空間的変数x 、時間的変数t を持つ複素数値関数φ=φ(x , t )に対し、次の非線形偏微分方程式
i
ϕ
t
+
p
ϕ
x
x
+
q
|
ϕ
|
2
ϕ
=
0
(
i
=
−
1
)
{\displaystyle i\phi _{t}+p\phi _{xx}+q|\phi |^{2}\phi =0\qquad (i={\sqrt {-1}})}
を(一次元)非線形シュレディンガー方程式と呼ぶ。但し、右下の添え字は各変数に対する偏微分を表しており、p 、q は定数である。
変数の適当なスケール変換の下では、
i
ϕ
t
+
ϕ
x
x
+
2
ϵ
|
ϕ
|
2
ϕ
=
0
(
ϵ
=
±
1
)
{\displaystyle i\phi _{t}+\phi _{xx}+2\epsilon |\phi |^{2}\phi =0\qquad (\epsilon =\pm 1)}
の形に帰着させることができる。ここでε=±1はpq の符号に対応する。この方程式は、1次元シュレディンガー方程式のポテンシャル関数V の項を非線形項-2ε|φ|2 に置き換えた形となっている。ε=-1の場合は、斥力型のポテンシャルの場合に対応する。一方、ε=+1の場合、引力型のポテンシャルの場合に対応し、自己集束の効果を表す。
非線形シュレディンガー方程式
ϕ
t
+
ϕ
x
x
+
2
ϵ
|
ϕ
|
2
ϕ
=
0
(
ϵ
=
±
1
)
{\displaystyle \ \phi _{t}+\phi _{xx}+2\epsilon |\phi |^{2}\phi =0\qquad (\epsilon =\pm 1)}
で記述されるφの包絡線は、ε=±1に応じて、明るいソリトン 、暗いソリトン と呼ばれる包絡ソリトン 解を持つ。
ε=1のとき、
ϕ
(
x
,
t
)
=
f
(
x
−
V
t
)
e
i
Ω
t
{\displaystyle \phi (x,t)=f(x-Vt)e^{i\Omega t}}
f
(
x
)
→
0
as
|
x
|
→
∞
{\displaystyle f(x)\to 0\,\,\operatorname {as} \,\,|x|\to \infty }
の形の進行波解として
ϕ
(
x
,
t
)
=
Ω
sech
Ω
(
x
−
V
t
−
x
0
)
e
i
V
2
(
x
−
V
t
)
e
i
(
V
2
4
+
Ω
)
t
{\displaystyle \phi (x,t)={\sqrt {\Omega }}\operatorname {sech} {\sqrt {\Omega }}(x-Vt-x_{0})e^{i{\frac {V}{2}}(x-Vt)}e^{i({\frac {V^{2}}{4}}+\Omega )t}}
=
Ω
sech
Ω
(
x
−
V
t
−
x
0
)
e
(
i
V
2
x
−
i
(
V
2
4
+
Ω
)
t
)
{\displaystyle \qquad ={\sqrt {\Omega }}\operatorname {sech} {\sqrt {\Omega }}(x-Vt-x_{0})e^{{\biggl (}i{\frac {V}{2}}x-i({\frac {V^{2}}{4}}+\Omega )t{\biggr )}}}
を持つ。ここで、sechは双曲線正割関数 を表す。φの包絡線|φ|は双曲線正割関数で表される包絡ソリトンである。非線形光学 において、この解は明るいソリトンと呼ばれる。
ε=-1のとき、進行波解として
ϕ
(
x
,
t
)
=
ρ
0
e
i
(
k
x
−
ω
t
)
1
+
c
e
a
x
−
b
t
1
+
e
a
x
−
b
t
{\displaystyle \phi (x,t)=\rho _{0}e^{i(kx-\omega t)}{\frac {1+ce^{ax-bt}}{1+e^{ax-bt}}}}
ω
=
k
2
+
2
ρ
0
2
,
b
=
a
(
2
k
±
4
ρ
0
2
−
k
2
)
,
c
=
a
2
+
i
(
b
−
2
k
a
)
a
2
−
i
(
b
−
2
k
a
)
{\displaystyle \omega =k^{2}+2\rho _{0}^{\,2},\quad b=a(2k\pm {\sqrt {4\rho _{0}^{\,2}-k^{2}}}),\quad c={\frac {a^{2}+i(b-2ka)}{a^{2}-i(b-2ka)}}}
が存在する。このとき、φの包絡線は
|
ϕ
|
2
=
ρ
0
2
(
1
−
a
2
4
ρ
0
2
sech
2
1
2
(
a
x
−
b
t
)
)
{\displaystyle |\phi |^{2}=\rho _{0}^{\,2}{\biggl (}1-{\frac {a^{2}}{4\rho _{0}^{\,2}}}\operatorname {sech} ^{2}{\frac {1}{2}}(ax-bt){\biggr )}}
