示量性と示強性
系の大きさを変化させた際の状態量の振る舞い
示量性 (しりょうせい、extensive property) と示強性(しきょうせい、intensive property)は状態量の性質の一つである。
示量性を持つか示強性を持つかにより、状態量すなわち状態変数は示量変数 (extensive variable) と示強変数 (intensive variable) の2種類に分けられる。
概要
編集示量性の定義は文献により、以下2種類の定義がある。
厳密には前者の性質は相加性、後者の性質は示量性として区別する[7][8]。
均一系の状態量は相加性ならば示量性となるが、部分系ごとにその量の密度が異なる不均一系の場合には相加性であっても示量性とはならない。しかし熱力学では部分系として均一なものを取ることが普通であり、部分系においては相加性と示量性が一致するようにできる。従って、相加性と示量性は区別しない流儀の方が多い。
示量性(相加性)を持たない状態変数を示強変数という。示量性状態量と示強性状態量の中には、体積と圧力のように互いに掛け合わせるとエネルギーの次元をもった示量性の量となるものがある。このような関係を(互いに)共役な関係または双対な関係と言う。
示強変数には、示量変数と共役な関係にあるもの以外に、ある示量変数を体積で割った示量変数の密度の意味を持つものがある。そのようなものを除外し示量変数と共役な関係にある示強変数のみを指して狭義示強変数と呼ぶ場合がある[8]。
例
編集分野 | 示量変数 | 示強変数 | 出典 |
---|---|---|---|
力学 | 体積 V | 圧力 P | |
熱力学 | エントロピー S | 温度 T | |
化学 | 物質量 N | 化学ポテンシャル μ |
分野 | 示量変数(の密度) | 示強変数 | 積の次元 | 備考 | 出典 |
---|---|---|---|---|---|
表面物理学 | 表面積 A | 表面張力 σ | エネルギー | A は体積に比例しない(正確には相加性変数) | |
電磁気学 | 電束密度 D、誘電分極 P | 電場 E | エネルギー密度 | P は電気双極子モーメントの密度 | [9] |
磁性体 | 磁場の強さ H、磁化 M | 磁束密度 B | エネルギー密度 | M は磁気モーメント[注釈 1]の密度 | [8][9][10][11] |
磁束密度 B、磁気分極 Pm | 磁場の強さ H | エネルギー密度 | Pm は磁気双極子モーメント[注釈 2]の密度 | ||
弾性力学 | ひずみ ε | 応力 σ | エネルギー密度 | ε, σ はテンソル量 | [9] |
その他の例
脚注
編集注釈
編集出典
編集- ^ 原島鮮「熱力学・統計力学 改訂版」培風館 (1978/09)
- ^ 都筑卓司「なっとくする熱力学」講談社 (1993/12)
- ^ 「物理学辞典-改訂版」培風館(1992/05)
- ^ 「物理学辞典-三訂版」培風館(2005/09)
- ^ 長倉三郎、他(編)「岩波理化学辞典-第5版」岩波書店 (1998/02)
- ^ 藤原邦男;兵頭俊夫「熱学入門―マクロからミクロへ」東京大学出版会(1995/06)
- ^ 佐々真一 著、兵頭俊夫 編『熱力学入門』共立出版、2000年、26頁。ISBN 4-320-03347-7。
- ^ a b c 清水明『熱力学の基礎I』(2版)東京大学出版会、2021年、19,27-28頁。ISBN 978-4-13-062622-4。
- ^ a b c 小山敏幸、https://www.material.nagoya-u.ac.jp/PFM/docs/Lecture_H20/H20_Chapter_2.pdf, p.4, 2023年2月9日閲覧。
- ^ 田崎晴明『熱力学 現代的な視点から』培風館、2000年、222頁。ISBN 4-563-02432-5。
- ^ 齋藤幸夫、熱力学(2013年度)、http://www.phys.keio.ac.jp/faculty/saito/saito-html/13thdyn.pdf, p.51