食物アレルギー(しょくもつアレルギー、英語: Food allergy)は、原因食物を摂取した後に免疫学的機序を介して起こる生体にとって不利益な症状(皮膚、粘膜、消化器、呼吸器、アナフィラキシー反応など)のこと。

食物アレルギー
概要
診療科 免疫学
分類および外部参照情報
ICD-10 T78.0
ICD-9-CM V15.01-V15.05
OMIM 147050
MedlinePlus 000817
eMedicine med/806
MeSH D005512

食品によっては、アナフィラキシーショックを発症して命にかかわることもある。一部の集団では、後にアトピー性皮膚炎喘息へと進展するというアレルギー・マーチの仮説の最初のアレルギー反応である。

定義

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0歳時を頂点にして年齢と共に有病率は減っていき、その多くは乳幼児期に発症する[1]。欧米やアジアで、乳幼児から幼児期にかけては食物アレルギーの主要な原因として鶏卵牛乳がその半数以上を占める[1][2]。日本の疫学では、青年期になるにつれて甲殻類が原因の事例が増え、牛乳が減り、成人期以降では、甲殻類小麦果物魚介類といったものが主要なアレルギーの原因食品となる[1]。日本人3,882名を対象とした統計では、全体的な原因食物上位3つは鶏卵38.3%、牛乳15.9%、小麦8%である(乳幼児の多さに引っ張られる)[1]。欧米ではピーナッツは主な原因であるがアジアではまれである[2]。日本と韓国では小麦アレルギーは一般的だが、他のアジア諸国はそうではなく料理が原因だろう[2]

対応として原因食品を必要最小限に除去する。臨床研究段階の治療法に経口免疫療法があり、重篤な症状の発生頻度が少なくなく2017年には安全性の確保が課題とされた[3]。2015年以降、アトピー性皮膚炎のある卵とピーナッツの食物アレルギーの乳児では、食品への早期暴露による耐性獲得が早い結果が見られている[4]。一方、牛乳アレルギーでは大豆や米に由来する配合乳を使った方が耐性獲得が早い結果もみられている[5][6]。よく原因となる食品について、日本では食品衛生法第19条の特定原材料として指定品目の表示が義務づけられている。

発症年齢

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日本の3,882例の統計からは、0歳時の約1,250例(約30%と少し)を頂点として、1歳児で約700例、2歳児で約400弱、4歳で200例を下回り、年齢を重ねるほどに漸減し、多くは乳幼児期に発症する[1]

牛乳アレルギーでは16歳までに79%、鶏卵では68-78%がIgEにおける耐性を獲得する[7]。ピーナッツ・アレルギーではアレルギーとなった子供は20%しか耐性を獲得せず、成人になっても管理が必要な人が多い[8]

罹患数疫学

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アメリカやイギリスで1990年代と2000年代と比較して罹患者は倍増しており、原因は不明である[2]

地域

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アジアにおける食物アレルギーの有病率は欧米に匹敵し、魚介類が豊富なため甲殻類のアレルギーは一般的で、ピーナッツでは極めて低い[2]。欧米ではピーナッツアレルギーが倍増しており[2]、重症のアナフィラキシーも増加している[9]。欧米では、牛乳、卵、ピーナッツ、ナッツ、小麦、甲殻類の貝類、魚類および大豆が一般的だが、魚類と大豆の有病率は疑義を受けておりそれらの論文の中では低い[2]

乳児と幼児では卵と牛乳が最も一般的[2]。子供ではアジアでは卵が一番多く、牛乳が二番目である。小麦アレルギーはほとんどのアジア諸国でまれだが、日本と韓国では一般的である[2]。ソバは日本の学童で主なアレルギーとなる[2]

6歳以下のアナフィラキシーは、牛乳で最も一般的であり、貝はそれ以降18歳まで一般的である[2]。日本と韓国では、小麦は子供のアナフィラキシーの主な原因で、タイやシンガポールでも重要なアナフィラキシーのトリガーとなる[2]

成人では、ピーナッツとナッツによるアナフィラキシーはイギリスやオーストラリアなど欧米では一般的である[2]。貝によるアナフィラキシーは最も一般的で、中国、タイ、シンガポールなどほとんどのアジア諸国や、アメリカやオーストラリアでも主な原因である[2]。韓国では、小麦やそばが主である[2]

