潜水艦情報流出事件(せんすいかんじょうほうりゅうしゅつじけん)とは、中華人民共和国によるスパイ事件[1][注釈 1]2000年(平成12年)に防衛庁(現、防衛省)の元技官潜水艦に関する資料を中国側に渡していた事実が発覚し、2007年平成19年)2月、警視庁公安部は元技官を窃盗容疑で書類送検した[1]

概要

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1971年昭和46年)に防衛庁に入庁し、技術研究本部防衛装備庁の前身)で潜水艦の艦体となる特殊鋼材の原料や耐弾強度などの研究に従事していた元技官は、2002年(平成14年)に同本部第一研究所の主任研究官として定年退職した[1]。元技官は、在職中の2000年2月から3月頃にかけて、潜水艦の船体に使われる「高張力鋼」と称される特殊鋼材やその加工に関する資料を複写し、無断で持ち出していた[1]。資料は、1990年代後半に高張力鋼の材質や溶接方法などについて元技官が同僚と共同執筆した論文などのコピーであり、B5サイズで分量は34ページほどであった[1]。元技官は知人である埼玉県の食品輸入業者に資料を手渡し、さらに、業者とともに北京市に渡航して中国側に情報を漏洩した[1]。北京への渡航は在職中の2001年12月のことで、費用は業者が負担した[1]

警視庁公安部外事第二課は2007年2月、資料を持ち出した窃盗容疑で元技官を書類送検した[1][注釈 2]。直接の容疑は窃盗だが、中国によるスパイ事件であることは明白である[1][注釈 3]

脚注

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注釈

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  1. ^ 「科学立国の建設」を掲げる中国共産党は、日本からの技術移転を不可欠と考え、先端科学技術の習得のため、多数の学者技術者留学生、代表団等を日本に派遣し、活発で多面的な情報収集活動を行っているものとみられる[2]。その情報収集活動は一般に極めて巧妙であり、多数の中国人が、断片的かつ些末とみられる情報を収集していることが多いため、情報収集活動が行われていることが認識されにくいところに特徴がある[2]
  2. ^ 防衛庁は報告書を自衛隊法で定める「防衛秘密」に指定していなかった[1]。「防衛秘密」(当時)は国防上、特に秘匿が必要とされる情報であり、漏洩には5年以下の懲役という罰則が科せられる[1]。しかし、防衛庁が防衛秘密に指定していなかったので、警視庁は自衛隊法違反容疑ではなく、窃盗罪で書類送検せざるを得なかった[1]
  3. ^ 日本にはスパイ活動そのものを取り締まる法律が存在しないため、防衛秘密の漏洩を含むスパイ事件を取り締まることができないのが実情である。

出典

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  1. ^ a b c d e f g h i j k l 北村滋 (2022年6月7日). “「防衛庁元技官はなぜ中国スパイの手に落ちたか」霞が関や日本企業から情報を盗んだ"巧妙な手口"…狙われるのは「軍事や政治の機密情報」だけではなくなった”. PRESIDENT ONLINE. プレジデント社. 2022年6月10日閲覧。
  2. ^ a b 中国による対日諸工作”. 『焦点』第273号「先端科学技術等をねらった対日有害活動」. 警察庁 (2008年2月29日). 2022年6月10日閲覧。

関連文献

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  • 北村滋『経済安全保障 異形の大国、中国を直視せよ』中央公論新社、2022年5月。ISBN 978-4120055393 

外部リンク

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