馬雲
馬 雲(ば うん、マー・ユン、簡体字中国語: 马 云、拼音: 、英語: Jack Ma〈ジャック・マー〉、1964年9月10日 - )[2]は、中国の起業家。現在、東京大学客員教授[3]。アリババグループやアントグループの創業者・元CEO・元董事長(会長)、ソフトバンクグループ元取締役[4]。浙江省杭州市出身。世界有数の企業家であり[5]、中国本土の起業家で初めて『フォーブス』に名前が掲載された[6]。
馬 雲 Jack Ma | |
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生誕 |
1964年9月10日(60歳) 中華人民共和国 浙江省杭州市 |
国籍 | 中華人民共和国 |
出身校 |
杭州師範大学 長江商学院 |
職業 | 東京大学客員教授 |
政党 | 中国共産党[1] |
配偶者 | 張瑛 |
Ma Yun | |||||||
簡体字 | 马 云 | ||||||
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繁体字 | 馬 雲 | ||||||
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来歴
編集学生時代
編集1964年生まれ。小さい頃から英語を学ぼうと、朝早くから自転車で近くのホテルに行って外国人と話した。9年間このような生活が続いた後、互いに文通をしあう外国人の友達と出会い、彼女からJackと呼ばれるようになる[7]。中学・高校と進学校ではなく、また本人も優秀な成績ではなかった。全国普通高等学校招生入学考試(高考)を2度受験したが、数学の成績は1度目が1点、2度目が31点だったため、大学進学を諦め三輪自動車の運転手となった。劣等生・落第生だったことは対照的に優等生(高考状元)「成績第1位の首席合格者」だった百度創業者李彦宏と比較されることが多い[8]。その後『人生』(著者:路遥)という本に出会い再度、大学進学を志す[9]。1988年、杭州師範学院(現杭州師範大学)英語科卒業。同年より1995年まで杭州電子工業大学(現杭州電子科技大学)にて講師として英語と国際経済貿易を教えた。
ビジネスの世界へ
編集1995年、アメリカで出会ったインターネットにヒントを得て、中国初のビジネス情報発信サイト「中国イエローページ」を開設する。
1998年から1999年にかけて政府機関の中国対外経済貿易合作部(中華人民共和国商務部の前身)の下部組織である中国国際電子商務中心に所属し、同部公式サイトおよび同国インターネット商品取引市場を開発する。1999年に同商務中心を辞職し、杭州に研究開発センターを設立。9月に香港を本部とするアリババネットを創業する。同社はeコマース、特にB2Bを開拓し、その後、アリババは世界最大のB2Bサイトの一つとなった。2003年、オンラインモール淘宝網を開設。2005年8月にアリババが中国ヤフーを買収し、馬は会長に就任。2006年には香港の大富豪である李嘉誠が設立した長江商学院CEOプログラムを受講する。
2007年にソフトバンク(現・ソフトバンクグループ)取締役に就任[10]。ソフトバンクの孫正義とは親交が深く、アリババはソフトバンクにとって最も成功した投資案件とされ[11]、互いにソフトバンクとアリババの取締役を兼任した[12]。2016年にはビル・ゲイツらとともにブレイクスルー・エネルギー・コアリションの設立に加わった。この時期、馬は一部の政府高官と親しく、また馬の成功は中国が世界に誇るべきものであったことから、規制当局もある程度は馬の自由な発言を容認していたとされる[13]。2016年から2018年にかけて、インドのムケシュ・アンバニに超されるまではアジアで1番の富豪であった[14][15][16]。
中国共産党政府との確執
編集2017年にはアメリカ・ニューヨークにあるトランプタワーを訪れ、ソフトバンクの孫正義に続いて海外のIT企業経営者としては2人目のドナルド・トランプ次期アメリカ合衆国大統領の会談相手となり、その場で馬は5年間でアメリカ国民100万人の雇用を創出すると約束した。馬はトランプの側近ジャレッド・クシュナーと親しかったことから実現し、孫の会談の際も仲介を行ったとされる[17]。しかし、大統領選挙期間中に中国に対して雇用喪失の責任を負わせる発言を繰り返していたトランプと事前承認なしに面会したことで中国政府との軋轢が生じたとされる[18]。