発症疫学

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妊娠中の母親のピーナッツの摂取は、その子のピーナッツアレルギーに無関係である[10]ランダム化比較試験にて、4-6か月の健康な乳児への鶏卵の早期摂取によるアレルギー発症の予防効果はなく、既にアレルギーであった場合には集団としてアレルギー反応を起こす頻度を上げる[11]

未消化物の吸収と食物アレルギー

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消化管の上皮層にはバリア機能があるため分子量500程度までの物質を通すとされている[12]。しかし食物アレルギーの原因となる、主にタンパク質である未消化のアレルゲンの分子量は5,000から10万となる[12]。実際にはそうした分子量の多い物質も少量は吸収されている。正常なラットでFITC-デキストラン(FD-10、分子量9.4万)や卵白アレルゲンのリゾチーム(分子量1.4万)や卵白アルブミン(分子量4.5万)の少量は血中に移行している[12]

人間では、食べた卵の卵白アルブミンと牛乳のβ-ラクトグロブリン(分子量1.7万[13])の血中への移行について、健康な成人では卵白アルブミンが[14]、健康な子どもでは両方とも血中への移行が確認された[13]。卵白アルブミンでは大人8人・子ども5人の全員、子どもでのβ-ラクトグロブリンは5人中2人で移行している。

アスピリン(を含む非ステロイド性抗炎症薬)は副作用として胃腸の不調を起こすことがあり、健康なヒトで小麦と薬のアスピリンとを一緒に服用した場合、小麦のアレルゲン(分子量は数万のグリアジン)の血中濃度が増加した[12]

胃腸薬としての制酸薬の使用は、胃酸中の消化酵素による消化能力を損なわせてタンパク質の消化を妨げることで、食物アレルギーのリスクを高めたり、より少量の摂取で症状を発症させる[15]。胃酸を抑制するヒスタミンH2受容体拮抗薬プロトンポンプ阻害薬の消化性潰瘍治療薬を3か月服用したところ、10%の人で牛乳、人参、リンゴ、オレンジ小麦などに対するIgE抗体(アレルギー反応の参考になる指標)が増加していた[16]

診断

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プリックテストの様子。

食べた後にアレルギー反応と思われる症状があるだけでは、食物アレルギーとは診断することはできない。実際に食物アレルギーは酵素不全による不耐症や食品に含まれる物質の薬理作用による反応と混同されることが多い。食物アレルギーには摂取後すぐに発症するⅠ型アレルギーによるものと数時間以上経ってから症状が出現する非Ⅰ型アレルギーによるものが存在する。

血液検査のアレルゲン特異IgERAST=放射性アレルゲン吸着試験とよばれることがある)、プリックテストといった検査はⅠ型アレルギーと考えられる症例に対してのみ使用する。これらの検査は偽陽性が多いので病歴から判断し、必要なもののみを検査する。またRASTの結果は食物抗原や患者の年齢によって、同じ値であっても臨床的な意義が異なる。例えば、乳児においては小麦でRAST陽性がでることは多いので、卵白低値陽性は小麦中程度陽性よりも臨床的な意義が高いと考えられる。

実際に医者が側にいる状態で少量を食べさせる食物経口負荷試験(Oral food challenge、OFC)が小児科などでも行われ、初期診断や耐性獲得のために行われる[17]

花粉症の季節に悪化する場合は口腔アレルギー症候群の可能性がある。特に成人の場合は可能性が高い。

治療

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アナフィラキシーショックを起こした場合はアナフィラキシーショックの治療を行う。魚介類、ナッツピーナッツソバは重篤なアナフィラキシーを起こすことが多いことが知られている。また喘息の既往がある患者も重篤なアナフィラキシーを起こす可能性が高いといわれている。

治療は原因食物の除去が原則であるが、食物アレルギーの患者は小児に多く、厳しい除去食は栄養に悪影響を及ぼす恐れがある。原因が特定できなければアレルギー専門医の受診が望ましい。

