神戸大学院生リンチ殺人事件
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神戸大学院生リンチ殺人事件(こうべ だいがくいんせいリンチさつじんじけん)は、2002年(平成14年)3月4日、日本の兵庫県神戸市西区で発生した殺人事件。
神戸大学院生リンチ殺人事件 | |
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場所 |
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標的 | |
日付 |
2002年(平成14年)3月4日[1] 午前3時10分頃[1] (UTC+9) |
概要 | 暴力団組長らが神戸商船大学院生に因縁をつけて暴行し、自動車に押し込んで拉致した後にさらに暴行を加えて殺害した[1]。また、知人男性にも暴行を加えて怪我を負わせた[1]。 |
攻撃手段 | 殴る蹴る |
攻撃側人数 | 7人 |
死亡者 | 1人 |
負傷者 | 1人 |
犯人 | |
容疑 |
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動機 | 自動車の駐車方法に対するトラブル |
対処 | 組長ら9人を兵庫県警察暴力団対策第二課と神戸西警察署が逮捕・神戸地方検察庁が起訴[2][3][4] |
刑事訴訟 | |
民事訴訟 | 損害賠償9736万円(第一審判決・最高裁の上告棄却決定により確定[8][9]) |
影響 | 兵庫県警察は初動対応にミスがあったとして神戸西警察署長ら10人に戒告などの処分を科した[10]。 |
管轄 |
法廷で初めて警察の職務怠慢が認定された事件であった。
事件の概要
編集2002年(平成14年)3月4日午前3時10分頃、神戸商船大学(現在の神戸大学海洋科学部)大学院に通っていた男性(当時27歳)が知人(当時31歳)を車で県営団地に送った際、山口組二次団体「西脇組」内「末原組」組長(当時38歳)と組長の交際相手のスナック経営者(当時35歳)と偶然目が合ってしまった[11]。突然男は男性を殴り、男性が掛けていた眼鏡が飛び、男とそれを仲裁しようとした知人ともみ合いとなり、男性が警察へ通報した[11]。しかし男性の携帯電話を交際相手が取り上げ、さらに交際相手が末原組に連絡し組員を呼び寄せた[11]。組員3人(当時30歳、36歳、37歳)が駆けつけ、男性とその知人に殴る蹴るの暴行を加えた[1]。意識がほとんど無くなった男性とその知人を組員らは自分らの車の後部座席に押し込んだ[1]。
警察への通報から16分後に神戸西警察署井吹台交番の巡査部長(当時47歳)と巡査(当時31歳)、神戸西警察署のパトカーから巡査部長(当時33歳)と巡査(当時29歳)の4名が駆けつけた。さらに通報から20分後に事件現場から一番近い有瀬交番から巡査部長(当時39歳)と巡査(当時27歳)が駆けつけた。男性の知人は意識が朦朧としたまま血だらけの状態で車から飛び出し、駆けつけた警官らに必死になって助けを求め、友人が車に乗せられているかもしれないと告げた。
しかし、警官らは男性の知人が血だらけであり組長や組員らにも血が付着しているという状態にもかかわらず、組員らの車のナンバーを控えるのみで組長や組員らの身体検査や車を検めず、組長らが後日出頭すると言う言葉を信じ、事件は解決したとその場を立ち去ってしまった[11]。
なお、警察への通報は他に2件あったものの、警官が仮眠していたという理由から通報から到着が16分、最寄りからは20分掛かったと説明している。また、男性は母親と同居していたため、警官が母親に男性が帰宅しているか確認し、男性が帰宅していないことが判明したにもかかわらず通報の確認を怠っていた。さらには男性が押し込められた車の窓はスモークガラスでなかったため、目視で車内の確認をすれば男性の姿が分かるにもかかわらずそれも怠っていた。
