直原 (アニメ制作)
概要
編集絵コンテはカットの設計概要図でありこれに基づいて原図と一連の原画が描かれる。このとき、1カットの絵コンテから中間物を挟まずに直接すべての原図・原画を一度に描き起こす制作方式が直原である[1][2]。
直原は原画を用いる制作において最も単純な制作方式である[注 1]。中間工程を飛ばせるためうまく行けば効率が良くまた伝言ゲームによる品質劣化も無い(⇒#中間作成物と中間工程が無い)が、リテイクがかかった場合はコストが高くつく(⇒#リテイクコストが高い)。そのため密な意志疎通が可能な制作体制[3]、リテイクを出さない優れたアニメーター、制作陣を圧迫しない時間と金、といった恵まれた条件が揃わないと非効率な制作になりやすい。
初期の商業アニメ制作は直原方式であった[2]。『アルプスの少女ハイジ』(1974) や『機動警察パトレイバー the Movie』(1989) でのレイアウトシステムの採用[4]、その後の派生系(ラフ原システム/二原システムなど)の普及を経て、現在の商業アニメ制作で意図的に直原方式を採用することは稀になっている[5][6]。「直原」という語はこれらが発達した時期にできたレトロニムである。また現在でも時間的に追い詰められてやむなく一部カットを直原とするケースもある。
なお、ラフ原システム(二原システム)で作監修正を二原に戻さずそのまま原画とすることを「直原」と呼ぶ場合もある[7]。殆どの場合[注 2]で全修正のため作監が絵コンテから原図・原画を起こすことになり、こちらの用法であっても本稿の「直原」とやっていることはほぼ同じである[注 3][7]。
性質
編集中間作成物と中間工程が無い
編集直原では絵コンテから直接原図と原画を描き起こすため、中間作成物や中間工程が無い[1][2]。
他の方式であるレイアウトシステムであれば、2つの間にレイアウトという中間生成物を挟みかつこれを監修する工程を挟んでいる。直原ではこの作画と監修がまるっと無いため、理想の制作体制であれば最も無駄のない/効率の良い作画方式になる。また中間工程を挟むと伝言ゲームによって意図や品質が失われがちであるが、直原であればそもそも中間がないので品質劣化は起き得ない[8]。
リテイクコストが高い
編集直原は全ての原図と原画を直接・一度に描き起こすため、リテイク時のコストが高い[9]。
直原で原図にリテイクがかかった場合、アニメーションの前提となる空間が崩れるため全ての原画もリテイクになってしまう[9]。またカットの冒頭と末尾の原画で表現されるキャラクターのポーズと立ち位置[注 4]にリテイクがかかった場合、アニメーションの軌道自体が差し替えになるため中間の原画も全てリテイクになってしまう[9]。これらのケースは原画を1から書き直すのに近く、コストが高い。
脚注
編集注釈
編集- ^ 原画すら用いなければ「絵コンテ→動画送り描き」でよりシンプルに作画可能。
- ^ ラフ原として原画そのものが上がった場合に無修正で原画扱いすることがありうるが、ラフ原の語義と目的からしてかなり稀なケースである
- ^ 作監自身が作画しているので監修が無い = リテイクが出ないことが相違点
- ^ レイアウトのセル部分に相当
出典
編集- ^ a b c "絵コンテから即「直原」。 ... レイアウトのプロセスを省略して、コンテの拡大コピーから直接原画を描いてもらっています。" 秋山 2015 より引用。
- ^ a b c d "レイアウトシステムが取り入れられたのはわりと最近、ここ20年くらいのこと ... 吉松くんがこの業界に入ってきた頃は、アニメーターさんはレイアウトと原画を同時に仕上げて作画監督のチェックへ出していた" マッドハウス 2006a より引用。
- ^ "レイアウト段階で ... チェック ... なんで昔はそうしなかったのか ... 昔は1本の作品に関わっている人数が非常に少なかったから ... その人数でチームになって制作するから勝手知ったる雰囲気というか、少人数で意思の疎通も取りやすかった。" マッドハウス 2006a より引用。
- ^ "『パト1』で押井さんが始めたレイアウト・システム" 以下より引用。アニメハック編集部. (2015). 「攻殻機動隊」25周年リレーインタビュー 黄瀬和哉 前編 レイアウト・システムの功罪. アニメック.
- ^ "最近、根本的な直しをしなくて済むように、レイアウト段階で演出家や作画監督といった人たちがチェックするようになった" マッドハウス 2006a より引用。
- ^ "直原 ... かなり特殊な作り方" 秋山 2015 より引用。
- ^ a b "現在の作監 ... の仕事内容はLOラフの描き直し+二原の作業者がそのままトレスできる様な直原に近い素材を作る、という様なことになっている。" p.59 より引用。JAniCA. (2019). アニメーション制作者実態調査 報告書2019. 平成30年度 文化庁 メディア芸術連携促進事業.
- ^ "直原 ... まだアニメという言葉がない、「テレビ漫画」の時代の、プリミティブなアニメを表現することを目指しました ... 絵コンテがそのまま動画になっているようなイメージ ... 力強く勢いのある、かなり面白い動画を作ることができた" 秋山 2015 より引用。
- ^ a b c "アニメーターさんはレイアウトと原画を同時に仕上げて作画監督のチェックへ出していた ... そのやり方には効率の悪い部分があった ... 原画が5枚描いてあったとする ... そもそものレイアウトが、演出の意向と違っていたら、原画5枚とレイアウト1枚の両方を直さなくてはいけなかった" マッドハウス 2006a より引用。
参考文献
編集- 秋山 (2015). “日本アニメ(ーター)見本市から読み解くアニメ制作現場の“モノづくり”『自分が作ったものに裏切られる。クリエイターの深すぎる内面世界』第2回 Kanón 監督:前田 真宏/演出:吉崎 響”. MdN .
- マッドハウス (2006a), “第1回 作画監督って何するひと?(前編)”, おぎにゃんと学ぼう!アニメの作り方