アレルギー反応を起こさない量の原因食物を摂取することによって体を慣れさせる経口免疫療法も専用機関・病院などで行われている。臨床研究段階であり、入院下での経口免疫療法の即時型症状の発生頻度は58-71%、アナフィラキシーショックに対するアドレナリンの使用頻度は6-9%と、重篤な症状の発生頻度が少なくない、リスクの高い治療法であり、2017年には安全性の確保が課題とされた[3]

2015年以降、アトピー性皮膚炎のある卵とピーナッツの食物アレルギーの乳児では、湿疹の治療と共に4か月以降の食品への早期暴露により耐性獲得が早いという研究結果が見られる[4]。最適な方法を探るために、厳密な多施設のランダム化比較試験が必要である[18]

牛乳アレルギーでは、世界アレルギー機構による新たな牛乳アレルギーのガイドラインのための2016年の調査では、牛乳アレルギーの期間が牛乳タンパク質分解乳の使用で40か月前後のところを、大豆や米に由来する配合乳を使った場合には24か月前後と短かかったといった証拠[5]も現れてきている[6]

原因食物

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アレルゲン検査などの対象となる食物アレルギーの原因食物には以下のようなものがあり、このうち法令上で表示対象となる食品は一般に発症数や重篤度から勘案して定められている。

アレルギーの原因食物
食品名 日本国内の対応 備考
「特定原材料」
として表示義務あり
全卵ではなく、卵黄、卵白アレルギーがある。
小麦
えび エビ#食物アレルギーも参照
かに
そば ソバ#アレルギーも参照
落花生 ラッカセイ#ラッカセイアレルギーも参照
くるみ
アーモンド 「特定原材料に準ずるもの」
として表示奨励
あわび
いか
いくら
オレンジ
カシューナッツ
キウイフルーツ
牛肉
ゴマ
さけ
さば
大豆
鶏肉
バナナ
豚肉
まつたけ
もも
やまいも
りんご
ゼラチン
アナフィラキシーショックを引き起こす可能性がある。
オオムギ(大麦)
アワ(粟)
ヒエ(稗)
キビ(黍)
トウモロコシ
インゲン
エンドウ
ココナッツ
クリ(栗) ゴムも同様のアレルギーが起こるとされる
(類似の分子構造と独特な臭気を持つ主成分(ゴムタンパク)が含まれる)
イチゴ
メロン
マンゴー
アボカド
セイヨウナシ
トマト
セロリ
パセリ
タマネギ
スイカ
ニンジン
ジャガイモ
サツマイモ
カボチャ
ホウレンソウ
タケノコ
ニンニク
カラシ
ワサビ
カカオ チョコレート(日本でいう準チョコレート・チョコレート菓子含む)・ココアなど。
チョコレートアレルギーの項目も参照
アサリ
カキ
ホタテ
タコ
アジ
イワシ
タラ
マグロ
タラコ

対処

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アメリカの食物アレルギー表示。2004年のFood Allergen Labeling and Consumer Protection Act(食品アレルゲン表示および消費者保護法)で表示が義務化

