雇用保護規制(こようほごきせい、: employment protection legislation)とは、法律、裁判所の判例、団体交渉による条件、慣習など、すべての雇用保護についての指標である[1]。この用語は経済学者において一般的である。雇用保護とは、雇用に関する規制(たとえばディスアドバンテージ者を支援する規則、有期雇用無期雇用を締結する手順、必要な訓練)および解雇(選出手順、解雇予告期間、退職金集団的解雇、短期雇用解雇)の二つを指す。OECDは雇用保護を計測するために雇用保護指標(Employment Protection Legislation indicators)を作成している[2]

雇用保護とされる、さまざまな制度的取り決めが存在する。民間市場、労働法、団体交渉の取り決め、そして特に法制度および裁判所による雇用契約条項の解釈がある。労働者と企業の両方が長期的な雇用関係から利益を得るという理由だけで、法律がない場合でも、いくつかの形式の事実上の規制が採用される可能性がある.[3]

解雇規制の厳格さは、OECD諸国において大きな差があり、英語圏国は解雇規制が弱い国であり、レイオフのリスクは高い[2]

解雇規制

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解雇規制の目的は2つであり、労働者を恣意的な解雇から保護することと、会社に解雇における費用の一部を負担させることである[4]。この規制を行うことで、レイオフの頻度を減らすことが期待されている[4]。解雇規制を厳格化すると、解雇のコストが上がるためレイオフを減らす効果があるが、その一方で企業は、解雇コストを考慮するために新規採用を減らす傾向がある[4]。すなわち解雇規制は、職場からの放出と職場への流入の両方を減らすのである[4]

また解雇に要する費用が高くなると、企業は労働者の一部を解雇する費用を織り込んで人件費を考慮するため、賃金水準が低下する可能性がある[4]。さらに解雇規制を過度に厳格化すると、産業および労働力の流動性が減少するため、労働市場が経済変化に適応しにくくなる傾向がある[4]。労働者が、衰退セクターから成長セクターへ移出することを妨げ、企業における人材の出入りを減少させるのである[4]

また、正規労働者の解雇規制と、臨時労働者の雇用規制は、非常に高い相関関係にある[2]。正規雇用についての規制が弱い国では、有期雇用を規制する必要がない[2]。一方で、正規雇用の解雇の規制が厳しい国では、有期雇用を厳格に規制することは、有期雇用が乱用されることを防ぐのに役立つ[2]

 
正規雇用解雇(横軸)と、一時雇用雇入れ(縦軸)の規制の強さ[5]

正規雇用

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すべてのOECD諸国(チリ、イスラエル、韓国、メキシコ、ニュージーランドを除く)は、集団的解雇には個別的解雇よりも厳しい雇用保護規制を課している[6]。チリ、イスラエル、韓国、ニュージーランドでは、個別的解雇と集団的解雇を同じとして規制している[6]。メキシコは例外であり、法では経済的理由による解雇は、個別的解雇では許可されておらず集団的解雇のみが許可されている[6]

OECD雇用保護指標 (正規雇用の解雇) [7]
解雇規制のカテゴリ 要素
手続き上の要件 通知手順
通知までの時間
通知と退職金 解雇予告期間の長さ
退職金の額
不公正解雇の規制の枠組み
不公正解雇(unfair)の定義
試用期間の長さ(雇用初期において 不公正解雇とはならない期間)
不公正解雇後の労働者への補償
不公正解雇後の復職の可能性
不公正解雇規制の施行
不公正解雇を主張できる最大時間
労働者が不公正解雇の苦情を申し立てるときの立証責任
外部機関による解雇の事前検証
失業手当を支給する解雇前解決メカニズム

