通信プロトコル
通信プロトコル(つうしんプロトコル、Communication protocol)は、通信に関する規格のことである。「通信規約」や「通信手順」ともいう[1][2]。
概要
編集通信を行うためには、通信に参加するもの同士の間で、あらかじめ通信に関する規格を定めなければならない。
たとえば、江戸時代においては、旗振り通信により、米相場を各地に伝達していたが、旗を振る向きや回数の意味について、事前に打ち合わせて決めておかなければ意味を成さない(上げ相場は左横上で二振、下げ相場は右横下で二振、など)。
プロトコルを定め、それに従うことは、通信を成立させるための基本原理と言える。プロトコルが異なる機器同士で通信を行いたい場合は、プロトコルコンバータ(英語: Protocol converter)のような機器を使用する。
情報工学におけるプロトコル
編集一つの通信でも、役割の異なる複数のプロトコルから成り立っていることも多く、それらをまとめたものは「プロトコルスタック」、「プロトコル・ファミリー」、「プロトコル・スイート」などと呼ぶ。これは、ネットワーク・プロトコルが階層的に定義されているのに対応して、それを実装するソフトウェアも階層的に構築されるためである。また、このことからプロトコルや、プロトコル・スタックは、しばしばそれらのソフトウェアでの実装を指すこともある。
現在広く普及しているプロトコル・スイートとしては、インターネット・プロトコル・スイート(TCP/IP)が挙げられる。インターネットの通信に関するプロトコルは、コンピュータ上で動くソフトウェアに関する取り決めを中心に、伝送路などのハードウェアについての取り決めも含まれ、そのほとんどは、IETFによって定められ、その他のものについてはIEEEやISOなどの組織によって定められている。ITU-Tは電気通信に関するプロトコルの策定を行う。
構成要素
編集通信プロトコルは、伝送路の物理条件、伝達、相手の特定、情報表現の4つの基本要素より成り立っている。
- 伝送路の物理条件
- 有線通信の場合は、ケーブルとコネクタの形状と電気特性や光学波長、変調方式を規定する。無線通信の場合は、周波数帯や変調方式を規定する。例えば、IEEE 802.11, Bluetooth, ZigBeeなどがある。
- 伝達
- 伝達に関する要素として、通信プロトコルの中核をなす多くの決まりごとが規定されている。この中には信号にどのように「1」と「0」を割り当てるのかといった「符号化コード」から始まって、「同期」、「アクセス制御」、「誤り制御」、「フロー制御」などの各方式の規定が含まれている。
- 相手の特定
- 1対1の通信路に関するプロトコルでは例外的に規定の必要がないが、複数の端末が接続されるネットワーク上では送信先を特定する必要がある場合が多い。個別の「アドレス」によって特定できるが、1つの端末には、MACアドレスやIPアドレスのように用途によって複数種類のアドレスが割り振られることが多く、それらの間での変換ルールに関しての複雑な取り決めが規定されている。
- 情報表現
- ビットの羅列を有効な情報として通信するために、情報の表現ルールを相互に取り決める必要がある。ビットの区切り単位として古くは6ビットや7ビットで1つの文字を表現していたが、今では多くが8ビットで区切られたASCIIコードを文字コードとして使っていることが多く、日本ではシフトJIS等も使用される。また、いくつかの文字の組み合わせでコマンドとする取り決めや、送信する内容、つまりデータそのものの表現方法も取り決めておかなくてはならない。こういった情報の配置と構成に関する表現ルールがパケット・フォーマットやフレーム・フォーマットといった形で、詳細な取り決めが規定される[3]。
各種プロトコル
編集以下は各種の通信プロトコルについて、OSI参照モデルの7層のうち最も近い層に分類したものになっている。
第1層(物理{フィジカル}層)のプロトコル
編集- ISDN Integrated Services Digital Network
- 10Base-T、100BASE-TX、1000BASE-T(イーサネットで使用される物理層の仕様)
- PDH Plesiochronous Digital Hierarchy、SDH統一前の地域別同期網
- T-carrier (T1, T3 など)、ISDNの多重化
- RS-232C、EIA-574、シリアル・インタフェースで、当初はモデムやコンピュータ端末の接続のために開発された
- SDH Synchronous Digital Hierarchy、PDH後続の国際統一同期網
- SONET Synchronous Optical NETworking、SDHへと標準化前の規格
第2層(データリンク層)のプロトコル
編集- ARP Address Resolution Protocol
- イーサネット
- FDDI Fiber Distributed Data Interface
- LAP (Link Access Procedure) 、X.25用
- HDLC High Level Data Link Control
- PPP Point-to-point protocol
- トークンリング
第2+3層のプロトコル
編集第3層(ネットワーク層)のプロトコル
編集- ICMP Internet Control Message Protocol
- IP Internet Protocol そのもの
- IPX Internetwork Packet Exchange
- ルーティング・プロトコル:
- X.25PLP (Packet Level Protocol) 、X.25用
第3+4層のプロトコル
編集- XNS Xerox network services
第4層(トランスポート層)のプロトコル
編集- SPX Sequenced Packet Exchange