警官が立ち去った後、組長と組員4人に組員1人(当時32歳)が加わり、計6人が2km離れた空き地に男性を連れ込み、男性の体を縛った上に殴る蹴るの暴行を加えた[1]。失神した男性に水を掛けて意識を戻させさらに暴行を加えるなど拷問のような手口だった。男性は瀕死の状態で宝光芒川の浅瀬に放置され、翌日3月5日16時20分頃、遺体となって発見された。遺体の肋骨はほとんど折られ、右後頭部が割れクモ膜下出血で意識を失った形跡もあったが、死因は凍死だった。男性は組長らが立ち去ってから数時間生存していたと見られている。なお、リンチを行った後、組員(当時37歳)が有瀬交番に出頭するも1時間ほどの事情聴取を行っただけで帰してしまった[11]。
男性の遺体発見から4日後の3月9日に組長らが逮捕、3月26日までに事件に関与した9人目が逮捕された[2]。
なお、兵庫県警察は事件から1ヶ月後の4月4日に遺族に対して「捜査に不適切な点があり、申し訳ない。事件の全容解明に努めたい」と謝罪したが、警察内の処分が減給3ヶ月や訓戒など軽微な処分だったために苦情が殺到した[12][13]。
刑事裁判
編集第一審・神戸地裁
編集2002年(平成14年)6月4日、神戸地裁(笹野明義裁判長)で初公判が開かれ、組長ら7人は「起訴事実中、共謀関係や殺意の発生時期などが明確でない」として罪状認否を留保した[14][15]。
2002年(平成14年)8月20日、組長ら6人は罪状認否で「暴行はしたが、殺すつもりはなかった」と述べて殺意を否認、交際相手は「暴行自体に加わっていない」と述べて起訴事実を否認した[16]。
2002年(平成14年)9月27日、検察側は男性が「ヤクザのおっちゃんが暴れてる。はよ来て」などと訴えて兵庫県警察に110番通報した際の録音テープを公開した[17]。
2004年(平成16年)3月26日、論告求刑公判が開かれ、検察側は「残酷非道な犯行で殺意も明らか」として組長に無期懲役、他の組員ら6人に懲役10年から20年を求刑した[18]。
2004年(平成16年)8月5日、神戸地裁(笹野明義裁判長)で判決公判が開かれ、組長に懲役20年、組員5人に懲役10年から14年、組長の交際相手に懲役3年、執行猶予4年の判決を言い渡した[19]。神戸地検は組長と交際相手に対する判決を不服として控訴した[20]。
控訴審・大阪高裁
編集2005年(平成17年)6月23日、大阪高裁(瀧川義道裁判長)は「犯行の発端は偶発的だが、刑事責任は重大」として組長に対する懲役20年の判決を支持、検察側と弁護側双方の控訴を棄却した[21]。一方、組長の交際相手については「不当に軽すぎる」として一審判決を破棄、懲役3年の実刑判決を言い渡した[21]。
刑事裁判終結
編集組長と交際相手は控訴審判決を不服として上告したが、組長は後に上告を取り下げたため、懲役20年の判決が確定した[22]。交際相手については最高裁が上告を棄却する決定を出したため、懲役3年の実刑判決が確定した[6]。この決定により一連の刑事裁判が終結した[6]。
民事裁判
編集第一審・神戸地裁
編集2003年(平成15年)4月17日、遺族が兵庫県や組長ら7人を相手に1億3700万円の損害賠償訴訟を神戸地裁に提訴した[23]。提訴にあたって、男性の母親は「事実関係を明らかにすることによって、息子の無念を晴らしてやりたい」として兵庫県警察の捜査ミスに関する事実関係を民事訴訟で明らかにする考えを示した[24]。
2003年(平成15年)7月15日、神戸地裁(前坂光雄裁判長)で第1回口頭弁論が開かれ、兵庫県警察はそれまでとは一転して「組織的捜査をせずに漫然と放置した事実はない」として請求棄却を求めた[25][26]。また、組長ら7人も「殺意はなかった」として請求棄却を求めた[26]。