個別解雇

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正規雇用者の個別解雇における解雇規制(2019年)[8]
手続き要件 予告と手当金 不公正解雇の規制枠組み 不公正解雇の規制施行 OECD雇用保護指数
米国 0.7 0.0 0.1 4.4 1.3
スイス 1.2 1.3 1.6 2.3 1.6
カナダ 0.7 0.8 1.2 3.8 1.6
豪州 1.3 1.0 1.8 2.5 1.7
オーストリー 1.2 0.9 3.1 1.5 1.7
米国 1.3 1.3 1.1 3.3 1.7
ハンガリー 1.2 1.8 2.2 2.0 1.8
デンマーク 1.2 2.1 1.9 2.3 1.8
エストニア 1.5 1.4 1.6 3.0 1.9
アイルランド 1.3 1.2 1.9 3.5 2.0
コロンビア 1.3 1.6 2.0 3.0 2.0
ニュージーランド 2.3 0.4 2.3 3.3 2.1
日本 0.8 0.9 2.8 3.9 2.1
アイスランド 1.0 1.9 1.5 4.3 2.2
スロベニア 1.3 1.5 2.4 3.5 2.2
ドイツ 1.7 1.3 3.1 2.9 2.2
リトアニア 2.0 3.4 1.6 2.0 2.2
ノルウェー 1.5 1.0 3.3 3.3 2.3
スロバキア 2.8 1.5 2.8 2.0 2.3
韓国 2.2 1.0 3.0 3.3 2.4
フィンランド 2.0 1.0 2.2 4.3 2.4
ポーランド 2.2 2.5 2.4 2.5 2.4
メキシコ 1.8 1.7 3.7 2.5 2.4
スペイン 1.8 2.1 2.0 3.8 2.4
フランス 1.5 2.4 2.6 3.3 2.4
チリ 1.8 2.5 3.0 2.5 2.5
スウェーデン 2.3 1.7 2.5 3.4 2.5
ルクセンブルク 2.1 2.2 1.7 4.0 2.5
ギリシャ 1.2 1.2 3.8 4.0 2.5
ラトビア 2.5 1.8 3.2 3.0 2.6
イタリア 1.8 2.0 3.0 4.0 2.7
ベルギー 1.8 3.0 2.1 4.0 2.7
トルコ 1.3 3.4 3.1 3.5 2.8
オランダ 4.2 2.3 2.5 2.4 2.8
ポルトガル 2.3 1.7 4.2 3.3 2.9
イスラエル 2.5 2.9 2.5 3.8 2.9
チェコ 3.8 2.5 3.0 2.8 3.0

通知と退職金 

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4年間在職した労働者を個人解雇する場合の、法定義務である解雇予告期間と退職金[2]

退職金の法定義務は、米国と日本ではゼロである一方、トルコでは6か月分と国によって大きな差がある[2]。予告期間なしは2か国、退職金なしは12か国であった[2]

不公正解雇の規制の枠組み

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OECD雇用保護指数,不公正解雇規制(2019年)[9]
各国のスコア 5a .経済的理由解雇
裁判官の裁量
5b .経済的理由解雇
義務的代替案
5c. 経済的理由解雇
選択基準
5d. 個人的理由解雇
正当理由要件
0.理由を必要としない
1.明らかに不合理/誤った理由にのみ
2.解雇の必要性に異議可能
3.正当な理由ではない
(スコアにx2)
0.要件なし
1.配置転換
2.職業訓練が必要
3.再就職支援と職業訓練
4.再雇用で優先/類似の有期契約
5.社会計画
6.正当な理由ではない
0.基準なし/成果理由で可能
1.成果以外の客観的基準
2.正当な理由ではない
(スコアにx3)
0.理由を必要としない
1.成果/医療上/スキル, この3つは正当理由
2. 何れか2つは正当理由
3. 何れか1つは正当理由
4.すべて正当理由ではない
(スコアにx1.5)
豪州 4 1 0 1.5
オーストリア 4 1 3 1.5
ベルギー 2 1 0 1.87
カナダ 0.56 0 0 0.73
チリ 4 1 0 6
コロンビア 0 0 0 1.5
チェコ 4 0 0 1.5
デンマーク 4 0 0 1.5
エストニア 2 2 3 2.25
フィンランド 2 4 3 3.75
フランス 2.66 3 3 3.37
ドイツ 4 2 3 2.62
ギリシャ 4 0 0 1.5
ハンガリー 2 0 0 1.87
アイスランド 2 0 0 1.5
アイルランド 4 0 1.5 1.87
イスラエル 2 0 0 1.5
イタリア 4 2 0 2.25
日本 4 2 0 2.62
韓国 4 2 0 1.5
ラトビア 2 1 3 3
リトアニア 1 0.5 1.5 0.93
ルクセンブルク 4 1 0 3
メキシコ 6 6 6 4.5
オランダ 4 2 3 2.62
NZ 4 2 0 1.5
ノルウェー 4 2 3 4.87
ポーランド 2 1 3 1.5
ポルトガル 4 2 3 3.75
スロバキア 4 1 0 1.5
スロベニア 2 0 0 1.5
スペイン 3 0 0 4.12
スウェーデン 2 2 0.60 3.75
スイス 2 0 0 1.5
トルコ 2 0 0 1.5
英国 2 0.5 0 1.87
米国 0 0 0 0.375
OECD雇用保護指数,不公正解雇規制(2019年)[9]
各国のスコア 8.不公正解雇後の金銭保障(月収換算) 9.不公正解雇後の復職可能性
0:3カ月以下
1:8カ月以下
2:12カ月以下
3:18カ月以下
4:24カ月以下
5:30カ月以下
6:30カ月以上
0:慣行なし
2:めったにない/ときおり
4:頻繁にある
6:ほぼ常にある
豪州 1 2
オーストリア 1 6
ベルギー 1 0
カナダ 0 2
チリ 1 1
コロンビア 3 0
チェコ 1 6
デンマーク 1 2
エストニア 0 0
フィンランド 3 0
フランス 3 0
ドイツ 3 3
ギリシャ N/A 4
ハンガリー 2 2
アイスランド N/A 0
アイルランド 2 2
イスラエル 1 2
イタリア 5 1.5
日本 1 2
韓国 1 6
ラトビア 1 6
リトアニア 2 0
ルクセンブルク 1 0
メキシコ 3 3
オランダ 1 2
NZ 1 2
ノルウェー 2 4
ポーランド 0 2
ポルトガル 4 5
スロバキア 1 5
スロベニア 2 4
スペイン 2 0
スウェーデン 4 0
スイス 1 0
トルコ 2 6
英国 1 2
米国 0 0