2018年9月10日、アリババ会長の職を翌2019年に退き、張勇(ダニエル・チャン)CEOを後継に据えると表明[19]。その予告どおりに55歳の誕生日である2019年9月10日にアリババグループの会長職を退任し[20]、2020年9月30日にはアリババグループの取締役も退任した[21]。このほか2020年6月25日にはソフトバンクグループの取締役も退任した[22]。
トランプとの独自会談で政府の不興を買った後も、馬は自ら非公式外交と位置づけて、2018年から2020年にかけて国際連合のアントニオ・グテーレス事務総長、ヨルダンのラーニア王妃、マレーシアのマハティール・ビン・モハマド首相などと会談を実施。杭州市の本部にあるアリババ博物館にて海外からの訪問客をもてなした[18]。2018年には中国共産党に入党していることが人民日報で報じられた[23]。
しかし2020年10月24日、上海で開かれた金融機関の幹部や金融監督当局や政府の要人が出席した会合で馬はスピーチを行い、中国政府批判を繰り広げる。政府による国内の金融規制が技術革新の足かせとなっており、経済成長のためには改革が必要だと指摘したほか、中国の銀行は質屋程度の感覚で営業しているとまで発言。事前にスピーチの内容を把握した関係者は穏当な内容に変更するよう進言したが馬は聞き入れず、批判を浴びせられた政府当局高官は面子を潰され、アリババグループの規制へと突き進んだ。その結果、11月5日に上海と香港で予定されていたアリババグループ傘下のアントグループの新規上場が2日前の11月3日に突如延期された。新規株式公開(IPO)が実施されていれば370億ドル(約3兆8300億円)を調達できるはずであった[13]。政府による締め付けはその後も様々な民間セクターに及んだ[18]。
近況
編集その後、馬は表舞台から姿を消す。アントグループの上場中止から数週間以内に習近平中国共産党総書記に対する面会を申し出たものの実現せず、2021年には習近平に対し、残りの人生を農村部の教育に捧げる旨を書簡で直接伝えたが、これを習近平が了承したかどうかは不明となっている。2021年10月、馬が環境問題に関する農業・技術視察のためにスペインのマヨルカ島を訪問したほか[24]、11月初旬には白い防護ガウン姿で植木鉢を持つ馬の写真が香港英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストによって報じられている。アリババ共同創業者の蔡崇信は、2021年6月現在も馬と連絡を毎日とっていることを明かしている[18]。2022年より生活拠点を東京に移した[25]。
2022年5月3日には馬が国家分裂や政権転覆を扇動した容疑で当局より捜査されているとの報道が駆け巡り香港市場でのアリババ株価が一時9.4%下落したが、程なくして別人であったことが判明している[26][27]。
2022年11月29日には約半年にわたって家族とともに東京に滞在し、地方の温泉やスキー場を訪れたり、東京都心の丸の内や銀座の会員制クラブを中心に活動していると報道される[28]。
2023年1月7日、アントグループは株式保有調整を実施し、馬が所有する過半数の議決権の大部分を手放すことで合意したことを明らかにした[29]。
2022年末より中国政府当局が馬に対し帰国を要請。2023年3月下旬に約1年ぶりに中国に帰国し、3月27日には生まれ故郷である浙江省杭州市に設立した杭州雲谷学校を訪れた[30]。李強国務院総理が馬の仕事仲間などを通じて帰国を働きかけたとされる[3]。
2023年5月1日には東京大学が大学の研究組織『東京カレッジ』の客員教授として招聘したことを発表した[3]。
2023年11月にはアリババ社内フォーラムへのスタッフ投稿に返答する形で、競合他社に遅れを取りつつあるもの取り戻すことは可能として全社員に奮起を促した。久々に沈黙を破る形となったが、この発言が中国当局の了解を得たものなのかは定かではない[31]。このほか、11月22日に杭州市にて食品関連のスタートアップ企業『杭州馬家厨房食品』を設立した[32]。
人物・その他
編集- その風貌から「宇宙人」(中国語で「外星人」)と呼ばれており、この愛称を自ら持ち出すジョークを飛ばすこともある[33]。
- ライバルの馬化騰(テンセントCEO)と李彦宏や孫正義ら海外の大物経営者も名を連ねている清華大学経済管理学院顧問委員会の委員の一人である[34]。
- 座右の銘は「永遠不放棄」(中国語で「絶対に諦めない」の意味)である[9]。
- マオカラースーツを愛用している[35]。
- 「瞬間的な情熱は無意味である。持続できる情熱だけがビジネスになる」という名言を残す。
