蓮池透
蓮池 透(はすいけ とおる、1955年〈昭和30年〉1月3日[1] - )は、日本の政治活動家。1978年に北朝鮮に拉致された蓮池薫の実兄で、北朝鮮による拉致被害者家族連絡会事務局長を務めた。
はすいけ とおる 蓮池 透 | |
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生誕 |
1955年1月3日(69歳) 日本 新潟県柏崎市 |
国籍 | 日本 |
親戚 | 蓮池薫(弟) |
経歴・人物
編集新潟県柏崎市出身。新潟県立柏崎高等学校卒業。1977年3月、東京理科大学工学部電気工学科卒業。同年4月、東京電力に入社。2002年、日本原燃出向。同社燃料製造部副部長。核廃棄物再処理(MOX燃料)プロジェクトを担当。2006年、東京電力原子燃料サイクル部部長(サイクル技術担当)。2009年夏に退社[2]。
北朝鮮による日本人拉致問題について、「拉致は国家テロ。北朝鮮への経済制裁を行え」「これは戦争ですよ。アメリカならそうするでしょう」といった発言を繰り返し、また制裁要請のために横田滋・早紀江夫妻とともに渡米するなど強硬派と目されていた。2003年暮頃から、以前に比べて柔軟な発言が目立つようになる。翌年の第二次訪朝を機に、家族会や北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会(救う会)の主流派との間で考えの違いが顕著となり、翌年4月には、事務局長から外れる。2008年以降は、北朝鮮への「圧力」に重きを置く路線の効果に疑問を呈し、政府間の直接交渉による帰国実現を主張し、北朝鮮との「対話」に重きを置く路線に理解を示している。
2009年頃から、家族会・救う会と一線を画する発言をおこなう一方、左派系とも見られる集会にも参加し、同年8月には現代企画室編集長の太田昌国と共著『拉致対論』を出版している [注釈 1]。2015年12月9日には憲政記念館において、辻元清美議員の「政治活動20年へ、感謝と飛躍の集い in 東京」という政治資金規正法に基づく政治資金パーティーに参加した[4]。2019年5月31日、山本太郎率いる政治団体「れいわ新選組」から国政選挙に立候補する意向を表明[5][注釈 2]。同年7月、第25回参議院議員通常選挙の比例区に立候補したが落選した。
2022年6月10日、れいわ新選組から夏に行われる第26回参議院議員通常選挙の比例区に立候補することが発表されるが、結果再び落選[6]。
雑誌「世界」での発言
編集岩波書店『世界』2008年7月号には、蓮池透の拉致問題に対する次のような発言が掲載された。
- 日本政府は少なくとも4度、北朝鮮を騙した。
- 地村(保志)さんは「国交がないことが拉致の背景にある」という。
- 国交正常化には拉致解決が先だとは思わない。それは一方的な主張。
- 圧力だけでは拉致問題の解決は不可能であり、対話を併用すべき。
- 拉致問題により、狭いナショナリズムが醸成された。
- 日本は植民地時代のことなど、歴史教育がよくされていない。
- 過去の清算を怠ってきた日本政府の責任で弟(蓮池薫)は拉致されたという論理も、成り立つかもしれない。
- 弟は「歴史の闇に葬り去られたことはいっぱいある」と言っている。
- 過去の清算をきちんとして朝鮮のほうが納得するようにやったらどうかと言いたい。
- 以前、横田(滋)さんの訪朝を止めたことについて謝罪したい。ウンギョンちゃんに会いに行っていただきたい。
家族会からの「退会」
編集2010年3月27日、家族会の総会は、「蓮池透を退会させるべきである」との旨を決議した。事務局長・増元照明は、「家族会の総意は北朝鮮への圧力を強化して交渉に臨むというもので、誤解を招く」と説明したという。翌3月28日には、蓮池の退会が家族会から発表された。これに対し、蓮池は、「家族会の総意はあくまで被害者の救出。私をはずすことで拉致問題が解決するなら甘んじて受け入れるが、残念でならない」「家族会の目的は被害者の救出であり、方法論が多少違ったとしても自由にものを言える多様性も必要ではないか。僕をやめさせることで拉致問題が少しでも進展すると判断されたのなら、甘んじて受けるしかない」とコメントしている[7][注釈 3][注釈 4]。
