(367943) 2012 DA14は、アテン群またはアティラ群に属する直径が約45 m程度の地球近傍小惑星の1つである。2012年2月23日にスペインラサグラ天文台で発見された[1][12]。2012 DA14は珍しいL型小惑星であると考えられており、細長い形状をしている。自転周期は約9時間で、このサイズの小惑星にしては自転が比較的遅い[8]

367943 Duende
レーダーによる2012 DA14の連続写真。
レーダーによる2012 DA14の連続写真。
小惑星番号 367943[1]
分類 地球近傍小惑星[1][2]
軌道の種類 アポロ群(地球接近前)[3]
アテン群[1]
アティラ群[2]
地球横断小惑星
発見
発見日 2012年2月23日[1]
発見者 ラサグラ天文台[1]
発見場所 スペインの旗 スペイン
軌道要素と性質
元期:TDB 245900.5(2020年5月31.0日[1]
軌道長半径 (a) 0.910 au[1]
近日点距離 (q) 0.829 au[1]
遠日点距離 (Q) 0.992 au[1]
離心率 (e) 0.089[1]
公転周期 (P) 317.206 日[1]
(0.87 年[1]
軌道傾斜角 (i) 11.609°[1]
近日点引数 (ω) 195.504°[1]
昇交点黄経 (Ω) 146.938°[1]
平均近点角 (M) 301.693°[1]
物理的性質
長短径 20 × 40 m[4][5]
直径 18 m[6]
45 m[7]
47 m(計算上)[8]
質量 1.3×108 kg[7]
自転周期 8.95 ± 0.08 時間[6]
9.485 ± 0.144 時間[9]
11.0 ± 1.8 時間[10]
スペクトル分類 L[6][11]S(仮定)[8]
絶対等級 (H) 24.0[1]
24.4(2012年の推定)[7]
24.78 ± 0.11[10]
25.0 ± 0.2[6]
アルベド(反射能) 0.20(仮定)[8]
0.44 ± 0.20[6]
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2013年2月15日、2012 DA14は地表から地球半径の約4.3倍、すなわち27,700 kmという記録的な近さにまで地球に接近した[3]。これは、対地同期軌道上の人工衛星よりも8,000km内側である[13]。この地球への接近により、元々アポロ群に分類されていた軌道は大きく乱された。2012 DA14が地球に接近する約16時間前にロシア連邦チェリャビンスク州隕石が大気圏へ突入しているが、隕石の落下方向と2012 DA14の接近方向は異なるため、両者は無関係であるとされている[14][15][16]

発見と過去の衝突リスク評価

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2012 DA14は2012年2月23日、地球から0.0174 au(約260万 km)にまで接近した7日後[17]スペイングラナダ県にあるラサグラ天文台の口径0.45 mの反射望遠鏡マヨルカ天文台から遠隔操作して観測を行ったアマチュア天文家によって発見された[18][19]

2012年時点の短い観測弧(英語: Observation arc[注 1])で求められた比較的不正確な軌道予測でも、2012 DA14は2013年の接近では、地球半径の3.2倍よりも地球に接近しないことがすでに明らかになっていた[20]。しかし当時は、2026年から2069年までのいずれかの地球への接近で、地球に影響が生じる累積確率は0.033%(3,030分の1)あるとされた[7]

2013年の接近

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2013年2月15日の2012 DA14の軌道
 
2012年1月1日から2014年3月1日までの2012 DA14の軌跡を描いたアニメーション
      2012 DA14 ·       太陽 ·       地球

2013年1月9日、チリにあるラスカンパナス天文台によって再び2012 DA14が観測され、観測弧が79日から321日へと一気に長くなった[2]。2013年2月15日19時25分(世界協定時日本標準時では16日4時25分)に、2012 DA14は地球中心から0.0002276 au(34,050 km)を通過した。不確実性は約0.0000001 au(15 km)であった[17]

最接近時の地表からの距離は27,743 kmで、これは静止軌道よりも地表に接近したことになる。人工衛星の静止軌道よりも内側に入るが、静止軌道自体も地球とは充分離れており、地球に衝突する可能性は非常に低いと考えられており、実際地球そのものには全く影響は無かった[12][21]。地球接近時の2012 DA14を観測するのに最も適していたのはインドネシアで、東ヨーロッパアジアオーストラリアも最接近した2012 DA14の観測に適していた[3]日本では明け方の空に7等級の明るさで見えたため、肉眼で見るのは不可能であったが、手軽な観測機器があれば観測可能であった。しかし、移動速度が1度あたり1分、満月を30秒で横切る程度の早さであるため、視野にとらえるには事前の準備が必要であった[22]

2012 DA14は地球を周回するどの人工衛星にも1,950 km未満にまでは接近しないと予想されていた[23]。2月16日から2月20日にかけて、ゴールドストーン深宇宙通信施設レーダー観測が行われ[4][24]、2012 DA14が長さ20 × 40 mの細長い形状をしていることが示された[4][5]。これにより、2012 DA14は28 mの幾何平均(球形)直径を持つことになる。