- 「偽物は本物より優れている」[36]「天安門事件での鄧小平の決定はパーフェクトではないにせよ当時においては最も正確な決定だった」[37]「計画経済ができなかったからソ連は崩壊し、ビッグデータとAIがある今なら可能だ」[38][39][40]などといった物議を醸す発言でも知られる。
- 「太極禅国際文化発展有限公司」を馬と共同設立[41][42]したジェット・リーが監督した映画「功守道」で太極拳の師匠役として映画『マトリックス』などの武術指導で有名なユエン・ウーピン、著名なアクション俳優のドニー・イェンとサモ・ハン・キンポーら著名人とともに出演して俳優デビューした[43]。監督のリーは「太極拳を世界に広める映画をつくりたい」と語った馬の希望に答えた映画だとしてる[44]。
- ジャック・マー財団を設立。2019年には、チベット自治区ラサ市で立ち上げた「ラサ師範高等専科学校 ジャック・マー教育基金」プロジェクトに合計1億元を投じ、同自治区で優れた教育人材を育成することを発表した[45]。
- 日本のスポ根ドラマ『燃えろアタック』に精神面で強い影響を受けている。2003年には主演の荒木由美子を中国に招待して対面を果たした[46]。
関係書籍
編集- 張燕 著・永井麻生子 訳『ジャック・マー アリババの経営哲学』、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2014年12月26日、ISBN 978-4-7993-1612-2[47]
脚注
編集- ^ “Alibaba's Jack Ma is a Communist Party member, China state paper reveals”. CNBC (27 November 2018). 27 November 2018閲覧。
- ^ “Alibaba's Jack Ma gets special gifts for his 50th birthday”. CNBC.com
- ^ a b c “アリババ創業者のマー氏、東大「東京カレッジ」の客員教授に”. ロイター. (2023年5月1日) 2023年5月1日閲覧。
- ^ “役員一覧”. ソフトバンクグループ. 2017年4月16日閲覧。
- ^ “[FT中国保険業界の大物、HSBCへの分割要求で脚光”]. 日本経済新聞. (2022年5月10日) 2023年5月1日閲覧。
- ^ “ジャックマーのプロフィール”. フォーブス. 2023年5月1日閲覧。
- ^ “How I Did It: Jack Ma, Alibaba.com”
- ^ “盘点大佬高考:马云数学考1分李彦宏系高考状元- 地方联播”. 新華網. (2013年6月9日) 2016年7月18日閲覧。
- ^ a b “「数学1点」劣等生から奮起 アリババ・馬雲”
- ^ “ソフトバンクの07年3月期、携帯電話事業が寄与し増収増益”. ロイター. (2007年5月9日) 2019年5月31日閲覧。
- ^ “ソフトバンク 買収と投資でグループ成長 一方で失敗も”. 毎日新聞. (2017年5月13日) 2019年1月20日閲覧。
- ^ “ソフトバンクの07年3月期、携帯電話事業が寄与し増収増益”. ロイター. (2007年5月9日) 2019年9月27日閲覧。
- ^ a b “焦点:舌禍が招いたアント上場延期、ジャック・マー氏の大誤算”. ロイター. (2020年11月7日) 2021年11月8日閲覧。
- ^ “馬雲氏、新たにアジア1の富豪となる”. 新華網 (2016年4月29日). 2019年12月12日閲覧。
- ^ “アジア長者番付、2位に印リライアンス会長”. 日本経済新聞 (2017年8月5日). 2019年12月12日閲覧。
- ^ “Billionaire Mukesh Ambani topples Jack Ma as Asia's richest person”. Times of India (2018年7月14日). 2019年12月12日閲覧。
- ^ “トランプ、恫喝ツイッター恐怖政治の代償…米中軍事衝突の懸念、企業がご機嫌取り合戦”. ビジネスジャーナル. 2017年1月15日閲覧。
- ^ a b c d “焦点:中国政府が愛したジャック・マー氏、転落劇の内幕”. ロイター. (2021年11月7日) 2021年11月8日閲覧。
- ^ “【全文掲載】1年後の引退表明、アリババ創業者ジャック・マーの手紙——アリババの文化は継承できる”. ビジネスインサイダー. (2018年9月10日) 2019年2月6日閲覧。
