その結果 Core 2 Quad を超えるものではないとする評価が多勢を占めた。要因としては、完全なマルチスレッド処理となっているアプリケーションやゲームがまだ僅かしかなく、Phenom が得意とする処理は従来プログラマーにとって避けるべき処理とされていたことや[6]、絶対的なクロック数の低さ、消費電力の高さなどが挙げられている。これにより、新製品にもかかわらず高値を付けることができず、TLB のエラッタ(後述)が発覚してからは更に値が下がる窮状となった。なお、このエラッタが解消された2008年3月からは、再び Phenom 9000 が Phenom X4 9000 に、Phenom 8000 が Phenom X3 8000 に改称された。
TLBのエラッタ問題
編集K10マイクロアーキテクチャでの最初のリビジョンである B2 では、全 CPU モデルで L2 キャッシュの不具合が原因で、L3 キャッシュ内容が特定の条件で破壊されるという、エラッタの存在が公表されている。L2 / L3 キャッシュと Translation Lookaside Buffer (TLB) に関わる問題であり、最悪の場合、OS がフリーズしたりデータが破損したりする可能性があるが、通常使用によるエラッタによっての問題の発生確率は低い[7]。
このエラッタを回避するには、BIOS や OS によってモデル固有レジスタ (MSR; Model Specific Register) の設定で TLB のキャッシュを無効化するしかないが、TLB のキャッシュを無効化した場合はアプリケーション レベルで性能が 5% から 10% 低下する[7]。このエラッタは同じ K10マイクロアーキテクチャを採用する Opteron でも発生し、Barcelonaの一時販売停止から大量出荷の延期に繋がると共に、高価格で販売できる新製品の出足を挫いた。
Phenom の発売後まもなく TLB のキャッシュを無効化するための MSR の変更を行うコードを含んだ BIOS や OS での対策が始まり、2008年3月からはエラッタを解消した B3 ステップが順次発売されている。通常、ステッピングの更新でモデルナンバーが変更されることはないが、B3 ステップの Phenom はモデル ナンバーが 50 増加しており異例の差別化が図られた。
デスクトップ向けラインナップ
編集- Agena
- 対応ソケット: Socket AM2+
ブランド | 型番 | CPU | TDP (W) |
対応メモリ | HT (MHz) | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
コア数 (スレッド数) |
クロック (GHz) |
キャッシュ (MB) | ||||||
L2 | L3 | |||||||
Phenom X4 | 9950 BE | 4 (4) | 2.6 | 2 | 2 | 140 | DDR2-1066 | 2000 |
9850 BE | 2.5 | 125 | ||||||
9850 | ||||||||
9750 | 2.4 | 1800 | ||||||
9650 | 2.3 | 95 | ||||||
9600 BE | ||||||||
9600 | ||||||||
9550 | 2.2 | |||||||
9500 | ||||||||
9450e | 2.1 | 65 | ||||||
9350e | 2.0 | |||||||
9150e | 1.8 | 1600 | ||||||
9100e |
- Toliman
- 対応ソケット: Socket AM2+
ブランド | 型番 | CPU | TDP (W) |
対応メモリ | HT (MHz) | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
コア数 (スレッド数) |
クロック (GHz) |
キャッシュ (MB) | ||||||
L2 | L3 | |||||||
Phenom X3 | 8850 | 3 (3) | 2.5 | 1.5 | 2 | 95 | DDR2-1066 | 1800 |
8750 BE | 2.4 | |||||||
8750 | ||||||||
8650 | 2.3 | |||||||
8600 | ||||||||
8550 | 2.2 | |||||||
8450 | 2.1 | |||||||
8450e | 65 | |||||||
8400 | 95 | |||||||
8250e | 1.9 | 65 | 1600 |
脚注
編集- ^ “AMD、デスクトップ向けネイティブクアッドコア「Phenom」を正式発表~AM2+/CrossFireX対応の「AMD 7シリーズ」チップセットも”. 2025年2月1日閲覧。
- ^ ペノム【ぺのむ】 古田雄介&ITmedia アキバ取材班
- ^ ““神様”切り返し、AMDクアッドコアは「張子のクアッドだ」”. Impress Watch. 2008年10月23日閲覧。
- ^ “Phenomロゴが秋葉原をジャック「Are you“ネイティブ”?」”. Impress Watch. 2008年10月23日閲覧。
- ^ 株式会社インプレス (2009年9月6日). “4コア化したPhenom II X3が店頭デモ製品パッケージでも機能解説、“コア復活”もメジャー化?”. AKIBA PC Hotline!. 2022年8月16日閲覧。
- ^ “Phenom徹底分析(前):ネイティブクアッドコアに意味はないのか?”. 4Gamer.net. 2008年12月22日閲覧。
- ^ a b 西村 岳史. “Vista SP1でCPUの速度低下についてAMDがコメント:ニュース”. PC Online. 2008年10月23日閲覧。
関連項目
編集外部リンク
編集- AMD Phenom™
- Revision Guide for AMD Family 10h Processors - AMD によるエラッタに関する PDF ドキュメント