この接近の間、2012 DA14の物理的性質に関する情報を得るために、4つの異なる観測所にある5つの望遠鏡を通じて行う観測キャンペーンが実施された[6]可視光線および赤外線での測光観測と可視光線での分光観測がカナリア大望遠鏡ガリレオ国立望遠鏡英語版カラル・アルト天文台で行われ、その観測結果がまとめられた。M4ASTと呼ばれるオンラインツールを使用した分類では、2012 DA14L型小惑星という珍しいタイプに分類されることが示された。

観測された光度曲線から2012 DA14の正確な自転周期が求められ、8.95 ± 0.08時間という値が得られた[6]。この値は、小惑星センターに報告された2012 DA14の全ての測光解析において確認された。また、地球接近前後のデータから、2012 DA14は地球に接近している間に自転が加速し、自転周期が9.8 ± 0.1時間から8.8 ± 0.1時間へと短くなったことが判明しており、光度曲線で推測された値とより互換性のある観測結果となっている[8]

軌道の変化

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2013年の接近時の地球と2012 DA14の距離のスケール。

2013年の地球への接近により、2012 DA14公転周期は368日から317日へと短縮され、遠日点距離も1.110 auから0.9917 auとなった。この軌道の変化により、2012 DA14はほぼ常に地球軌道よりも内側を公転するようになり、地球近傍小惑星としての分類はアポロ群からアテン群(小惑星センターはアティラ群としている[2])に変化した[3][25]

次に地球に接近するのは2046年2月15日で、地球から約0.0148 au(約221万 km)の距離を通過すると予測されている。7つのレーダー観測でのデータに基づくと、次に2013年と同程度まで地球に接近するのは2123年2月16日だが、少なくとも地球の中心から0.0002 au(30,000 km)よりも接近することはない。2123年の接近での公称通過距離はの中心からは0.003 au(45万 km)で、地球の中心からは0.005 au(75万 km)とされている[17]

2013年の接近前後の軌道変化
パラメーター 元期 軌道長半径 近日点距離 遠日点距離 離心率 公転周期 軌道傾斜角 近日点引数 昇交点黄経 平均近点角
単位 au
接近前 2012年9月30日 1.001 0.8935 1.110 0.1081 366.2 10.33 271.0 147.2 299.9
接近後 2013年4月18日 0.9103 0.8289 0.9917 0.0894 317.2 11.60 195.5 146.9 231.0

衝突時の影響

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2013年の接近前の2012 DA14の衝突リスク評価は直径を45 m、質量を13万 tと推定して見積もられていた。トリノスケールは0、パレルモスケールは最大で-3.67である[7]。仮に地球に衝突した場合、大気圏への突入速度は12.72 km/sで、生じる運動エネルギーTNT換算で2.4メガトンになり、高度約10.1 kmで爆発を起こしてTNT換算で2.1メガトンもの威力を持つエアバーストが生じると推定されている[7][26]アメリカ航空宇宙局(NASA)はこの規模の小惑星が仮に衝突した場合、東京都の面積の半分に当たる1,200 km2が吹き飛ぶと試算している[27]。この規模の小惑星が2013年の時ほど接近する頻度は40年に1度程度、衝突する頻度は1,200年に1度であるとされている[22][28]。しかし、仮に衝突したとしても、衝突地点は南極地域であると推され、海に落ちて津波が発生してもそれほど大きくはならないと考えられていた[12]

名称

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2012 DA14Duende という固有名を持っている。この固有名はイベリア半島ラテンアメリカフィリピンの民間伝承に登場している、妖精またはゴブリンのような神話上の生物ドゥエンデにちなんで命名された[2]。2013年11月17日に小惑星センターから発行された小惑星回報(M.P.C. 85916)にて、この固有名が正式に命名された[29]

脚注

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注釈

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  1. ^ 天体が最初に観測された日から最後に観測された日までの期間を指す。