ほぼすべてのOECD加盟国では、許可された(Fairな)理由の範囲を超えた理由に基づく解雇であった場合、裁判所に申し立てられた場合には、雇用主が労働者に金銭補償を支払って解決するか、または労働者を解雇された原職に復帰させることとなる[2]。米国とカナダ(ケベック州を除く)では、その解雇理由が禁止事項に該当しない限り、従業員を理由なく解雇してもFairとされる[2]

経済的理由による解雇(業績悪化によるレイオフなど)がfairとされる範囲は、裁判所の裁量に大きく依存する[2]。OECDの約半数(フィンランド、ドイツ、ポーランド、スペイン、英国を含む)では、経済的理由による解雇は、解雇の理由が虚偽または明らかに不合理である場合にのみ異議申し立てが可能である[2]。 対照的に、残りの半分の国(オーストラリア、チリ、イタリア、日本、オランダ、ノルウェーを含む)では、裁判官は経営陣の解雇決定について、運用上の必要性に疑問を呈する可能性がある[2]

個人理由による解雇(指名解雇)も、ほとんどの国で可能である[2]。雇用主は、(医学的または資格上の理由により)職務に適さなくなった労働者、または業績が不十分になった労働者を解雇することができる[2]。しかしチリ、フィンランド、フランス、メキシコ、ノルウェー、ポルトガル、スペイン、スウェーデンといった一部の国では、成果が不十分であることは、解雇の正当な理由とされない[2]

試用期間中の解雇は、ほとんどのOECD諸国では不公正解雇規制の対象とはならないが、ベルギー、チリ、ギリシャ、イスラエル、日本、ポーランドが例外である[2]

一時雇用

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一時雇用(temporary)についての指標では、有期労働契約と一時雇用エージェント契約(労働者派遣)を区別している。