脚注

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出典

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  1. ^ a b c d e 日本小児アレルギー学会食物アレルギー委員会『食物アレルギー診療ガイドライン2012ダイジェスト版』「第2章 疫学」 2017年8月15日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o Lee AJ, Thalayasingam M, Lee BW (2013). “Food allergy in Asia: how does it compare?”. Asia Pac Allergy 3 (1): 3–14. doi:10.5415/apallergy.2013.3.1.3. PMC 3563019. PMID 23403837. https://apallergy.org/DOIx.php?id=10.5415/apallergy.2013.3.1.3. 
  3. ^ a b 牛乳アレルギー治療で呼吸困難、心肺停止! あえてアレルゲンをとる免疫療法の怖さ”. HEALTH PRESS (2017年12月11日). 2017年12月23日閲覧。
  4. ^ a b 夏目統 (2017年5月8日). “小児食物アレルギーの発症予防―最近の知見から”. 週刊医学新聞. http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03222_02#bun 2017年8月15日閲覧。 
  5. ^ a b Terracciano L, Bouygue GR, Sarratud T, Veglia F, Martelli A, Fiocchi A (2010). “Impact of dietary regimen on the duration of cow's milk allergy: a random allocation study”. Clin. Exp. Allergy 40 (4): 637–42. doi:10.1111/j.1365-2222.2009.03427.x. PMID 20067480. 
  6. ^ a b Fiocchi A, Dahda L, Dupont C, Campoy C, Fierro V, Nieto A (2016). “Cow's milk allergy: towards an update of DRACMA guidelines”. World Allergy Organ J 9 (1): 35. doi:10.1186/s40413-016-0125-0. PMC 5109783. PMID 27895813. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5109783/. 
  7. ^ Anagnostou, Katherine; Swan, Kate; Fox, Adam T. (1970). “[In memory of Professor V. G. Ginzburg”] (Russian). Vestn Rentgenol Radiol 45 (5): 109. doi:10.3390/children2040439. PMID 4928773. http://www.mdpi.com/2227-9067/2/4/439. 
  8. ^ Yun J, Katelaris CH (2009). “Food allergy in adolescents and adults”. Intern Med J 39 (7): 475–8. doi:10.1111/j.1445-5994.2009.01967.x. PMID 19382983. 
  9. ^ Sumathi Reddy (2017年8月22日). “深刻な急性食物アレルギー、米で大幅増”. Wall Street Journal. http://jp.wsj.com/articles/SB12800216862765424235404583345464259655922 2017年8月15日閲覧。 
  10. ^ Fox AT, Sasieni P, du Toit G, Syed H, Lack G (2009). “Household peanut consumption as a risk factor for the development of peanut allergy”. J. Allergy Clin. Immunol. 123 (2): 417–23. doi:10.1016/j.jaci.2008.12.014. PMID 19203660. 
  11. ^ Bellach J, Schwarz V, Ahrens B, et al. (2017). “Randomized placebo-controlled trial of hen's egg consumption for primary prevention in infants”. J. Allergy Clin. Immunol. 139 (5): 1591–1599.e2. doi:10.1016/j.jaci.2016.06.045. PMID 27523961. 
  12. ^ a b c d 横大路智治「食物アレルゲンの吸収機構の解明と食物アレルギーの発症に関する研究」『膜』第40巻第5号、2015年、284-290頁、doi:10.5360/membrane.40.284NAID 130005249025 
  13. ^ a b Husby S, Foged N, Høst A, Svehag SE (1987-09). “Passage of dietary antigens into the blood of children with coeliac disease. Quantification and size distribution of absorbed antigens”. Gut 28 (9): 1062–72. doi:10.1136/gut.28.9.1062. PMC 1433239. PMID 3678964. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1433239/. 
  14. ^ Husby S, Jensenius JC, Svehag SE (1985-07). “Passage of undegraded dietary antigen into the blood of healthy adults. Quantification, estimation of size distribution, and relation of uptake to levels of specific antibodies”. Scand J Immunol 22 (1): 83–92. doi:10.1111/j.1365-3083.1985.tb01862.x. PMID 4023632. 
  15. ^ Untersmayr E, Jensen-Jarolim E (2008-06). “The role of protein digestibility and antacids on food allergy outcomes”. J Allergy Clin Immunol 121 (6): 1301–8; quiz 1309–10. doi:10.1016/j.jaci.2008.04.025. PMC 2999748. PMID 18539189. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2999748/. 
  16. ^ Untersmayr E, Bakos N, Schöll I, Kundi M et al (2005-04). “Anti-ulcer drugs promote IgE formation toward dietary antigens in adult patients”. FASEB J 19 (6): 656–8. doi:10.1096/fj.04-3170fje. PMID 15671152. 
  17. ^ 伊藤浩明「食物経口負荷試験/Oral Food Challenge」『日本小児アレルギー学会誌』第26巻第1号、日本小児アレルギー学会、2012年、124-130頁、doi:10.3388/jspaci.26.124ISSN 0914-2649 
  18. ^ Nowak-Węgrzyn A, Chatchatee P (2017). “Mechanisms of Tolerance Induction”. Ann. Nutr. Metab. 70 Suppl 2: 7–24. doi:10.1159/000457915. PMID 28521317. 
  19. ^ 加工食品の食物アレルギー表示ハンドブック サイト:消費者庁

参考文献

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  • レジデントのためのアレルギー疾患診療マニュアル ISBN 4260001450

関連項目

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外部リンク

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