- ^ “55歳になったジャック・マー氏、アリババ会長退く-創業から20年”. bloomberg. 2019年9月10日閲覧。
- ^ “アリババ馬氏、取締役を退任 創業者の影響力は維持”. 日本経済新聞
- ^ “ソフトバンクG、ジャック・マー氏が取締役退任”. 日本経済新聞
- ^ “アリババ・馬雲氏は共産党員、中国紙が報道”. ロイター (2018年11月27日). 2018年11月29日閲覧。
- ^ “アリババ馬氏、スペインのマヨルカ島で目撃 当局締め付け軟化の観測”. ロイター. (2021年10月21日) 2021年11月8日閲覧。
- ^ “アリババ創業者が潜伏拠点にしている銀座の社交クラブとは? 「一般のエレベーターは止まらない」”. デイリー新潮. (2023年3月18日) 2023年4月10日閲覧。
- ^ “アリババ株一時急落、「馬氏」捜査と報道 後に創業者でないと判明”. ロイター. (2022年5月3日) 2022年5月3日閲覧。
- ^ “中国当局調査の「馬氏」はジャック・マー氏との噂 アリババ株急落”. 産経新聞. (2022年5月3日) 2022年5月3日閲覧。
- ^ 若杉朋子 (2022年11月30日). “アリババ創業者ジャック・マー氏、東京に滞在 FT報道”. 日本経済新聞 2022年11月30日閲覧。
- ^ “中国アント、創業者の馬氏が経営権放棄へ 株式保有を調整”. ロイター. (2023年1月7日) 2023年1月7日閲覧。
- ^ “アリババ創業者馬氏が中国へ帰国、李首相の要請との指摘も”. ロイター. (2023年3月27日) 2023年4月10日閲覧。
- ^ “沈黙破ったジャック・マー氏、表舞台復帰か-アリババの未来に危機感”. bloomberg.co.jp. ブルームバーグ. (2023年11月30日) 2023年11月30日閲覧。
- ^ “ジャック・マー氏、食品関連の企業を立ち上げ”. CNN.co.jp. CNN. (2023年11月28日) 2023年11月30日閲覧。
- ^ “アリババ・馬会長、北京の大気汚染に孫正義氏譲りの自虐ネタ「本当に宇宙人だったら・・・」”. サーチナ (2015年12月7日). 2018年4月19日閲覧。
- ^ “清华大学经济管理学院-顾问委员会名单”. 清華大学経済管理学院. 2017年11月24日閲覧。
- ^ “アリババ会長は「マオラー」? ドン小西が「センスはお金じゃ買えない」とチェック”. AERA dot. (2014年10月6日). 2018年4月19日閲覧。
- ^ “https://www.recordchina.co.jp/b141697-s0-c20-d0035.html”. Record China (2016年6月26日). 2018年9月1日閲覧。
- ^ “天安門事件にまつわる中国著名人の「黒歴史」を辿ってみた” =
- ^ “中国政府、外交に人工知能やビッグデータ導入で競争力向上へ”. ニューズウィーク (2018年7月31日). 2019年1月2日閲覧。
- ^ “デジタル・レーニン主義、ビッグデータとAI活用、中国で構築進む壮大な社会管理システム”. Record China (2018年5月26日). 2019年1月2日閲覧。
- ^ “Will Artificial Intelligence Bring Karl Marx's Ideas to Life?”. Sputnik (2018年5月13日). 2019年1月2日閲覧。
- ^ “What is Taiji Zen?”. 28 February 2014時点のオリジナルよりアーカイブ。15 April 2015閲覧。
- ^ “ジェット・リー、世界中に太極拳を!発信拠点を設立=不眠やストレスに効果―浙江省”. Record China (2013年3月28日). 2019年8月21日閲覧。
- ^ “アリババ会長が映画デビュー アクションスターに”. 日本経済新聞 (2017年11月7日). 2017年11月15日閲覧。
- ^ “中国の俳優ジェット・リー「映画『功守道』はジャック・マーへの回答」”. AFPBB (2017年11月12日). 2017年11月15日閲覧。
- ^ “ジャック・マー財団、1億元を拠出しチベットに教育基金”. AFP (2019年7月1日). 2019年7月1日閲覧。
- ^ “アリババのジャック・マー会長、初恋の人は日本人!スポ根ドラマで心を奪われた女優とは”. Record China (2014年11月18日). 2021年1月4日閲覧。
- ^ 孫正義が認めたアリババ創業者"ジャック・マー"のチャンスをつかむ哲学