出典

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  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r JPL Small-Body Database Browser: 367943 Duende (2012 DA14)””. JPL Small-Body Database. Jet Propulsion Laboratory. 2020年6月10日閲覧。 (2013-02-21 last obs.)
  2. ^ a b c d e (367943) Duende = 2012 DA14”. Minor Planet Center. 2020年6月10日閲覧。
  3. ^ a b c d Paul Chodas (2013年2月1日). “Asteroid 2012 DA14 To Pass Very Close to the Earth on February 15, 2013”. NASA/JPL Near-Earth Object Program Office. 2020年6月10日閲覧。
  4. ^ a b c Dr. Lance A. M. Benner (2013年1月13日). “2012 DA14 Goldstone Radar Observations Planning”. NASA/JPL Asteroid Radar Research. 2020年6月10日閲覧。
  5. ^ a b Minor Planet Center (2013年2月18日). “L. Johnson 2012 DA14 Update: radar images showing elongated object ~20x40m and ~7h rotation rate #COPUOS”. Twitter. 2020年6月10日閲覧。
  6. ^ a b c d e f g de León, J.; Ortiz, J. L.; Pinilla-Alonso, N.; Cabrera-Lavers, A.; Alvarez-Candal, A.; Morales, N.; Duffard, R.; Santos-Sanz, P. et al. (2013). “Visible and near-infrared observations of asteroid 2012 DA14 during its closest approach of February 15, 2013”. Astronomy and Astrophysics 555: 5. arXiv:1303.0554. Bibcode2013A&A...555L...2D. doi:10.1051/0004-6361/201321373. 
  7. ^ a b c d e f 2012 DA14 Impact Risk”. NASA Near-Earth Object Program (2012年8月25日). 2012年8月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年6月10日閲覧。
  8. ^ a b c d e LCDB Data for (367943)”. Asteroid Lightcurve Database (LCDB). 2020年6月10日閲覧。
  9. ^ Elenin, Leonid; Molotov, Igor (2013). “Lightcurve Analysis of Extremely Close Near-Earth Asteroid - 2012 DA14”. The Minor Planet Bulletin 40 (4): 187–188. Bibcode2013MPBu...40..187E. ISSN 1052-8091. 
  10. ^ a b Terai, Tsuyoshi; Urakawa, Seitaro; Takahashi, Jun; Yoshida, Fumi; Oshima, Goichi; Aratani, Kenta; Hoshi, Hisaki; Sato, Taiki et al. (2013). “Time-series photometry of Earth flyby asteroid 2012 DA14”. Astronomy and Astrophysics 559: 4. arXiv:1310.0577. Bibcode2013A&A...559A.106T. doi:10.1051/0004-6361/201322158. 
  11. ^ Urakawa, Seitaro; Fujii, Mitsugu; Hanayama, Hidekazu; Takahashi, Jun; Terai, Tsuyoshi; Ohshima, Osamu (2013). “Visible Spectroscopic Observations of a Near-Earth Object, 2012 DA14”. Publications of the Astronomical Society of Japan 65 (4): 3. arXiv:1306.2111. Bibcode2013PASJ...65L...9U. doi:10.1093/pasj/65.4.L9. 
  12. ^ a b c 接近中の小惑星、衛星に衝突の可能性も”. ナショナルジオグラフィック (2012年5月18日). 2020年6月10日閲覧。
  13. ^ “隕石と小惑星が残した教訓”. ニューズウィーク日本版(2013年3月5日号). 阪急コミュニケーションズ. (2013-02-26). p. 44. 
  14. ^ Don Yeomans (2013年3月1日). “Additional Details on the Large Fireball Event over Russia on Feb. 15, 2013”. NASA/JPL Near-Earth Object Program Office. 2020年6月10日閲覧。
  15. ^ Russia Meteor Not Linked to Asteroid Flyby”. NASA (2013年2月15日). 2020年6月10日閲覧。
  16. ^ Russian Asteroid Strike”. ESA.int (2013年2月15日). 2020年6月10日閲覧。
  17. ^ a b c JPL Close-Approach Data: (2012 DA14)”. JPL Small-Body Database. Jet Propulsion Laboratory. 2020年6月10日閲覧。 (2013-02-19 last obs (arc=362 days (Radar=7 obs); Uncertainty=0)
  18. ^ MPEC 2012-D51 : 2012 DA14”. Minor Planet Center (2012年2月24日). 2020年6月10日閲覧。
  19. ^ Earth remains safe for now—but what about next asteroid?”. tri-cityherald. 2015年4月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年6月10日閲覧。
  20. ^ Paul Chodas (2012年3月6日). “Near-Earth Asteroid 2012 DA14 to Miss Earth on February 15, 2013”. NASA/JPL Near-Earth Object Program Office. 2020年6月10日閲覧。
  21. ^ Asteroid 2012 DA14 – Earth Flyby Reality Check NASA
  22. ^ a b 16日夜明け前に小惑星が地球に大接近 アマチュア機器でも観測可能 AstroArts
  23. ^ Closest approaches of 2012 DA14 to known satellites – no encounter is closer than ~2000 km”. Jonathan's Space Report No. 674 (2013年2月10日). 2020年6月10日閲覧。
  24. ^ Radar Movie of Asteroid 2012 DA14”. Space Daily (2013年2月20日). 2020年6月10日閲覧。
  25. ^ Horizon Online Ephemeris System”. JPL Horizons On-Line Ephemeris System. 2020年6月10日閲覧。 ("Ephemeris Type: Elements" PR value)
  26. ^ Robert Marcus (2010年). “Earth Impact Effects Program”. Imperial College London / Purdue University. 2020年6月10日閲覧。 (solution using 45 meters, 2600 kg/m3, 12.7 km/s, 45 degrees)
  27. ^ 直径45メートルの小惑星、無事通過 観測史上最接近”. 日本経済新聞 (2013年2月16日). 2020年6月10日閲覧。
  28. ^ Record Setting Asteroid Flyby”. NASA Science (2013年1月28日). 2020年6月10日閲覧。
  29. ^ MPC 85415-85916” (PDF). Minor Planet Center (2013年11月17日). 2020年6月10日閲覧。

関連項目

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外部リンク

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