2004年(平成16年)12月22日、神戸地裁(村岡泰行裁判長)は「現場に急行せず、連れ去られた情報を共有しないなど警察官の行為は著しく不合理で違法」として兵庫県や組長ら7人に逸失利益など9736万円の損害賠償支払いを命じる判決を言い渡した[27]。兵庫県は判決を不服として控訴した[28]。
控訴審・大阪高裁
編集2005年(平成17年)5月24日、大阪高裁(松山恒昭裁判長)で控訴審第1回口頭弁論が開かれ、大阪高裁は「事件の重大性や原告の気持ちを考慮し、県は1日も早い民事上の被害回復を図ってはどうか。原告も紛争の早期解決の観点から話し合えないか」として原告と被告の双方に和解を勧告した[29]。
2005年(平成17年)7月26日、大阪高裁(松山恒昭裁判長)は「警察は被害者を保護する義務を怠っており、組織としての対応のつたなさを如実に物語る」として一審・神戸地裁の判決を支持、兵庫県の控訴を棄却した[30][31]。兵庫県は判決を不服として上告した[32]。
上告審・最高裁第一小法廷
編集2006年(平成18年)1月19日、最高裁第一小法廷(横尾和子裁判長)は兵庫県の上告を棄却する決定を出したため、兵庫県と組長ら7人に逸失利益など9736万円の損害賠償支払いを命じた判決が確定した[33]。
脚注
編集注釈
編集出典
編集- ^ a b c d e f g 『読売新聞』2004年8月5日 全国版 大阪夕刊 夕一面1頁「大学院生拉致殺害事件 元組長に懲役20年判決 「捜査ずさん」/神戸地裁」(読売新聞大阪本社)
- ^ a b 『朝日新聞』2002年3月26日 朝刊 1社会35頁「殺人容疑で再逮捕 院生暴行死逮捕者9人に 神戸【大阪】」(朝日新聞大阪本社)
- ^ 『朝日新聞』2002年3月28日 朝刊 2社会30頁「暴力団幹部を殺人罪で起訴 神戸・大学院生暴行死【大阪】」(朝日新聞大阪本社)
- ^ 『朝日新聞』2002年4月10日 朝刊 2社会30頁「知人への傷害罪で組長らを追起訴 神戸・院生殺害事件【大阪】」(朝日新聞大阪本社)
- ^ a b 『朝日新聞』2004年8月5日 夕刊 2社会14頁「元組長に懲役20年判決 神戸地裁、捜査批判も 大学院生殺害」(朝日新聞東京本社)
- ^ a b c d 『朝日新聞』2006年9月2日 朝刊 3社会32頁「神戸の大学院生殺害、懲役20年確定【大阪】」(朝日新聞大阪本社)
- ^ 『朝日新聞』2005年6月24日 朝刊 1社会35頁「元組長、二審も懲役20年 「殺意は未必」神戸・大学院生殺害で大阪高裁【大阪】」(朝日新聞大阪本社)
- ^ 『朝日新聞』2004年12月23日 朝刊 3社会33頁「神戸・院生殺害判決<要旨>【大阪】」(朝日新聞大阪本社)
- ^ 『朝日新聞』2006年1月20日 朝刊 2社会30頁「神戸院生殺害、県側の賠償確定 上告棄却「捜査の怠慢で死亡」【大阪】」(朝日新聞大阪本社)
- ^ 『毎日新聞』2002年5月16日 東京朝刊 社会面29頁「大学院生拉致・暴行死事件 署長ら10人を処分、初動対応にミス-兵庫県警」(毎日新聞東京本社)
- ^ a b c d e 『毎日新聞』2002年3月6日 大阪朝刊 1面1頁「リンチ受け?大学院生死亡 現場急行の警官、拉致情報放置 ミス認め謝罪-神戸西署」(毎日新聞大阪本社)
- ^ 『毎日新聞』2002年4月4日 大阪朝刊 社会面25頁「大学院生殺害・初動ミス 兵庫県警神戸西署長が遺族に謝罪」(毎日新聞大阪本社)
- ^ 『毎日新聞』2002年5月16日 大阪朝刊 1面1頁「大院生拉致・暴行死事件 神戸西署長ら10人を処分「初動対応、不十分」兵庫県警」(毎日新聞大阪本社)
- ^ 『読売新聞』2002年6月4日 全国版 東京夕刊 夕社会19頁「院生拉致殺害初公判 組長ら7被告、罪状認否留保/神戸地裁」(読売新聞東京本社)
- ^ 『毎日新聞』2002年6月4日 大阪夕刊 社会面11頁「神戸・大学院生暴行死事件初公判 元組長ら認否留保 「共謀行為が不明」--神戸地裁」(毎日新聞大阪本社)