を満たす。この包絡線は、|x |→ ∞で|φ|→ ρ0 に漸近するとともに、中心付近はくぼんだ形状をしており、暗いソリトンと呼ばれる。
他の可積分系の方程式と同様に、非線形シュレディンガー方程式の初期値問題は逆散乱法によって解くことができる。逆散乱法では、問題は一次元シュレディンガー方程式の散乱の逆問題 に帰着でき、解は与えられた散乱データに対応するポテンシャル関数として求められる。非線形シュレディンガー方程式の逆散乱法による解は、1972年にロシアの数学者ウラジミール・ザハロフ (英語版 ) とアレクセイ・シャバット によって、与えられた[ 1] 。ザハロフとシャバットは、
i
u
t
+
u
x
x
+
κ
|
u
|
2
u
=
0
(
κ
>
0
)
{\displaystyle iu_{t}+u_{xx}+\kappa |u|^{2}u=0\quad (\kappa >0)}
について、ラックス方程式
L
t
=
[
A
,
L
]
{\displaystyle L_{t}=[A,L]}
を満たすラックス対 として、
L
=
i
(
1
+
p
0
0
1
−
p
)
∂
∂
x
+
(
0
u
∗
u
0
)
{\displaystyle L=i{\begin{pmatrix}1+p&0\\0&1-p\end{pmatrix}}{\frac {\partial }{\partial x}}+{\begin{pmatrix}0&u^{\ast }\\u&0\end{pmatrix}}}
A
=
i
p
(
1
0
0
1
)
∂
2
∂
x
2
+
(
|
u
|
2
1
+
p
i
u
x
∗
−
i
u
x
−
|
u
|
2
1
−
p
)
{\displaystyle A=ip{\begin{pmatrix}1&0\\0&1\end{pmatrix}}{\frac {\partial ^{2}}{\partial x^{2}}}+{\begin{pmatrix}{\frac {|u|^{2}}{1+p}}&iu_{x}^{\,\ast }\\-iu_{x}&-{\frac {|u|^{2}}{1-p}}\end{pmatrix}}}
κ
=
2
1
−
p
2
{\displaystyle \kappa ={\frac {2}{1-p^{2}}}}
を与え、
L
ψ
=
λ
ψ
{\displaystyle L\psi =\lambda \psi }
に対する散乱の逆問題を解くことでN-ソリトン解 を構成した。
いくつかの物理系では、非線形波動に関連せずとも、非線形シュレディンガー方程式と形式的に等価な方程式で記述されることがある。
中性ボーズ気体をはじめとするボーズ粒子 系は極低温でボーズ=アインシュタイン凝縮 と呼ばれる量子力学的な相転移 を引き起こす。このとき、系は凝縮体の波動関数と呼ばれる秩序変数 Ψ で記述される。Ψ はグロス=ピタエフスキー方程式 と呼ばれる次の三次元版の非線形シュレディンガー方程式にしたがう[ 2] 。
i
ℏ
∂
∂
t
Ψ
(
r
,
t
)
=
(
−
ℏ
2
∇
2
2
m
+
V
e
x
t
(
r
)
+
g
|
Ψ
(
r
,
t
)
|
2
)
Ψ
(
r
,
t
)
{\displaystyle i\hbar {\frac {\partial }{\partial t}}\Psi (\mathbf {r} ,t)=\left(-{\frac {\hbar ^{2}\nabla ^{2}}{2m}}+V_{ext}(\mathbf {r} )+g|\Psi (\mathbf {r} ,t)|^{2}\right)\Psi (\mathbf {r} ,t)}
但し、V ext は外場ポテンシャルであり、g は粒子間相互作用の強さを表す結合定数である。
流体の渦運動 が柱管の形状である時、渦管 と呼ばれる。特に渦管の半径が無限小と見なせる場合、渦糸 と呼ばれる。1972年に日本の流体力学者橋本英典 は、渦糸の運動において、局所誘導近似と呼ばれる近似の下、非線形シュレディンガー方程式が導かれることを示した[ 3] 。ある一本の曲線で表される渦糸の運動を考え、渦糸上の点x の運動を表す座標系として、フレネ=セレ標構 を取る。このとき、ある渦糸上のある原点から測った渦糸の弧長 をs とすると、時刻t での座標系はx (s , t )及び接線ベクトルt (s , t )、法線ベクトルn (s ,t )、陪法線ベクトルb (s , t )で表される。ある点における速度場は、周囲の渦糸の運動から誘起されるが、局所的な近傍のみからの影響を受けると仮定すると、局所誘導運動方程式
∂
∂
t
x
(
s
,
t
)
=
c
κ
(
s
,
t
)
b
(
s
,
t
)
{\displaystyle {\frac {\partial }{\partial t}}{\boldsymbol {x}}(s,t)=c\kappa (s,t){\boldsymbol {b}}(s,t)}
