誰も知らない

日本の映画作品

誰も知らない』(だれもしらない、英題:Nobody Knows)は、育児放棄の実話を基にして2004年に公開された是枝裕和監督の日本映画。 映画のキャッチコピーは、「生きているのは、おとなだけですか。」。

誰も知らない
Nobody Knows
監督 是枝裕和
脚本 是枝裕和
製作 是枝裕和
製作総指揮 是枝裕和
出演者 柳楽優弥
北浦愛
木村飛影
清水萌々子
韓英恵
YOU
音楽 ゴンチチ
タテタカコ『宝石』
撮影 山崎裕
編集 是枝裕和
配給 シネカノン
公開 フランスの旗 2004年5月13日CIFF
日本の旗 2004年8月7日
上映時間 141分
製作国 日本の旗 日本
言語 日本語
興行収入 9億2300万円[1]
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解説

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1988年に発生した巣鴨子供置き去り事件を題材として、是枝裕和監督が15年の構想の末に映像化した作品である。母の失踪後、過酷な状況の中で幼い弟妹の面倒を見る長男の姿を通じ、家族や周辺の社会のあり方を問いかけた。

主演の柳楽優弥2004年度の第57回カンヌ国際映画祭にて史上最年少および日本人として初めての最優秀主演男優賞を獲得したことで大きな話題を呼んだ。また、キネマ旬報フランダース国際映画祭英語版で最優秀作品賞を獲得するなど、国内外の映画賞を多数獲得した。2004年度の日本映画のうち、高い評価を得た作品の1つである。

ストーリー

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2DKのアパートに、スーツケースを抱えた母親のけい子と息子の明が引越してくる。アパートの大家には「主人が長期出張中の母子2人である」と挨拶するが、実はけい子には明以外の子供が3人おり、スーツケースの中には次男の茂、次女のゆきが入っていた。長女の京子も人目をはばかり、こっそり家にたどり着く。

子供4人の母子家庭との事実を告白すれば家を追い出されかねないと、嘘をつくのはけい子なりの苦肉の策であり、彼女は大家にも周辺住民にも事が明らかにならないよう、明以外は外出を禁ずるなど、子供たちに厳しく注意する。

子供たちはそれぞれ父親が違う。そして大家には小学校6年生と紹介した明をはじめ、学齢期の子供たちは学校に通ったことがなかった。

転入当初は、日中けい子が百貨店で働く間に明が弟妹の世話をする日々が続くが、新たに恋人ができたけい子は家に不在がちになる。やがてけい子は恋人と同棲を始め、子供たちの生活費は現金書留で送り帰宅しなくなる。そこから子供だけの、誰も知らない生活が始まる。明は茂とゆきの父親たちに金の無心目的に会うが、それぞれの事情からお小遣い程度しかもらえない。

母が姿を消して数か月後、生活費は送られてこなくなり底をつく。料金滞納から電気・ガス・水道も止められ、子供たちだけの生活に限界が近づき始める。コンビニ店員から児童相談所行きを勧められた明は「そうしたらややこしくなって4人一緒に暮らせなくなる」と答える。

子供たちは公園に通い水を確保し一日一日を必死に生きのびるなか、不登校の中学生・紗希と出会う。子供たちと打ち解けた紗希は、彼らの凄惨な暮らしを目の当たりにする。

いよいよ食料が底を突く。明は以前万引きと間違われたコンビニに行き、顔見知りの店員から賞味期限切れの弁当をもらうようになる。紗希は協力を申し出て見知らぬ男とカラオケに行き、もらった現金を明に手渡そうとする。しかし、それが援助交際で手に入れた金と知る明は現金を受け取れずに立ち去る。

そんな不条理な環境を我慢し兄として振舞い続けた明だったが、ある日、言うことを聞かない妹弟たちに鬱憤が爆発し衝動的に家を飛び出す。 飛び出した先で、ひょんなことから少年野球チームの助っ人を頼まれ、日常を忘れて楽しむが、家に戻った明が目にしたのは、ベランダの棚の物を取ろうとして転落し、そのまま目を覚まさなくなったゆきと、彼女を見つめながら呆然と座り込んでいる京子と茂の姿だった。

病院に連れて行く金も薬を買う金もなく、明は薬を万引きするが、その甲斐なく翌日ゆきは息絶える。

明は紗希に借金を申し込み、ゆきの好きだったアポロチョコを沢山買い、亡骸を詰めたスーツケースを生前ゆきが憧れた飛行機がよく見える羽田空港近くの河川敷に埋め、二人で弔う。

後日、いつも通りコンビニ店員から売れ残りの惣菜をもらう子供たちと、彼らに寄り添う紗希の姿があった。彼らはいつもと変わりなく日常を過ごし、いつものように自分達のアパートへ帰っていく。

