硫化ニッケル(II)(Nickel sulfide)は、化学式NiSの無機化合物である。黒色の固体で、ニッケル(II)塩を硫化水素で処理することで生成する。同じ化学式NiSを持つ鉱物針ニッケル鉱等を含む多くの硫化ニッケルが知られている。有用な鉱石の他に、脱硫反応の産物として得られるものもあり、時に触媒として用いられる。

硫化ニッケル(II)
識別情報
CAS登録番号 16812-54-7
PubChem 28094
ChemSpider 26134
EC番号 234-349-7
RTECS番号 QR9705000
特性
化学式 NiS
モル質量 90.7584 g mol−1
外観 黒色固体
匂い 無臭
密度 5.87 g/cm3
融点

797 °C, 1070 K, 1467 °F

沸点

1388 °C, 1661 K, 2530 °F

への溶解度 不溶
溶解度 硝酸に可溶
磁化率 +190.0·10−6 cm3/mol
構造
結晶構造 六角形
危険性
GHSピクトグラム 急性毒性(低毒性)
主な危険性 may cause cancer by inhalation
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

Ni9S8やNi3S2等の不定比化合物も知られている。ベース鉱(NiS2)の例のように、1つのニッケル原子は1つ以上の硫黄原子と結合しうる。

構造

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多くの関連物質と同様に、硫化ニッケル(II)は、ヒ化ニッケルのモチーフをとる。この構造では、ニッケルは八面体型、硫化物中心は三方柱型である[1]

硫化ニッケルの配位環境
ニッケル 硫黄
   
octahedral trigonal prismatic

硫化ニッケルには、2つの多形がある。α型は六角形の単位胞、β型は菱面体の単位胞である。α型は379℃以上の温度で安定で、低温ではβ型に変換する。この相転移により、体積は、2-4%増える[2][3][4]

合成

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黒色の硫化ニッケルの沈殿は、硫化物の溶解度の差に基づく金属の分離で始まる伝統的な定性無機分析の中心である[5]

Ni2+ (aq) + H2S (aq) → NiS (s) + 2 H+ (aq)

固相メタセシス合成や元素の高温反応等、より制御された多くの他の方法が開発されている[6]

発生

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天然

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針ニッケル鉱は、化学式が同じNiSの硫化ニッケルであるが、形成される際の条件により、その構造は、合成化学量論的NiSとは異なる。低温の熱水系炭酸塩岩の空洞等に天然に生じ、また他のニッケル鉱物の副産物として生じることもある[7]

 
針ニッケル鉱の結晶

ガラス製造

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フロートガラスは、清澄剤硫酸ナトリウムと不純物の金属合金に含まれるニッケルから形成される硫化ニッケルを少量含む[8]

硫化ニッケル包摂物は、強化ガラスにおいては問題となる。焼戻し過程の後、硫化ニッケル包摂物は準安定α相となる。最終的に低温で安定なβ相に変換されて、体積が増え、ガラスのヒビの原因となる。強化ガラスの中で材料に張力がかかるため、亀裂が伝搬し、ガラスの自発的な破壊につながる[9]。この自発的な破壊は、ガラス製造後、数年から数十年後に起こる[8]

出典

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  1. ^ Wells, A.F. (1984) Structural Inorganic Chemistry, Oxford: Clarendon Press. ISBN 0-19-855370-6.
  2. ^ Bishop, D.W.; Thomas, P.S.; Ray, A.S. (1998). “Raman spectra of nickel(II) sulfide”. Materials Research Bulletin 33 (9): 1303. doi:10.1016/S0025-5408(98)00121-4. 
  3. ^ NiS and Spontaneous Breakage”. Glass on Web (Nov 2012). 2013年6月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年7月31日閲覧。
  4. ^ Bonati, Antonio; Pisano, Gabriele; Royer Carfagni, Gianni (12 October 2018). “A statistical model for the failure of glass plates due to nickel sulfide inclusions”. Journal of the American Ceramic Society. doi:10.1111/jace.16106. 
  5. ^ O.Glemser "Nickel Sulfide" in Handbook of Preparative Inorganic Chemistry, 2nd Ed. Edited by G. Brauer, Academic Press, 1963, NY. Vol. 2. p. 1551.
  6. ^ leading reference can be found in: Shabnam Virji, Richard B. Kaner, Bruce H. Weiller "Direct Electrical Measurement of the Conversion of Metal Acetates to Metal Sulfides by Hydrogen Sulfide" Inorg. Chem., 2006, 45 (26), pp 10467–10471.doi:10.1021/ic0607585
  7. ^ Gamsjager H. C., Bugajski J., Gajda T., Lemire R. J., Preis W. (2005) Chemical Thermodynamics of Nickel, Amsterdam, Elsevier B.V.
  8. ^ a b Karlsson, Stefan (30 April 2017). “Spontaneous fracture in thermally strengthened glass - A review & outlook”. Ceramics - Silikaty: 188–201. doi:10.13168/cs.2017.0016. https://www.researchgate.net/publication/316596288 16 August 2019閲覧。. 
  9. ^ The Achille Heel of a Wonderful Material: Toughened Glass”. Glass on Web (12 January 2006). 16 August 2019閲覧。