が導かれる。但し、κは曲率 であり、c は定数項である。時間変数t を適当にスケール変換すると、
∂
∂
t
x
(
s
,
t
)
=
κ
(
s
,
t
)
b
(
s
,
t
)
{\displaystyle {\frac {\partial }{\partial t}}{\boldsymbol {x}}(s,t)=\kappa (s,t){\boldsymbol {b}}(s,t)}
とすることができる。
ここで、曲率κ及び捩率 τから
ψ
(
s
,
t
)
=
κ
(
s
,
t
)
exp
(
−
i
∫
0
s
τ
(
s
,
t
)
d
s
)
{\displaystyle \psi (s,t)=\kappa (s,t)\exp {\bigl (}-i\int _{0}^{s}\tau (s,t)ds{\bigr )}}
という量を導入すると、これは次の非線形シュレディンガー方程式を満たす。
i
ψ
t
+
ψ
x
x
+
1
2
(
|
ψ
|
2
+
A
(
t
)
)
ψ
=
0
{\displaystyle i\psi _{t}+\psi _{xx}+{\frac {1}{2}}(|\psi |^{2}+A(t))\psi =0}
ここで、A (t )は任意関数である。A (t )の項は、ψの中に、
ϕ
=
ψ
exp
(
−
i
2
∫
0
t
A
(
t
)
d
t
)
{\displaystyle \phi =\psi \exp {\bigl (}-{\frac {i}{2}}\int _{0}^{t}A(t)dt{\bigr )}}
という位相の形で取り込めば、消去することができる。
デルタ関数 型の相互作用を持つボーズ粒子 系のハミルトニアン は、正準量子化 されたボーズ場の演算子 をφ=φ(x , t )とすると
H
=
∫
d
x
(
ϕ
x
†
ϕ
x
+
κ
ϕ
†
ϕ
†
ϕ
ϕ
)
{\displaystyle H=\int dx(\phi _{x}^{\dagger }\phi _{x}+\kappa \phi ^{\dagger }\phi ^{\dagger }\phi \phi )}
となる。
このとき、ハイゼンベルクの運動方程式
i
ϕ
t
=
[
ϕ
,
H
]
{\displaystyle i\phi _{t}=[\phi ,H]}
から量子論的非線形シュレディンガー方程式
i
ϕ
t
+
ϕ
x
x
−
2
κ
ϕ
†
ϕ
ϕ
=
0
{\displaystyle i\phi _{t}+\phi _{xx}-2\kappa \phi ^{\dagger }\phi \phi =0}
が導かれる。この量子論的非線形シュレディンガー方程式は、ベーテ仮設法 や量子逆散乱法 で解くことができる。
^ V. E. Zakharov and A.B. Shabat, "Exact theory of two-dimensional self-focusing and one dimensional self-modulation of waves in nonlinear media," Sov. Phys. JETP 34 , p. 62 (1972)
^ F. Dalfovo, S. Giorgini, L. P. Pitaevskii, and S.Stringari,"Theory of Bose-Einstein condensation in trapped gases," Rev. Mod. Phys. 71 , p.463 (1999). doi :10.1103/RevModPhys.71.463
^ H. Hashimoto, "A soliton on vertex filament," J. Fluid Mech. , 51 , p. 477 (1972) doi :10.1017/S0022112072002307
和達三樹 『非線形波動 (現代物理学叢書) 』岩波書店 (2000年) ISBN 978-4000067416
Korteweg-de Vries and Nonlinear Schrödinger Equations: Qualitative Theory (2001), Zhidkov, Peter E., Springer.
The Nonlinear Schrödinger Equation (1999) -Self-Focusing and Wave Collapse- , Sulem, Catherine, Sulem, Pierre-Louis, Springer.
The Nonlinear Schrödinger Equation -Singular Solutions and Optical Collapse- (2015), Gadi Fibich, Springer.