- TCP Transmission Control Protocol
- UDP User Datagram Protocol
- IPSec IP Security Protocol
- SCTP Stream Control Transmission Protocol
- DCCP Datagram Congestion Control Protocol
- QUIC
第5層(セッション層)のプロトコル
編集- SIP Session Initiation Protocol
- H.323 Packet-based multimedia communications systems
- POP3 Post Office Protocol Version 3
- IMAP Internet Message Access Protocol
HTTP over TLS(HTTPSなどで使われる)やSMTP over SSL、STARTTLSなど、上記のプロトコルにおけるセキュリティ上の欠点を補ったものもある。
第6層(プレゼンテーション層)のプロトコル
編集- TLS Transport Layer Security
- SSL Secure Sockets Layer
- SDP Session Description Protocol
- AFP Apple Filing Protocol
- PIDF
第7層(アプリケーション層)のプロトコル
編集- HTTP HyperText Transfer Protocol、 World Wide Webで利用されている
- SMTP Simple Mail Transfer Protocol
- FTP File Transfer Protocol
- Telnet 遠隔端末アクセスプロトコル
- NFS Network File System
- SNMP Simple Network Management Protocol
- Gnutella ピア・ツー・ピアのファイル交換プロトコル
- DNS Domain Name System
- SSH Secure SHell
- NTP Network Time Protocol
- Gopher World wideな文書共有システム
- Finger 登録ユーザのプロファイル情報の取得
- NNTP News Network Transfer Protocol
- LDAP Lightweight Directory Access Protocol
- DHCP Dynamic Host Configuration Protocol
- IRC Internet Relay Chat
- WebDAV Web Distributed Authoring and Versioning
- DICT Dictionary protocol
歴史
編集通信に関して最初にProtocol(プロトコル)という用語が使われたのは、1968年に稼動を開始したARPANET(アーパネット)である。ARPANETは世界最初のコンピュータ・ネットワークとして、また、現在のインターネットの母体となったネットワークとして知られている。
その後、ARPANETを手本にさらに良いネットワークを構築するために生み出されたX.25という通信手順の登場で、プロトコルという用語が広まり定着した[3]。
応用
編集自動車
編集CAN(Controller Area Network)、LIN(Local Interconnect Network)、FlexRayのような車載機器の通信規格がある。
家電
編集Echonet、ECHONET Liteのような家電用通信規格がある。
機器
編集ARCNET(Attached Resource Computer NETwork)のような機器間の通信規約がある。
航空宇宙
編集SpaceWireのような航空宇宙用の通信規約がある。
仮想通貨
編集暗号通貨は多種多様に現存していて、トークンの特異性かつ暗号通貨間のチャネリング(交信)を指すことがある。
工場
編集製造元独自の通信プロトコル(ベンダーロックイン)が多いが、スマートファクトリー、インダストリー4.0といった取り組みにより、異なる製造元の装置が通信できる規格もある。また、OLE for Process Controlのような標準規格がある。
ビル・住居
編集BACnet、LonTalk、X10、ZigBeeのような通信規格がある。
関連
編集プロトコル記述言語
編集出典
編集- ^ 日本国語大辞典,世界大百科事典内言及, ASCII jpデジタル用語辞典,知恵蔵,パソコンで困ったときに開く本,デジタル大辞泉,栄養・生化学辞典,ホームページ制作用語集,IT用語がわかる辞典,世界大百科事典 第2版,ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典,日本大百科全書(ニッポニカ),精選版. “プロトコルとは”. コトバンク. 2021年2月23日閲覧。
- ^ Transactions: The Best Papers of 1987, Simulation of Factory Communication Protocols, in Proc. of Simulation and Artificial Intelligence in Manufacturing, ハリー・グナルト by Society of Manufacturing Engineers, Long Beach, California, October 1987, pp. 1.59 – 1.75.
- ^ a b 高橋健太郎著 「プロトコルはなぜ必要か」 日経NETWORK 2007年7月号 p.59~p.75
学習参考書
編集- 井上直也、村山公保、竹下隆史、荒井透、苅田幸雄:「マスタリングTCP/IP―入門編―(第6版)」、オーム社、ISBN 978-4-274-22447-8(2019年12月)。