OECD雇用保護指標 (一時雇用の契約) [10]
雇用規制のカテゴリ 要素
有期労働契約
有期契約締結の有効なケース
連続する有期契約の最大数
連続する有期契約の最大累積期間
一時雇用エージェント契約
派遣雇用機関の雇用が合法である仕事の種類
派遣労働者への割り当ての更新回数の制限
派遣労働者への連続した割り当ての最大累積期間
承認と報告の義務
派遣労働者での正規労働者と臨時労働者の平等な扱い
OECD雇用保護指数,臨時労働者の雇用規制(2019年)[11]
各国のスコア 10.有期契約の有効なケース 11.連続する有期契約の最大数 12.連続する有期契約の最大累積期間
0.制限なし
1.雇用者または従業員に理由あり
2.雇用主の特定ニーズ/従業員の特定ニーズの場合のみ
3.期間限定のタスクのみ可
(スコアにx2)
0:制限なし
1:5回以上
2:4回以上
3:3回以上
4:2回以上
5:1.5回以上
6:1.5回未満
0:制限なし
1:36カ月以上
2:30カ月以上
3:24カ月以上
4:18カ月以上
5:12カ月以上
6:12カ月未満
豪州 0 5 0
オーストリア 1 5 0
ベルギー 0 1 2
カナダ 0 0 0
チリ 0 4 4
コロンビア 0 0 0
チェコ 0 3 1
デンマーク 1 4 3
エストニア 4 4 1
フィンランド 2 4 0
フランス 2 3 4
ドイツ 0 2 1
ギリシャ 4 3 1
ハンガリー 1 4 1
アイスランド 0 0 3
アイルランド 1 0 1
イスラエル 0 0 0
イタリア 4 2 3
日本 0 1 1
韓国 0 0 3
ラトビア 2 0 1
リトアニア 2 0 3
ルクセンブルク 5 3 3
メキシコ 5 0 0
オランダ 0 3 3
NZ 2 2 0
ノルウェー 2 5 2
ポーランド 0 2 1
ポルトガル 2 2 1
スロバキア 0 3 3
スロベニア 2 0 3
スペイン 3 3 2
スウェーデン 0 0 3
スイス 0 5 1
トルコ 6 5 0
英国 0 0 1
米国 0 0 0
OECD雇用保護指数,一時雇用エージェント規制(2019年)[11]
各国のスコア 13.仕事の種類 14.契約更新の制限 15.契約更新の最長期間 15.認可・報告義務 16.正規労働者との平等な扱い
0.規制なし/最小限
1.例外を除き可能
2.客観的理由該当のみ
3.特定業種のみ
4.違法である
(スコアにx1.5)
2.制限なし
4.制限あり
0.制限なし
1.36カ月以上
2.24カ月以上
3.18カ月以上
4.12カ月以上
5.6カ月以上
6.6カ月未満
0.規制なし
2.許可制度
4.定期的な報告義務
6.許可及び報告義務
0.規制なし
3.賃金または労働条件の平等
6.賃金および労働条件の平等
豪州 0 2 0 0 3
オーストリア 0.75 2 0 6 6
ベルギー 2.25 4 5 2 6
カナダ 0 2 0 0.519999981 0.839999974
チリ 3 4 6 1 0
コロンビア 3 4 5 6 6
チェコ 0.75 2 4 6 6
デンマーク 0 4 0 0 6
エストニア 3 4 1 0 6
フィンランド 0.75 2 1 0 4.5
フランス 3 4 3 2 6
ドイツ 1.5 2 3 6 4.5
ギリシャ 1.5 2 1 5 6
ハンガリー 0 2 1 6 4.5
アイスランド 0 2 0 6 6
アイルランド 0 2 0 2 6
イスラエル 0 2 5 6 6
イタリア 3 4 2 6 6
日本 1.5 2 1 6 1.5
韓国 3 4 4 6 6
ラトビア 0 2 0 6 6
リトアニア 0 4 0 4 4.5
ルクセンブルク 3 4 4 2 6
メキシコ 2.25 2 0 0 6
オランダ 0.75 2 0 0 5.25
NZ 0 2 0 0 0
ノルウェー 3 3 1 4 6
ポーランド 3 2 2 6 6
ポルトガル 2.25 2 2 6 4.5
スロバキア 3 4 2 6 6
スロベニア 1.5 2 0 4 6
スペイン 1.875 4 1 6 6
スウェーデン 0.75 2 0 6 6
スイス 0 4 0 2 3
トルコ 3.75 4 5 6 6
英国 0 2 0 0 3
米国 0 2 0 2 0

解雇規制の緩和

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リトアニアでは2017年に新しい労働法を施行し、解雇における通知期間と退職金が短縮された[2]。現職復帰のない場合には、6カ月の賃金を上限とする金銭補償が付与されることになった[2]。そのため労働者は、高額の退職金(6か月)を与えれば、非常に短い解雇予告期間(3日)で理由を問わず解雇することができるようになった[2]

脚注

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  1. ^ OECD Employment Outlook, June 1999, Chapter 2, Employment Protection and Labour Market Performances, page 50.
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t OECD 2020, Chapt.3.
  3. ^ OECD Employment Outlook, June 1999, Chapter 2, Employment Protection and Labour Market Performances, page 51.
  4. ^ a b c d e f g OECD 2020, Chapt.3.1.
  5. ^ OECD 2020.
  6. ^ a b c OECD 2020, Chapt.3.3.1..
  7. ^ OECD 2020, Table.3.1.
  8. ^ OECD 2020, Table.3.3.
  9. ^ a b OECD 2020, Table.3.A.1.
  10. ^ OECD 2020, Table.3.2.
  11. ^ a b OECD 2020, Table.3.A.3.

参考文献

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  • OECD Employment Outlook 2020, OECD, (2020-07), doi:10.1787/19991266, ISBN 9789264459793 

関連項目

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外部リンク

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