非訟事件
非訟事件(ひしょうじけん)とは、民事の法律関係に関する事項について、終局的な権利義務の確定を目的とせず、裁判所が後見的に介入して処理することを特徴とする事件類型をいう。裁判所は当事者の主張に拘束されず、その裁量によって将来に向かって法律関係を形成する。
具体例
編集非訟事件とされる事件は、その紛争性の程度の差異から非争訟的非訟事件と争訟的非訟事件に分けられるが、両者の差異は相対的なものである。
手続構造
編集訴訟事件と比較した場合の非訟事件の手続には、概ね以下のような特色があるとされている。もっとも、具体的な非訟事件には様々なものがあるため、厳密には具体的な類型ごとに構造は異なるといってよい。
- 当事者
- 訴訟事件は二当事者対立構造を採るのに対し、非訟事件は必ずしも対立構造を前提としない。もっとも、争訟的非訟事件の場合は対立構造を採る。
- 手続構造
- 訴訟事件は公開の法廷で口頭弁論を開く対審構造であるのに対し、非訟事件は口頭弁論を開く建前を採らず手続も一般には非公開である。
- 裁判の基礎資料
- 訴訟事件は原則として当事者が提出した資料のみが裁判の基礎資料になるのに対し、非訟事件は当事者が提出しない資料であっても必要があれば裁判所の職権で調べることが可能とされている。もっとも、現実には、公共性が高いものでもない限り非訟事件であっても当事者が提出した資料のみによることが多い。
- 裁判の形式など
- 訴訟事件は終局的な判断について判決という形式を採用し、それに対する不服申立ては控訴・上告又は上告受理申立てという形式を採るが、非訟事件は決定という簡略な形式の裁判により行い、それに対する不服申立ては抗告という形式を採る。
訴訟との区別
編集訴訟と非訟の形式上の区別は以上のとおりであるが、特に争訟的非訟事件の場合、実質的に訴訟事件と区別されるのはどの点にあるのかが問題とされる。
この点に関する最高裁判所の判例の立場によると、当事者が主張する既存の権利義務の存否を確定させる裁判をする場合には、最終的には訴訟手続によらなければならないが、当事者の権利義務が存在することを前提にその具体的な内容を裁量的に形成する裁判をする場合は、非訟手続によってもよいとされている。
この点について遺産分割で揉めている例で説明する。まず、当事者にそもそも遺産の相続権があるかという争いに関する判断は、最終的には訴訟手続によらなければならない。これに対し、遺産分割の裁判それ自体は、当事者に相続権があることを前提にどの相続人にどの遺産を帰属させるかにつき具体的に決める処分をする裁判であり、非訟手続によってもよいことになる。なお、遺産分割審判の中でその前提問題として相続権の有無を判断することは可能であるが、別途民事訴訟で争うことも可能であり、相続権の有無につき民事訴訟と遺産分割審判との間で食い違いが生じた場合、審判はその限度で効力を失う。
もっとも、非訟事件と言われるものの中には様々なものがあり共通の性質を抽出することは困難であること、訴訟であっても権利義務に関する法律の定め方が抽象的になれば裁判所の裁量判断が大きくなり非訟に近づくことなどから、訴訟と非訟との区別を断念し、法律が訴訟事件としていないものが非訟事件であるとする考え方もある。