著書に対する反応
編集2011年、『私が愛した東京電力―福島第一原発の保守管理者として』を著した。東北地方太平洋沖地震に伴う福島第一原子力発電所事故発生後、東京電力に奉職した原子力技術者として取材を受け、自らが保守を担当した3号機、4号機への思い入れについて語り、INES評価尺度でレベル7と発表されたことについて「工学的には絶対に起こりえないということです。私自身、安全審査にも関わっていたので、安全性には絶対の自信がありましたから」「あのような津波は想定していなかった」などとコメントし、柏崎刈羽原子力発電所から数kmの距離に居住する親族からも不安の声があったことを明かした。一方で、親族が東京電力に電話を入れたところ定型的な文句で返答した件について、拉致問題への政府の対応と同じなどと突き放した見解を示した[10]。
2015年の著作『拉致被害者たちを見殺しにした安倍晋三と冷血な面々』では、安倍晋三が拉致問題を政治的に利用したと批判した。民主党の緒方林太郎が、この本を元に2016年1月12日の衆議院予算委員会において「(首相は)拉致を使ってのし上がったのか」などと安倍に問い、安倍が激怒する場面があった。家族会の有本明弘は、「首相は、講談社が販売したこの本に策謀と声を荒らげて発言しました。私もその通りだと思っています。そこに講談社が入っていることは明白であります」と批判した。また、横田早紀江は「一緒にまだ活動していた時の一生懸命やっていた彼の姿を私はいつも思い出しながら、本当にこんなことにどうしてなったのかなという悲しい思いです」と述べ、増元照明は「被害者を取り戻したご家族がもうこれ以上、外部にいろいろなことをしゃべらないでほしい。救出運動を邪魔してほしくないと思っています」と批判した[11][注釈 5]。
著作
編集単著
編集- 『奪還 - 引き裂かれた二十四年』 2004年、新潮社 ISBN 4104599018
- 『奪還第二章 ―終わらざる闘い―』 2004年、新潮社 ISBN 978-4104599028
- 『拉致―左右の垣根を超えた闘いへ』 2009年、かもがわ出版 ISBN 4780302749
- 『私が愛した東京電力―福島第一原発の保守管理者として』 2011年、かもがわ出版 ISBN 4780304717
- 『拉致被害者たちを見殺しにした安倍晋三と冷血な面々』 2015年 講談社 ISBN 4062199394
- 『告発 日本で原発を再稼働してはいけない三つの理由』 2018年、ビジネス社 ISBN 4828420487
共著
編集- (太田昌国)『拉致対論』2009年8月、太田出版 ISBN 978-4778311810
- (辛淑玉)『拉致と日本人』2017年6月、岩波書店 ISBN 4000024299
- (和田春樹、田中均、有田芳生、福澤真由美)2024年3月、岩波書店 ISBN 978-4000255097
書籍(掲載)
編集- 『#あなたを幸せにしたいんだ』山本太郎とれいわ新選組(2019/12/13、ISBN 978-4087808940)集英社 著:山本太郎
- 蓮池透 ベストスピーチ・インタビュー「原発事故で抱えた借金を、再稼働で儲けて返す。こんなふざけた話ないと思いませんか?」
- れいわ一揆 製作ノート( 2020/8/31[13]、ISBN 978-4774407265)皓星社 著:原一男+風狂映画舎
- れいわ新選組 オリジナルメンバーインタビュー(はすいけ透)
脚注
編集注釈
編集- ^ 太田昌国は、東アジア反日武装戦線のメンバーの支援活動を行ってきた人物[3]。
- ^ 出馬にあたって蓮池は「山本太郎をリスペクトしている」と述べた[5]。なお、「拉致被害者はもうとっくに亡くなっている」と発言した政治家(「パチンコチェーンストア協会」政治分野アドバイザー)の石井一も2021年の衆議院選挙では「れいわ新選組」を応援している。
- ^ 蓮池透は、2003年の時点では「これからも鉄の結束は続く。拉致されたすべての日本人と、その家族を取り戻すまでは、どんな困難があろうとも一つにまとまって進んでいく」と述べており、「多様性」よりも「結束」を強調していた[8]。また、「『拉致した日本人とその家族を全員帰せ。帰さないなら経済封鎖だ』という毅然とした強い意志表示をすべきではないか。日本の意思が曖昧なままでは、他の国も協力しようがないではないか」と述べており、圧力を強化して交渉に臨むという見解はむしろ蓮池自身が強く主張していた持論であった[8]。