- ^ 『毎日新聞』2002年8月20日 大阪夕刊 社会面9頁「大学院生拉致暴行死事件公判 元暴力団組長ら殺意を否認--神戸地裁」(毎日新聞大阪本社)
- ^ 『毎日新聞』2002年9月27日 大阪夕刊 社会面14頁「大学院生拉致暴行死事件公判 検察側、110番通報のテープ公開--神戸地裁」(毎日新聞大阪本社)
- ^ 『読売新聞』2004年3月26日 全国版 大阪夕刊 夕社会23頁「大学院生拉致殺害事件公判 組長に無期求刑 「残酷非道な犯行」/神戸地裁」(読売新聞大阪本社)
- ^ 「駐車巡り大学院生に因縁つけ殺害、元組長に懲役20年」『読売新聞』2004年8月5日。オリジナルの2004年8月10日時点におけるアーカイブ。2025年1月28日閲覧。
- ^ 『読売新聞』2004年8月19日 全国版 大阪朝刊 2社30頁「院生殺害事件で控訴/神戸地検」(読売新聞大阪本社)
- ^ a b 『読売新聞』2005年6月24日 全国版 大阪朝刊 2社34頁「神戸・院生殺害 元組長、2審も懲役20年 共犯の女、実刑3年/大阪高裁判決」(読売新聞大阪本社)
- ^ 『読売新聞』2006年9月2日 全国版 大阪朝刊 2社38頁「神戸商船大院生殺害 元組長の懲役20年が確定 上告取り下げ」(読売新聞大阪本社)
- ^ 『読売新聞』2003年4月17日 全国版 大阪夕刊 夕社会13頁「神戸商船大院生殺害事件 母が損害賠償求め提訴 兵庫県警・組長ら7人に」(読売新聞大阪本社)
- ^ 『読売新聞』2002年5月24日 全国版 大阪夕刊 夕2社14頁「神戸の院生殺害事件初公判 母、県警を民事提訴へ「事実解明、無念晴らしたい」」(読売新聞大阪本社)
- ^ 『読売新聞』2003年7月16日 全国版 大阪朝刊 2社34頁「神戸・院生殺害事件賠償訴訟初弁論 一転「捜査に過失ない」兵庫県警が答弁書」(読売新聞大阪本社)
- ^ a b 『毎日新聞』2003年7月16日 大阪朝刊 社会面27頁「神戸・大学院生暴行死事件賠償訴訟 「捜査遅れなし」県側棄却求める」(毎日新聞大阪本社)
- ^ 『読売新聞』2004年12月23日 全国版 大阪朝刊 一面1頁「神戸・大学院生事件 捜査ミス、殺人と因果関係 「予見、救出できた」初の認定」(読売新聞大阪本社)
- ^ 『読売新聞』2004年12月27日 全国版 大阪夕刊 夕2社12頁「神戸商船大の院生殺害訴訟 兵庫県が控訴」(読売新聞大阪本社)
- ^ 『読売新聞』2005年5月25日 全国版 大阪朝刊 2社38頁「神戸商船大院生殺害国賠訴訟 大阪高裁が和解勧告 遺族と兵庫県話し合いへ」(読売新聞大阪本社)
- ^ 「神戸の院生殺害、控訴審も捜査ミスとの因果関係認める」『読売新聞』2005年7月26日。オリジナルの2005年7月28日時点におけるアーカイブ。2025年1月28日閲覧。
- ^ 「神戸の院生殺害、二審も捜査の怠慢認定 県の控訴棄却」『朝日新聞』2005年7月26日。オリジナルの2005年7月27日時点におけるアーカイブ。2025年1月28日閲覧。
- ^ 『読売新聞』2005年8月5日 全国版 大阪夕刊 夕2社14頁「神戸の大学院生殺害損賠訴訟 兵庫県が上告」(読売新聞大阪本社)
- ^ 『読売新聞』2006年1月20日 全国版 東京朝刊 2社38頁「神戸の大学院生拉致殺害 「捜査ミスと因果関係」県側の上告退ける/最高裁」(読売新聞東京本社)
関連書籍
編集- 黒木昭雄 『神戸大学院生リンチ殺人事件-警察はなぜ凶行を止めなかったのか』 草思社 ISBN 4794215282
- 新潮45編集部 『殺戮者は二度わらう―放たれし業、跳梁跋扈の9事件』 新潮社 ISBN 4101239169
関連項目
編集外部リンク
編集- “特集「大学院生殺害」”. 神戸新聞 (2004年12月27日). 2012年9月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年11月23日閲覧。