微分幾何学 における第一基本形式 (英 : first fundamental form )とは、 R 3 の標準内積 から標準的に誘導される3次元ユークリッド空間 中の曲面の接空間 上の内積 を言う。これにより全体空間(ambient space)と一致する方法で曲面の曲率や例えば長さと面積などの曲面の計量的性質を計算することができるようになる。第一基本形式は、ローマ数字の I で表示される。
I
(
x
,
y
)
=
⟨
x
,
y
⟩
.
{\displaystyle \mathrm {I} (x,y)=\langle x,y\rangle .}
X (u , v ) を媒介変数表示された曲面(parametric surface)とする。このとき、2つの接線ベクトル の内積は次のようになる。
I
(
a
X
u
+
b
X
v
,
c
X
u
+
d
X
v
)
=
a
c
⟨
X
u
,
X
u
⟩
+
(
a
d
+
b
c
)
⟨
X
u
,
X
v
⟩
+
b
d
⟨
X
v
,
X
v
⟩
=
E
a
c
+
F
(
a
d
+
b
c
)
+
G
b
d
,
{\displaystyle {\begin{aligned}&{}\quad \mathrm {I} (aX_{u}+bX_{v},cX_{u}+dX_{v})\\&=ac\langle X_{u},X_{u}\rangle +(ad+bc)\langle X_{u},X_{v}\rangle +bd\langle X_{v},X_{v}\rangle \\&=Eac+F(ad+bc)+Gbd,\end{aligned}}}
ここで、 E 、 F 、およびG は、第一基本形式の係数 (coefficients of the first fundamental form)である。
第一基本形式は対称行列 として表現することもできる。
I
(
x
,
y
)
=
x
T
[
E
F
F
G
]
y
{\displaystyle \mathrm {I} (x,y)=x^{\mathsf {T}}{\begin{bmatrix}E&F\\F&G\end{bmatrix}}y}
第一基本形式は、曲面の計量的な性質を完全に記述する。したがって、第一基本形式によって曲面上の曲線の長さや曲面上の領域の面積の計算ができるようになる。線素(line element)ds は、第一基本形式の係数を用いて次のように表すことができる。
d
s
2
=
E
d
u
2
+
2
F
d
u
d
v
+
G
d
v
2
.
{\displaystyle ds^{2}=E\,du^{2}+2F\,du\,dv+G\,dv^{2}\,.}
古典的な面積要素 dA = |Xu × Xv | du dv は、ラグランジュの恒等式(Lagrange's identity)を補助的に使って、第一基本形式を用いて表すことができる。
d
A
=
|
X
u
×
X
v
|
d
u
d
v
=
⟨
X
u
,
X
u
⟩
⟨
X
v
,
X
v
⟩
−
⟨
X
u
,
X
v
⟩
2
d
u
d
v
=
E
G
−
F
2
d
u
d
v
.
{\displaystyle dA=|X_{u}\times X_{v}|\ du\,dv={\sqrt {\langle X_{u},X_{u}\rangle \langle X_{v},X_{v}\rangle -\left\langle X_{u},X_{v}\right\rangle ^{2}}}\,du\,dv={\sqrt {EG-F^{2}}}\,du\,dv.}
R 3 の単位球 上の球面曲線 は、次のように媒介変数表示することができる。
X
(
u
,
v
)
=
[
cos
u
sin
v
sin
u
sin
v
cos
v
]
,
(
u
,
v
)
∈
[
0
,
2
π
)
×
[
0
,
π
]
.
{\displaystyle X(u,v)={\begin{bmatrix}\cos u\sin v\\\sin u\sin v\\\cos v\end{bmatrix}},\ (u,v)\in [0,2\pi )\times [0,\pi ].}
X (u ,v ) を u と v に関して微分すると、次のようになる。
X
u
=
[
−
sin
u
sin
v
cos
u
sin
v
0
]
,
X
v
=
[
cos
u
cos
v
sin
u
cos
v
−
sin
v
]
.
{\displaystyle {\begin{aligned}X_{u}&={\begin{bmatrix}-\sin u\sin v\\\cos u\sin v\\0\end{bmatrix}},\\X_{v}&={\begin{bmatrix}\cos u\cos v\\\sin u\cos v\\-\sin v\end{bmatrix}}.\end{aligned}}}
第一基本形式の係数は、この偏導関数 の内積を取ることで得ることもできる。
E
=
X
u
⋅
X
u
=
sin
2
v
F
=
X
u
⋅
X
v
=
0
G
=
X
v
⋅
X
v
=
1
{\displaystyle {\begin{aligned}E&=X_{u}\cdot X_{u}=\sin ^{2}v\\F&=X_{u}\cdot X_{v}=0\\G&=X_{v}\cdot X_{v}=1\end{aligned}}}
すなわち、次のようになる。
[
E
F
F
G
]
=
[
sin
2
v
0
0
1
]
.
{\displaystyle {\begin{bmatrix}E&F\\F&G\end{bmatrix}}={\begin{bmatrix}\sin ^{2}v&0\\0&1\end{bmatrix}}.}
単位球面の赤道 は、次の式で与えられる媒介変数表示された曲線である。
(
u
(
t
)
,
v
(
t
)
)
=
(
t
,
π
2
)
{\displaystyle (u(t),v(t))=(t,{\tfrac {\pi }{2}})}
t の範囲は 0 から 2π である。線素は曲線の長さを計算するために用いられることもある。
∫
0
2
π
E
(
d
u
d
t
)
2
+
2
F
d
u
d
t
d
v
d
t
+
G
(
d
v
d
t
)
2
d
t
=
∫
0
2
π
|
sin
v
|
d
t
=
2
π
sin
π
2
=
2
π
{\displaystyle \int _{0}^{2\pi }{\sqrt {E\left({\frac {du}{dt}}\right)^{2}+2F{\frac {du}{dt}}{\frac {dv}{dt}}+G\left({\frac {dv}{dt}}\right)^{2}}}\,dt=\int _{0}^{2\pi }\left|\sin v\right|dt=2\pi \sin {\tfrac {\pi }{2}}=2\pi }
面積要素は、単位球面の面積を計算するために用いられることもある。
∫
0
π
∫
0
2
π
E
G
−
F
2
d
u
d
v
=
∫
0
π
∫
0
2
π
sin
v
d
u
d
v
=
2
π
[
−
cos
v
]
0
π
=
4
π
{\displaystyle \int _{0}^{\pi }\int _{0}^{2\pi }{\sqrt {EG-F^{2}}}\ du\,dv=\int _{0}^{\pi }\int _{0}^{2\pi }\sin v\,du\,dv=2\pi \left[-\cos v\right]_{0}^{\pi }=4\pi }
曲面のガウス曲率 は次の式で与えられる。
K
=
det
I
I
det
I
=
L
N
−
M
2
E
G
−
F
2
,
{\displaystyle K={\frac {\det \mathrm {I\!I} }{\det \mathrm {I} }}={\frac {LN-M^{2}}{EG-F^{2}}},}
ここで、 L 、 M 、およびN は、第二基本形式の係数である。
ガウス のTheorema Egregium は、曲面のガウス曲率は第一基本形式とその微分を用いるだけで表すことができるということを主張しており、したがって、ガウス曲率 K は、事実として、曲面の内在的な不変量であるということを主張している。第一基本形式に関するガウス曲率の明示的な表現は、 Brioschiの式 によって与えられる。