- ^ 「圧力」について、ジャーナリスト」の萩原遼は「圧力の偉大さを金正日が証明してくれた以上これに確信を持って正々堂々圧力を行使すべきである」と述べた[9]。また、「運動あってこその交渉である、運動を離れた交渉はただの取引に堕する。小泉首相の最初の訪朝と再訪朝の違いは、ここにある」として、2004年の小泉再訪朝の成果を批判し、当時「家族会」叩きに走った国民に対し、「いずれは真実に目覚める日もくるだろう」との警告を発した[9]。
- ^ 横田めぐみの弟横田拓也は「本当にずっと長い間、そばにいて支援してくださった」と述べて安倍晋三への強い信頼を示しており、横田哲也も「安倍総理・安倍政権が問題なのではなくって、40年以上も何もしてこなかった政治家や『北朝鮮なんて拉致なんかするはずないでしょ』と言ってきたメディアがあったから、ここまで安倍総理・安倍政権が苦しんでいる」として、拉致問題に取り組んでこなかった政治家や、拉致問題を認めてこなかったメディアの存在などの積み重ねが、問題を困難にしていると主張している[12]。
出典
編集- ^ 2003年6月22日に開催された河合塾による文化講演『わが「奪還」のこだま谺よ、「北」の地平に轟け! 征矢となれ!』冒頭の挨拶より。
- ^ 「私も、被ばくした」――蓮池透が語る、原発労働の実態ITmedia ビジネスオンライン2011年6月7日
- ^ “[映画レビュー]8人の日本人はなぜ三菱に爆弾を投げたのか (ハンギョレ新聞)”. Yahoo!ニュース. 2020年8月23日閲覧。 “東アジア反日武装戦線のメンバーの支援活動を行う太田昌国氏”
- ^ 辻元清美 政治活動20年へ、感謝と飛躍の集い in 東京
- ^ a b “蓮池透氏「太郎さんをリスペクトしている」国政出馬”. 日刊スポーツ 2019年5月31日閲覧。
- ^ “蓮池透氏がれいわ新選組から2回目の出馬を発表 参院選比例代表”. スポーツ報知. 2022年6月10日閲覧。
- ^ “拉致被害者家族会、蓮池透さんの退会決議”. YOMIURI ONLINE (読売新聞社). (2010年3月28日). オリジナルの2010年3月31日時点におけるアーカイブ。 2010年3月28日閲覧。
- ^ a b 『家族』(2003)蓮池透「あとがき」pp.398-402
- ^ a b 萩原(2006)pp.274-278
- ^ 「あの蓮池透さんは福島原発でも働いた原子力部長だった」『FLASH』2011年5月10日・17日合併号 光文社(記事前半 はアメーバニュースに掲載)
- ^ “蓮池透氏の著書「冷血な面々」に家族から怒りの声続出!「救出運動の邪魔しないで」「明らかにうそ。講談社も責任を!」”. 産経新聞. (2016年1月31日)
- ^ “めぐみさん弟の横田拓也さん・哲也さん会見に反響 主要紙が取り上げなかった発言とは...”. J-CASTニュース. (2020年6月10日) 2021年12月12日閲覧。
- ^ “https://twitter.com/koseisha_edit/status/1293504828925079552”. Twitter. 皓星社. 2020年8月12日閲覧。 “長らくお待たせしておりました『れいわ一揆 製作ノート』8月31日刊行です。色校正を束見本に巻きました。”
参考文献
編集- 北朝鮮による拉致被害者家族連絡会 著、米澤仁次・近江裕嗣 編『家族』光文社、2003年7月。ISBN 4-334-90110-7。
- 萩原遼『金正日 隠された戦争 金日成の死と大量餓死の謎を解く』文藝春秋〈文春文庫〉、2006年11月(原著2004年)。ISBN 4-16-726007-7。
関連項目
編集外部リンク
編集- 蓮池透公式サイト
- 蓮池透 (@1955Toru) - X(旧Twitter)
- 蓮池 透 (toru.hasuike.1) - Facebook
- 対談蓮池透さん×森達也さん「拉致」解決への道を探る