重畳加算法
重畳加算法 (ちょうじょうかさんほう、英語: OverLap-Add method, OA, OLA) とは、非常に長い信号 と FIRフィルタ の 離散畳み込み を分割して(効率的に)処理する手法である。
ここで 信号 は 、フィルタ は 以外で0、またである。
重畳加算法の基本アイデアは、長い信号 を区間長で区切り、複数の短い断片 と フィルタ に関する複数の畳み込みに分割して、訳注: 適切なブロック長のFFTの積として効率的に計算することにある。
離散畳み込みは、各区間の畳み込みの総和で表せる:
ここで各区間の畳み込み は 領域 [1, L+M-1] 以外で 0 であり、任意の に関し、領域 [1, N] における と の 点巡回畳み込みと等価である。
重畳加算法のアドバンテージは、この巡回畳み込みが畳み込み定理により、次のような FFTの積の逆FFT として効率的に計算できる事にある:
ここで とは(ブロック長の)高速フーリエ変換と逆高速フーリエ変換である。 FFTアルゴリズムによっては、(巡回畳み込み計算のために)FFTブロック長を調整する事が理に適っている。例えばCooley-Tukey型FFTアルゴリズム (radix-2アルゴリズム) を使う場合、2の冪乗のブロック長を選ぶと有利である:
アルゴリズム
編集図1に、重畳加算法のアイデアを示す。
- 信号 (長さNx) を区間長 で区切り、オーバーラップの無いk個の断片の列 を得る。
- 各区間について、断片 (長さ≦L) と フィルタ (長さM) のFFT結果の積をとり逆FFTして、区間毎の畳み込み結果 (長さ≦L+M-1) を得る。
(なお畳み込み結果は、元信号(区間長L)と比べ (フィルタの長さ-1) だけ長くなり、オーバーラップが生じる) - 最終的な出力信号は、図に示すように、各区間の結果 のオーバーラップ(重畳)部を加算しながら連結して得られる。
区間長 は、FFT開発初期にはしばしば効率上の理由でFFTのブロック長 が2の冪乗をとるよう調整されたが、更なる研究開発の結果、Nを大きな素数で素因数分解する効率的変換方法が明らかにされ、このパラメータに対する計算上の敏感さは低減された。[要説明] (訳注: FFTのブロック長 が2の冪乗の場合の計算量は 、一般にブロック長が と素因数分解できる場合の計算量は であり、ブロック長 をゼロ・パディングで調整して計算量を最適化できる。) アルゴリズムの疑似コードは以下の通り:
アルゴリズム 1 (重畳加算法(OLA)による線形畳み込み) 使用するFFTアルゴリズムに応じてFFTブロック長 N と 分割区間長 L に最適値を設定 H = FFT(h,N) (ゼロ・パディングしたFFT ) i = 1 while i <= Nx il = min(i+L-1,Nx) yt = IFFT( FFT(x(i:il),N) * H, N) k = min(i+M-1,Nx) y(i:k) = y(i:k) + yt (オーバーラップ区間を加算 ) i = i+L end
巡回畳み込みへの応用
編集一般に信号 が周期的でその周期が の場合、畳み込み結果 も周期的で同じ周期をとる。
- 1周期分の は、ちょうど1周期分の信号 (長さNx) と フィルタ (長さM) の畳み込みで得られる。ここでは前述のアルゴリズム 1を使う。
畳み込み結果 は、区間 [M, Nx] で正しい。 - 先頭のM-1個(区間[1, M-1])の値に、末尾のM-1個(区間[Nx+1, Nx+M-1])の値を加算すれば、区間 [1, Nx] が正しい畳み込み結果を表すようになる。
変更した疑似コードは以下の通り:[要検証 ]
アルゴリズム 2 (重畳加算法(OLA)による巡回畳み込み) アルゴリズム 1 を評価 y(1:M-1) = y(1:M-1) + y(Nx+1:Nx+M-1) y = y(1:Nx) end
【参考】英語版記事初版のアルゴリズム 2 (アルゴリズム 1 の必要範囲を引用 ) 使用するFFTアルゴリズムに応じてFFTブロック長 N と 分割区間長 L に最適値を設定 H = FFT(h,N) (ゼロ・パディングしたFFT ) (ここまで引用 ) ML = floor((N-1)/L) (未使用 ) i = Nx-L+1 k = N - L while k >= 1 il = i+L-1 yt = IFFT( FFT(x(i:il,N)) * H ) y(1:k) = y(1:k) + yt(N-k+1:N) k = k-L i = i-L end
計算量
編集訳注: 英語版記事 Overlap–add method 04:36, 10 December 2012 (UTC) 版のこの章にはいくつか問題があります:
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畳み込みの計算コストは、操作に関わる複素数乗算の回数と関連付ける事ができる。主要な計算量はFFT演算によるもので、Radix-2アルゴリズム(訳注: ブロック長 が2の冪乗のアルゴリズム)を長さ の信号に適用する場合およそ 回の複素数乗算が行われる。重畳加算法における複素数乗算の回数は、FFTとフィルタ乗算とIFFTを考慮して:
- [要検証 ]
なお巡回行列版の セクション (訳注: 先頭と末尾の長さ(M-1)の区間?) の追加コストは、通常とても小さいので単純化のために無視できる。
FFTのブロック長 の最適値は、 の範囲で動かして の最小値を整数 を(数値的に)探す事で得られる。 が2の冪乗であれば、FFTを効率的に計算できる。 の値が定まれば、信号 を最適に区切る区間長 が定まる。 比較のため、普通の巡回畳み込みの計算量も示しておく:
- [要検証 ]
したがって重畳加算法の計算量はほぼ でスケールし、他方、普通の巡回畳み込みの計算量はほぼ である。(訳注: なので重畳加算法の方が計算量が多い事になってしまう。2つの計算量は要検証) しかしながら、この種の推計は複素数乗算の計算量だけ考慮しており、アルゴリズムに関わる他の処理は度外視している。各アルゴリズムに要する計算時間の直接測定こそ、より大きな関心事である。 図2に、式1による標準的な巡回畳み込み[要説明]の計算時間と、アルゴリズム 2の形の重畳加算法による同様な畳み込みの計算時間の比を示す; 縦軸は信号長 の対数表示、横軸はフィルタ長 の対数表示で、計算時間の比を等高線で示している。両アルゴリズムはMatlabで実装した。青い太線は、重畳加算法の方が標準巡回畳み込みより速い(比>1)領域の境界線である。このケースでは重畳加算法は標準的手法より最大約3倍高速だった。[要検証 ]
関連項目
編集参考文献
編集- Rabiner, Lawrence R.; Gold, Bernard (1975). Theory and application of digital signal processing. Englewood Cliffs, N.J.: Prentice-Hall. pp. 63–67. ISBN 0-13-914101-4
- Oppenheim, Alan V.; Schafer, Ronald W. (1975). Digital signal processing. Englewood Cliffs, N.J.: Prentice-Hall. ISBN 0-13-214635-5
- Hayes, M. Horace (1999). Digital Signal Processing. Schaum's Outline Series. New York: McGraw Hill. ISBN 0-07-027389-8