薬用植物園
歴史と目的
編集ヨーロッパには庭園的薬用植物園あるいは薬草園と呼ばれる施設があり、これらは17世紀に初期の修道院の庭園から発展して成立したものである[1]。また同時期に日本では小石川植物園などの植物園が設立されている[1]。
大学附属の植物園では薬局方に記載される薬用植物の実物を薬学教育に供することを主たる目的としている。薬用植物の中には効き目が穏やかなものから有毒植物に相当するものまであり、判別を誤ると危険を伴う。これらを扱う者にとっては正確かつ適切に鑑定することが必須である。社会一般の健康意識の高まりから薬用植物の個人的利用も増えつつあり、基原植物と類似植物との比較ができる環境が求められる。地域への社会貢献として、学外の者を対象とした年数回の公開講座を行うところも多い[2]。
製薬会社が運営する植物園では企業秘密の点、また有毒植物を扱うことから安全性の面においても公開に積極的でない場合も少なくないが、エーザイの創業者が岐阜県各務原市に開設した内藤記念くすり博物館および附属の薬用植物園は、企業博物館の一つとして薬に関する知識の普及を通じて、広く社会に貢献することを目的としている[3]。生物多様性に関する取り組みも重要な役割であり、薬学系の植物園の中では北里大学薬学部附属薬用植物園、摂南大学薬学部附属薬用植物園、熊本大学薬学部附属薬用資源エコフロンティアセンターと武田薬品工業京都薬用植物園が日本植物園協会の「植物多様性保全拠点園」に認定されている[4]。
各国の薬用植物園
編集英国の薬用植物園
編集- スコットランド国立植物園(4植物園で構成)
- チェルシー薬草園
中国の薬用植物園
編集中国の広西チワン族自治区南寧市にある広西薬用植物園は、栽培面積が202ヘクタールで世界最大、かつ保存されている薬用植物の品種が281科6000種あまりで世界最多であるとして、2011年12月にギネス世界記録に認定された[5]。
日本の薬用植物園
編集日本植物園協会に加盟する植物園は第一分野(学校に属する植物園)、第二分野(国公立園、またはこれに準ずる施設)第三分野(会社や個人が経営する植物園)、第四分野(薬用植物を扱う専門植物園)のいずれかの部会に所属しており、第四分野には2014年1月現在38園が所属している[6]。そのうち31園が大学の薬学部附属で、他に地方公共団体や製薬会社が運営する薬用植物園もある。
専門職大学設置基準(文部科学省令第33号)第49条によると、薬学に関する学部又は学科を置く大学には、教育研究に必要な附属施設として薬用植物園(薬草園)を設けることが定められている[7]。薬科系大学附属の植物園のうち、日本植物園協会に加盟しているのは半数ほどである[8]。
日本植物園協会非加盟の中には、東京都小平市の東京都薬用植物園、奈良県宇陀市の「森野旧薬園」などがある。森野旧薬園は吉野葛店が運営する私設の薬草園で、開園は享保年間。小石川植物園(東京大学大学院理学系研究科附属植物園)と並び、江戸時代からの歴史を持つ[9]。
水戸市植物公園内の水戸養命酒薬用ハーブ園[10]のように、一般の植物園内に薬草エリアを設けているところもある。
※=日本植物園協会会員番号[60]。空欄の施設は非加盟
脚注
編集- ^ a b c d e f g h “ニュースレター第25号 エジンバラ植物園”. 小石川植物園後援会. 2020年1月20日閲覧。
- ^ (日本植物園協会 2015, pp. 207–208)
- ^ (岩槻 2004, pp. 164–165)
- ^ “植物多様性保全拠点園ネットワークの概要” (PDF). 日本植物園協会. 2019年7月24日閲覧。
- ^ “中国の薬用植物園、ギネスに登録”. Science Portal China(科学技術振興機構). (2011年12月12日) 2019年7月22日閲覧。
- ^ “協会概要 > 分野”. 日本植物園協会 (2014年1月1日). 2019年7月15日閲覧。
- ^ “専門職大学設置基準(平成二十九年文部科学省令第三十三号)第四十九条”. e-Gov法令検索 (2019年4月1日). 2019年7月15日閲覧。
- ^ (日本植物園協会 2015, p. 208)
- ^ (岩槻 2004, p. 167)
- ^ “水戸 養命酒薬用ハーブ園”. 水戸市植物公園 (2017年4月29日). 2019年7月27日閲覧。
- ^ 日本薬科大学薬用植物園
- ^ 北海道科学大学薬用植物園
- ^ 東北医科薬科大学薬用植物園
- ^ 東北医科薬科大学薬用植物園
- ^ 医療創生大学施設一覧
- ^ 国際医療福祉大学大田原キャンパス
- ^ 「薬用植物園の整備活動とその後の充実」(PDF)『健大通信』、高崎健康福祉大学、2016年4月、5頁、2019年7月27日閲覧。
- ^ 慶應義塾大学薬用植物園
- ^ 千葉大学薬用資源教育研究センター
- ^ 東京理科大学薬学部
- ^ 千葉科学大学
- ^ 武蔵野大学薬学部附属薬用植物園
- ^ 横浜薬科大学薬草園
- ^ 新潟薬科大学薬用植物園
- ^ 新潟薬科大学薬用植物園五頭分園
- ^ 愛知学院大学薬草園
- ^ 金城学院大学薬用植物園
- ^ 近畿大学薬学部薬用植物園
- ^ 大阪大学大学院薬学研究科附属薬用植物園
- ^ 施設紹介(大阪大谷大学)
- ^ 武庫川女子大学薬用植物園
- ^ 薬草園だより(神戸学院大学)
- ^ 薬用植物園(兵庫医療大学)
- ^ 姫路獨協大学薬学部
- ^ 徳島大学薬用植物園
- ^ 松山大学薬用植物園
- ^ 岡山大学薬用植物園
- ^ 就実大学薬用植物園
- ^ 就実大学薬用植物園
- ^ 広島大学薬学部附属薬用植物園
- ^ 広島国際大学薬学部附属薬用植物園
- ^ 安田女子大学薬学部
- ^ 山陽小野田市立山口東京理科大学薬学部附属江汐公園薬用植物園
- ^ 福岡大学薬学部薬草園
- ^ 第一薬科大学薬用植物園
- ^ 九州大学大学院薬学府附属薬用植物園 (PDF)
- ^ 長崎大学附属薬用植物園
- ^ 長崎国際大学薬学部付属薬用植物園
- ^ 施設・設備(九州保健福祉大学)
- ^ 東京都薬用植物園
- ^ あいち健康の森 薬草園
- ^ 森野旧薬園
- ^ 奈良県薬事研究センター
- ^ 手柄山薬用植物園
- ^ 丹波市立薬草薬樹公園
- ^ 重井薬用植物園
- ^ 宮崎県総合農業試験場薬草・地域作物センター
- ^ 佐多旧薬園
- ^ 薬用植物資源研究センター種子島研究部
- ^ (日本植物園協会 2015, pp. 272–282)
参考文献
編集- 岩槻邦男『日本の植物園』東京大学出版会、2004年6月30日。ISBN 4-13-060184-9。
- 日本植物園協会『日本の植物園』八坂書房、2015年6月25日。ISBN 978-4-89694-191-3。
関連項目
編集- 植物園
- ハーブ園
- 日本の植物園一覧
- Jardin royal des plantes médicinales - フランス王立薬草園(1635‐179 年。1793年以降、国立自然史博物館 (フランス))