キャスト

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スタッフ

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賞歴

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備考

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  • 子役には台本を渡さず撮影された。是枝は「オーディションで選んだ4人の子供たちが、それまで演技経験のない子たちで、一度台本を渡してリハをやってみたら、下手だったんですよ。すごく。これはまずいなと思って。で違う形でできないかなと思って台本渡すのをやめました。その場で僕が『お兄ちゃんがこう言うから、こう言ってごらん』みたいな、口伝えでやってみたんです。そしたら子供たちが面白がったんですよ。それも、正確にではなくて、あいまいに伝えていく。できれば感じだけ伝えて、それが普段彼らが使っている言葉として出てくるのがベストだなと思って。」と語っている[2]
  • 母親の福島けい子役には、芝居・演技経験の少ないYOUが選ばれた。YOU本人が語ったところによると、是枝監督がある日バラエティ番組に出演していたYOUを見て「いかにも育児放棄しそうなキャラクター」という直感からオファーが来たという[3]。そのため下手な女優に演技をさせるよりも恐怖感が少なく、結果的にリアリティに繋がったのではないかと語っている[4]。是枝は「YOUさんも台本は読んでないんですよ。YOUさんは台本が嫌いで、バラエティ番組でも台本を読まずに現場へ入るらしいです。その感覚で現場に来て、シーンの説明を僕が子供にするのを脇で聞いてるんです。そこで、彼女から出てくる表情だったり言葉だったりが、瞬間的にすごく的確なんです。センスとしか言いようがないかな。」と語っている[5]。YOUは本作のカンヌ国際映画祭授賞後、バラエティ番組で自らを「カンヌ女優」と嘯くシーンが多く見られた。
  • 主演の柳楽は撮影時期、成長期であり、撮影した1年で身長が146cmから163cmまで伸び、声変わりをしている。演じた役名の「明」は柳楽が考えた名である。
  • 作中で茂がカップ麺に冷や飯を入れるのは、演じた木村飛影のアイディアである。また、ゆきの好物は台本ではいちごポッキーだったが、演じた清水萌々子がアポロが好きだったことからアポロに変更された[5]
  • 子供たちが泣くシーンがないことについて是枝は「子供が泣く芝居って嫌いなんだよね」「泣き顔の代わりに手を撮ろうと思った。手が泣いているという風に手で哀しみを表現できるように決めて撮ってるつもりなんですけど」と語っている[5]
  • 子供たちが暮らしていたアパートは1年近く借りていたもので、撮影に使用しない時は助監督が実際に住んでいた[6]
  • 繰り返し登場する階段は中野区上高田にあり、階段を降りて川を越えた所に公園のシーンが撮影された西落合公園がある[7]
  • カンヌ国際映画祭では2日目と、受賞には不利と言われる早いタイミングで上映された。2004年の審査委員長だったクエンティン・タランティーノのコメント「個人的には、彼(柳楽)の表情が一番印象深かった。毎日多くの映画を見たが、最後まで印象に残ったのは彼の顔だった」と語っている。
  • カンヌ滞在中、柳楽は自分が表紙になった雑誌を見て「皆で表紙になりたいです」と言っており、カンヌ受賞も「皆を代表してとった」という認識でいる[8]。「『誰も知らない』が何も取らないより取れた方がいいから」という理由で受賞を「嬉しい」と言ったり、学校では聞かれない限りその話はしないなど謙虚な発言が目立っていた。柳楽のポスターは現地で「あのポスターをくれないか」と大人気だった。
  • 第57回カンヌ国際映画祭の授賞式には柳楽はちょうど学校の試験があり出席できず、代わりに監督が出席した[8]
  • YOUと柳楽はその後、2006年にダイハツ工業ミラ」のCMで母と子として再共演を果たしている[9]

脚注

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  1. ^ 「2004年度 日本映画・外国映画 業界総決算 経営/製作/配給/興行のすべて」『キネマ旬報2005年平成17年)2月下旬号、キネマ旬報社、2005年、152頁。 
  2. ^ 是枝裕和 監督 「♯1撮影現場が生み出す自然体の演技」
  3. ^ なお、YOUには2人目の結婚相手との間に男児を設けている(後に離婚)。
  4. ^ おぎやはぎの愛車遍歴』 2016年4月23日放送分より
  5. ^ a b c 是枝裕和×河瀬直美 対談 @奈良国立博物館
  6. ^ カンヌ映画祭で話題の『誰も知らない』一般に初披露
  7. ^ 『誰も知らない』兄妹が歩いた階段
  8. ^ a b “迫力ある目力&演技力!柳楽優弥を知れる出演作3選”. music.jp. (2016年2月15日). https://music-book.jp/video/news/column/102356/f 2019年6月13日閲覧。 
  9. ^ ダイハツ 新型「ミラ」発表会レポート!新CMで、YOUさんと柳楽優弥さんが再び共演!

外部リンク

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