酸化水銀(II)(さんかすいぎん(II)、Mercury(II) oxide)は、化学式が HgO と表される水銀酸化物である。赤色の赤降汞(せきこうこう)と黄色の黄降汞(おうこうこう)とが存在するが、粒子の大きさの違いによるものでX線回折により同一の結晶構造(斜方晶系)であることが判明している。いずれも O-Hg-O が直線で O で屈曲したジグザク状の平面構造に配列している。またやや不安定な六方晶系多形も存在する。

酸化水銀(II)
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識別情報
CAS登録番号 21908-53-2 チェック
国連/北米番号 1641
KEGG C18670
RTECS番号 OW8750000
特性
化学式 HgO
モル質量 216.59 g/mol
外観 赤色、または黄色結晶
密度 11.14 g/cm3
融点

500 ℃(分解)

への溶解度 不溶
熱化学
標準生成熱 ΔfHo −90.83 kJ mol−1 (赤色)
−90.46 kJ mol−1 (黄色)
−89.5 kJ mol−1
(六方晶系)
標準モルエントロピー So 70.29 J mol−1K−1(赤色)
71.1 J mol−1K−1 (黄色)
73.6 J mol−1K−1
(六方晶系)
標準定圧モル比熱, Cpo 44.06 J mol−1K−1(赤色)
危険性
安全データシート(外部リンク) ICSC 0981
EU分類 猛毒 (T+)
環境への危険性 (N)
EU Index 080-002-00-6
Rフレーズ R26/27/28, R33, R50/53
Sフレーズ (S1/2), S13, S28, S45, S60, S61
引火点 不燃性
関連する物質
その他の陰イオン 硫化水銀(II)
セレン化水銀(II)
テルル化水銀(II)
その他の陽イオン 酸化亜鉛
酸化カドミウム
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

合成

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酸素中で水銀を 350 ℃ に加熱すると生成するが、さらに加熱すると、400 ℃ で黒変し 500 ℃ で水銀と酸素とに分解する[1]。あるいは光照射によっても分解する。

酸化水銀(II)を得るには硝酸水銀(II)熱分解、水銀の陽極酸化、水銀(II)塩水溶液に塩基または炭酸塩を加えても製造できる。すなわち、硝酸水銀(II)の熱分解や水銀の直接酸化では、赤色酸化水銀(II)が生成するのに対して Hg2+ の水溶液に OH- を加えると黄色酸化水銀(II)が沈殿する。

酸化水銀(II)はハロゲン化アルカリ金属、例えばヨウ化カリウム溶液に溶けテトラヨード水銀(II)酸カリウムなどに複分解し塩基性を示す。

 

このテトラヨード水銀(II)酸カリウムの薄い溶液に過剰の塩基を加えて平衡を戻すと六方晶系の橙色の酸化水銀(II)の相変態が得られる[2]

酸化水銀(II)は水に難溶 (5.2×10-3 g/100g; 25 ℃) であるが弱い塩基の為に酸性では溶解する。その溶解度積は以下の通りである。

   

また、酸化剤でもあり、SO2SO3 に酸化したり、リンを水溶液中でリン酸に酸化する。

古くは、殺菌剤,防腐剤,結膜炎の治療に用いられたが、今日では多くの国で法律により使用規制を受けている。

脚注

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  1. ^ ジョゼフ・プリーストリー酸素に関する研究に利用された。
  2. ^ 配列はジクザク状であるが、らせん状の捩れを生じる為に平面状に配列していない。

関連項目

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参考文献

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  • 「酸化水銀」『世界大百科事典』CD-ROM版、平凡社、1998年。
  • 「酸化水銀」『岩波理化学辞典』第5版 CD-ROM版、岩波書店、1999年。
  • F. A. Cotton, G. Wilkinson, C. A. Murillo, M. Bochmann, "Advanced inorganic chemistry", 6th Ed., Wiley interscience Pub., 1999. ISBN 0-471-19957-5